第八十一話 謎の洞窟
これまでのあらすじ
合気道の達人である神薙 流。何故か異世界で十五歳に若返り、なんやかんや合気無双してたらボンキュッボンのエルフの長がのじゃロリになり、オークが痩せるとイケメンになることが発覚し、魔法使いのヒロイン(?)は魔法そっちのけでとにかく杖で殴り、ナガレが万能調理機に生まれ変わったところで流石先生!なフレムと合流したのだった。
「ここですね」
ナガレが先導しエルフの森を南南西に進んだ先の山の中。
そこにそれがぽっかりと口を開け存在していた。
するとフレムが先ず前に出て中を確認し、そして、ただの洞窟じゃないな、と一言呟く。
どうも奥は結構深いらしく、自然に出来たような洞窟とはまた違うようであり。
「先生! もしかしてこれって迷宮じゃないですか?」
フレムが問うように告げる。彼の脳裏には核迷宮の事が浮かんでいそうであったが。
「ちょ、ちょい待ち! それはいくらなんでもおかしいで、この森は魔素が薄いのや。よくそのへんでポンポン生まれる核迷宮なんてここで出現するわけないで」
フレムの発言に異を唱えるのはエルシャス。エルマールは里の事もあるという事でついては来なかったが、森の中での出来事に全くエルフが関知しないわけにもいかないという事で、エルシャスが一緒についてきているわけだが。
「魔素が薄い……そういえばそんな感じもしますね」
「それにこの森には魔物もいなかったしね。魔素が薄いなら納得だよ」
ローザとカイルが得心が言ったように述べる。
するとフレムが、それなら! と声を上げ。
「てことは、ここはもしかしたら古代迷宮かもしれませんね先生!」
興奮した口調でナガレに訴えるフレム。だが、マリーンは納得がいかないと眉を顰めた。
「ちょっと待ってよ。古代迷宮ならとっくにギルドにも情報が上がってる筈よ。でもこの森に古代迷宮があるなんて聞いた事がないわよ」
「ということはもしかして新発見の迷宮?」
マリーンの意見を耳にしピーチが口を挟む。
するとナガレがそれに答えるように口を開いた。
「いえピーチ、それも違うでしょう。この洞窟はそもそも自然に出来たものではありませんね。人為的に作られた可能性が高いです」
人為的? とエルシャスが怪訝そうに復唱する。
「……でもやっぱ解せんわ。うちの里のエルフは森もしっかり見回りしとるで。この辺も当然な。やけど今までこんな洞窟の存在確認されへんかったのに」
「お前たちが見逃してたんじゃねぇの?」
「おま! うちの里のエルフ舐めるんやないで! 戦闘民族言われとる戦士達やぞ! 見逃すなんてあるかい!」
フレムの発言に思わず食って掛かるエルシャスである。
それに、まぁまぁ、とピーチが宥めるが。
「きっと、最近までこの入口は何かしらの手で隠蔽されていたのでしょう。見回るにしても一つ一つそこまで仔細には調べてはいないでしょうし、入り口が見当たらなければ気がつかないのも仕方のない事です」
ナガレの発言に、むぅ、と短く唸るエルシャス。確かにいくら見回りといっても、怪しく思わなければ一つ一つ事細かに調べるようなことはしないであろう。
「でもナガレは気がついたのよね?」
「そうですね。ただ、すぐに害があるようなことでもなかったので敢えては触れませんでした。ですが一応帰る前に調べておきたいとは思っていたので」
「てことはやっぱり入るのね」
「当然や。うちだってこんなん気になってしゃあないし」
「でもマリーンはやっぱ里に戻った方が良くない? 何があるかわからないし?」
ピーチが彼女を気遣うように述べるが、マリーンは目を細め。
「冗談でしょ? わざわざここまで来て大人しくしてろだなんて絶対に嫌。それに受付嬢としても気になるしね」
「だからって足手まといになるようなら勘弁して欲しいんだけどなぁ」
頭を掻きながらフレムが言う。本人に悪気はなく、中途半端な好奇心でついてこられて怪我でもされたら面倒なだけだと思っているようだ。
「あら、ちょっと舐めすぎじゃないかしら? ギルドの受付嬢って――」
そこまで言ってマリーンはスカートの裾を捲り上げると、おぉおおぉお! とカイルが声を上げその脚線美に釘付けになる。が、その瞬間には抜かれたナイフがフレムの足元に突き刺さった。
「自分の身を守る術ぐらい心得ているものなのよ。ナイフの腕ならCランク冒険者にも負けないわ」
射るような目をフレムに向け、自信のこもった発言を返す。
確かに投擲までも流れるようにスムーズで、正確さもかなりのものだ。
「……あはは、マリーンさん凄いです」
「う~ん、美しい受付嬢の意外な特技」
ローザが目を丸くさせて感心し、カイルも軽い口調ではあるが、感嘆の言葉を漏らす。
「でも凄いわねマリーン。こんな特技があったなんて知らなかったわよ。冒険者としてもやっていけるんじゃない?」
「嫌よ。冒険者とか疲れるし、受付嬢の方が気楽でいいもの」
ピーチがそう語りかけると、髪に手をやり、サラリとマリーンは言い返した。
髪を掻き上げる仕草一つとってもやはりマリーンは美しい。
「まぁそれやったらえぇんちゃう? でもここそんなぞろぞろ入って大丈夫やろか?」
「中は十分な広さが確保されていそうですし大丈夫は大丈夫でしょう。それに今回はメインをピーチとフレムとし先頭にたってもらい、カイルは弓矢ですからその後ろを、エルシャスはメインが棒術ではありますが出来れば援護に回って頂けると助かります。マリーンとローザは私と後衛で。ナイフ投げの実力はかなりのものですが、それでも大事な(ギルドにとって)受付嬢を危険な目には合わせられませんからね」
「嬉しいナガレ! 私の事そんな風にみててくれたなんて!」
ナガレの発言に、マリーンが嬉しそうにその腕を絡め、熱い視線でナガレを見やる。
「でも、ナガレに守って貰えるなら確かに安心ね」
「ちょ! マリーンなにしてるのよ! そ、そんな! そんなにくっついて!」
ピーチが指を上下させて抗議した。顔も真っ赤である。
「そうだ! 先生に抱きつくとはどういう了見だ! 先生だって迷惑してるだろ!」
「いや、迷惑ってことはないですけどね」
「ほら、ナガレもこう言ってるじゃない」
「うぐぐ!」
「むぎぎ!」
ピーチとフレム、二人仲良く悔しそうに歯をギリギリと噛み締めた。
「でもこのままだと少々動きにくいですので、そろそろよろしいでしょうか?」
「え? あ、そうね」
ナガレに言われ、マリーンが腕を解き、ピーチに悪戯っ子のような笑みを見せる。
「ほ~らピーチ。そんなむくれないの。これぐらいいいでしょ? ピーチの方がずっとナガレと長い時間一緒にいられるんだから」
「え? う、そ、それはそうだけど……」
そしてマリーンが彼女の耳元でそう囁き、ピーチは釈然としない面持ちではあったが、納得を示す。
そしてフレムは一人ぶつぶつと、先生に色目を使うなんざふてぇ――とつぶやき続けていた。
「さて、それでは探索開始といきますか」
そしてナガレのこの発言で予定通り洞窟の中へと脚を踏み入れた一行である。




