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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

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第七十三話 ゲイ・マキシアム

ぎりぎりになってしまった……

 八体のグレイトゴブリンに全員が驚愕する。 

 だが、間髪入れず男の命令で変異種と化した化物達が動き出した。


「ちっくしょうが! 【八腕五月雨投げ】!」


 顔を歪ませ、迫る敵を迎撃しようとボークがマントから次々とスローイングダガーを投擲していく。

 投げているモーションが視認出来ないほどの速投、その数は優に一〇〇本を超え、グレイトゴブリンの皮膚に突き刺さっていく。

 だが、浅い、すっかり固くなったグレイトゴブリンの厚い皮膚は精々皮一枚と僅かな筋肉を刺衝しただけである。


「チッ! 浅いかよ!」

「ボーク! 上だ!」


 グリーンの警告。迫る影。刃を受けようと構わず突っ込んできていたグレイトゴブリンがその辺の幹をへし折り、棍棒のように振り下ろしてきたのである。


「こんなもの喰らうかよ!」


 だがボークは既の所で横に飛びそれを躱す――が、グシャっ!

 もう一体、回りこんでいたグレイトゴブリンの拳によって、ボークの身は地面に叩きつけられる。

 一発――ただのその一発で、ボーグの命は完全に刈り取られた。


「ちょっと冗談でしょ! あんた簡単に死んでるんじゃないわよ!」


「ぎゃはははははは! ほら言ったとおりになっただろう? こういう馬鹿は死ぬって決まっているのさ! 全くあれだけ強気な発言しておいて、かっこわる、プッ」


 仲間の死をあざ笑うその姿に、ゲイは怒りを覚え、握りしめた拳をプルプルと震わせた。


「あんた――」

「開け魔道第七門の扉、発動せよ植術式グリーンシューター(緑の弓部隊)


 顳かみに太い血管を浮かばせ、槌を構えるゲイであったが、その後ろからグリーンが魔法を唱える。

 すると土が捲れ根が伸び上がりぐるぐると纏まり人のような姿となりゲイの正面に並んだ。

 

 その数は数十体に及ぶ。そしてそれは根を弓と変え、枝を矢とし、一斉に引き絞る。

 勿論狙いは目の前の変異種達だ。


「ゲイ! こいつらが相手してる間に退くぞ!」

「は? ちょっと待ちなさいよ! ボークが殺られたのよ! それなのに」

「落ち着け! 悔しいのは俺も一緒だ! だが、このままここで戦っていてもジリ貧になる。だから、これは勝つための撤退だ!」

 

 フードの奥から真剣な眼差しでゲイをみやるグリーン。

 そしてその意図を汲み、ゲイはグリーンと共に踵を返し走りだした。

 グレイトゴブリンにはグリーンの創りだした弓兵の矢が大量に降り注いでいる。


「おいおい尻尾を巻いて逃げるのかよ! だけどなぁ、この程度の技を仕掛けたぐらいで本気で逃げられると思ってるのかよ! 追うぞ! お前たち!」


 嬉々とした顔で、まるで兎を追い詰める獅子のごとく、冒険者ふたりを追いかける男。

 勿論、大量のグレイトゴブリンも一緒で彼はその最後尾に位置する巨体の肩に乗っていた。

 しかも矢に殺られたゴブリンが次々とグレイトゴブリンに変化し、二十体を超えた変異種達は、軽く根の弓部隊を捻り潰して行く。


 そして道無き道を潰走するふたり目掛け、障害となる草木を物ともせず、へし折り踏み潰しながら突き進んでいく。 

 まるで何万もの騎馬兵が突撃を掛けてきたかのごとく、大地が激しく振動した。二〇体を超えるグレイトゴブリンの行進は、それほどまでに凄まじい。


「いたぞ! 追い詰めろ! ぶち殺せ!」


 密集された草木を縫うように駆けるふたりと、そんなものは気にもとめず蹂躙しながら突き進む化物とでは、当然移動速度にかなりの違いがある。 ましてや追いかけられている方は、追手を気にしながら逃げる必要があり、しかし魔物使いの率いる部隊は、その圧倒的な力で突き進めばいい。

 

 その差は歴然だった――


「さぁ、もうすぐ、終わりだ!」


 そして、グレイトゴブリンの肩に乗った男が醜悪な笑みを浮かべ叫んだその時。


「あぁ、お前たちがな」


 足を止め、振り返り、かと思えば下草が突如鋭い刃と化し進撃中のグレイトゴブリンの足を貫いた。

 グリーンの設置型魔法グラスニードルが発動したのである。


 だが、この程度はグレイトゴブリンへのダメージには繋がらない。

 ただ、奴らの進軍を一時的にでも止めるには役に立った。


 魔物達の動きが一瞬滞ったその隙に、グリーンはどこかから伸びていた一本のロープを隠し持っていたナイフで切り裂く。

 ブォン! という風切音と共に魔物たちの左右から振り子のように丸太が迫った。

 その先は槍のように尖っている。グリーンのスキル、【丸太トラップ】が発動したのである。


 グリーンは用心深い男である。だからAランクの特級にもなれたといえるだろう。

 そして今回の変異種討伐の為、事前に罠は各所に仕掛けられていた。

 ふたりはその罠に魔物たちを誘い込んだのである。


「……これで、決まったか?」

 

