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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある愛の詩〜不可怪〜座敷童・内ニ〜

作者: ミカ=エル

ある地方に『座敷童』という妖のモノの伝承がある。


曰く「その存在は必ず幼き童の姿をしている」


曰く「座敷童が住み着くのは綺麗な家である」


曰く「座敷童は心根が優しい人の家に住む」


曰く「座敷童が住み着いた家は富に恵まれ多大なる幸を得られる」


曰く「だが座敷童は永久には住み着かず必ずいつかは家を離れていく」


曰く「座敷童が立ち去った家からは幸が失われる。」



だがここに例外となる数世代に渡り座敷童が住み着いた家があるので紹介しましょう。

その家は他とあまり裕福と言える程ではなかったが堅実な商いをしている事で取引相手や周囲からは好かれている商家であった。


町医者「もうすぐ産まれそうですよ」


若旦那「がんばれ、がんばれ」


苦しそうな女性「んー、んー、」


産婆「ほらっもう一息ですよっ奥様」


赤子「おぎゃあ!おぎゃあぁ〜!」


産婆「っ!こっこれはっ!」


二人目の赤子「おぎゃあ!おぎゃあぁ〜!」


大旦那「忌子だ。いかん。忌子だ。いかんぞこれは」


産婆「忌子ですじゃ。間引かねばなりませんぞ」


若旦那「そんな。どうすれは」

二人の赤子はどちらも男の子であったが、双子。つまりは家相を乱すとされる忌子であった。


産婆「若奥様はくたびれて意識を失っております。今の内にどちらかお決めくだされ。産まれた赤子は最初から一人ですじゃ。問題ありませんて。」


大旦那「うむ。慣習に則り後に産まれてきたものを間引く。」


若旦那「そ、そんな。仕方ないのでしょうか」


産婆「忌子ですじゃ。このままですと御家に災いがありますぞ」


大旦那「いや、待て。そうだ。わしに考えがある。何、三年だ。三年待てば良い。この子らは兄弟としてその間表向きはちゃんと育てる。長男は厄除けにしっかりと女児の格好をさせて七つまで育てよう。次男はそのままだ。」


