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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第二章 ナガレ冒険者になる編
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第六話 ナガレ冒険者になる

 口をポカーンとしているマリーンは、ピーチの言っている意味が理解できないといった様子であった。


 あまりにその状態が続くので、ピーチが彼女の眼前で手を振り、正気に戻した後掻い摘んで森での事を説明する。


「つまりこの少年が一人でゴブリンの大群と、グレイトゴブリンを倒してしまったって事? 俄には信じられないわね……」 


 マリーンは声を潜めるようにしてピーチに告げる。

 実はさっきのピーチの報告を聞いた時も驚きはしたが、周りに気取られないよう気を遣ってもいた。


 その対応を見る限り受付嬢としては仕事の出来る方なのかもしれない。


「証明出来るものはあるわよ。この魔法の袋に三〇〇体分のゴブリンの耳とグレイトゴブリンの耳、そして魔核が入っているからね。今出す?」


「駄目よ! 今ここでそんなの出したら色々面倒だし、一旦うちの職員に預かってもらって別室で査定してもらうわ。それ借りても良い?」


「仕方ないわね~壊さないでよ?」


 壊さないわよ! と軽く腕を振り上げた後、マリーンは別の男性職員に事情を話して魔法の袋を手渡した。


 その職員の男もやはり驚いた様子を若干見せていたが、他の冒険者には悟られない程度だ。


「ふぅ、とりあえずこれで査定まで時間あるし、ナガレ君だったかな? 冒険者登録を済ませてしまおうと思うけど良い?」


「構いません。どうぞ宜しくお願いいたします」


 ナガレは会釈し横に退けたピーチに変わって前に出る。


「あなた若いのに随分堅苦しい口調なのね……ま、まぁよく見ると結構いい男でもあるけど」


 改めてナガレの姿をまじまじと見やり、そんな感想を述べる。

 ナガレもマリーンと目線を合わせると、見入ったように暫し彼女が立ち尽くす。


「ちょっとマリーン、いつまでも見てないで仕事」


 ピーチがジト目で突っ込むと、ハッとしたマリーンが顔を逸しカウンターの中をガサゴソと漁りだした。

 どこか慌てた様子でもあったが、一枚の用紙を取り出しカウンターの上に乗せ、一緒に羽ペンも脇に添える。

 用紙は流石にナガレのいた世界とは違う素材のようだ。

 羊皮紙にも思えるが、どうやら魔物の皮を利用して作られてるらしい。


「え、え~と文字は書ける? もし無理なら代筆するけど……」


「いえ、大丈夫です」

 

 そう言ってナガレはスラスラと達筆で用紙の中を埋めていった。


「え~とナガレ・カミナギ、一五歳、特技は……ア、アイキ、ジュ、ジュウジュツ?」


「なんか舞踏の類らしいわよ」

「舞踏……じゃあ体術には自信ありって事かしら?」


 ピーチがナガレの代わりに横から説明し、マリーンが思案顔で口にする。

 色々勘違いされてるが、結果的にはそのとおりなのでナガレは特に突っ込むこともなかった。


「うん、まぁいいわ。さて、後はレベル判定ね」


「レベル判定ですか?」


 ナガレが一応問い返すと、マリーンが一つ頷き。


「前は自己申告だったんだけどね。そのあと見栄を張って高いレベルで申請しちゃう人とかがいて、トラブルの元になったから今はこっちで判定してるの。あ、でも安心してね。あくまでレベルだけで細かいステータスまでは覗かないから」


 この世界ではステータスという物が存在してたりするが、それを勝手に覗いたりすることはプライバシーの侵害としてされているようだ。

 尤もあくまで一般生活の話であり、戦闘などが絡む場合はこの限りではないようだが。


 まぁその覗くという行為にしても、鑑定のスキルや魔道具を持っていないと不可能であるし、鑑定を防ぐアクセサリータイプの魔道具というものもしっかり存在しているようではあるが。


「じゃあ見るわね」

 

 言ってマリーンは、おもむろに取り出した眼鏡を掛けた。

 元が綺麗だけに眼鏡を掛けた姿も美人女教師のように中々様になっている。

 ピーチではちょっとこの色気は滲み出てこないだろう。


 そしてマリーンの掛けたこの眼鏡こそが相手のレベルを測る事のできる魔道具である。


 じっとナガレを眼鏡で見るマリーン。

 その横でどことなくワクワクした様子で眺めるピーチ。


 何せゴブリンを三〇〇、更にグレイトゴブリンさえも瞬殺したナガレである。

 ゴブリン自体は単独ではレベル3程度でも倒せる相手ではあるが、グレイトゴブリンに関しては最低でもレベル30は必要と言われておりそうもいかない。


 つまりナガレのレベルは最低でも30位上はあるというのがピーチの見立てである。

 そしてピーチのレベルは9だ、中々微妙な数値である。

 

