閑話其の十二 サトルVS魔獣
ここから閑話が少し続きます。
閑話其の一から続くサトル側のお話です。
本編の主人公であるナガレは登場しません。
復讐系の話が続きますので本編より内容は重めです。
暴力的描写も過多になってますので苦手な方はご注意下さい。
ステータス
名前:ドヴン
年齢:??歳
性別:♀
称号:炎虎の魔獣
レベル:128
生命力:1580/1580
魔力 :865/865
攻撃力:1520
防御力:1450
敏捷力:1870
魔導力:1600
魔抗力:1510
アビリティ
焔吸収(効果・大)・火焔強化(効果・大)
スキル
焔変化・焔操作・熱咆哮・焔の爪牙
「魔獣ドヴンか――」
サトルは森で発見したその獲物をみやりながら、一言そう呟いた。
敵の正体はイビルアイによって掴んでいる。
それは炎を体中に纏った大型の虎であった。
サトルは地球の動物園でベンガルトラを見たことがあるが、それよりも一回り程大きい。
一応相手はまだサトルには気がついていないようで、無視する事も可能だが――サトルは改めて現在の自分のステータスを確認した。
ステータス
名前:サトル マクア
年齢:17歳
性別:♂
称号:復讐を誓いしもの
レベル:112
生命力:225/225
魔力 :3656/3656
攻撃力:82
防御力:65
敏捷力:48
魔導力:2520
魔抗力:2860
アビリティ
悪魔の書の恩恵・魔力増大
スキル
悪魔の書収納・悪魔の書現出・悪魔召喚・連続召喚・悪魔使役
(改めて見ると凄い極端だな)
思わず自虐的な笑みを零す。
特に装甲がこのレベルにしてはあまりに紙すぎる。
攻撃力も決して褒められたものではないだろう。
とは言え――西島からの情報を頼りに、いよいよ本格的な復讐に向けて動き出したサトルではあったが、それでも慢心せず、道中出来るだけ魔物を狩り、レベルアップに勤しんできた。
実際西島を殺した時はまだレベルも二桁であったことを考えると、ここに来るまでにかなり上がっている。
ただ、流石にちょっとした魔物では例え変異種を相手にしても中々レベルは上がりにくくなっていた。
つまり、この状況で魔獣と出会えたのは経験値稼ぎとしてはありがたく、逃げるという選択肢はない。
それに、そろそろまともな食事にもありつきたいものである。
(ただ、単純なレベルなら向こうの方が上か……)
サトルは一考し、先ずは他の悪魔でどの程度の強さか図ってみることにした。
「いでよ悪魔の書第七十二位デスナイト、六十九位メズダーク、六十八位ゴズダーク」
サトルは悪魔の書を開き、一度に三体の悪魔を召喚して見せる。
スキルの連続召喚の恩恵だ。
『中堅の悪魔三体を使役しても全く疲れが見えないであるな。くくっ、随分と力を付けてきたではないか』
「ふんっ、褒めたって何も出ないぞ」
悪魔の書に視線を落とし冷然として返す。
そして藪の中から魔獣ドヴンを観察しつつ、使役した悪魔に目の前の相手を狩るように命じた。
三体ともレベル80程度の魔物までは問題なく狩れていた事まで確認済みだが、この魔獣相手だとどうか? とじっくりと観察するが。
「ゴルゥウウゥウウアアアァア!」
藪から飛び出した悪魔三体を認め、直ぐ様警戒態勢に入り、ドヴンが咆哮する。
それだけで魔獣の周囲に生えていた下草がドロドロに熔解してしまった。
スキル熱咆哮が発動したのだろう。
おかげで周囲の大気も熱され温度が一気に上昇する。
思わずサトルは額の汗を拭った。
だが、召喚した悪魔はこの程度で怯むことはない。
咆哮にも構うことなく地面を踏抜き、先ずは馬の頭を持つメズダークと牛の頭を持つゴズダークが左右から挟み込むようにしてそれぞれの得物を振るった。
メズダークは巨大な斧、ゴズダークは厳つい棘付きの金棒を手にしている。
この二体の膂力は凄まじく、巨大な岩石でも軽く粉砕する。
周囲の温まった空気を吹き飛ばす程の勢いで、左右からの攻撃がドヴンを捉えた――かに思えたが、その瞬間魔獣の身が光焔と化しその中を二体の武器がすり抜けた。
いや、それどころかあまりの熱量に、焔に包まれた得物がドロドロに溶け、液状化したそれが地面をジュウ、ジュウと焦がす。
メズダークとゴズダークの表情に激震が走った。
しかし、その瞬間には既に二体の悪魔の姿はなかった。
光焔のドヴンに飲み込まれ同じようにドロドロに熔解してしまったからである。
そして二体の最期を認めたドヴンは焔の状態から元の姿に戻るが、そこへデスナイトの放った斬撃波が迫る。
捉えたか? とサトルもこれで決まりと心のなかで確信した瞬間、再び魔獣が姿を変え、灼爍する焔と化した虎がデスナイトに跳びかかった。
デスナイトはそれを直に剣で斬りつけようとするが、刃は触れた瞬間には溶け始め、そしてドヴンの爪がデスナイトの鎧ごとその命を絶った。