その後大旦那の口利きで使用人が数人増え。そして珍しく、この時代では有り得ない事に家長の決定により双子はそのまま両親の元で育てられる事になったのである。

二年後。

その忌子を持った家はいつ何が起きるかと周囲から注目されていた。


そしてその日がやってくる。



母親「さぁ七五三の御参りに行きますよ」

父親「さぁお前達、行くよ」


一太郎・余太郎「「はいっ」」

双子はどちらも素直に元気に育っていた。


しかし、一太郎は女児の格好で育てられ、名前も兄が一太郎、弟が余太郎。

誰の目にも家としての扱いの差は歴然としていた。


まだ年若い夫婦にとってはどちらも可愛い息子であったが。


祖父「余太郎はお爺ちゃんと手を繋いで行こうか」


余太郎「はいっお爺様」


御参りを済ませ社の近くにて。

祖父「少し厠へ行ってくるからここで大人しく待っていなさい。良いね?」


余「はい。待っています」


・・・・そして余太郎は居なくなった。



母親「余太郎が!余太郎がっ?」

父親「落ち着きなさい。今村中総出で探してるから」


祖父「すまんな。儂が目を離したばかりに」


母親「あぁっ余太郎、余太郎っうっうっうぅ」


数日経っても余太郎は見つからず、見掛けた人間も見付からなかった。


やがて人々は「神に連れてかれてしまったか」と囁き始めた。


「やはり片方は居なくなる定めだったんだろうなぁ」

「ほんに。やはりのぅ」

「奥方様おいたわしや」

「跡継ぎには一太郎様が居るが。」


しばらく近隣でも噂になるのであった。


そんな中

一太郎「父様、母様ごめんなさい!」

突然一太郎が夫婦に土下座をする。


父親「一太郎、どうした?お前まで自分のせいで、などと言うのじゃないだろ?」

祖父は責任を感じてかしばらく奥に篭ったきり一家の前に姿を見せていなかった。


母親も精神を病む一歩手前といった有様で周りの者はだいぶ気をもんでいた。


一太郎「ち、違うのです。い、いぇ、違いませんか。。。いえ違います。ひょっとしたらやはりわたしのせいかもしれないのです」

頭を床につけ涙声で応える。


父親「お前までそんな事を言うものじゃないよ、話に聞く神隠しのようにふらっと帰ってくるかもしれないのだし、ね。」


一太郎「ち、違うのです。それにっもし本当に神隠しだとすれば。本当に、わたしのせいかもしれないのです。」

更に平伏して言う。


父親「どういう事だい、一太郎?どうしてそう思うのか話してごらん?」


一太郎「・・・わたしは怒られるだけでは済まないかもしれません。」


父親「・・・何を気に病んでいるから知らないが話してごらん?」

優しく諭す。


一太郎「ごめんなさい!わたしは!一太郎兄様では無いのです!余太郎です!」


夫婦「・・・・・え・・・・」

終始俯いたままだった母親が顔を上げる。


母親「・・・よ・・・余太郎・・・?」


父親「・・・・」

平伏して震えている我が子を見る。


余太郎「ごめん、なさい。兄様が御参りに女児の格好をいやがって。」


父親「本当なのかい?」


一太郎?「はい。わたしの腰の右側には犬に噛まれた大きな傷跡があります。」


父親「あの傷か・・・」


余太郎?「はい。このとおりに。」

女児用の着物の裾を大きく捲り見せる。

それは一月程前に一太郎が犬に襲われるところを余太郎が一太郎の前に出、庇った事でついた咬み傷であった。かなり血を流し傷跡が後々まで残るのでは無いか、と医者に言われた傷であった。


母親「・・・余太郎?余太郎なの?」


余太郎「・・・はい、ははさま。。。ごめん、なさい。」

顔を再び伏せたまま応える。


母親「あぁ!あなた!あなた!余太郎が。余太郎が。余太郎が帰って来たのですね!?なんて嬉しいのでしょう!」

立ち上がり手を叩く。


父親「お前?」


余太郎「母様?」


母親「あぁ!あなたっこうしてはいられないわよ!一太郎を呼んでお祝いしなければ!」


父親「お、おまえ?」


母親「・・・あなた?一太郎は?一太郎はどうしたのです?一太郎は。今居ませんでしたか?」


余太郎「母様!申し訳ございません!兄様は・・・兄様は・・・」


母親「?どうしたのですか?余太郎?余太郎が帰って来たのですからめでたい事ではありませんか。まったくあの子ったらどこへ行ってしまったのでしょうねぇ」


父親「・・・余太郎。」


余太郎「は、はい。」


父親「いや、お前は一太郎だ。」


余太郎「・・・え・・・?」


父親「行方知らずになったのは余太郎。お前は一太郎だ。跡継ぎの一太郎だ。良いな。」


余太郎「え、そんな父様!」


父親「これも罰だと思え。誰にも言うな。ここだけの、今までの余太郎は居ない、居なくなった。そういう話だ。良いな。一太郎」


余太郎改め一太郎「は、はい。父様。父様に従います。」


父親「おまえや余太郎は帰って来てないよ。ここに居るのが一太郎じゃないか。」


母親「一太郎〜?どこ〜?・・・?え?・・・あぁあっ一太郎!そこに居たのね?」

隣室までウロウロしていた母親を呼び戻す。


母親「え?一太郎?じゃあ余太郎は?・・・・あ・・・あ・・・あぁぁああ」

泣き崩れてしまう。



その日から床に伏せてしまった母親は祖父とは違う奥の間に移される。

それから数年が経ち。

この近辺では育たないと思われていた新しく始めた作物を取り扱いそれが上手くいきいくつかの特産を生み出す事に成功したその家はどんどん裕福になっていた。

床に伏せている祖父。

その手を取る一太郎の父。

脇に座る一太郎。


祖父「良いか?儂の部屋にある神棚と庭に建てた祠は祀りを欠かす事の無いように。そして春先と夏の終わりの決まった時期に決まった手順に従いあの神社の者に祝詞を上げて貰う事。更にそれだけは代々受け継がせる事。あれは我が家の守り神であり富をもたらすものじゃ。良いな。」


