第八十話 合流
「これでドヤっ!」
気合の篭った声を張り上げ、エルシャスが旋転暴風撃を放った。キュッと括れた腰が回転し、同時に手持ちの棒を振りさらにそこへ精霊の風を纏わせる。
強力な風圧の組み合わさった一撃は、まさに風と棒撃の暴力。
物理的衝撃と暴風の合わさった一撃がエルシャスを中心に三六〇度駆け抜けた。
対するピーチは、杖を魔力で大型の盾に変化させそれを受けきる。
しかしその分、どうしてもその場に立ち止まらざるを得ない。
そしてエルシャスはその隙を見逃すほど甘くはない。
脚に風を纏わせ、疾風の如く駈足でピーチの背後に回りこみ、その背中に狙いを定めようとした。
だが、その瞬間、ピーチの脚に魔力が宿り、信じられないほどの跳躍力を披露し、更にエルシャスの頭上から杖を伸ばした。
「おわ! あぶな!」
「惜しい!」
ピーチが空中で体勢を立て直しつつ、指を鳴らした。
そして着地し、脚に纏わせた魔力を解放し一気に距離を詰め、杖を乱打する。
勿論その杖にも魔力は宿っていた。
「むぅ、あのピーチという娘、急に身体能力があがったのじゃ。一体どうなっておるのじゃ?」
「魔力を身体にも纏わせられるようになったのですよ。これまでは杖だけでしたが、杖ほどじゃなくても身体にも魔力を纏わせることが出来ることに気がついたのです。精霊の力を身体に纏わせるエルシャス相手に、杖だけではどうしても厳しいですからね」
ナガレの説明にエルマールが目を丸くさせ、その顔を見やる。
「魔力を身体にじゃと? ふむ、そんなやり方もあるとはのう。それもお主の教えなのかのう?」
「まぁ、多少の助言は致しましたが、その結論に達したのは紛れも無くピーチの力です」
ナガレは感心したようにエルマールに話して聞かせる。
エルマールも、ふむ、と顎を引くが。
「じゃがのう――」
呟くようにエルマールが言った直後、戦いを演じるふたり、の、エルシャスが距離を取り、そして棒を握る手を力強く捻る。
かと思えば、その棒に纏われた風が勢いを増し、エルシャスが捻じりを解放し突きを放つと同時に逆回転する強風と噛み合う、一瞬だけ反発する力と力がぶつかり合い、溜めを作った。
刹那、風の回転がエルシャスの捻じりに加わり、解放された力、そして回転に回転を加える事で、歯車の原理により更に強大な力と化し、螺旋状の暴風がピーチ目掛けて突き進む。
「【双風棒嵐覇】や!」
横方向に進む巨大な竜巻は、容赦なくピーチを飲み込み反対側の緑の壁を突き抜けた。
ピーチの悲鳴ごと凄まじい風力が掻き消してしまう。
そして――風も収まり、これまでの事が嘘のような無風状態。
静寂がその場を支配し――
「……あれ? うち、も、もしかしてやりすぎたやろか?」
「今のはエルシャスの最強の技なのじゃ……流石に不味いかもしれんのじゃ」
頬を掻きながら、まいったな、という表情を見せるエルシャス。
そしてエルマールも心配そうに眉を顰める。
だが、ナガレには全く動じている様子はなく。
「大丈夫ですよ。ほら――」
ピーチが飛ばされた木々の向こうへ指を指すナガレ。
するとガサゴソと草木の擦れ合う音が届き、よろよろと覚束ない足取りではあるが、ピーチが姿を見せ、そしてエルシャスを認めた直後両膝を付き、うぅ、と呻き声を上げた。
「よく頑張りましたねピーチ」
そんな彼女の前にナガレが近づき、そして肩を貸すようにして立ち上がった。
「……でも、結局一度も勝てなかった。折角ナガレも、色々手伝ってくれたのに――」
悔しさからか、涙をその眼に溜めながらピーチが呟いた。
だが、そんなピーチの頭をナガレが優しく撫でる。
すると泣き顔と照れとが混じりあった表情をナガレに向け、彼の名を一言発した。
「これが限界だと思っては駄目です。ですが、今回ピーチは頑張りましたよ。最初は全く手が出なかったエルシャスを、最後には本気にさせたのですから」
「せやで! 大体うちかて戦闘民族のプライドあるねん! 数日でここまで追いつめられるなんて自信なくすわほんま! あの技がつうじんかったらどないしようかと思ったでほんま」
腕を組み、目を眇め、溜め息混じりに述べるエルシャス。
相変わらずの口調だが、勝ったからと素直に喜べない様相も感じられた。
「全くなのじゃ。エルシャスも次にピーチとやったらどうなるかわからないのじゃ。まだまだ精進が必要じゃな。全く、最近力を活かす機会がなかったからと少々弛みすぎていたのじゃ! エルシャスだけじゃないのじゃ! 里全体で、改めて鍛え直すのじゃ~~~~~~!」
