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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第二章 ナガレ冒険者になる編
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第五話 ナガレ異世界で初めての街へ

第二章始まりです

「冒険者ギルドはこっちよ」


 桃色髪のピーチに案内されてナガレは街を歩いた。

 ハンマの街は人口一万程度と、この世界の基準で考えればそこそこ規模の大きな街だ。

 

 商業も発展しており、旅の商人の出入りも激しい。

 街は外周を巨大な石を積み上げて造られた外壁によって円状に囲まれている。

 中と外を繋ぐ街門は東西南の三箇所に設置されており、門の外側には水を張った堀が設けられていた。

 

 幅が二〇メートルはある中々大きな堀であり、当然だが跳ね橋が下りている時しか渡ることは出来ない。

 跳ね橋は日没と同時に上げられる為、当然旅の商人も冒険者もそれまでに間に合わなければ野宿となる。


 ピーチとナガレは、この街より西に数km離れた森から街道を辿りやってきた。

 その為、街には西門から入ることとなったのだが、やはり異世界は余所者には警戒心が高い。

 商人であれば荷馬車などによってそれとすぐわかるが、何せナガレはその格好もこの世界の人間から見れば奇抜である。

 

 当然、門を抜ける際には何者かを問われる事となった。

 だが、そこはこの街の冒険者でもあるピーチが上手く説明してくれた。

 

 冒険者はギルドに登録するとその身分を証明するタグが手渡される。

 これを身に着けている事で、基本冒険者はどの街もフリーパスで通ることが出来る。


 冒険者はその仕事柄、街から街への移動など日常茶飯事だからだ。

 その都度一々確認を求められていては仕事に支障を来すこととなる。その為、冒険者はタグさえあれば衛兵に呼び止められることはない。


 尤も犯罪を犯したような冒険者の場合は、ギルドから手配書が回る事となるためその限りではないようだが。


 そして、今回はそのタグ持ちのピーチが一緒にいたため街に入るのもすんなり……とは流石にいかなかったが、一刻も早く冒険者ギルドに報告に行くのを条件に、余所者であれば本来必要となる通行税も免除されたのだった。


「ま、そりゃゴブリンの大量出現、その上グランドゴブリンまで現れたとあったら衛兵も慌てるわよね」


「ギルドに報告し、一刻も早く領主に伝えて貰うようにとのことでしたね」


 苦笑交じりに語るピーチにナガレが告げる。

 尤も、これがもし倒せずその存在を報告するという事であれば、衛兵達の慌てぶりは更に凄いことになっていただろう。


 ただ、ナガレがゴブリンもグレイトゴブリンも倒してしまったという話も、俄には信じがたいといった様子でもあったが、これに関してはピーチが見せた討伐部位で証明された。

 勿論それはそれでかなりの驚きようではあったが。


「まぁでも結果的には良かったわよ。あんなの放っておいたら街も大パニックだっただろうし」


 ピーチは串焼きをパクつきながらそんな事を言った。

 ギルドに向かう途中で、あ、串焼き!これ美味しいのよね! といって一本購入して食べ始めたからだ。

 ちなみにナガレの分はない。一本分しか持ち合わせがなかったからだそうだ。

 それは別にいいのだが、寧ろ一本分しか持ち合わせがないのに、それをあっさり使ってしまう計画性のなさが心配になってしまう。


 尤も、これだけゴブリンやらグレイトゴブリンやらを退治(殆どナガレの功績だが)すれば浮かれてしまうのも判らないでもないが。


 街は中々活気に溢れていた。街の周辺には農業や畜産に精を出す村が点在しており、そこで仕入れた品を商人が卸すというサイクルが出来上がってる為だ。


 周辺に聳え立つ山々も水源が豊富で、水不足に悩むこともない比較的豊かな土地柄なのも人が集まる理由だろう。

 

 街には市場のようなところもあり、移住区と商業区はある程度区分けされている。

 移住区に関して言えば貴族の暮らす、いわゆる高級住宅地も植樹によってしっかり住み分けがされているのが特徴か。


 絶対数は平民数に比べて貴族の方が当然少ないが、その分貴族が構える屋敷は敷地が広く、建物は立派だ。

 その分全体の敷地面積もそれなりの規模になる。


 反対に平民の暮らす住居は、石造りの縦長の建物が多い。

 ナガレのいた世界で言えば雑居ビルに近いだろう。

 勿論鉄筋コンクリートなどといった上等なものではないが、それでも大体は三階建て、大きいものだと六階建てぐらいの建物が立ち並んでいる。


 街は中心に広場があり、ピーチが購入した串焼きの屋台の他にもクレープのような菓子や、焼き菓子などを販売してる屋台も存在していた。

 

「冒険者ギルドはこの広場から東に行って、途中の路地を南に入ったところにあるわ。冒険者ギルドを覚えておけば、その近くに冒険者がよく利用する宿もあるし、武器屋や防具屋も纏まってるからしっかり覚えておいてね」


