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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第三章 ナガレ冒険者としての活躍編

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閑話 其の九 選択肢は与えない

復讐シーン

残酷描写注意

「ひっ! な、なんだよこいつら!」

「お、おい! 空からだ! さっさと魔法か弓――」

「馬鹿! 既にどっちも殺され、ぎゃぁああぁあ!」


 空から強襲したガーゴイルの爪に切り裂かれ、立ち塞がったレッサーデーモンの炎に次々と焼きつくされていく。

 悪魔たちの犠牲になっていくそれは村から出てきた奴隷商人達であった。

 その護衛にはそれなりの実力を持った冒険者が雇われていたようだが、悪魔の力には遠く及ばなかった。


 結局ものの数分で、夜の街道には無残な肉片が散乱することとなった。


 そして――馬車の中には震える母親と娘の姿。手と足には枷が嵌められている。

 しかしまだ首輪は嵌められていない。相手の自由を奪い服従させる隷属の首輪は個々に合わせて調整する必要が有るため、比較的大きな街に戻らなければ用意できない。

 そういった意味では、村を出たばかりのふたりはまだ運が良かったのだろう。


 手枷も足枷も木製の為、レッサーデーモンの手で難なく破壊された。

 親子ふたりは震えながらも目を丸くさせる。が、悪魔たちはそのまま親子には手を出さず、その場を離れていくのだった。





『ふむ、奴隷堕ちしそうな母娘を助けるなどとはな。随分と優しいところがあるではないか』

 

 悪魔の書が皮肉るように言う。しかしサトルは鼻を鳴らし、別に、と一言つぶやいた後。


「ただ、西島の思い通りに事が進むのが気に入らなかっただけだ」


 そう言葉を続けた。なるほどな、と得心が言ったように悪魔の書が返す。


『それで、肝心のニシジマとやらはどうする気なのだ?』


「決まってるだろ、勿論復讐するさ。観察は十分したしな」


 サトルは復讐対象が現在暮らしてる村の近くまで来た後、悪魔の書から百十一位のインビジブルストーカーを使役し、西島の様子を探らせていた。


 この悪魔は実態の掴めない靄のような存在であり、戦闘能力は持たないが、対象に付き纏い監視させる事が出来る。

 サトルはこれに悪魔の書第五十位であるデビルミラーを組み合わせた。


 デビルミラーは場所を指定すればその場面を鏡面に映し出す。

 だがそれとは別に他の悪魔との組み合わせで面白い効果を発揮する。


 例えばインビジブルストーカーもそうだが使役した別の悪魔と組み合わせることで、その悪魔が視ている場面を鏡面に映し出せるし、中野に使用したブレインジャッカーであれば記憶の中にある場所の現在を映し出せる。


 面白いのはこのデビルミラーの映しだしたものは世界の束縛を受けないという事だ。

 そしてかなりの魔力を使用する事になるが、映像先についても多少の干渉が可能で、生物の行動の操作が可能であったりする。


 ただ、今のサトルの魔力量ではまだそこまで大きな事は出来ない。

 なので、サトルとしては早く一桁台の悪魔が使役できるぐらいまでレベルを上げたいところでもある。


 それはそうとして、サトルは既に殺した三人の内、中野が言っていた、西島が子供たちに勉強を教えている、という話がどうしても解せなかったのだ。


 この男が何の見返りもなくそんな事をする筈がない――そう思ったうえでの悪魔を使った調査だったのだが、結果は案の定、やはり西島はろくでもない教師であった。


 尤も、例え本当に善意で子供たちに勉強を教えていたとしてもサトルは到底許す気になどなれなかっただろう。


「さて、行くか――」


『ふむ、嬉々としたその表情、悪くないが、だがあのような矮小な村であるぞ。こんな夜更けに余所者がウロウロしていては目立つであろう』


「おいおい、俺がそんな事も考えてないと本気で思っているのか?」

 

