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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第二章 ナガレ冒険者になる編
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第七話 レベル0の冒険者

「冒険者同士のいざこざや、ちょっとした揉め事ぐらいではギルドは関与せず、しかし殺しはご法度。他にも禁止事項として依頼主への裏切り行為、依頼主の情報を勝手に漏らすなどは厳禁。また犯罪行為も当然禁止で、これらを破った場合はギルドランクの降格や場合によっては資格剥奪、犯罪行為などは指名手配を受け他の冒険者に命を狙われる場合もある、とこんなところでしょうか」


「……え、えぇそうね、大体それであってるわね。凄いわねどこかで勉強したのかしら?」


「事前にピーチから聞いていたこともありましたので」


 ナガレが応答すると、え? 私!? とピーチが目を丸くさせた。

 それにニコリとナガレが微笑み返し。


「ですので説明は大丈夫ですよ」


 マリーンにも薄く笑みを残しながら応えた。


「まぁ、確かにそれだけ知ってれば今更私の説明もいらないでしょうね。じゃあ、はい、これが貴方のタグ。今ナガレ君が言っていたように最初はみんなDランクからのスタートだから、タグにもDと刻印がされているわ」


 ありがとうございます、とナガレはタグを受け取った。

 タグには小さな穴が穿たれ、そこに鎖が掛けられている。


「とりあえず目算で合わせておいたけど、細かい調整は自分でやってね」


 マリーンにそういわれ、試しにナガレはそれを首に掛けてみたがサイズは問題なかった。

 ちなみにピーチはこれを腕に嵌めてるようだ。


「でも、あれだけの働きをしてDランクからは低くない? そりゃランク上げるの大変なのは判るけどね、私でさえC2級だし」


「いや、貴方そこまで威張れる程じゃないじゃない……大体魔法がメインなのにソロでばかり活動するから大きな仕事が出来ないのよ」


「う、うるさいわね! 一言おおいのよマリーンは!」


 腕を振り上げて抗議するピーチ。だが元が可愛らしいせいかあまり迫力がない。


「とにかく、ナガレ君がやったといっても冒険者になる前の話だからね。残念ながらそれだと評価にプラスされないのよ。勿論報酬もそうで、ナガレ君には討伐した報酬は入らない」


 はぁ? とピーチが目を丸め。


「何よそれ! じゃあこれだけやってもタダ働きって事!」


「落ち着きなさい、貴方がいるじゃないの。今回の分は一応は貴方の功績として、討伐報酬も全て一旦ピーチに支払われるわ。ナガレ君も申し訳ないけど……」


「いえいえ、結構ですよ。私もそれぐらいは理解してますし、ピーチの助けがなければここまで上手くいかなかったでしょうから」


 実際ナガレは報酬の件に関してはとっくに察していた。

 だが、そうなると異世界に来てピーチと出会ったのは僥倖だったとも言えるだろう。

 それがなければ、ゴブリンやグレイトゴブリンを倒していたとしても報酬は手に入らなかったからだ。

 

 勿論街に入るにも色々怪しまれていた可能性も高いため、ピーチの助けがなければの下りは決して間違いではない。


「そ、そう? ま、まぁそうよね。ほら私の魔法もかなり役に立ったしね」


 そういって胸を張るピーチ。中々調子がいい事である。


「……まぁ一応そういう事にして置いてあげるわ。まぁ報酬の方は後でナガレ君としっかり分け合うのね。あとこの件でピーチも昇格になると思うけど――」

「本当!?」


 マリーンの発した最後の一言に反応し、ピーチが身を乗り出した。よっぽど昇格が嬉しかったのだろう。


「落ち着いて。これだけの功績なんだしそりゃ上がるわよ。ただ、ナガレ君の事も考慮する必要あるから、流石に全てがピーチの力って話にはならないけど、それでもC1級になるのは確実かしら」


 それを聞いたピーチは両手を握りしめてるんるん気分だ。

 やったわナガレ~、などと音符が混じりそうな声で嬉しそうに言ってくる。

 それが微笑ましいのか思わずナガレも笑みを返した。


 すると――


「おらぁ! このゴッフォ様がとんでもない奴らを退治してきてやったぜ! 刮目してよく見やがれお前ら! このB級冒険者ゴッフォ御一行様が、なんと! 西の森で大量発生したゴブリン三〇〇体と変異種のグレイトゴブリンを駆除してやったんだからな!」


 ナガレ達のすぐとなりで他の冒険者がそんな事を口走り始めたのである。


 え? とマリーンとピーチがその声の主に目を向けた。 

 その正面では男性の受付が戸惑った様子を見せている。


「ちょ! ゴッフォさん。あまりおおっぴらには……」

「あん? なんだ別にいいじゃねぇか! 冒険者としてこんな誇れることはないわけだしな! 何せ俺のおかげで、この街は救われたようなもんだ!」


 ガッハッハ! と大笑いを決め込むゴッフォ。そして助けを乞うような目をマリーンに向ける男性受付。


 どうやら彼も、先にナガレ達がそれと同じ報告をしていた事を知っているようだ。

 その様子にマリーンも額に手をやり、はぁ~と嘆息をするが。


「おいおいマジかよ……」

「あのゴッフォがグレイトゴブリンを? 確かあいつB5級に上がったばかりだったよな?」

「それだってどうして上がったのかイマイチ謎だってのに」

「ゴッフォ以外の仲間が凄いとか?」

「いや、あいつらだってよくゴッフォとつるんでやがるが似たようなもんだぜ」

「でもグレイトゴブリンとゴブリン三〇〇だぜ? 本当だとしたら確かに街はあいつのおかげで……」


 そして、それを聞いていた冒険者達が口々に話し始め、ギルドはゴッフォの話題で持ちきりになった。

 

