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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

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第六十七話 エルマールの思い

「おい! お前!」

「え? 僕ですか?」


 スチールが荒々しい声でイベリッコを呼んだ。

 思わずキョトンとした様子で布に覆われた彼が、いかにも不機嫌といった様子のドワーフに反問する。


 すると逞しい腕を胸の前でガッシリと組み、まじまじと相対する彼の姿をみやり、更に口を開いた。


「……いつからだ?」

「え?」

「だから、いつからこの店に出入りしてるんだと聞いてる」


 繰り返される質問に、え~と、と戸惑いながらもイベリッコは素直に、今日が初めてです、と答えた。

 

「ほう、なんだ。今日が初めてなのか」


 顎を上げ、勝ち誇ったように自慢の髭を擦るスチールである。

 しかし傍から見ている分には一体何を競い合っているのかといったところなのだが。


「スチールさんごめんなさい。植物に詳しくてつい話し込んでしまって……あ、今日も火傷のお薬をご所望でしょうか?」

「え? あ、いや、何もあんたが謝る事はないんだよ。ん、そ、そうだそうだ。火傷の薬を買いに来たんだ」


「そうですか。では――」


 言ってエルミールがどうやら相変わらず購入を続けているらしい薬を手に取り、スチールに確認した。


「あぁそうだ。これだこれ。いや、最近そこのあんちゃんのアイディアのおかげもあって出来た新製品が人気で忙しくなってな。すっかり手放せなくなってしまった」

「そうなのですか。スチールさんもナガレさんも凄いですね」


「いえいえ、私はただ頭にある知識から伝えただけです。寧ろそれだけで優れた武器を作り上げるスチールの方が凄いと思いますよ」

「ば、馬鹿、そんなことねぇよ。照れるじゃねぇか」


 少し紅くなりつつもチラリとエルミールの顔を覗き見ている辺り、彼女の反応が気になるようだ。

 しかし、本当にこの男、随分と喋るようになったものである。

 尤もナガレやエルミールの前だからというのもあるのだろうが。


「いや、でも俺はこうみえて鍛冶は得意だからな。鍛冶の事でわからないことがあればなんでも聞いてくれ」

「え? あ、はい」

 

 一瞬目を丸くさせながらも直ぐ様笑顔を見せるエルミールは流石でもあるが。


「いや、植物と鍛冶で張り合ってどうするのよ」

「まぁまぁいいではないですか。男というのは女性の前では格好をつけたくなるものですよ」


 格好つける方向性が間違っている感じは確かにあるが、真剣さは伝わってくるので応援したくなるナガレでもある。


「というかあのドワーフなんなのだ! エルミールにデレデレしおって、妾は不愉快なのじゃ~~!」


 だが、どうやらエルマール的には彼女とスチールが仲良くなるのはあまり芳しくないようで、腕をぶんぶん振り回して不機嫌を露わにしている。

 やはりエルフとドワーフの折り合いの悪さが顕著に出てしまっている形だ。


「ではこちらですね。いつもありがとうございます」

「あ、あぁ、また来るよ」


 そしてスチールは薬を購入した後、エルミールにそう伝え、ナガレとピーチにも、良かったらまたいつでも顔出してくれよ、と言い残し店を出て行った。


「え、エルミール」


 するとスチールが店から出たのを見計らってエルマールが彼女に話しかけるが。


「あ、私の名前を覚えてくれたのですね。ありがとう」


 嬉しそうに頭を撫でるエルミールに、は、はぅ! と頬が緩むエルマール。

 

「そ、そうじゃないのだ! なんでドワーフとあんなに仲良くしてるのじゃ! お主エルフであろう? エルフは、確かドワーフと仲が悪いはずなのじゃ!」


 どうにもスチールへの接し方が気に食わない様子。

 だが、当のエルミールは、え? と一言発した後。


「確かにエルフとドワーフはそういう噂もあるみたいですね。でも私にとっては大事なお客様ですし、それに私はエルフといってもハーフエルフなのでエルフの事は実はそれほど詳しくないのですよ」


「う、うぅ、そういうものかのう――」


 エルマールは戸惑った様子でそう伝えた。

 ハーフエルフという発言を聞いたからか目は泳いでいる。


「エルミールのお父さんは確かもう――」

 