頬を膨らませ、プンスカと怒鳴り上げるエルマール。しかし幼女の姿ではなんとも迫力に乏しい。
「ま、でも今回勝ったのがエルシャスなのは間違いないのは確かなのじゃ。のうナガレ?」
でも結局、ふふ~ん、とドヤ顔を見せるエルマールなのである。
「こ、今度やるときは負けないんだから」
「おう! 望むところやで!」
こうして最後の試合を終わらせ、全員で里へと戻った。
「先生! うおぉぉおぉおぉおお! やっと先生に会えた! うぉぉおおおぉおぉおお!」
エルフの里に戻り、ピーチは精霊魔法で治療を受け、かなり体力が回復したが、それから少しして聞き覚えのある声が里に響き渡った。
今にもナガレに抱き掛かりそうならフレムに顔を顰め、
「なんであいつがここにいるのよ」
と怪訝そうに述べる。
「ご、ごめんねナガレ、ピーチ。なんかバレちゃって、どうしても連れて行けって――」
「フレムがわがままばかりすみません」
溜め息混じりにマリーンが述べ、ローザも頭を下げる。
そしてナガレは両手を広げて飛び込んできたフレムをヒラリと避けた。
「でもマリーンとローザはともかく、フレムとカイルはよく入れたわね」
「ははっ、ナガレの友達だっていったらあっさり通してくれたよ~」
そんなことで大丈夫なのかしら、と眉を顰めるピーチである。
「でもちょうど良かったですね。これからお昼を摂ろうと思っていたところですから」
「え? お昼? そういえば丁度お腹が減ってきたんだったわ」
「そ、それじゃあ私も手伝います!」
「先生俺にも出来ることがあれば!」
「じゃあおいらも皿の用意するぐらいはするよ~」
「それって手抜きじゃない?」
ジト目でカイルをみやるピーチである。
しかし実際彼らには手伝えることはそれほどなかった。
今回もナガレがまさに流れるような動きで調理をこなしていったからである。
「せ、先生は料理まで出来たんですね! 凄いです! 最高です! て、これはどうやってるんですか?」
「体温調整ですね。これで肉の味が際立ちます」
体温調整体温調整、とフレムがブツブツ言いながら、ナガレに色々と尋ね、更にその一挙手一投足を見逃すことなく観察する。
「そういえば先生、俺! 先生の教えを一つ体得しましたよ! 相手や物の目が見れるようになったんです」
「ふむ、それは凄いですね」
「へへっ……瞑想も毎日欠かしませんでしたから! だから、だから……あれ? 先生の目が見えない……」
ナガレが、ふふっ、と微笑を浮かべ、そしてそんな会話をしながらも料理はすべて完成した。
「ほんっと美味しい! ナガレってなんでも出来ちゃうのね」
マリーンがナガレの料理に舌鼓を打ち、目を丸くさせる。
「本当に素晴らしいですナガレ様。この料理の一つ一つがとても神々しく感じられます」
それは流石に大げさに感じるナガレである。
「でも確かにいいお味だねぇ。この肉も硬すぎず噛めば噛むほど美味しい肉汁がジュワ~って染み出てくるし」
「当然だ! 先生の手にかかれば世界中の料理人がひれ伏すぜ!」
「フレムは相変わらずね」
ピーチが呆れたような目をフレムに向け言う。
「ふむ、この料理法は我々にも教えてほしいのじゃ。何せお主たちは今日が最後じゃからのう」
「あら、そうだったんだ。じゃあ私が来たのもちょうど良かったのね」
「秘薬が出来るのは夕方ごろだから帰るのは明日の朝になると思うけどね」
「それなら私も明日一緒に出るわね」
ピーチが隣のマリーンに伝えると彼女もエルフの里に泊まる事を望んだ。
「では先生! 俺達も泊まりますから色々ご指導お願い致します!」
そんなふたりの話を聞きフレムもナガレに願いでる。
するとナガレは、ふむ、と顎に指を添え。
「そうですね。でしたら丁度いいでしょう。午後になったらピーチも一緒に、ちょっと気になる場所にでも行ってみますか――」
最終試合後のピーチのステータスです
ステータス
名前:ピーチ・ザ・ファンタスキー
年齢:17歳
性別:♀
称号:魔闘杖術士
レベル:33
生命力:125/125
魔力 :458/458
攻撃力:115
防御力:105
敏捷力:98
魔導力:256
魔抗力:242
アビリティ
魔法行使(魔導門第一〇門まで行使可)・魔力変換(効果・大)・魔力上昇(効果・大)・魔力操作・杖術(達人級)
スキル
瞑想(効果・特大)・魔力形成・魔力強化・魔力可視




