表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第四章 ナガレ激闘編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/565

第五十四話 オークを襲う理由

「くっ! 戦闘民族の我らが情けを掛けられるなど、そのような生き恥を晒して……」

「いや、正直弱すぎて情けを掛ける以前の問題ですよ。生き恥を晒すなど偉そうな事を言えるほどの実力もないのですから素直に従って下さい」


 悔しそうに唇を噛み締め、今にもまた、くっ殺せ! などと言い出しそうなエルフに、ナガレがきっぱりと言い放った。


「……う、うぅう、ふぇ~ん」

 

 するとエルフは、ナガレの容赦のない言葉に耐え切れず、なんと泣き出してしまった。


「くっ! ナガレ式の発案者がよもやここまで鬼畜だったなんて!」

「なんて男なの!」


 更に、残ったエルフからも軽蔑の眼差しを受けてしまうナガレである。

 中々理不尽な話ではあるが。


「……なんか散々な言われようね」

 

 ピーチもやれやれと言わんばかりに肩を落とす。

 するとナガレも息を一つ吐きつつ、彼女たちに向けて口を開いた。


「……とにかく、私はこれ以上貴方達に何かする気はありませんよ。それよりも戻ったら長のエルマールにお伝え下さい。すぐにでもしっかり事情を伺いに行きますので、とね」


 ナガレが倒したエルフ達に宣告すると、彼女たちも起き上がりいそいそとその場を離れていった。

 その姿を認めた後、ピーチがナガレに語りかける。

 

「でも、良かったのナガレ? あんなに簡単に見逃しちゃって?」

「まぁ、里のエルフがどこかに逃げるという事はないでしょうからね。何せ彼女たちは誇り高い戦闘民族ですから」


 そこまで言った後、ナガレは草食系オーク達を振り返った。


『さて、私たちは一度エルフの里に向かいますが、皆様はどうなされますか?』


 その問い掛けにオーク達は一度固まり相談を始めるが。


『……僕達、エルフに捕まりそうになっていたのにわざわざ里にいくというのも……』

『ふむ、ですがここの場所は知られてしまいましたしね。それに今回の件でエルフ達は貴方がたに戦闘能力がないことを知ってしまいました。もしかしたら別働隊が動いている可能性もありますし、もしまたエルフに襲われたとしても大丈夫ですか?』


 オーク達はナガレの意見に冷や汗を掻き出した。

 罠も看破され、流石にこれからすぐに新しい塒を確保するのは厳しい。

 臭い玉の数にも限度があるだろう。


『ど、どうすれば?』

『そうですね。ではとりあえず私達と同行しては? 私と一緒にいる限り皆様の身の安全は保証致しますよ』


『……彼が保証してくれるって』

『どうしようか?』

『これだけ強い方が一緒にいてくれるなら心強いよ』

『じゃあ決まりだね』

『……』


 そして話が決まった事で、オーク達は一斉に頭を下げ、よろしくお願いします! と願い出たのだった。


「う~ん、言葉は判らないけどついてくるというのはなんとなく判るわね」


「えぇ、下手に別れるより一緒にいたほうが彼らも安全ですからね」

「……確かに最強のボディーガードだもんね……」


 先ほどのエルフとナガレの戦いを思い出したのか、笑顔を引くつかせながらピーチが納得を示し。

 そして一行はその足でエルフの里に向かうのだった。






◇◆◇


「な、なんか凄く物々しいわね……」

『やっぱり僕達来たの失敗だったかも……』

『も、もしかして僕達を捕える罠だったとか!』

 

 エルフの里に戻ると、入り口の前には里中のエルフが待ち構えるように居並び、それぞれ手に得物を持ちナガレ達を出迎えてきた。


 その様子に驚くピーチとオーク一行であるのだが。


『まぁあれだけの事をしたのですから仕方ないですね。でも安心して下さい。皆様には危害を加えさせないので』

『し! 信じていいのですよね!』


 その問い掛けにニコリと微笑み返事の代わりとするナガレ。不安を一気に解消させるような頼りがいのある微笑みである。


「てか、なんかナガレとオークのやり取りが私にも掴めるようになってきたわね……」


 慣れとは怖いものである。


「それにしても随分と仰々しい出迎え方ですね。まるで戦でも始めるかのようです」


 エルフ達に向けて先ず口火を切ったのはナガレであった。

 すると門の前に並ぶエルフの中から、最初に訪れた時にふたりを案内してくれたエルフが一歩前に出て口を開く。


「安心して下さい。戻ってきた仲間から話を聞き、念の為こういった迎え方をしているまでです。貴方が何もしなければ彼女たちには何もさせませんよ」


「そうですか。それなら良かった、私も長のエルマールに事情をお伺いに来たまでですので」


「……気が変わってオークを差し出しに来た、と、いうわけではやはりないのですね」


「彼らは私といたほうが安心と判断して同行して貰いました。もし指一本でも触れようものなら、その時点で敵意ありとみなしますのでそのつもりで」


 人当たりの良さそうな笑みを維持しながらも、言外に滲ませる覇気でしっかり釘を刺すのを忘れない。


「……わかりました。どちらにせよ、皆様が戻られたなら、長の下にお連れするようキツく言われておりますので、改めてエルマールの側近であるこのエルシャスが案内させて頂きます」


