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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

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第五十五話 エルマールの力

「レベル53って……嘘でしょ?」


 エルマールの自信に満ちた宣言を聞き、ピーチも思わず狼狽する。

 レベル、53――その数字がどれだけ驚異的か、冒険者であれば誰もが知るところである。


 この世界において冒険者の平均生涯レベルは20程度とされている。

 生涯レベルとは、一人の冒険者が一生を掛けて達する事のできる最大レベルの事である。

 

 しかもこのレベルはランクを関係なく算出した数値であり、当然Bランクより上のランクの冒険者による底上げがすさまじい。


 だが、これをBランクより下に限定すると、なんと生涯平均レベルは12にまで下がってしまう。

 

 それを踏まえると、レベル53という数値が一般的な冒険者にとってどれだけ途方も無い数値であるかがわかるであろう。

 

 ちなみにギルドではランク毎にこれだけのレベルが最低必要だろうという数値が算定されており、Bランクでレベル15以上、Aランクでレベル30以上とされているが――エルマールのレベル53とはギルドのランクでも最高潮のSランクに値するレベルなのである。


 なお、あくまで必要だろうという話なので、最低レベルを割っていたとしても実績や試験の内容次第でランクは上がる。

 とは言え、相手はSランク相当の実力を秘めたエルフである。 


 いくらナガレとて、これだけの相手に勝利を治める事が出来るのか? と、普通ならそう考えそうだが。


「どうやら相当驚きのようですね。仕方ないともいえますが」

「えぇ確かに凄いわ。でも! それでもナガレの方が強いわよ! だってあのデスクィーンキラーホーネットを一人で倒したぐらいなんだから!」


 ピーチの発言に、エルシャスの右眉が僅かに持ち上がる。

 中々のクールビューティーぶりを保っていたエルシャスだが、今のピーチの発言には思うところがあったようである。


「……デスクィーンキラーホーネットをですか。変異種のあの魔物は、最低でもそのレベルは60。確かにエルマール様でも今の状態(・・)だと簡単ではない相手、それを一人でですか――」

「そうよ! 驚いた? ナガレは凄いんだから!」


 エルシャスが感心したように呟き、ピーチは思わず得意がる。

 しかし彼女は気がついていない。そうは言いながらもエルシャスの表情にはまだ余裕が感じられることに……。





「そろそろやらせて、もらうでのう!」


 機先を制したのはエルフの長であった。鈎付きのナガレ式グレイヴを振り上げ、その距離を一気に縮め刃を薙ぐ。

 流石にレベル53だけあって、そのキレはかなりのものである。


 恐らくAランク程度までの冒険者では、これを見切るのは困難であろう。

 そうその程度なら――しかしここに立つは神薙流合気柔術にこの人ありと言わしめたほどの男、かつての最高師範ナガレなのである。


 壱を知り満を知る。全ての力に宿る流れを把握する彼にとって、その一撃はあまりに軽い。

 そう、レベル53程度で粋がるなど、ナガレからすれば滑稽でしかなかった事だろう。

 エルマールの一撃を、ナガレは小指一本であっさりと受け流したのだ。

 そしてそのままゆったりとした所作でクルリと相手に向け回転し、その後ろをとってしまう。

 

「な!?」


 その顔が驚きに満ちた。勿論攻め込んだエルマールの顔、が、である。

 たかが一撃、されど一撃。ある程度の実力を有すものであるなら、ただ一度手を合わせただけでもその実力を推し量ることが出来るものだ。


「……くっ! 中々やるようじゃのう!」

 

 一瞬の動揺。しかしそれを即座に跳ね除け、エルフの長の二撃目がナガレに迫る。

 この切り返しの速さは、ナガレも感心するところである。


 エルマールの次の手は、鈎を上にしての救い上げ。

 狙いはナガレの道着にあるようで、鈎で引っ掛け引きずり回そうとでも考えているのか。

 女にしては荒々しい戦法ではある。


 だが、跳ね上がった鈎が道着に引っかかったその直後、今度はナガレが後方に一回転を決め、その動きにエルマールを巻き込んだ。

 相手の動きを利用し、そこに己の力を乗せ武器ごとエルマールを縦回転させ、そのまま地面に叩きつける。

 

 グフッ! という呻き声が聞こえたが、気にすることなく、更にナガレは逆にエルマールを地面に擦り付け、引きずり回した末に回転の勢いに任せ彼女を武器ごと投げ飛ばした。


「ふんっ! この程度!」


 しかしエルマールは、途中でグレイヴの鈎を地面に引っ掛けるようにし勢いを殺し、見事着地を決め再びナガレと相対する。


「……しかし、まさかここまでとはのう。お主中々やるではないか」


「…………」


 ナガレは沈黙し、捉えた瞳だけは決して外さず、その眼力を持って応えとする。


「……良い目をしとるのう。しかし、大抵の者はレベル53と聞き、一度妾と刃を交えれば戦意を喪失するというのに、全くそんな様子は感じられないのう、いや、というより――」


 エルマールは一拍置いて、フフッ、と不敵な笑みを零すとナガレをじっと見据え言葉を繋いだ。


「少々物足りないといった、そんな雰囲気さえ感じられるのじゃ。どうじゃ? 図星であろう?」


「……えぇ、まぁ確かにそのとおりですね」

 

