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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

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閑話其の十四 サトルVS勝人

閑話其の一から続いている話です。

主人公のナガレは登場しません。

 魔獣ドヴンの肉は解凍後に美味しく頂くことが出来た。

 久しぶりに脂の乗った肉を堪能することが出来て、サトルはそれを腹一杯に食す。 

 魔物は放っておくと消える上、食べてみても正直不味くて食えたものではないが魔獣は違う。 

 心臓の代わりに魔核で生命を維持する魔物と異なり、魔獣は他の生物と同じように心臓を備えそれで動いているからだ。

 だからこそ魔獣の肉はこうして食材としても役立つ。

 

 更に魔獣はその殆どの部位が貴重な素材として取引される。

 皮や爪、牙は装備品や装飾品などの素材に、血や骨は薬に、肉や内臓は食材として、無駄な部位は一切ない。心臓に関して言えば、その生命力の高さから長寿を得られる食材としても重宝されている。


 魔獣一匹狩るだけで一財産築く事ができ、その冒険者の生活は一変するとさえ言われているほどだ。

 とは言え、別にサトルはこの世界の金に興味はない。

 それを換金するためにわざわざ街に戻る気もない。

 

 ただ、このまま放置してハイエナのような連中に持っていかれるのは癪に障るので、余った肉や素材は悪魔の書第五十二位のパンドラを召喚し、それに放り込んだ。


 これは見た目が宝箱な悪魔で、無限収納という特殊能力を有している。

 何もない状態だと戦闘能力は皆無だが、このスキルだけで相当役立つ存在となっている。

 それに、このパンドラは入れるもの次第では面白い使い方も出来たりする。


 サトルは悪魔の書をかなり使いこなせるまでに成長していた。

 戦闘面だけではなく、旅の途中でも例えばこの魔獣の肉の解凍と調理には第三十三位のレオナードの魔法を活用している。

 尤も悪魔の書からは、悪魔は召使いの為にいるわけではないのだぞ、などと愚痴をこぼされたりもしたが。


「キキィ――」


 そして夕食も無事食べ終えた頃、偵察に向かわせていたガーゴイルが戻ってきた。

 魔獣がいるような森の中だ、他にも魔物などが潜んでる可能性は当然ある。

 その為、半径一〇キロメートル圏内を何匹かのガーゴイルを使役し索敵させていた形だ。

 このガーゴイルにはレオナードによる擬態魔法を掛けているので、相手にそう見つかることもない。

 

 サトルはガーゴイルの報告に意識を集中させる。

 この魔物は人の言葉は話せないが、契約している主とであれば念のようなもので意思疎通が可能である。

 人型の悪魔にはこういったタイプも多い。


『北北東先、魔物多数警戒中、黒髪黒目男一人、獣人雌五人』

 

 思わずサトルは蹶然し、ガーゴイルに、本当か! とつい力を込めた念を送る。

 それに対して返ってきた応えは、間違いない、というもの。


「くくっ、そうか……もしかしたらという可能性を考えてもいたが、本当にいたとはな――」


 サトルはこの邂逅に思わず口元が緩んだ。

 黒髪黒目という情報だけでそうだと決めつけるのは些か気が早すぎるでもないが、しかし、この世界で生まれた純粋な人間であれば黒髪黒目という特徴を有すものは存在しないのはサトルもこれまでに耳にした情報で理解している。


 ならば、その情報だけでもサトルの復讐相手と判断するには十分すぎるほどであった。

 ましてや獣人の女を複数連れ歩いてるとなるとなお確率は高くなる。

 黒髪黒目でそんな事をして悦に浸っているのは、サトルのクラスの屑以外考えられないからだ。


「――悪魔の書八十八位デビルフライヤー、第十二位カオスフルアーマー、第十一位アゾットソード」


 サトルは直ぐにでも動き出したい気持ちを抑えて、念のためフル装備で挑む事とする。

 デビルフライヤーは移動能力の向上の為装着した。


 そしてガーゴイルは案内役一匹だけを残して悪魔の書に戻し、レオナードには補佐役としてついてきてもらう事にする。






◇◆◇


 目的の相手はガーゴイルの案内で八キロメートルほど進んだ先にいた。

 どうやら割りと探索範囲ギリギリの場所だったらしい。


 残念ながら案内役のガーゴイルはオーガブロスの手でやられてしまったが、その仇はレオナードの魔法で討っておいた。

 そして邪魔されるのも厄介なので周辺の魔物を一掃した後、木々の間からそいつを覗き見る。


「土鈴、勝人――」


 その顔を認めた瞬間、嘗ての記憶が思い起こされる。


『――こいつ使って奴隷ゲームとかやったら面白そうじゃないっすか?』

『おい奴隷! 奴隷が道具を使って飯を食うんじゃねぇよ! 犬みたいに這いつくばって食え!』

『おい奴隷、俺の靴を舐めろ。あぁん? なんだその反抗的な態度?』

『新しいペンを買ったから奴隷のお前で刺し心地を確かめさせてくれよ。あ、そうだ胸に七つの傷とか付けるの面白そうじゃね?』

『ほら、今日は奴隷の為に美味しいごちそうを用意してやったぞ。近所の野良猫が漁ってた残飯だ。猫の糞いりだぞ? 嬉しいだろ? おら! 奴隷なら逆らわずとっとと食え!』