「え? 彼女側近だったの?」

「ふむ、しかし不思議ではないですよ。彼女はこの里でも相当な使い手のようですからね」


 意外そうに目をパチクリさせるピーチだが、ナガレは彼女の雰囲気から察した事をそのまま口にした。

 尤も、最初に出会った時からナガレ自身はそのことに気がついていたが。


 そして、そのままエルシャスの後を付いて行くナガレ、ピーチ、そしてオーク一行であったが。


「あれ? 行くのは屋敷じゃないの?」

「えぇ、修繕が(・・・)大変ですからね」


 その応答に、どこか壊れてるのかしら? と首を傾げるピーチである。

 そして屋敷の横を抜け、更に奥の獣道の如く細い場所を通る。


「ちょ! なんでこんなとこ!」

「もう少しの辛抱ですので」

『う~ん狭いよぉ』

『枝とか葉がチクチクするよ~』


 身体の大きなオークは中々抜けるが大変そうではあったが、それでも進み続け、そして道を抜けると随分と開けた場所に出た。


 そこは、まるで森のなかでこの場所だけがぽっかりと口を開けているかのような円状の空間であった。

 規模はギルドの試験場より更に二回りほど広い。


 そしてその奥にて、エルフの長であるエルマールが、正座をし待ち構えていた。


「よくきたのう、ナガレと愉快な仲間たちよ」

「誰が愉快な仲間よ!」


 言下にピーチが叫びあげる。

 すると、ふふっ、とエルマールは不敵な笑みを浮かべた。


「ふむ、見事なまでの姿勢の良さですね」

「なに、お主程ではないがのう」


 瞑目し応えるエルマール。するとナガレは皆を代表するように数歩前に出て、そして同じように大地に正座し彼女と相対した。


「……既にお仲間から話を聞いているのであれば、私が赴いた用件は判ってますね?」

「……ふむ、素直にオークを引き渡しにきた、というわけではなさそうじゃしのう……」

「えぇ、貴方から聞いていた話と少々事情が違うようですからね。彼らを捕える明確な理由でもない限り、この依頼をこなすわけにはいきません」


 穏やかな話し方とは裏腹に、ナガレの目は真剣そのものである。

 それにエルマールも気がついているのであろうが――


「なるほどのう。下手な誤魔化しは通用せぬか。良かろう、確かにそこのオーク達が森を荒らしたというのも、里のエルフを襲ったというのも全て嘘じゃ」


 やっぱり……とピーチが呟く。


「しかし、それにも事情があっての事じゃ。何も理由なく、生け捕りにしようとしたわけではないのじゃ」

「理由ですか」

「そうじゃ、人族は我らエルフ族の事をそこまでは詳しく知らんじゃろう?」


 ナガレはそれには沈黙を保つ。知っていても取り敢えずは聞く構えだ。


「人族の知っている事といえば、そうじゃのう妾達エルフは人よりも十倍程長生き出来ると、その辺りが有名かのう。じゃがな、それを羨ましがる人も多いが我らの一族には一族なりの悩みがある。それは、子孫を残すための手段じゃ」


「し、子孫を残すためって……」


 ピーチが何故か若干頬を赤らめた。


「そこの娘も想像したようじゃがのう」

「し、してないわよ!」

「本当ですか?」

「本当よ!」

 

 隣のエルシャスの突っ込みにも即座に対応するピーチである。


「とにかく、人族というものは我らより寿命こそ短いが、男と交わる事でいつでもポンポンと子を宿せるようじゃがな、我らエルフは違う。何故ならエルフは、一生の内一度しか排卵期がないからのう。しかもその期間は非常に短い。その間に受精しなければ、そのエルフは一生子が産めぬのだ」