「もうここまできたらこっちも黙ってても仕方ないわね。事が事だけにあまり露見して欲しくない内容だったけど……」

 

 マリーンは数歩ゴッフォの相手している男性受付けに近寄り、口を開く。

 すると、ゴッフォという冒険者の表情が緩んだ。

 

 この男がっちりとした体格でかなり顔も厳つい。

 顔相に沢山の古傷を宿し、その為か笑った顔も悪人のソレだ。

 すくなくとも善人の面構えではない。


「おっとマリーンちゃん。俺の話もしかして聞いていたかい? どうだ? 凄いだろ? グレイトゴブリンとゴブリン三〇〇だぜ? 惚れなおしちまったか?」


「……別に最初からあなたに惚れてなんていないわよ」


「またまた、知ってるんだぜ。お前の熱い視線に気づかないほど俺は馬鹿じゃねぇ。きっと俺との事を妄想して毎晩ベッドを濡らしちまってるんだろ? まぁ何で濡らしてるかは聞かないでおくがな! がっはっは!」

 

 最低――と横で聞いていたピーチが呟いた。 

 顔もそうだが言動も見た目にあった下品なものだ。


「もう! いい加減にしてよね! 第一あんた、さっきからグレイトゴブリンとゴブリンの大群をやったとか息巻いてるけど、それと同じ報告を既に私が受けてるんだから!」


 ゴッフォの身勝手な口ぶりで、流石にマリーンも我慢の限界が来たのか、思わずギルド内に轟くほどの声音で叫びあげてしまう。

 これで最早隠しておくどころの話では無くなってしまった。


「……は、はぁ? おいおいふざけんなよ。そんな奴がいるわきゃねぇだろ。変異種が現れるなんて、ま、まれなんだからよ」


 その時のゴッフォの口調の乱れをナガレは見逃さない。

 だがしかし、取り敢えずは口を挟むことなく静観を決め込む。


「おいおいどういう事だ?」

「つまりグレイトゴブリンを退治したのが他にもいるって事か?」

「バカ言え、ギルドの掲示板にもまだ貼りだされていなかった話だぞ。おまけに変異種なんて被ることがそうあるかよ」

「てことは、どっちかが嘘を付いているって事か?」

「てか、誰なんだその先に報告に来たってのは?」


「そ、そうだ! 誰だそんなふざけた嘘ぶっこいてるのは! この俺を差し置いてふてぇ野郎だ!」

「全くだぜ! おかげで俺達のリーダーが嘘つき呼ばわりじゃねぇか!」

「全くとんでもねぇ野郎だ!」


 他の冒険者の声に合わせるようにゴッフォが怒声を上げ、その仲間のふたりも一緒になってわめき始める。

 類は友を呼ぶとは言うが、彼の仲間というふたりもモヒカンであったり、蜥蜴のような面構えだったりと見た目だけなら盗賊だと言われても違和感がない。


「あんた達こそいい加減にしなさいよ! いっておくけど西の森のグレイトゴブリンとゴブリンの大群は、この私(・・・)とここにいるナガレがやっつけたんだからね!」


 いよいよ耐え切れなくなったのか、遂にピーチが自ら名告りを上げた。

 ちゃっかり自分も倒したんだとアピールするあたり中々したたかでもある。


 だが……


「……は? あいつらがだって?」

「あいつピーチだろ? こないだC2級になったばかりの……」

「あぁ、無謀なソロ魔術師ピンチなピーチだぜ」

「で、その相棒が……」


「ぷっ、ぎゃははははっははは! おいおいマジかよ! ありえねぇ! そいつ、よりによってレベル0のルーキーじゃねぇか!」

「全くだ! 嘘をつくならもっとマシな嘘をつけっての!」

 

 一瞬にしてギルド内が冷ややかな空気に包まれる。

 勿論、グレイトゴブリンを倒したのも、ゴブリン三〇〇体を殲滅したのもナガレの功績なのだが、レベル0という響きが独り歩きし、どうにも旗色が悪い状況だ。


「あん? なんだよレベル0って?」

「おう! 聞いてくれよゴッフォの兄貴。俺はさっきまでそいつらの話しを聞いていたんだがな、あの野郎今日登録しに来たばかりのルーキーでレベル判定で史上最低のレベル0だったんすよ!」


 ほう、とゴッフォの口元が歪む。

 そして、鬼の首でも取ったかのような様相をその顔に貼り付けた――


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