旅ってだいたいこんなもの
「えー こちらをごらんください。右手に広がるのは森。左手に広がるのも森でございまーす。」
歩きながら両腕を左右に広げ、満面の笑みを浮かべながら 左に顔を向ける女、マシィ。
それを目だけ右に向けながら 淡々と歩く男、レオナルド。
「はぁー れおたん、もっと楽しそうに歩けないの?」
呆れ顔のマシィを見やると歩みを止めて ようやく長い沈黙は破られた。
「お前がよくわからんジィさんの話を信じて脇道に逸れるから森に迷ったじゃないか!」
二人は森の中の道なき道を歩いて大分経つ。陽は傾き辺りはオレンジ色になってきた。
ぶつぶつと話されているのを聞いているのか、いないのか、マシィは その横でおもむろに背中のリュックを下ろし、中からごそごそと携帯用のイスとバーナーと小ナベを取り出した。
「おい 人の話を聞いているのか?」
怒っているレオナルドを尻目に うんうんと頷きながらマシィはイスに腰を下ろし、小ナベにペットボトルの水を入れ、ライターで火をつけたバーナーの上でお湯を沸かし始めた。すると腰に下げたポシェットから地図を取り出し、それを眺め始める。
マシィのちくわ耳は今に始まったことではない。
「はぁ」と ひとつため息をつくと、地べたにそのままあぐらをかいて座り込むと同時にレオナルドは頭をワシャワシャかきだした。
[どぉこで間違っちゃったかなー。」
首をかしげるマシィに レオナルドはカンパツいれず言う。
「あのよく分からんジィさんと話しをしてからだ。」
怒る気力も無くしたように だらりと肩がうなだれている。
「いいか、あのまま歩いてれば最短で次の村まで着いたんだぞ。そこら辺からポッと出たよく分からん人間を直ぐに信じるからこうなるんだ。そもそも、危ないと思わないのか?」
とは言うレオナルドもマシィと出会って一ヶ月も経っていない。人が好いのか何なのか。その場のマシィの口車にのせられて一緒に旅をしているのである。