 体中に丸太の突き刺さるグレイトゴブリンを眺めながら、グリーンが言う。

 だが、ゲイの表情は固かった。


「……全部はやっぱり無理だったみたいねん」


 そしてゲイが呟くように言うと、前の三体は崩れ落ち、そのまま動かなくなったが、後ろにいるあの男は、真剣な目でふたりを見下ろしていた。

 勿論他のグレイトゴブリンもダメージの多寡はあるが、まだ十分動くことは可能なようである。


「ふ~ん、少しは見なおしたよ。雑魚にしてはやるようだね。でも、それでもこの僕には全然及ばないけど」

 

 肩の上にのる魔物使いは、やはりふたりを見下す姿勢を変えようとしない。


「……ふん、小さいくせに妙に傲慢な奴だ」

「あん? 雑魚のくせに人のこと小さいとか言ってんじゃねぇぞ!」


 どうやら背のことに触れられると腹が立つようだ。


「……ゲイ、ここは俺が食い止める。だからお前はギルドに戻ってこの事を報告しろ。もう判ってると思うが、変異種が頻繁に発生してる原因はこの男だ」

 

 グリーンが確信したように告げる。

 確かにこの魔物使い、捕らえた魔物を変異種に変える力を持っているようだ。

 

「ちょっと待ってよね……それは寧ろ逆でしょ? 食い止めるなら盾役のあたしよん。それにランクは貴方のほうが上じゃない」

「……ランクはな。だが、俺も本当はとっくに気づいているさ、すでに実力はお前の方が上だってな。だから――」


 グリーンはそこでゲイに何かを呟き、そして――疾駆する。


「ゲイ! お前は逃げろ!」


「へぇ、捨て身の覚悟ってやつ? ははっ、いかにも雑魚らしい考え方だね。でも、そういうのを蹂躙するのが堪らないんだよね!」


 グレイトゴブリンに向け特攻するグリーン。

 だが、そんな彼の身を一体のグレイトゴブリンが投げつけた丸太が貫いた。

 彼が使用したトラップを逆に利用したのである。


「ギャハハハハハハっ! 馬鹿だコイツ! 自分の使った技で反撃されてやんの! 本当情けない、こんな手に引っかかるなんて哀れだね!」

「お前がな――」


 その声は、魔物の肩に乗った男の頭上から聞こえてきた。

 そしてよく見ると、丸太の貫かれたグリーンは、ただの木偶人形にすり替わっていた。


「なるほど、これも魔法で仕込んでおいたってわけか」

「そういうことさ、くたばれ!」


 頭上から敵の頭を狙う。 

 グリーンは囮として、第八門であるウッドドールの魔法を使い、更に右手はウッドランスの魔法で木の槍と化していた。

 

 相手が魔物使いであれば、魔物を従えている本人を殺してしまえば統率が取れなくなる。

 それに、変異種を生み出す魔物使いなど聞いたことのないグリーンではあるが、それでもこの男が事の元凶である事は確か。

 この男さえ殺せば、事件は解決する。


 だから特級冒険者として、そしてAランクのプライドを以って、確実に仕留めようと振るった一撃であったのだが――


「はい、ざ~んねん」

「グフッ――」


 外套の下に隠し持っていた小剣の刃が、グリーンの心の臓を貫いた。

 男がグリーンの一撃を避け、カウンターで反撃したのである。


「ギャハッ! どうせお前、魔物使いはステータスが低いとか思ってたんだろう? ば~か、俺は捕獲した魔物の分ステータスにも加算されていくんだよ、て、もうくたばったのか? ツマンネ」


 事切れたグリーンの死体を、ゴミでも捨てるように放り投げる。

 そして残されたゲイに視線を向けつつ、殺れ、と告げると肩を借りているグレイトゴブリンが、生き残っているゴブリン二体を纏めて掴みあげ、腕をしならせ投げつける。


 沈黙したまま動こうとしないゲイの横を凄まじい勢いでゴブリンが通り過ぎ、地面に着弾し絶命した。


 そして――二体のゴブリンは変異種として復活する。


「さて、さっき逃げる算段を練ってたみたいだけど、これで退路は断たれたな。折角仲間が命をかけたというのに無駄――」

「舐めてんじゃないわよ」


 顔を上げ、ゲイが睨めつけ言う。

 

