閑話 其の八 教師、西島 勇という男
この閑話にはナガレは出てきません。
サトルという少年がメインの話です。
復讐が主な内容であり残虐な表現も多いです
閑話は読まなくても本編に影響しないよう書いていくつもりですので苦手な方は本編の続きまでお待ち下さいm(__)m
「そ、そんな話が違います!」
「話が違う? はて? 何が違うのか理解が出来ませんが――」
レンズの奥の瞳を冷たく光らせ、西島 勇は目の前の女に向けて愛想なく返した。
女の顔には明らかな動揺が見え隠れしている。
「だって! だってその、私の身体で授業料の代わりにしてくれるって……だから、だから夫にも内緒で、なのに!」
必死に訴えてくる女に向かって、西島はわざとらしく大きな溜め息を吐き頭を振ってみせた。
「それはとんだ勘違いですね。私は貴方の身体を条件に支払いを待ってあげたに過ぎません。確かに貴方とは五回ほど関係を持ちましたが、だからといって五回分の請求が消えてなくなるわけでもないのですよ。それに支払いを遅らせれば当然利子も上乗せされる」
「そんな、だ、だからってこんな、五回分で一〇万ジェリー、それに利息を加えて六〇万ジェリーだなんて……」
女は狼狽した様子で声を震わせた。この村の平均収入は月でみても一世帯五〇〇〇ジェリー稼げれば良い方である。
当然、彼女に六〇万ジェリーなどという大金を用意できるわけもない。
「……お、お願いです。わ、私の身体で良ければ好きにしていいですので、どうか支払いはお待ちを――」
そして、懇願する。膝をつき、平伏し、なんとか待ってもらおうと彼女も必死だ。
夫に悪いという気持ちもあるのだろうが、現状他に打つ手はないのだろう。
「……なるほど、確かに魅力的なお話ですがね」
西島は眼鏡の弦をクイクイっと上下させ、笑顔を浮かべ発するが。
「ですが、どうせ身体を張るなら支払いに回して欲しいのですよ。正直私もその身体に飽きましたしね」
え? と女が顔を上げる。その視線の先には下卑た笑みを浮かべる西島の姿があった。
「先生、奴隷として持っていくのはこの女と餓鬼でいいんですよね?」
「あぁ、そうですね。ふたりとも中々上玉でしょう? 色を付けてくれるとありがたいんですが」
部屋の中にいつの間にか入り込んでいた屈強な男たち。そしてその一人に拘束されている少女を見て女が叫んだ。
「そんな! どうして! どうして娘が!」
「あははっ、何をそんなに驚いているのですか? 六〇万ジェリーも支払いが溜まってるのですよ? まさか貴方一人の身だけで済むわけがないでしょう」
何を馬鹿なことを、と言わんばかりに鬼畜な笑みを浮かべ西島が言った。
その様子に女が絶望を表情に貼り付ける。
「こ、こんなのおかしいわ! 大体元々、貴方は奉仕の気持ちで勉強を教えに来たって! それなのに!」
「えぇ、確かに最初の一回はその通りですよ。でもそれは二回目の授業が終わった後に伝えたじゃないですか。皆さんには二回目以降しっかり心配りとして報酬を頂いてると。その金額を聞いて貴方も納得してましたよね?」
「そ、それは帝国からも認められてると言われていたから――でも! だからってこんな法外な利息! それが支払えないから子供までなんて!」
女は一生懸命食い下がるが、西島は既に聞く耳を持っていない。
ちなみに帝国の後ろ盾があるのは事実である。ただ金額は西島の好きに決めていいという形であり、ただしあまり無茶はするなという話でもある。
だからこそ西島は殆どの村人からは、出来る範囲であくまで御布施という形で少量の額を頂いているに過ぎない。
ただし、それだけでは西島からしてみれば全く旨味がない。
わざわざこんなチンケな村にやってきて、善意で勉強を教えるだけに終わるほどこの男は出来た人間ではない。
彼はスキルとして【嗅ぎ分け】を取得している。これは対面した相手や目にした物が、自分にとって有益か否かを匂いで判断するスキルである。
もしそれが自分に取って利になるものであれば、芳しい良い匂いが漂い、特に何も生み出さいなら無臭、そして、それが危険であるなら悪臭でもって知らせてくれる。
西島はそのスキルを利用し、行く先々の村でカモを見つけ、このようにして法外な授業料などを請求して回っていた。