 念を押すように語ってきたピーチにナガレは一つ頷く。

 しかし、その路地の場所をピーチが間違い、妙に入り組んだところに入ってしまったばかりに、泣きそうな顔で、あれ? あれ? などと口にしだしたので、仕方なくそこから先はナガレが案内した。


 壱を知り満を知るナガレは、街に入った時点で大体の構造を理解してしまっていたからだ。


「こ、ここが冒険者ギルドよ!」


 ナガレの案内で到着できたにも関わらず、何故かピーチはドヤ顔である。 

 そんなピーチが紹介してくれたギルドは、赤煉瓦造りの三階建ての建物で、剣と盾の模様が刻まれた看板が扉の上に掛けられていた。


「言っておくけど、ギルドは飢えた狼のような猛者が犇めき合ってる場所だからね。私みたいに可愛らしくて愛嬌のあるキュートな冒険者なんて珍しいんだから最初が肝心よ」


 ナガレは当然判っていたが、このピーチという娘、顔は可愛いが中々に痛々しい。


「いい、貴方たしかに少しはやるようだけど、まだ若いし、見た目全く強そうに見えないんだから、せめて舐められないように十分に気をつけてね。キョロキョロとかしてたら初心者丸出し、たまに緊張しすぎてコケちゃう子とかもいるからね。まぁ私という先輩冒険者がいれば大丈夫だと思うけど、気をつけてよね」


「はぁ、判りました」

 

 実際の年齢は遥かにナガレの方が上なのだが、今の見た目は一五歳である。尤もこの世界で一五といえばナガレのいた世界でいえば成年と同じ扱いのようだが。


 とは言え、やはりここは先輩冒険者の顔を立てるのは大事だろう。

 なのでナガレは素直にピーチの後ろに続く。

 

 ピーチは勢い良くギルドの木製のドアを押し開け、堂々と建物の中に一歩目を刻み、ドシャッ! 

――盛大にコケた。どうやら勢いをつけすぎたようだ。


 ギルド内に微妙な空気が漂う。

 全員の視線が明らかにコケたピーチに注がれていたが、誰も声を掛けない。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

 仕方ないのでナガレが後ろから声を掛けた。

 すると、スクッとピーチが立ち上がり、パンパンっと着衣の埃を叩き落としてから振り返り。


「い、今のが駄目な例だからね! 気をつけないと思わぬ怪我をしちゃう事もあるんだから!」


「そうでしたか。判りました気をつけます」

 

 鼻も赤く、明らかに強がりだがナガレはそこを突っ込むような無粋な真似はしない。

 しかし周りの冒険者からは憐れむような視線や、笑いを堪える様子も感じられる。


 しかしピーチはそんな事を気にも、いや顔を真赤にさせながら、い、いくわよ! と言って奥に見えるカウンターまで駆け足で向かった。

 

「プッ、ピーチあのコケかた、プッ――」


 カウンターは横にそこそこ長く、五人の受付が各冒険者の対応に追われていた。

 男女比率はニ対三。受付嬢の方が一人多い。


 ピーチはその中でタイミングよく空いた受付嬢の前に立ったが、この様子を見るにふたりはそれなりに気心の知れた知り合いなのかもしれない。


「わ、笑うなマリーン!」

「そ、そう言われたってあれは無理よ。ププッ、本当どれだけ盛大にコケてるのよ」


 ピーチの頬がぷくぅっと膨らんだ。

 色々と残念な事を除けば、ころころ変わる表情は可愛らしい部類だろう。


 そしてマリーンと呼ばれた受付嬢は、海のような蒼髪を湛えた美しい女性であった。

 ピーチとは明らかにタイプが違う。


「ふぅ、ところで彼は?」


 一旦気持ちを落ち着かせるように息を吐き出し、マリーンがピーチに問う。


「彼はナガレと言って依頼の途中で出会って……て! それどころじゃなかったわ! あのね魔草採取の依頼に向かったら西の森で大量のゴブリンが現れたのよ。それにグレイトゴブリンも」


 ピーチがナガレを簡単に彼女に紹介し、そして続けられた言葉にマリーンの顔色が変わった。 

 

「ちょ! それヤバイじゃないの! 変異種のグレイトゴブリンに大量のゴブリンの発生って、最低でもAランク必須の緊急案件よ! あんな呑気にコケてる場合じゃないわよ!」


 表情を険しくさせ、怒鳴るようにまくし立てるマリーン。 

 しかし呑気にコケてるの一言に若干ピーチは傷付いてる様子。が、しかし――


「あ、うん、まぁ確かにそうなんだけどね。緊急案件とかそういうのは心配いらないっていうか」


 頬をポリポリと掻きながらピーチが返答すると、はぁ? とマリーンが眉を顰め、何を言っているのか理解が出来ないといった様子。


 その表情を眺めながら、ピーチは再び口を開き。


「いや、だからグレイトゴブリンも大量に発生したゴブリンも、既に全滅させちゃったからね」


「…………はい?」

 

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