「…………へ?」


 そしてマリーンの眼鏡の奥の瞳がまんまるに変化する。

 何か不思議な物をみたような様相。


 ナガレは沈黙を保ち結果を待っているが。


「どう? これだけの事をしたんだからやっぱり凄いレベルだったりする? 40とか? もしかして50超えとか?」


 声を潜めてピーチが問いかけた。

 だがマリーンは困った表情に変わり、う~ん、と唸りながら。


「ちょっと待って。なんかこれ壊れてるみたい、ねぇ貴方の鑑定眼鏡借りていい?」


 言ってマリーンは別の職員から眼鏡を借り、それをかけ直して再度ナガレを見た。


「…………」

「ねぇ、どうなのよ? 勿体ぶらないで教えてよ」


「その前にちょっとピーチを確認。……レベル9――壊れているわけじゃないみたいね……」

「もう! だからいくら高くてもほら、これだけの事をしたんだから」

「――0」


 ナガレを見つめながら、マリーンが口にした言葉に、へ? とピーチが目を丸くさせた。


「……もう一度いい?」

「だから、ゼロ、なのよ彼。レベル0」


「……は? はぁ!? 何それ! あり得ないわよそん――」


「プッ、ぎゃっはははははっはははははぁ!」


 思わずカウンターを叩き、身を乗り出して抗議するピーチであったが、その声は彼らの様子を覗き込んでいた男の馬鹿笑いによって掻き消された。


「おいおいどうしたんだよ突然笑い出して」

「いや、だってよ! なんかちんたらやってるから何かと思って話聞いてたらよ、そこの若造、冒険者登録に来てるのに、レベル、レベル、ひひっ、レベル0だってよ~~~~! ぎゃはは最低だ! 初めて聞いたぜ0なんてよぉ!」


 腹を抱えながらその場に蹲るような体勢で、床をバンバンと叩きながら笑い転げる冒険者。

 すると口々にレベル0という響きを口ずさみながらその場の殆どの冒険者が嘲笑を始めた。


「おいおい確かに冒険者は誰でもウェルカムだけどよ~」

「それでも限度ってもんがあるだろ! なんだよよりによってレベル0ってよ~~~~!」

「全く、そんなんじゃその辺のゴブリン一体にすら勝てないぜ! 指一本でのされてしまうんじゃねぇか~?」


 ギルド中に広がる嘲りの声に、ピーチの頬が食べ物を口に溜め込んだハムスターが如く膨れ上がった。


「あ、あんたらね! 言っておくけどナガレは!」

「待ってピーチ!」

 

 思わず全てをぶちまけそうになったピーチをマリーンが制する。


「その事は内密にして。まだあまり知られていい話じゃないし、それにナガレ君の事もあるわ」

「で、でもこのままじゃナガレが!」

「構いませんよ」

 

 怒りの収まらないピーチの背後からナガレが納得する姿勢を示す。


「私が、ここではまだ新人であることは間違いがありませんし、それに別に何を言われても気にしてませんから。ピーチもありがとう、その気持だけでも嬉しいよ」


 そう言ってナガレが微笑みかけると、ピーチの顔がまた桃缶の如きボッ! と染まる。


「コホン! ま、ナガレ君もこう言ってる事だし、いいかなピー……」


「てかさ、お前マジで冒険者になる気なの?」


 マリーンがピーチに言いかけた途中で、一人の冒険者がナガレの肩に腕を置き、馬鹿にしたような目で話しかけてきた。


「えぇ、そのつもりですよ」


「おいおい、そりゃ冒険者ってのは命知らずの集まりだけどよ、レベルが0はねぇよ、んなんみすみす死に急ぐようなもんだぜ?」


「お気遣いありがとうございます。先輩のご忠告としてしっかり肝に銘じておきますね」


「いや、てかお前馬鹿か? 俺はいいからとっとと登録なんて諦めて出て行けって言ってんだよ」


 小馬鹿にしたような表情から一転、威圧するように男は言ってくる。


「それはそれは気づきませんでした、ただ私は登録をやめる気はありませんので――」


「あ~ん? おいテメェいい加減にしねぇと」

「ありませんので――」


 二度目の忠告(・・)

 その声にほんの少しだけ研ぎ澄ました気を紛れ込ませ、相手の五感に訴える。


 その瞬間、絡んでいた男が、ひっ! と短い悲鳴を上げ尻もちをついた。

 きっと男自身、なぜ自分がそんな事になっているのか理解できていないだろう。


「大丈夫ですか?」


 見下ろすナガレから目を逸らし、

「と、とにかく、せ、精々気をつけやがれ!」

と若干上ずった声を残し、男は逃げるように離れていった。


「なんなのあいつ? ほんっと! ムカつく!」

「まぁ仕方がないですよ。私はまだまだ新参者ですから」


「…………」

 

 にこやかに対応するナガレ。しかしその姿を見るマリーンの目はどことなく疑心に満ちていた。


「マリーン、査定の方が終わったぞ。てかこれ凄いな……一体誰がやったんだ?」


「あ、ありがとう。うん、一応あそこにいる新人冒険者がね……今日登録なんだけどね」


「は? つまりルーキーって事か? しかもまだ若造じゃねぇか。おいおいそんなの前代未聞だぞ」

 

 マリーンと査定の結果を知らせに来た男がヒソヒソと話す。

 そして更に会話のやり取りを終えた後、男は奥に引っ込んでいった。


「ナガレ君、査定は終わったけど、色々あってギルドの説明を忘れてたわね。とりあえずレベルの件はこれでいいわ。タグも出来たし、後はギルドの説明だけど」


「あぁ、それでしたら大丈夫ですよ。大体判ってますから」


 え? とマリーンが目を見張らせた。

 するとナガレはニコリと微笑み。


「ギルドは個人や貴族、時には国から依頼を請け負い、それを登録している冒険者に斡旋している組織ですよね。報酬は成果報酬で依頼毎に異なり、仕事の内容は簡単な物でちょっとしたお使いから、魔物狩りに薬草採取、護衛など多岐にわたります。そしてギルドにはランクがあり登録したては一番下のDランクから始まり、更にC、B、A、Sと続きます。ランクがC以上になると各ランクに級が付くようになるとか。ちなみに級は5級から1級まであると――」

 

 ナガレの話を聞きマリーンは目を瞬かせた。

 それも当然だろう。何せ本来なら受付嬢である自分が説明しなければいけないところを、ナガレはそらで大方話してしまったのだから――


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