 言ってサトルは悪魔の書に手を添える。


「いでよ、悪魔の書第二二二位アークミスト――」


 サトルが唱えると書物が開き、そこから煙の塊のような悪魔が姿を現した。


『なるほど。確かにその悪魔であれば主が纏うことで見姿を朦朧とさせ、他者から認識されにくくなる。ふむ、随分とこれを使いこなせるようになったではないか』


「当然だ。復讐の為なら俺はいくらでもこれを使いこなす」


 邪悪さの漂う笑みを零しサトルが呟く。

 その様子に悪魔の書はどことなく満足気であった――






◇◆◇


「サ、サトル! な、なんでお前がここに!」


「いや、ぶっちゃけもうその質問飽きた」


 悪魔の力で難なく西島の下に辿りつけたサトルであったが、その姿を見た時のお決まりの台詞に辟易した様子で肩を竦めた。


「俺が何で死刑になってないかとか聞きたいんだろ? ここにいる時点で察しろ馬鹿。お前らとは別に俺も召喚されたんだよ」


「召喚、だ、と? 馬鹿な! お前はあの場にはいなかったはずだ!」


 こいつ耳が腐ってるのか? とサトルは思わず溜め息を吐いた。

 こんな奴によく教師が務まったもんだと色々な意味で思う。


「だから、別に召喚されたんだと言ってるだろ。てか、正直そんな事はどうでもいい。西島、俺が何故わざわざこんな辺鄙な村まで来たか判るか?」


 その質問に明らかに西島は動揺を見せる。

 この男はサトルを見捨て、虐めも見て見ぬふりをするばかりか、そこで呑気に寝息を立てている百島と一緒にサトルを嘲り、虐めを誘発するよう仕向けた。


 当然サトルが恨みを抱いていることぐらい、この男は理解している筈である。


「ま、まさか復讐とか馬鹿な事を言うつもりじゃないだろうな?」


「……そのまさかだといったら?」


「くっ! ほ! ほの――」

「おいおい、いいのかい彼女を起こしてしまって? あんたの秘密が彼女に露見するだけだと思うけどな」


 サトルの発言に、何? と西島が眉を顰めた。


「な、何を言っているんだ貴様は――」

「全く、教師ともあろう御方が、ちょっとおいたが過ぎるんじゃないのか? 借金の形に人妻の身体を貪り、剰え奴隷として売り飛ばすなんてな」

「――ッ!?」


 西島があんぐりと口を開けたまま固まった。あまりのマヌケヅラに思わず殴りたくなるサトルだが、一旦は堪えて話を続ける。


「なんでそれを? といったところか。それが俺の能力の一つだよ。てめぇの行動は暫く観察させてもらったからな」


「……ふ、ふん、だからなんだというんだ!」


 西島は開けっ放しだった口を閉じると、今度は開き直り始める。


「こっちには帝国の後ろ盾もある! お前なんかが何を言ったところで――」


『それはとんだ勘違いですね。私は貴方の身体を条件に支払いを待ってあげたに過ぎません。確かに貴方とは五回ほど関係を持ちましたが、だからといって五回分の請求が消えてなくなるわけでもないのですよ。それに支払いを遅らせれば当然利子も上乗せされる』


 サトルは悪魔の書からデビルミラーを使役し、記録しておいた映像を鏡面に映しだした。

 強気だった西島の動きが再び固まり、額から大量の汗が滲み出る。


「これを村の人間やそこで寝ているあんたの彼女に見せたらどうなるかな? うん、中々面白い事になりそうだけどな。ついでにあんたがこれまでに滞在した村に行き、これをみせて回ってもいいかもな」


「……わ、判った。もうお互い腹の探り合いはやめよう」

 

 西島は観念したようにそんな事を言ってくるが、サトルは別に探りあいなんてしていた覚えはない。


「お前も、ただ復讐したいだけならこんな脅迫めいた事はしないだろう? 何か目的があるのだろうさ。金か? 女か? 俺の出来ることなら――」


「そうか、話が早くて助かるな。だったら取り敢えず今から南の森に向かえ。用件はそれから話す」


 西島が話し終わるのを待たず言葉を重ねたサトルに、は? と怪訝に眉を顰め。


「おいおい、なんで俺がわざわざあんなところまで――」

「おい、勘違いするなよ? 最初からお前に選択肢なんてものはない。拒否する権利だってないんだからな」


 そこまで言った後、サトルは悪魔の書から第九十八位のグレーターデーモンを呼び出した。

 レッサーデーモンの上位種で、盛り上がった筋肉を誇り青紫色の肌を有した逞しい身体。

 頭からは湾曲した角を二本生やした悪魔だ。


「な、ななっ、なんなんだそいつは!」


「お前の監視役だよ。まぁ出るときには他の村人からは見えないようにしておくけどな。こいつと今から南の森にいけ。逆らってもいいことがないことはその鼻でとっくに判ってるんだろ? でも残念だったな、対面した相手しか判別がつかないなんて中途半端な能力じゃ、俺から逃げることは出来ない」


