第二の野営:川のほとりにて その6
ボルドフは目を見張った。鎧を身につけたダンカンと異なり、集まってきた面々の身なりが村や軍では見かけたこともないものだったから。
強いていえば上背のある若者の身なりは、見たことはなくとも話には聞いたことがあった。呼び名だけは鎧兜と同じであっても自分やダンカンの実用一点張りの無粋な品とは別物の機能性と洗練美を併せ持つ意匠は、雑兵でしかない自分が会えるはずのない階級でなければ身に着けることなきものだったから。見えぬ所で自分たちの部隊に非情な命令を下していたはずの者どもでなくば着ているはずなきものだったから。
「あんた騎士だな? 貴族の身分でなぜここに?」
「まあそう身構えないでくれないか。それに残念ながら私はこの栄誉ある道を自分で選んだわけじゃないんだ。餞別代わりのこの鎧にも家紋は刻まれてないだろう? 妾腹だったからね」
兜の下から人好きのする青い瞳が覗いていた。
「だから私には名乗る家名はもうないんだ。ただローラムとだけ呼んでくれればいい」
差し出された手を握りつつ若き巨漢は名乗りを返した。握力もなかなかのものだったが、それ以上に相手の所作にはことごとく誠実さが満ちていた。
「これまでダンカンがうちのパーティにいてくれたんだが、彼は訓練所の教官も兼務することになってね。力仕事はしばらく全て私にお鉢が回ってくるんだ。君が来てくれるのを待ってるよ」
すると横から低い声がいった。
「まるで一人で働いてるみたいな物言いだな」
「だって君は力仕事なんか手伝ってくれないだろ、ルシード」
「当然」
立ち上がったボルドフを、痩身の男が見上げていた。革の胸当てを着けている以外は布地の服の軽装だったが、黒くて切れ長の目の一瞥は両の腰に下げた短刀の切れ味を想わせて余りあるものだった。だが次の瞬間、ルシードと呼ばれた男は再びローラムに視線を戻した。
「この男をダンカンが鍛えるというなら大して待たされるはずがなかろう。その程度の日数も踏ん張れぬ剣士に用はない」
「ごもっとも」
鼻を鳴らすルシードにローラムが苦笑で応じたとき、その背後から現れた赤い人影が嘲るような口調でこういった。
「おまけに筋肉同様、運の強さも本物だしな」
身なり自体はオボールとよく似たローブ姿だったが、色合いがまるで別物だった。地色の黒を覆い尽くすばかりに描かれた炎の図柄はその動きにつれ本物の火のごとく揺らめき、広がった袖の端には太陽らしきものを中央にあしらった半円の周りに月や星の文様を配したものが描かれていて、両手を組むと円になるという案配らしかった。男が魔術師だと察したボルドフを指さしつつ、相手はさらにいい放った。
「なにせ脱走がひと月遅けりゃ部隊もろとも消し飛んでたんだ。西の宝玉の暴走に巻き込まれてよ」