「貴方、このあたしの前でいい男ふたりも酷い目に合わせて――」


 ゲイの後ろから二体のグレイトゴブリンが迫った。

 途中で引き抜いた巨木を振り上げ、ゲイを叩き潰そうと試みるが。


「タダで済むと思っていないでしょうねーーーーーー!」

 

 しかしその瞬間、ゲイの怒気が爆発し、ただでさえ逞しい筋肉が膨張し、腰を唸らせ手にしたナガレ式バトルハンマーで二体同時に吹き飛ばした。


「……へぇ、雑魚は雑魚でも少しはマシなのがいたんだな」


 シュウシュウ、とその身から煙が立ち上る。

 体全体が熱を加えた鋼の如き色に染まり、周囲の温度もみるみるうちに上がっていく。


「あんた、あたしの仲間を馬鹿にしすぎよ。よく見てみなさい、前衛の何体かは、すでにいかれてるわよ」


 指を突き付け忠告するように述べるゲイ。

 すると、前にいたグレイトゴブリンの数体が、勝手にバランスを崩し傾倒した。


「あんたが馬鹿にしたボークの毒が回ってきたようね。あたしの仲間はただでは殺られたりしないのよ」


「……ふ~ん、でもそれで? この程度、まだ動けるペットの方が多いぜ? それとも後ろも前も倒したから、予定通り尻尾を巻いて逃げるか?」


「逃げるなんて選択肢既にないわん。あるのはただ、あんたをぶっ殺す! ただ、それだけよん!」


 ゲイはそう宣言すると、大地を蹴り上げ、体中に巡る闘気を槌の一点に集束させ――


「ビューティフル・ストーン・フラワー・デンジャラスっ!」


 落下と同時に槌を振り、叩きつけると同時に岩の花が咲き乱れた。

 以前ナガレに使ってみせた時より、更に大きく、そして鋭い花々がグレイトゴブリンの体中を貫いていく。


「……ふぅ、これであんたの乗ってるそれ以外、全員片付いたみたいね」


 周囲には絶命した変異種と、四肢が千切れバラバラになったゴブリンの骸が転がっている。

 それらを認め、ゲイは徐ろに立ち上がり、肩にナガレ式バトルハンマーを乗せ、そして魔物使いの男を睨みつけた。

 その瞳には殺意。仲間を死に追いやったこの男は絶対に許して置けないと、高ぶった感情が全身に漲っていた。


「ふ~ん、確かにゴブリンもバラバラだね。だけど、もしかしてそれで復活しないと思ってる?」


 しかし、男が問いかけるように口にした直後。

 ゲイの手でバラバラにされたゴブリンの骸が集まり、再び変異種として復活しゲイの前に立ちふさがった。


「残念だったね~~~~しかも今ので大分疲れたんじゃない? 色々とスキルを重ね掛けしたみたいだもんねぇ。それでこの数は流石にもう無理だろうさ」


「……だからあんたはあたしを舐め過ぎなのよ。言っておくけど、今のであたしのレベルもかなり上がったわ。それにあんた、変異種になった魔物は死んでも復活できないみたいだし、残りぐらいあっさり片付けてあげるわよ」


「お~凄い凄い、良く気がついたね。やっぱり君は、中々優秀なようだよ~」


 肩の上からぱちぱちと誂うように拍手するその姿は、やはり腹立たしい。

 ゲイの眼力も強まる一方だが。


「うん、合格だよ。それぐらい強いなら十分利用する価値がある。お前、僕の下僕になれ」


 突如、指をさしながら告げられたその言葉に、ゲイは眉を顰めた。

 

「あんた一体何を――」


 だが、ゲイが言葉を発したのとほの同時に、地面から何かが飛び出し、ゲイの背中に張り付いた。

 な!? と驚愕し、背中に手を回し引き剥がそうとするが上手くいかない。


「ふふっ、無駄さ、それは一度張り付いたらもう離れない。そして君の肉体に侵食していく。光栄に思ってほしいねぇ。この僕でも一匹しか捕らえていないレアな魔物だ――その一匹の魔物で、お前を下僕にしてやろうというんだからさ」


「う、く、くそ! あんたなんかに、あんたなんかにーーーー! う、あぁあああぁああぁあ!」


 ゲイの絶叫が森中に響き渡る。

 しかしそれも、しばらくすると止み、その場には魔物使いの前で跪くゲイの姿。


「ゲイだったな? 光栄に思えよ。この僕の計画に加えさせてやるんだから」


「……はい、ご主人様――」


 こうしてゲイを手駒に加えた男は、高笑いを決め込みながら、残った魔物も引き連れて森を後にしたのだった――

暫く更新時間がまちまちになるかもしれません。

ナガレは次から登場!



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