 それに関してはナガレは素直に応じる。

 何せこのレベルでは、エルマールは全くナガレの相手にならない。


「素直じゃのう。じゃが安心せい、こんなものはまだまだ序の口。何せ妾はまだ肉体の力でしか戦っておらぬ」


 するとエルマールの言葉に反応する観戦者達。


「……やはりエルマール様はアレをお使いになられるおつもりですか――」

「え? ちょ、何よアレって!」


 意味深な事を述べるエルシャスと、ソレを耳にし聞き返すピーチ。

 思わず彼女も不安そうに眉を顰めてしまうが――


「ナガレよ誇りに思うが良い。何せ妾のこの形態は、この里のナンバーツーであるエルシャスとて引き出せるものではない。妾も随分と久しぶりじゃからのう、このような状況にも関わらずワクワクして仕方無いわ」


「なるほど、それは楽しみですね」


「余裕よのう。じゃが、これを見てどこまで余裕が保てるかのう。征くのじゃ! 我が里のみに伝わる秘伝! エルフ流精霊式(エレメンタル)戦闘術(バトルスタイル)! はぁぁああぁあぁあ!」


 その瞬間裂帛の気合と共に、エルマールの肉体に変化が生じた。


「いぃいいぃいい!?」


 その姿に、思わずピーチも目玉が飛び出そうな勢いで驚愕し、声を上げる。


『え? 何あれ……』

『うわっ、ムキムキになっちゃったよ』

『え~? なんか勿体無いよね』

『折角綺麗だったのにね』

『…………』


「あれこそが、この里の長のみに伝えられる近接戦闘術。精霊の力を己の肉体に宿し能力値を飛躍的に上昇させる術でございます。今エルマール様は地の精霊によって周囲の大地の活力を一気に肉体に注ぎ込みました。その結果があれなのです」


 相変わらずどこか呑気なオークを横目に、エルシャスが説明する。

 まるでゲイみたいじゃない……とはピーチの言葉。


 そんな彼女たちの視界には、変身が完了し、マッチョなポーズをとるエルマールの姿があった。


「ウフッ、どう? 驚いたかしら? これがエルフ流精霊式戦闘術よ。フフン、これでざっとレベル100ってところかしら」


 美貌と色気を兼ね備えた姿から一変、筋肉の鎧に纏われた彼女は得意満面にそんな事を言う。

 上背も一気に高くなり、二メートルに達する勢いだ。

 そして性格と口調にも変化が見られ、全身が自信に満ち溢れている。


「なるほど、確かに相当能力が上がっているようですね」

 

「当然よ、さっきまでは精霊の力を全く使っていなかった。でも今は土の精霊を纏い、大地の活力をふんだんに取り入れてるのだから。でも、これで驚くのはまだ早いわよ。何せこの精霊式戦闘術には後二段階上があるのだからね」


 筋肉を誇示するポーズを保ちながら不敵な笑みを零すエルフの長。

 そして、更に上があるという発言に、ピーチも戸惑いを隠せない。


「う、嘘でしょ……レベル100でもとんでもないのに、後二段階も上があるなんて――」

「歴代の長でも、ここまでの進化に達したのはエルマール様だけですからね。ですが、ニ段階目まで披露する事は先ずないでしょう。貴方がいっていたデスクィーンキラーホーネットも、今のエルマール様なら一〇分もあれば滅することが可能です」


 エルマールの発言ですっかり狼狽するピーチ。そしてその隣で自分の事のように誇らしげに語るエルシャス。

 何せレベル100だ、Sランク1級でもそこまで達しているのはそうはいない。


「さて、それじゃあいくわ、よ!」


 言ってエルマールが大地を蹴り飛ばす。するとなんと地面が捲れ上がり、畳返しの如く勢いでナガレに迫った。


 だが、ナガレに慌てる様子は感じられない。迫る土畳に手を添え、いつもどおり受け流す。

 

「それはほんの挨拶代わりよ――」

 

 しかし真後ろにソレを受け流した直後、エルマールの姿はナガレのすぐ隣にあった。

 彼女の袈裟斬りがナガレの首筋を捉える。

 だが、ストンっ、ナガレの膝が落ち、斬撃の軌道に沿うようにその身が傾倒――このナガレの動きに合わせて、エルマールの巨体が得物を支柱に天地返しとなり、かと思えば筋肉の固まりが勢い良く逆側へと吹っ飛んでいった。


「これもほんの挨拶代わりです」


 お返しとばかりにナガレが口にすると、エルマールが悔しそうに歯噛みし、地面に手を付け受け身をとった。

 そして即座に立ち上がり、怒りの形相で叫びあげる。


「なめるんじゃないわよ! 精霊式戦闘術奥義・地裂斬!」

 

 長柄の刃を振りぬき、エルマールが大地に切れ込みを入れる。

 かと思えば地面が弾け、大地を切り裂きながら斬撃がナガレに向けて直進する。


 しかしその一撃は、ナガレの身に触れることすら叶わず彼女に向けて跳ね返された。

 しかも威力は桁違いに跳ね上がっている。


「なっ!?」


 驚嘆し、エルマールが思わず横っ飛びでそれを躱す。

 轟音があたりに鳴り響き、地面が激しく揺れ動いた。


「こ、こんな事って……」


「やれやれ、貴方も少々勿体ぶり過ぎでは? そんな事では本当の力を見せる前に敗れますよ? 二段階あるという残りの力も早く発揮された方がいいのでは? 勿論それが本当ならですが」


 ナガレの発した挑発の言葉に、エルマールの蟀谷に浮き出た血管がピクピクと波打った。


「いいわ、だったら見せてあげる。これがエルフ流精霊式戦闘術の第二段階よ!」


筋肉マッチョな女エルフ……



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