 勝人のおかげで最悪の奴隷生活はかなりの期間続いた。

 勿論勝人だけでなく、この男のせいでクラス全員から奴隷扱いされ、奴隷の癖に生意気だと罵られ、どこで手に入れたのか焼鏝なんてものを持ち出し、バーナーで炙った後、背中に押し付けられたりもした。

 西島はそれをタトゥー扱いし、連中に付けられた焼き印にも関わらず、校則違反してんじゃねぇ! と陸海空からも容赦無いリンチを受けた。


 サトルは思い出す。あの狂っていた日常を。そしてサトルは改めて思う、この狂った日常を。

 そして誓う、狂った連中への復讐を。


 サトルは、視界に捉えた勝人に向けイビルアイを使いそのステータスを先ず確認する。

 


ステータス

名前:ショウジン ドレイ

年齢:17歳

性別:♂

称号:血の奴隷商人

レベル:52

生命力:586/586

魔力 :227/227

攻撃力:225

防御力:276

敏捷力:286

魔導力:152

魔抗力:148


アビリティ

奴隷商人の知識・拷問の知識・鞭術(名人級)・絶対服従・一心同体

スキル

隷属の血約・奴隷能力上昇・奴隷操作・乱れ鞭・強鞭・縛鞭・ウィップクラッキング


  

 サトルはステータスに表示された名前を見て思わず失笑しそうになるが――


(隷属の血約か、これは厄介だな)


 改めて勝人の能力を見て、ここで出会った形で良かったと思うサトルである。

 それ以外でも、奴隷能力向上には得心がいった部分があった。

 どうやらターゲットの周囲で警戒してウロウロしていた魔物も、勝人の奴隷だったようで、確かに以前相手した同種の魔物よりステータスは上がっていた。


 鞭術に関してはその名の通りで、勝人の装備品には調教の革鞭というのがあり、それを使用しての能力が向上しているのだろう。

 スキルには鞭を使った物も何種かあるようだ。

 ただ、防具に関しては厚革のベスト程度であまり防御力には拘っていないようだ。


「それにしても――こんなところで何をおっ始めているんだかな」


 サトルは呆れたように独りごちながらも、草木を掻き分け、今すぐにでもやりだしそうな馬鹿の見える位置まで飛び出し声を掛ける。


「全くテメェはいい趣味してやがるな」

「――ッ!?」


 今まさに行為に入ろうとした直前、サトルの声を耳にし弾けたように勝人は奴隷から離れ立ち上がりズボンを上げた。

 

 ザマァ見ろ、とサトルは心のなかで悪態をつく。

 復讐する相手が快楽に溺れようとしているところをわざわざ見逃すほどサトルは甘くはない。

 そんなものは金曜日に現れるホッケーマスクを被った男にでも任せておけばいいのである。


「だ、誰だテメェは!」

 