 するとピーチが横から会話に加わる。

 遠慮してかはっきりとは口にしないが、エルミールは、はい、と頷き。


「私のパパは人族でしたので、あ、でもそれでも大往生だったんですよ。それに私が独り立ち出来るよう薬の調合とか一生懸命教えてくれましたし」

「そうでしたか。確かにエルフと人では寿命も違いますからね。でもお母様は?」


 ナガレは口を噤んでしまったエルマールを眺めつつ、敢えて彼女にそれを聞いた。


「私のママはエルフ、というのはパパに聞いて判っているのですが、実はあまり覚えていないんです。物心ついた時には父親と二人暮らしでしたから」


「……そうやったんやね。それで寂しくないん?」

「……そうですね。私のママは已む無い理由があって里に戻るしかなかったらしいのですが……でもパパから話は聞いていたし、パパも私を愛してくれましたから――」


 視線を落とし、昔を思い出したように語るエルミール。

 少しだけその場にしんみりとした空気が流れる。


「あ、そ、そうだ! 私これが欲しかったのよ! 体力回復のポーションも貰うわ!」


 しかしその空気を払拭しようとピーチが次々と薬の購入を始めた。

 エルミールもいつもの笑顔に戻り、ピーチに話を聞き薬を揃え。


 そして話がある程度落ち着いたところで店を出るのだった。





「でも本当に良かったの? 黙ったまま自分がママだよって伝えないで?」


 店を出てからの道すがら、ピーチがエルマールに問いかけた。

 

「いいのじゃ……第一今更どんな顔をして会えというのじゃ――」


 俯き加減に言葉を返す。

 エルマールはエルミールの母親、それは紛れも無い事実であり、その事情も前もってナガレとピーチは彼女から聞いていた。


 エルマールも過去、子供が産める時期が来た際、里の掟に従いオークとの間に子供を設けられそうになった。

 だが、エルマールはどうしてもその掟が受け入れられず、ある日逃げるように里を出てしまったのである。


 そして、森を出たエルマールは人の里に下り、そこで一人の青年と恋に落ちた。

 しかも、エルフと人間では子供が出来にくいのだが、奇跡的に二人の間に娘を授かる事が出来たのである。


「妾は人と恋に落ち、エルミールを産み、そして暫くは幸せに暮らしていたのじゃ。じゃが、エルミールが三歳になる頃、里のエルフに居場所が知れてしまい――そして妾は里に戻った。娘にとっては捨てられたも同然であろう……」


 トボトボと歩きながら細い声で述べる。

 エルマールは里の長の正統後継者であった。

 だからこそ、エルフにも相当説得されたらしい。

 しかし里の掟で人間とその間に産まれた子は一緒には連れていけない。

 オークの場合と違い、エルフと人間の子には人間の血が混じる。だからこそハーフエルフと区別されてもいる。

 

 エルマールは里には戻りたくなかった。しかし長には死期が迫っており、彼女が戻らなければ里の存続が不可能――

 その事情を知った彼女の夫がエルマールの背中を押したのだ。 

 エルミールは私がしっかり育てるから、と。


「それからは何度も里を移ったのじゃ。そして今の里に落ち着いたのじゃが、まさか近くの街で娘が店を開いてるとは思わなかったのじゃ。でもナガレのおかげで助かったのじゃ」


 エルマールは頭をあげると、改めてナガレにお礼を述べた。


「もし今の姿でなければ、店に行こうなんて気にはなれなかったのじゃ。だから感謝なのじゃ」

 

 どうやら娘に再会出来た事自体は嬉しかったようだ。

 彼女の顔にも明るさが戻っていく。


「そのおかげで子供扱いされちゃったけどね」

「そ、それは言うななのじゃ~~~~!」

「や~ん、わたわたするエルマール様もごっつかわえぇやん!」


 とろけたような表情で今にも抱きつきそうなエルシャス。中々の残念エルフぶりだ。


「でもエルフの久しぶりって本当に相当年月経ってるでしょ? 元の姿だったとしてもわからないんじゃない?」

「そんな事はないのじゃ。げんに妾もエルミールの事がすぐに判ったのじゃ!」

「いや……判ってなかったじゃない。偽物で騙されていたんだから」


 ピーチの鋭い指摘に、うっ! と怯むエルマールである。

 とは言え、久しぶりに再会した娘が捕まってしまったとあっては狼狽してしまうのも仕方ないだろう。

 

「でも、折角ですのでこれからも店に顔を出してみては如何でしょう? その状態は暫く続きますしね」

「そやで! エルマール様にはうちがいつでも付きそったるわ! まかしとき!」


「それに関しては不安しかないのじゃ……」


 そういいつつも宿へと向かう一行である。

 何せ今日はもう遅い。それに宿にあるお風呂にもエルマールとエルシャスは興味津々なのである。


 なので今夜は宿に泊まり、そして次の日エルフの里に戻る事にした一行なのであった――

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