「……まさかあの三体がここまであっさりやられるなんてな――」
一部始終を眺めていたサトルが、軽く息を吐き出しながらそう呟く。
だが、想定外という程ではない。
『ふむ、中々手強いではないか。どうだ? 仲間の悪魔が死んで悲しいか?』
「馬鹿なことを。第一悪魔は死ぬと言っても一時的で、時間を置けばまた呼び出すことが出来るだろう」
そう、一見ヤラれてしまったかのように見えても、悪魔はサトルの魔力が残っている限り呼び出すことは可能である。
同種類を何体も呼び出せる悪魔であればすぐにでも、一度に一体しか呼べないようなタイプであっても時間を置くことで使役出来る。
ただ、強力な悪魔ほど再召喚に掛かる時間は長くなるので注意は必要だが。
「でも、今ので大体のところは判ったな。焔変化は攻撃が効かなくて厄介だが……まぁなんとかなるか」
サトルは一人納得しつつ、再び悪魔の書に念を込めた。
「いでよ悪魔の書第十二位カオスフルアーマー、第十一位アゾットソード――」
サトルが召喚の言葉を唱えると、悪魔の書が捲れ、かと思えばサトルの身が黒い光に包まれ、そしてその身に髑髏を模したような全身鎧と刀身が紫電する長大な剣が右手に宿る。
『ほう、中々勇ましくなったではないか』
「茶化すなよ」
そう言いつつも、今度はサトル自身が、魔獣ドヴンの前に姿を晒した。
今召喚した悪魔は、以前召喚したデビルフライヤーのように、サトル自身が身に付けるタイプの悪魔である。
特質すべきはその効果で、悪魔の中で唯一サトルのステータスに影響を及ぼし、鎧は生命力を、剣は攻撃力をそれぞれ一〇倍に引き上げる。
「さて、俺自身どこまで戦えるかな――」
目の前の虎を見据えながら独りごちり、そしてサトルが疾駆した。
獲物は今度は咆哮はせず、サトルの動向を探るように身構えている。
そして近づくと同時にサトルが相手に斬りかかるが――
『なんともへっぴり腰であるな。見ていて切なくなるぞ』
「う、うるせぇ!」
確かに装備の効果で攻撃力などステータスは上昇するが、だからといって剣の腕前が上がるわけでもなく、悪魔の書も思わず呆れたように言い放つ。
そして、そんな攻撃が魔獣に通じるわけもなく、あっさりと躱され焔の爪による反撃を受けてしまう。が――
「ま、でもやはり全属性に対して耐性持ちの鎧は違うな」
にやりと口角を吊り上げ得意気に言う。
攻撃面では全く褒められたものではないが、鎧の効果はやはり絶大であった。
ドヴンも、グルゥ、と唸り警戒心を露わにするが――しかし今度は件の三体を屠った焔変化を発動しサトルに覆い被さった。
「ふむ、全然熱くない。これは見事」
「――!?」
しかし、全く動じていないサトルに驚愕し、ドヴンは一旦距離を離し、低く長い唸り声を上げた。
『何をしてるかと思えば、鎧の検証とはのう。呑気な物だ』
「検証は大事だろ? いざとなって使い物にならなかったら困る。これも最近やっと使えるようになったばかりだしな」
悪魔の書とそんなやり取りをしていると、今度は距離が離れた状態から焔の球や槍、更に爪状の物まで数多の焔による攻撃が降り注いでくる。
そして、周囲に広がる爆轟。サトルの周りは魔獣の放った焔の余波で木々もすっかり消し炭に変わり果てていた。
「全く自然は大事にしないといけないぜ?」
しかしそんな中、平然と言いのけるサトル。
その姿に魔獣はすっかり畏怖してしまっている。
「そろそろ終わらすかな」
言ってサトルは悪魔の書を再び現出させる。
スキルの効果で悪魔の書は自由にしまったり取り出したりが出来るようになったのである。
尤も、しまっていても悪魔の書の声はサトルに届き続けるのだが。
「いでよ悪魔の書第一〇位フルーレティ――」
そして、新たな召喚。実はこれはサトルも初めて召喚する悪魔なわけだが。
「これは、見事だなぁ」
そう口にしつつ繁々と眺める。
その悪魔は美しい氷の彫刻の姿をしていた。
そして見た目通り、この悪魔は氷を操り相手を討つ。
「ま、焔にはやっぱり氷だよね」
サトルが呟くように述べると、氷の悪魔が両手を広げ、かと思えばドヴンを中心に周囲を凍りづけにしてしまった。
「ん、ご苦労さん」
サトルはフルーレティに労いの言葉を掛け、そして氷漬けになったところまで歩み寄りその手に持った剣を振り下ろした。
するとガラスが砕けたかのような音と共に全てが粉々に砕け散った。
氷漬けの状態で魔獣ドヴンの身体がその場に散乱する。
「……あ、やべ、こんなになってまだ食えるかな――」
その様相に、あちゃ~と天を仰ぎつつ、サトルはそんな事を心配する。
そして同時に彼のお腹がぐ~となり、ついでにレベルも上がっていた――
閑話はもう少し続きます。