遺された二人「はい。必ず」


一太郎「お爺様」


死に逝く祖父「一太郎・・・すまんな。すまんかったな余太郎・・・」

それだけを遺して逝ってしまった。



それからもその家は新たな事業を興しても失敗する事なくどんどん裕福になっていき。

国一番と評される名家となっていく。


跡継ぎである一太郎にも良家から嫁を貰う事が出来、端から見れば順風満帆、新進気鋭のやり手商家、といった具合だったが・・・


母親「ほらっ余太郎がっ!余太郎が家に帰って来てますよ!」

お手伝い「旦那様、奥様のは病気だとは思うのですが私も夜に子供の姿を見ました」


手代「夜遅くになるとなんか子供の遊ぶ声のようなものが聞こえたんでさ。へい、一日、一度きりじゃありやせん」


家の中ではそんな不気味な出来事が持ち上がっていた。


それは季節が変わろうが使用人が変わろうが変化はなかった。


しかし何をするでもなくまた、可愛らしい子供であることから『座敷童』という呼び名で呼ばれる事になる。



そんな中で主人である父親と一太郎が二人共に別の商談で家を空けてしまい件の祠への夏の祀りを出来なかった。


その秋。


村を飢饉とそこからくる流行病が襲った。

一太郎「父様」


手代達「旦那様」


父親「すまない、一太郎。わたしはだめだ。後は任せる。アレの、母親の事も頼むぞ」


一太郎「父様!」


父親「たの、んだ、・・っ」


そして父親の最期を看取った一太郎はソレを見てしまう。


子供が暗い部屋の隅に立っていた。


三歳、四歳くらいだろうか、男の子。


どこかで・・・と考えたところで走っていってしまう。


そこへ母親が入れ替わるように入ってくる。

「余太郎が!余太郎が居ますよ!家にずっと!家で遊んでますよ!」


ハッとした。

あれは、あれは一太郎兄様ではないのか、一太郎兄様ではなかったか、と。


『座敷童』


ふと、そんな言葉が浮かぶ。


「母様!一太・・・いえ、余太郎は家に?」


使用人達「一太郎様?!」

驚いたのは使用人達だ。まさか主人を亡くして跡継ぎまでおかしくなったかと。


一太郎「皆、わたしは大丈夫。平静だよ。村の者にも知らせ葬儀の手配をして下さい。」


使用人達「は、はい」


母親「一太郎〜?余太郎はずっとこの家に居るの。家から出られないのよ〜?あははは」


一太郎「・・・・」


一太郎はお世話になっている神社を訪れることにした。


神社でも神主の交代が起きていたが独特な祀り方をしている家の話はきちんと伝わっていた。

のだが。


神主「先代が遺した資料によりますと腑に落ちない点があるのです。」

神主が言うには祠を建てた際に神降ろし、あるいは神移しをしたという形跡がないのだという。


一太郎「どういう事でしょうか?」


神主「普通ではない、というだけなのですが。突然祀るようにしたようなのにどこから何の神を連れてきたのか、何の神を祀るものなのかが明確ではないのです」


一太郎「・・・それは・・・」

考えてみたら神を祀ってはいたが何の神かは知らない事に今更ながらに気が付いた。


神主「それに・・・」

一太郎「何でしょう」


神主「いえ、この春先と夏の祈祷なのですが。。。」

この神主はここの神主になるまでに各地を歩き色々な知識を頭に入れていた。


神主「いえ、気のせいかもしれませんが。この祝詞の内容と祈祷の内容とを鑑みるに、ですね・・・」

神道での神を崇めて祈る、祈り力を借りる、というよりは民間信仰の神を閉じ込めてその力を使う、というような物ではないかとの印象を受けるという。


一太郎「・・・・!」

何かが繋がったような気がした。


家に帰り男の使用人達数人を連れて庭に出る。

神主にも来てもらった。


手代「旦那様、これから何を?」


一太郎「祠を」


使用人「祠?あれですよね?」


一太郎「そう。あの祠を壊すのを手伝ってくれ」


使用人達「!えっ!」

「いやいや、いやいやいやいや、それはマズイでしょう」


一太郎「神主様もいる。許可を出す。やってくれ」


・・・・そして祠の解体。。。石組みから土台も壊し下を掘る、という作業、が始まった。


神主「えっ?!」

使用人達「おいっこれって!」


神主「一太郎さん」

一太郎「・・・・多分これが座敷童だよ」


一同「えっ」


