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あそこに手が届かないの!!

作者: 北屋 風

2作目です。

よろしくお願いします。

 雨上がりの青い空の下、澄んだ空気を吸い無人駅にて電車を待つ。

 山の向こう側へと徐々に傾く太陽を見る。

 さっきまでは真っ白な太陽だったのに、今ではもう少しずつ黄色に染まってきている。

 現在4時半すぎ、もうすぐでその太陽も空も紅色に染まるであろう。

「ふう」

 私は、胸の中いっぱいに溜めていた空気を、絞り出すように吐き出した。

真冬のこの季節。吐いた息が真っ白だ。

 そして、黒い学生カバンのふたを開け、ガサゴソと探ってからカメラを取り出した。

「きっと今日はきれいな景色が撮れる」

 ああ、今日はなんて素晴らしい日なんだろう。


 私は、写真を撮るのが好きだ。

 それはなぜかというと、肉眼で見るのよりも物が、人が、景色が輝いて見えるからだ。

 現実のリンゴを見て「ああ、リンゴだ」と思うのと、写真のような絵のリンゴを見て「ええ!これリンゴ?!」と思うのと同じ。

 これは私の目がおかしい、ということだろうか。

 わからない。

 わからないけれど、カメラで撮り、家に帰ってから現像してそこに映る景色を見る。

 それを見るだけで、不思議に私の心が満たされる。

 私は、それがたまらなく大好きだった。

 だから、私は、今すごくワクワクしている。

 雨上がりで澄み通った空気の中で、夕焼けの瞬間が撮れるのだ。

 きれいじゃないはずがない。

 夕焼けは、本当に美しいと思う。

 特に、今日のような雨上がりの夕日。

 影と紅色のまじりあう雲に青がまじりあう空、真っ赤に輝く太陽。

 どれも自分の存在を主張していて、それでも景色は崩れなくまとまっていて、それで・・・

 もう言葉に表せない。

 今日は、『ラッキー』だ。

 駅にかかっているぼろぼろな時計で時間を確認する。

 よし、まだ電車が来るのには時間がある。

 カメラを構える。脇を閉める。そして、カメラのスコープをのぞき込む。

「じっくり最高の1枚を撮ってやろう」



ーガコンッ 

 突然、駅の屋根から鈍い音が聞こえた。

「っ!!・・・何・・?」

 とっさに屋根を見る。

 ・・・・

 何もない・・?本当に?

 じぃーと、じぃーと屋根を見つめる。

「なにもない・・・か」

 ふうっと溜息を吐く。

 いったい何の音だっただろうか。

 鈍い音がしたから、烏でもぶつかったのだろうか。

 本当に何だったのだろうか。

 しばらく考えてみる。

「わからない・・何だろう」

 もういいや。わすれよう。

 ああ!!夕焼け!!

 いい写真が撮れる絶好のチャンスなのに!!

 いつベストチャンスが来るか分からないんだから!!

 ・・・?

「あれ?」

 ふと気が付く。

 音がした天井の片隅。

 まん丸い目がわたしを見つめていた。

 『それ』が、1つ目のネズミが。

 『それ』は、ぼろぼろの天井につり下がっていた。

 いや、天井に立っていたの方が正しいか。

 『それ』は、なぜか目を見開いた。

 十分に目が開ききったのちに、すうっとその目を細めた。

「・・・なにあれ、気色が悪い」

 何だろうか。あの生き物は。

 1つ目のネズミなんて見たことも聞いたこともない。

「・・・っ!!」

 そして、『それ』は、私に、ダイブした!!

――ベッチーン!!

 目の前が暗くなる。

 『それ』が、私の顔に張り付たのだ。

 私はとっさに手ではがそうとする。

 視界がはっきりする。

 どこに行った?

 左肩の重みが増す。

 反射的に身をよじる。

 体のバランスを崩す。

 すると、急に肩の重みが消えた。

 目で探す。

 『それ』・・いや、『やつ』は飛んでいた。

 バランスを崩れたまま、体が地面と衝突する。

 全身に衝撃が走る。

――どんっ!!

 さらに、左腕にも衝撃が走る。

 左手には、カメラ握っていた。

 でも、衝撃でとっさに手を放してしまっていた。

 悪寒が走った。

 いやな予感がする。

 痛みに呻きながらも、自分の左腕を確認する。

 『やつ』はそれを口にくわえ、逃げてゆくのが見えた。

「・・・・!!大事なカメラが!!」

 ばっと体を起こす。

 『やつ』は、駅の裏にある森へかけていた。

 数回、立ち上がるのに失敗しながらも、追いかける。

「・・っ!!」 

 急に『やつ』の姿が消えた。

 不安に思いつつ『やつ』が消えた近くまで駆け寄る。

 少し大きな穴があった。

 幅が人の頭一つが入るくらいで、先が見えないほどとっても深い。

 頭の中がカメラで一色になっていた私は、何の抵抗もなくその穴に腕を突っ込んだ。

 上、下、右、左、ペタペタと手を当てながら、一所懸命穴の中を探ってゆく。

 しかし、いくら探っても手に当たるものは土しかない。

 穴から手を抜き、携帯用の小さな懐中電灯を口にくわえ、頭を穴に突っ込んだ。

 大きな目と見つめあう。

 穴はそこまで深くないようで、どちらかというと、『やつ』がそこに落ちて動けないような感じであった。

 私は嗤った。

 ネズミ相手に。

 もうやつは逃げられないのだ、と。

 顔を穴から出して、ふたたび手を突っ込む。

 できるだけ奥へ、奥へと手を伸ばす。

 そこまで深くないとは言ったが、手が届かないくらいの深さだった。

「っち!!」

 舌打ちして、また手を抜き、背負っていたリュックから定規を取り出す。

 サイドポケットにぶっさしているので、すぐに取り出せた。

 それから、定規を持った手をまた再び穴に突っ込んだ。

 ・・・。

 おかしい。

 何かにぶつかった感覚がしない。

 次に、その手を穴の中をかき交ぜるようにぐるぐる回してみる。

 あれ?