 そういってから、ククッ、とほくそ笑む。

 西島は絶望に満ちた表情をしていた。最初からグレーターデーモンで脅さなかったのは、下手にパニックを起こさせないためだ。

 先ずは精神的に優位に立ち、こいつには逆らえないと思わせた時点で条件を出す。

 

 最初にサトルが何かを欲してると思わせることで、冷静にさせた上で、有無を言わさず要求を突きつけた形だ。

 これで西島が断る事も逃げ出すこともないだろう。


 尤も逃げようとしたところで、グレーターデーモンに痛い目に遭わされるだけだが。

 何せ西島のステータスもスキルも戦闘向きではない。抗うすべなどありはしないのだ。


「……お前は一緒に来ないのか?」

「俺はその前にあんたの彼女と話がある」

「……穂乃果をどうするつもりだ?」

「お前がそれを気にする必要はない。いいからさっさといけ――それとも……」


 そこまでサトルが言うと、わ、判った、と返事し、西島はグレーターデーモンと南の森に向かった。

 悪魔にはアークミストも組ませてるので村人に見つかることはない。


 そして西島が出て行った後、サトルはゆっくりとベッドで眠り続ける百島に近づいていった。






◇◆◇


「お、おい一体どこまで連れて行く気だ?」


 西島はグレーターデーモンを振り返り問うが、全く反応はない。

 ただ、時折指で行く道を示すだけである。


(くそ! なんだって俺がこんな……)


 心のなかで愚痴を零す西島。しかし同時にどこか安堵している気持ちもあった。

 恐らくサトルは百島にたいしても何かしらの復讐を考えているのだろう。

 いや、もっといえば主な復讐対象は百島だけかもしれないとさえ西島は思っていた。

 

 彼の中で、女を目の前にした男の考える復讐なんてものはアレしかないだろうという思惑があったからだ。

 そしてそれさえ済めば意外と後はどうでもよくなる可能性も高い。

 十代の男の感情なんてそんなものだ――そんな風に高を括ってさえいた。

 

 そもそもすぐに殺さなかった時点で、西島自身は殺す対象ではない筈だとさえ考えている。

 百島の対応次第では、もしかしたら彼女は殺されるかもしれないという事も頭をよぎったが、それならそれで仕方ないという思いもある。

 西島は自分の身のほうが可愛いのだ。寧ろ百島一人の命で己が助かるなら安いものである。

 あの胸は惜しいが、命に変えられるものではない。


 そんなことを考えながら歩いていると、グレーターデーモンが再び指で方向を示す。


「おいおいあまり奥に行くと魔物が……判ったよ、行けばいいんだろ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を見せながら示された方向に脚を進める西島。

 そして更に数歩大地を踏みしめたその瞬間であった、突如地面の中から何かが飛び出し、西島の両足にそれぞれ喰いついたのである。


「な!? が、ぎぃいいぃいいい! 脚が! 俺の脚がーーーーーー!」


 それは一瞬の出来事であった。両足に喰いついたそれは西島の足首から先を食い千切り再び地面の中に潜り込んだのである。


 これは悪魔の書第一九八位のガブリン。サトルが予め仕込んでおいたトラップタイプの悪魔だ。トラバサミが生物化したような悪魔で、鋭利な歯を用いて定められた範囲内に足を踏み入れた獲物に喰らいつく。


 両の足首から先を失った西島は当然バランスを崩し、その場に崩れ落ちる。 

 そして己の脚を手で押さえゴロゴロと転げまわった。

 

 だが、サトルの仕掛けはこれで終わりではない。ここは南の森の奥に近い場所。しかも夜、西島の両足が食いちぎられた事で血の匂いが辺りに充満し――


「グルルゥ――」


 そして、当然のように血の匂いに引き寄せられた魔物たちが西島の周囲に集まってくる。


「な、なんだこれは! お、おいお前! 俺を助けろ! このままじゃサトルが来る前に食い殺されてしまう!」


 だが、グレーターデーモンは何も語らず静観を決め込むだけだ。

 ただ、勿論サトルとて、西島を魔物に食い殺させて終わらせるつもりはない。

 

 既に下準備として西島をあっさり殺せそうな魔物は駆除している。

 やってきたのも大して強くない獣型の魔物ばかり。

 この魔物ならすぐに西島を殺せはしない。少しずつその肉を捕食し、痛みを与えるのが関の山だ。

 

 それに死にそうになれば一応グレーターデーモンが助けに入る。

 だから西島は安心して魔物に食われ続ければいい。


 そして真夜中の森のなかに、教師だった男の絶叫が響き続けた――

サトルの復讐は続く――

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