表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『白星の魔女』 ~アルデガン外伝8~  作者: ふしじろ もひと
10/33

第二の野営:川のほとりにて その5

「それがゴルツ閣下との」

「ああ、初めての拝謁だ」

「では、おそばにおられたのは」

 いいつつ眠る呪文の師に視線を向けたアラードに、剛剣の師はかぶりを振った。

「グロスじゃない。こいつが閣下にお仕えするようになったのはまだ後だ。むろん仕えておられたのは位も力もある方だったが、俺の目には全く入っていなかった。閣下の印象が強すぎてな」

「それからどうなったんですか」

「家を与えるといわれ見習い僧に案内された。予想もしなかったでかくて誰もいない家に驚いたが、その意味がわかったのは日が登ってからだった」



----------



「あんたがボルドフか。なるほど、たいしたガタイだな」

 戸口に出たボルドフを見上げつつ、中背の戦士がそういった。短く刈り込んだ金髪はこの北方地方の民によく見るものであり、非凡とはいいがたい体格ともども本来は印象に残るような容姿といえぬはずのものだった。

 だがいくつもの古傷が刻まれたその身の鑿跡を残した彫刻にも似た精悍さ、それ以上に空色の目に宿る光の激しさが若き巨漢のまなざしを掴んで離さなかった。

「俺はダンカン。あんたの訓練相手というわけだ。案内するから支度してくれ。それと堅苦しいのは抜きで頼むぜ」


 表に出たボルドフは、だが眉をひそめて立ち止まった。通りは自分たちの他に人影がなく、見える範囲の家々はどれも窓ひとつ開けられていなかった。彼は先をゆくダンカンを思わず呼び止めた。

「このあたりの連中は朝が遅いのか? それとも夜明け前から畑にでも出てるのか?」

「いや、この並びに住んでるのはあんただけだ。昔はここも人であふれていたらしいが、もう俺が物心ついた頃はこんなだった。これが俺たちの、アルデガンの現状なんだ」

「……そういうことだったのか」

 昨夜の光景が、僅かな明かりしか灯っていなかった黒い奇岩島めいた城塞都市の姿が脳裏に浮かんだ。そんなボルドフの背中をダンカンがどやしつけた。

「だから自分からここへ来たなんて物好きは俺と同年代の連中も初めてなのさ。頼りにしてるぜ大男さんよ」



 訓練所は切り出した岩を組み上げた広大な施設で、高さは他の建物とそう変わらない反面、途方もない広さだった。城一つ分に匹敵する規模の外壁は小さな窓が所々にあるだけで、並び方からすると三階建てのようだった。にもかかわらず入り口は小さく、ボルドフは背をかがめなければ潜れなかった。そんな巨漢にダンカンがいった。

「ここは化け物どもが洞窟からあふれ出たとき、住人を守る砦になるんだ。だからわざと門も窓も小さく作ってあるのさ」


 入り口の中は思いのほか広く、左右に通路が伸びていた。外の壁が平らで凹凸がなかったのと対照的に、通路の壁は組み上げた岩がそのままごつごつした岩肌の様相を呈していた。ダンカンはそれを指し示して告げた。

「城壁は回廊になっていて、見ての通り洞窟に似せて作られている。ここでは洞窟での戦いを模した訓練をするんだ。あんたにはまだ早すぎるがな」

「では、俺はどこで?」「こっちだ」

 入り口対面の色だけが違う扉をダンカンが開けた。地面の光がボルドフの目を射抜いた。


 広大な白い砂地だった。砂地ばかりか四方を囲む回廊までもが白一色だった。暗がりとのあまりの落差に若き巨漢は唸った。

「目眩ましか、なるほど」

「ご明察だな。もっともあんたが引っかかっては話にならんが。むろん魔物どもがまっ昼間に出てくるわけじゃないが、おかげで目潰しの呪文も少しは威力が強まる。大したことないと思うかもしれんが、これが生死を分けることもあるんだ」

 頷きながら周囲を見渡したボルドフは、正面右手寄りの壁際に積み上げられた岩塊を認めた。洞穴の口を模していると気づき、若き巨漢はいった。

「ここも似せているというわけか。本物の洞窟の入り口に」

「広さや色はもちろん、広場の形から入り口の方角まで全部な。さっきの回廊もそうだが、目をつぶっても戦えるぐらい体に叩き込もうって寸法だ。誰もがここで訓練を始める。さあ、あんたの力を見せてくれ」

 壁際の木刀と盾で身を固め向き合ったとたん、ダンカンのさばけた雰囲気が消し飛んだ。顎をぶち上げる闘気に反射的に木刀を振り下ろした瞬間、天が覆り地が背を打った。足下に立つ相手を砂地から見上げ、懐に飛び込まれたのだとようやく悟った。

「振りが遅いぜ。だがその分厚い筋肉は本物だな」

 砕けた盾を掲げ口笛を吹くダンカン。頭を振りつつ身を起こすボルドフ。そんな二人の周囲から、いくつもの人影が歩み寄ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