 回せない?

 もしかすると、『やつ』は定規を避けたのか。

 定規で穴から適当に掻き出す動作をする。

 引っかからない。

 手を抜いて、口に懐中電灯をくわえて、穴に顔を突っ込む。

 『やつ』は、震えながらうずくまっていた。

 カメラを大切に抱きしめている。

 涎を垂らしながら。

「・・・」

 頭に来た。

 絶対に私のカメラを取り返してやる。


 

 どれほど時間がたっただろうか。

 あんなに見たかった、撮りたかった夕暮れはとうに過ぎ、暗くなっていた。

 あたりは暗くなって、無人駅の街灯が寂しくあたりを照らし始めていた。

 私と『やつ』の戦いはまだ終わっていない。

 私はいろいろなものを使い、『やつ』を引きずり出そうとする。

 しかし、『やつ』はそれを避ける。

 夢中になりすぎていた。

 こんなにも、私はカメラに執着していたのかと思うほどに。

 だから、気づかなかった。

 後ろで鼻血を出している少年に。

 そして、届かなかった。

 彼が一生懸命私を呼ぶ声に。

 気が付いた時にはもう、目の前が真っ暗になっていた。

 体の感覚がない。

 もう私は死んだのか。



「・・・・・・」

 声が聞こえる。

「ォ・・。・・・・」

 なんて言ってるの。はっきりとお願い。

「・・い!!目を覚ませ」

 目が覚める。

 体を揺さぶられていた。

 目の前の少年を見る。

 鼻に赤い跡がついている。

「ああ、気が付いた!!」

 つばが飛んでくる。

「ああ、もう心配したんだよ」

 私は、あなたと初対面です。誰ですか。見知らぬ人に心配されたくありません。

「いやあ、あの時は焦った。いきなり変な化け物が、君を食べようとしていたのだからなあ」

 何を言っているのです?

 化け物?

「とにかく、どいて・・放してもらえませんか?起きれません」

 いろいろと混乱していた私は、とりあえず、深呼吸して、私の肩をつかむ手を放してもらうように言った。

「ああ、ごめん!!」

 彼は、飛び上がるように立ち上がって手を放した。

 反動で、地面に体をぶつけた。

 青々しい草とひんやりした土の香りが舞い上がる。

 あれ・・・

 草と土?

 起き上がって、周りを見渡す。

 今は冬。草は枯れているはず。

 なのに、ここはおそらく森の中、草木が生い茂っている。

「僕と君、化け物に食われてなぜかここに来たのさ。・・・どこだかは分からないけど」

 少年が言う。

 頭がパンクする。

 目がぐるぐると回る。

 少し時間がたった。

 彼は、私が落ち着くのを待ってくれているようだ。

 ふと、『やつ』を思い出し、周りを見渡す。

 いた。

 あそこで伸びている。

 『やつ』が抱いていた、カメラをひったくり、そして、蹴り飛ばす。

「いってーーー!!」

 目を覚ました。

 いや、しゃべった?

「俺を蹴とばすなんて、誰だいったい!!今日は化け物に追われるし、執拗に攻められるし悪い日だ!!」

 私は、カメラをリュックにいれた。

 そして、うんぬんかんぬん言っているやつをつまみ、胸に抱える。

 『やつ』は、げぇとした表情を見せる。

 そして、少し考えてから言う。

「なぜここにいる?」

「しらない」

「ヤーリが送ったのか?」

「なにそれ」

「ちょっと景色みせろ」

 『やつ』をひっくり返し、また胸に抱く。

「戻ったのか・・・」

 『やつ』はそれから自分の世界に入った。

「ねえ、そこが森の出口みたいだから言ってみない」

 ずぅぅと黙っていた少年が言い出した。

 私はそれに賛成した。



 森を出ました。

 平野が広がっていました。

 草原で一面緑。

 奥に、囲郭都市だろうか。堀と塀で囲まれた城が見える。

 思わず手を開き、リュックからカメラを取り出して、写真を撮った。

 落とされた『それ』は、いてっと呻いた。

『それ』は、2本足で立ち上がり私たちに向って言った。

「・・・まあ、ようこそ?こちらの世界へ」

 とりあえず、異世界トリップということは理解した。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

なんか起承転結の「起」みたいですね。

機会があれば少年視点とかネズミ視点とか、続きかきたいです。


あとから気づきました。タイトル大丈夫でしたか?(うまいタイトルが思いつかなかったからこうなったのですが・・・)


*2015/12/18 ジャンルが違うと思ったので「SF」にしました。

*2015/12/22 誤字修正

        彩度ポケット→サイドポケット


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― 新着の感想 ―
[一言] 名前からして卑猥かな?と思って読んでませんよ? そう。面白そうだから読んだだけなのです。。。 読んでる最中は 少年が鼠を召喚してわざとしているのかなぁっと思ってました。まさか異世界に行く…
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