 勝人は体勢を整えるとサトルに向けて誰何してくる。

 それに肩を窄めつつ。


「なんだよ。俺を忘れるなんて――薄情な野郎だぜ」


 言外に怨嗟を滲ませ、サトルは勝人に今度は更に声音を上げつつ告げる。

 すると獲物の目が大きく見開き。


「ま、まさかその声、お前? サトルなのか?」


 やっと気がついた勝人に、やれやれと頭を振るサトル。

 しかし、よく考えて見れば悪魔の装備を纏っている今のサトルは、傍から見れば全身を不気味な骨の鎧に包まれた怪しい人物としか思えないことだろう。 

 何せ顔だってフルフェイスで覆われているような状態だ。


「そうだよ。見ての通り地獄の淵からテメェらに復讐するため蘇ってきたんだよ」


 なので、サトルは今の格好に似合う形でそれっぽいセリフを吐く。 

 すると、狼狽した様子で、クッ! と勝人が歯噛みした。


「ふ、ふん、わざわざ死刑になってまでご苦労なこった。だけどな! だったらこの俺が地獄に送り返してやるよ!」


 サトルはまさか信じるとは思っていなかったが、表情を見るに本当にサトルが蘇って来たと思っているようだ。


 こんな男に、とっくに死刑にされたものだと勝手に思われていたのだと考えるとそれはそれで腹が立つ。


「おい! 何をボサッとしてやがる! とっとと出てこい!」


 そして勝人は周囲に響くぐらいに怒声を上げて、魔物たちを呼ぼうとするが――当然姿を見せるものはいない。

 その場に残るのは女の獣人五人と数体の魔物だけだ。


「な、なんでこねぇ!」

「馬鹿かお前は。俺がここに来てる時点で全滅してるに決まってるだろ。余すことなく片付けたんだよ、俺が」


「な!? 馬鹿な! 魔物の奴隷は二〇匹はいたんだぞ!」

「あんな雑魚何匹いても一緒だろ」


 確かに勝人の能力で通常よりはパワーアップしていた魔物だが、それでもサトルからすれば相当格下にあたる相手である。

 全て片付けるなど造作も無いことだ。


「あ、ぐ! だがな! ここに残したのはその中でも特に腕っ節の強い魔物だ! さぁ殺れ! テメェら!」


 勝人が声を荒げ残った魔物に命じる。

 すると一斉にサトル目掛け魔物達が襲いかかろうとしてくるが――その瞬間、上空から疾雷が降り注ぎ、次々と魔物たちを貫いていく。

 後に残ったのは黒焦げになった哀れな骸だけであった。


「ごくろうさん」

 

 サトルは魔法を唱え終え、横へ並んだレオナードを労った。

 やはり雑魚を一掃するには肉弾戦より魔法の方が便が良い。


「な、なんだそいつは、一体――」


 レオナードに向けて突き出した勝人の人差し指がプルプルと震えている。

 明らかな動揺が見て取れた。

 分かりやすいやつだ、と鎧の中から冷ややかな目を向ける。


「俺の復讐を手助けしてくれる仲間だ。どうやら仲間の質はお前より俺のほうが優れていたみたいだな」


 だが、サトルがそう告げると、どういうわけか勝人が口角をにやりと吊り上げ。


「だったらその仲間! 俺が貰うぜ!」


 言って小さな瓶をレオナードに向けて投げつけた。 

 そして放物線を描いたそれがレオナードの頭上に達したとこで矢弾が瓶を穿つ。

 奴隷の獣人の一人が矢を射ったのだ。

 そして赤い液体がレオナードへと降りかかった。


「どうだ! その瓶には俺の血液を水で溶かしたものが入っている! 俺の血が触れたら最後、この俺様の一生奴隷だ!」


 勝人が得意気に声を張り上げる。そして――

 

「さぁ! お前! 今すぐ隣のサトルを殺せ! やってしまえ!」


 勝ち誇ったように雷声を上げる勝人。

 その表情がまた腹ただしいサトルであるが。


「…………」


 レオナードは動かない。

 すっかり無視を決め込んでいる。

 

「――ッ!? おいどうした! 俺の命令を聞け!」


『全く愚かな人間であるな。悪魔にそのような小細工通用するわけがなかろうに』

 

 悪魔の書が嘲るように言い、サトルも、くくっ、と鎧の中から忍び笑いを響かせた。


「お前は頭が悪いな。レオナードは既に俺へ服従を誓ってるのと一緒だ。それに、そもそもこの世界にいきる生物とも全く異なる存在でもある。お前のスキルなんざ通じるはずがないんだよ」


 サトルが語り、愕然となる勝人。

 強力な手駒が手に入るとでも思っていたのだろうが、事前に勝人の能力を看破していたサトルが最も脅威となるであろう能力を考慮していないわけがない。

 

 尤も、悪魔には通用しないという情報は事前に悪魔の書より教えてもらっていた事ではあったが。


「残念だったな。どうせ鎧に包まれた俺は隷属化は無理と諦め、レオナードを狙ったんだろうが――」

 

 勝人の隷属の血約は相手の肉体に直接血を付着させる必要がある。

 つまり、体全体を覆うフルプレートを纏っているような相手には通用しないのである。

 だからこそ、この男とは今会っておいてよかったと思えたのである。

 カオスフルアーマーを使役できる前に出会っていたなら、積極的な戦い方は出来なかった上、先手を取られるような事があれば、この男の奴隷に成り下がっていたかもしれないのだ。

 

 そんな事想像するだけで虫唾が走る思いのサトルではあるが――どんな能力にだって弱点はある。

 勝人のスキルもそうであり、サトルとて悪魔の力がなければステータス的にはあまりに脆い。

 弱点のない完璧な者などいるはずがないのだ。

 いくら転生者や地球から召喚された者が現地人より優れた力を持っているとはいえ、それは変わらない。

 いつか物語でみた、武器も持たず素手で異世界を渡り歩きどんな相手も討ち倒すような主人公など幻想でしかない。


「全くテメェは浅はかにも程があるぜ」


「……ふ、ふん! 舐めるなよ! 俺にはまだ切り札があるんだからな!」


 そんな事を思いつつも、相手を見下すように言いのけたサトルだが……。

 しかし勝人は再び眼力を強め、何かを企んでいるようであった――

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