その対象は常に女、勿論西島から勉強を教わるのが子供である以上、その相手は全て人妻であり、支払いを出来ないならその代わりにと、肉欲を満たし続けていたのである。
そして――それに飽きた場合の末路は、この親子と同様であり。
「こ、こんなのもし主人が戻ってきたら絶対に納得しませんよ!」
「う~ん、その件ですけどね。確かにもしご主人がいたなら、そろそろ支払いをどうするか相談しようと思っていたのですが」
西島の言葉に、女は黒目を落ち着きなく動かす。
やはり夫には知られたくないという思いが強いのかもしれないが。
「ですが、残念ながらそれも叶わないようなのですよ。なぁ? そうだろ?」
「えぇ、この家の旦那は南の森の奥に入っていたみたいでね。全く、あの森の奥は危険な魔物がいるからと忠告は受けてたと思うんですけどねぇ。なんであんなところまでいったのか。なので残念ながら今頃魔物の腹の中ですよ」
だ、そうですよ、と西島はわざとらしくレンズの上から目頭を押さえるようなポーズを取って見せる。
「……嘘――」
「嘘ではないさ。ほら、これは形見だ」
言って男は指輪を一つ、床に転がした。
それは、彼女と夫が結婚する際、無理して購入したお揃いのペアリングであった。
「あ、あぁあああああぁああ! どうして! なんで! こんなの嘘! 夫は! 夫はこれまでだって森の奥なんて脚を踏み入れたことないのに! どうして!」
西島は思わず顔を背ける。笑いを堪えきる事が出来なかったからだ。
そして当然だが、邪魔な夫は西島が彼らに頼んで処分して貰ったのである。
「まぁそういうわけだ。旦那もおっちんじまった以上、もう身体で払うしかないわけだし諦めるんだな」
「いや、ママぁ! 嫌だ! 嫌だよぉ!」
「そんな! こんなの! こんなの酷い!」
「ちょっと煩いですね。口を塞いじゃった方がいいでしょう」
「はい、お前らやれ」
男が命じると部下と思われる連中が娘と女の口に猿ぐつわを噛ませ、手早く縄で縛り上げた。
「さて、先生の言うとおり、今回もこいつらは帝国に対して不正を働いたという事で連れて行きますんで」
これは村人への説明のための措置であった。
また、どっちにしても帝国側はこの件に関して不干渉であり、村から数人が奴隷として売り飛ばされたとしても、召喚されし者の特権で不問となる。
勿論、やり過ぎると村そのものの存続に関わるため、西島も獲物は厳選し、精々村全体の一割程度を売りさばくぐらいで済ましている。
「金額は、こっちの女はそれなりに薹が立ってるので一万ジェリー、餓鬼の方はそれなりに容姿もいいんで四万ジェリー、合計五万ジェリーでどうですかな?」
「あぁ、それで構わないよ」
西島は素直に納得し金額を受け取った。西島が親子に要求した金額よりは随分と低いが、あの金額はそもそも最初から払えない額を押し付けるためだけに過ぎないので問題はない。
西島はどちらかというと異世界の女を味わうことの方に趣を置いているので、そこまで大金を稼ぐ気はない。
暮らしていく上で、ある程度不便なく多少の贅沢をしていけるぐらいあればいいのである。
それに、これでも人間はまだ高いほうだ。獣人ともなれは単価は更に低くなる。
(この村の規模だとあと一世帯が限界かもな)
村人に対しては罪人として、実際は奴隷として売り飛ばされ連れて行かれる親子を眺めながら、西島は黙考する。
そしてその脚で西島は今の住まいへと戻った。
「先生~お帰りなさい~」
西島が戻るなり、百島 穂乃果が飛びつき、その豊満な乳房を彼の胸元に擦りつけてきた。
相変わらずフェロモンを垂れ流してるな、と思いつつ、西島は彼女の肩まである黒髪を優しく撫でた。
西島の方が背は高い為、彼女を見下ろす形となるが、異世界に来ても相変わらず露出度の高いドレスを好んで着ている為、谷間がよく目立つ。
「先生、食事にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」
媚びた目でそんな事を訊いてくるが、これは穂乃果が毎日のように訊いてくる事である。
村は小さいため、風呂を所有している家は少ないが、帝国から預かっている貴重な魔道具があるので、水さえあればお湯は用意が可能。
浴槽に関して言えば、大きめの樽で代用している。