「顔を真っ赤にしてどうされたのですか?」

「う、うっさいわね!」


 どうやらピーチはこういったことには相当初な様子である。


「なるほど……そのお話をお聞きするに、この里のエルフにその排卵期を迎えた者がいると?」

「察しがいいのう。まさにその通りじゃ。じゃからこそ、エルフの里ではオークが必要なのだ」


「ちょ! それってつまりオークを、そ、そういう事に利用するって事!?」

「その通りでございます」


 これには隣のエルシャスが応えた。


「そ、そんな事のために……てかオークって! なんでよりによってオークなのよ」


「判っておらんのう。昔からエルフが排卵期にオークを襲うのは慣例となっておる。長寿故目立っておらんのかもしれんがのう」


「いや、だから何でオーク――」

「それは、例えば相手が人では純血を守れないから――そうではありませんか?」


 補足するようにナガレが口にする。 

 するとエルマールが微笑を浮かべ。


「……なんじゃ、その事は知っておったか。うむ、そのとおりじゃ。人族だけに限った事ではないがのう。我らエルフはエルフの血を絶やすわけにはいかぬのじゃ。そしてその為にはオークが最適でのう。何故ならエルフとオークの場合、産まれる子は必ずエルフであるからじゃ。しかも血は一切汚れん。これほどエルフにとって都合の良い種族はいないのじゃ」


 これは、逆にいえばオークからすればエルフを相手にしてもオークが産まれて来ることはないという事でもある。

 だからこそ、オークはエルフに関心を抱くことは少ないのだ。


「……つまり、今回の依頼は種の存続の為には必要な事だったと、そう言われるおつもりで?」

「そのとおりじゃ。この機を逃せばその分エルフの絶対数は減る。それに、オークからすれば美しいエルフの女を黙っていても味わえるのじゃ。悪い話ではあるまい?」

「それはそちらの勝手な言い分ですね。オークにだって選ぶ権利もありますし、だからといってわけもわからず捕まり、子種を植え付けるためだけに利用されるなど望んではいないでしょう」


「随分とオークに肩入れするのう? そのものが草食系オークだからかのう? しかしオークなど、いつ本性を表すか判ったものではないわ。お主も知っておろう? オークというのは――」

「それは勝手なイメージでそう思い込んでいるだけでは? この里にきてから感じていたことですが、ドワーフの件といい、少々貴方達は偏見がすぎるのではと思います。オークにしても基本は人やエルフとなんらかわりません。一部のオークが悪さを働くからと、全てのオークがそうだと決めつけるのは間違いでしょう」


 ナガレがそこまで告げると、エルマールは瞑目し、そしてふむ、と短く発し。


「どうやらこれ以上話しても無駄なようじゃのう。出来れば穏便に済まし、そのオークだけでなんとかしよう(・・・・・・・)と思ったのじゃが、仕方あるまい」


 その眼を見開き、すくっとエルフの長が背中側に置いておいたソレを手にし立ち上がる。それに倣うようにナガレも同じく直立した。


「……お主、元々この場にはどのような意味があるか判るかのう?」

「今貴方が手にした武器を見れば予想は付きますね」


「……ならば話が早い! 妾はお主、ナガレ・カミナギに決闘を申し込むのじゃ! 妾が勝ったならオークをおとなしく引き渡すが良い!」


「て! はぁ? なんでそうなるよの! てか、そんな理由で決闘って!」


 突如の決闘の申し出に、声を張り上げエルマールへ抗議するピーチ。

 だが――


「いいでしょう、その決闘お受けします。ですが、私が勝ったなら、貴方が隠している事も全て話して貰いますよ」


 ナガレはその申し出を受け、更に条件を突きつけた。

 その言葉に、若干の動揺を見せるエルマールだが。


「別に隠してることなどないがのう」

「……今はそれでいいでしょう。ですが、私に隠し立てなど無意味だという事を肝に命じておいてくださいね」


「てか、どうしてこうなっちゃうのよ……」

『なになにどうなってるの?』

『もしかして喧嘩とか?』

『え~やめようよ~喧嘩なんて~』

『……』


 そして、よもや自分たちの運命が掛かっているとも知らず呑気なオーク達でもある。


「お主は随分な自信じゃのう。そこまでの自信があるという事は、やはり相当レベルが高いのであろうな」

「いえ、私のレベルは0ですよ」

「……は、はぁ?」


 思わず怪訝な顔で疑問の声を発してしまうエルマールである。

 どうやらエルフ達は、ナガレ式の事は知っていてもレベル0の冒険者の噂は知らなかったようだ。


「あの方も中々面白い冗談をいいますね」

「う~ん……何か久しぶりねこの感じ」


 エルフの様子に目を細めるピーチ。

 ハンマの街では既にナガレがレベル0である事など周知の事実なので、寧ろ新鮮に感じたのだろう。


「ふふっ、こんな時にそのような冗談で返すとはのう。流石我が同胞を打ち破っただけあるのう。じゃが、その余裕もどこまで持つかのう?」

「いえ、冗談のつもりはないのですがね」


「ふんっ、まぁよい、ならば参考までに妾の力を教えてやろうかのう」


 そこまで口にし、更に一拍置いた後、自信のこもった表情でエルフの長は言葉を紡ぐ。


「妾のレベルは53じゃ――」

今のピーチのレベルが18です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