神主「・・・座敷童、ですか?」


一太郎「兄様だ。」


一同「え」


一太郎「行方知れずになっていた。兄様、だよ」


誰か「え・・・いや、でも旦那様が長男、ですよ、ね?」


そこへ奥さんと連れられた母親がやって来る」


母親「あぁぁ、あぁ!一太郎!余太郎!二人とも!二人揃ったのね!良かった!」


一太郎「・・・わたしは一太郎ではなく双子の弟の余太郎です。あの日、行方知れずになった日。ほんの遊び心で入れ替わっていたのです」


一同「そんな」

奥さん「そ、そんなことって」


母親「あの人よ、あの人がやったのよぉぁあっ」

意識を失い倒れてしまう。


・・・


部屋に上がり少し落ち着いた所で。

神主「おそらく、ではありますが。恐らく先先代当主様がどこかの術者に頼んだのではないか、と。」


一太郎改め余太郎「術者、ですか?」


神主「はい。多くの神社の役割として本来厄をもたらすものを祀る事によって力の向きを変え幸、益をもたらすようにする、というものがあります。」

一同を見回して辛そうに言う。


神主「荒ぶる御魂を祀り人の為に使う、という言い方も出来ます。有名な所では平将門公、でしょうか」


一太郎「・・・・まさか」


神主「・・・はい、おそらくは。」


一太郎「そんな・・・」


神主「本来なら忌子で産まれてこなかった事にされるはずの者を神の世界に近付ける育て方をしてから殺す。そしてその魂を捕まえて家の守り神として都合よく祀る。こんな事を行っていたのではないかと。。。許されざる行為です」

肩を落として言う。

多くは表の世界で生きているが中には金銭を貰い呪いをはじめとした裏の仕事を請け負う術者達も居るのだという。


余太郎「兄様・・・」


母親「あははっ!一太郎が喜んでるよ、ほら」

いつの間にか起きていた母親が外を指差し笑う。


一同「?・・・!」


一太郎「余太郎っ!見つけてくれてありがとう!解き放ってくれるとは思わなかったけど、ありがとう!」


そこには庭を走り回る子供・・・ぼんやり光る一太郎の姿があった。


余太郎「兄様!」


一太郎「ありがとう。お前が幸せで良かったよ。犬の時の恩を返せたかな?母様をよろしく」


余太郎「兄様!」


一太郎「家は無くなるだろうけどなんとかなるはず。さよなら、しっかりな」


母親「一太郎、逝くのね。さよなら」


一太郎「母様。今までありがとうございました。お元気で」

空へと消えていく。


いつまでも見送っていた。

その後、母親は健康状態を取り戻すがその家は今までの流れが嘘のように、あるいは順風満帆だった反動が来たかのようにあっという間に没落していく。


一太郎「この家ともお別れですか」


母親「思い出は詰まっているけど悪いものもあるからね。細々とでも構わないから新しい所でやっていきましょう」


一太郎の奥さん「残念ですが、きっとやり直せます。三人でがんばりましょう」


三人、歩き出す。

やがて年月が経ち。

そこにはそれなりに大きな宿屋が立っていた。


「この宿には座敷童が出るんだってよ」


「出逢えると何かしら良い事があるんだって。」


「可愛い男の子らしいよ」


そんな噂の宿屋が。


そう、宿屋。


一軒の建物、お屋敷とも取れるが。

一軒一軒の小さな家が集まってる建物、とも言えるもの。


曰く「座敷童は一つ所に留まる事がはない」


曰く「座敷童が住み着いた家は豊かになる」


曰く「座敷童が去った家は幸が薄れる。もしくは不幸になる」



宿屋。それは『全体としては一軒の家ではあるが中にある一軒一軒に住人が留まらない』

これによって『家と住人が入れ替わることにより座敷童が立ち去らずにいる』という現象が起きていた。


その宿屋は今日も千客万来であった。



そして・・・・こういった噂のあるいくつかの宿屋の庭の片隅には何を祀っているのか全く分からない御堂が建てられている・・・・・





お読みいただきありがとうございます。


少しホラー的な要素を入れた物になります。


読み終わった後悶々としていただければ、と思います(笑)


すみません、4/22.21時終わりを最終部を一部カット、修正しました。

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