水は井戸水を汲む必要はあるが、それは村人が好意でやってくれている為、問題はない。
「そうだな、じゃあいつもどおりで」
西島がそう告げると、うん判った、と笑顔で返し夕食の準備にとりかかる。
西島のいつもとは、食事を摂り、風呂に入り、そして穂乃果を抱くことである。
「ところで今日は先生どこいってたの? 授業の日じゃないよね?」
「うん? あぁ頼まれて個別指導だよ」
「え? それって勿論ボランティアとかじゃないよね?」
「勿論、報酬はしっかり受け取ったさ」
西島が答えると、流石先生、とぶりっ子な仕草で言う。
彼は彼女には当然、人妻との情事の事もそして飽きたら奴隷として売り飛ばしている事も話していない。
尤も奴隷として売り飛ばしている事だけなら彼女から何が言われるような事はないだろうが、女は勘が鋭い。そこから身体で支払いの代わりをさせてることに気が付かれる可能性がある。
穂乃果は嫉妬深い女である。日本にいる時も付き合い始めてからは、他の女生徒と親しげに話すだけでヤキモチを焼かれた。
正直いうと、西島は彼女のこういったところはうざったくもあった。
今でも彼女と付き合ったのは半分正解で半分間違いだったと思っている。
西島は当時からスキルがなくてもなんとなく堕として問題のある女と、厄介な女を嗅ぎ分ける力を持っていた。
だからこそ、数多くの女生徒と次々に関係を持っても、大きな問題には発展しなかったのである。
おそらく今彼が持ってるスキルも、そういった事が影響しているのだろう。
そして、事この穂乃果に関して言えば、当初から厄介そうな匂いはしていた。
ならば何故付き合ったのか? と疑問に思うところだが、それは彼の性癖に寄るところが大きい。
西島はとにかく胸の大きな女が大好物だった。
しかも、穂乃果に関して言えば自分から積極的に西島にアプローチしてきたのである。
それに遂に西島も我慢ならず、ある時彼女をホテルに連れ込み、そしてその晩は彼女を何回も抱いたのだ。
だが、やはり西島の予想通り穂乃果は厄介な女であった。
特に口が軽かったのが痛かった。おかげで少なくともクラスの生徒の間では西島と穂乃果が付き合っている事は周知の事実となってしまったのである。
これは本来大問題ではあるが、それも明智 正義のおかげでなんとか事なきを得た。
尤も、そのおかげで彼は明智には逆らえなくなってしまったわけだが――
そんな事を思い出しながら、テーブルに並べられた食事に手をつけつつ、穂乃果の顔を見る。
穂乃果は決してブスではない。だがそこまで美人というわけでもない。
ランクとしては中の上ぐらいだろう。現役芸能人である新牧 舞と比べてしまうと月とスッポン程の差だってある。
正直異世界に召喚された時点で、この女とはもう別れてもいいのではないか? と思った事もあった。
だが、それでもやはりクラス一、いや少なくとも元の世界では学園一の爆乳であった彼女を手放すのはやはり惜しい。
今でも西島が穂乃果と一緒にいる理由はその一点でしかないのである。
だが、やはり数多くの女と関係を持ってきた西島である。たった一人の女に縛られる毎日など耐えることが出来ない。
だからこそ、西島は行く先々の村で獲物を見つけ、無茶な金額を請求し、人妻を食いまくっている。
そして金を得るためと証拠を消すために、何度か抱いた女は奴隷として売り飛ばしているのだ。
「ん、先生相変わらず、胸責めるのが好きだね――」
ベッドの中で嬌声を上げながら、穂乃果がそんな事を口にした。
当然のことを聞くなよ、と心の中で返しつつ、黙って西島は穂乃果の胸を弄ぶ。
西島にとって穂乃果は胸以外に価値の無い女だ。
料理だって大して上手くもない。
それでも我慢してるのは彼女の胸が忘れられない為なのである――
そして――やる事を済ました後、ベッドですやすやと眠る穂乃果を横目に、西島はベッドから抜けだして、水差しから木製のコップに水を注いだ。
夜の運動が終わって喉が渇いたのだろう。
そしてグビグビと喉を潤した直後だ。
――コンコン。
入り口のドアを叩く音が聞こえた。
それに怪訝に眉を顰めながら、こんな夜更けに誰だよ、と呟き、どこか面倒そうに扉を開けた。
「……よぉ西島先生。久しぶりだな」
そして、ドアを開けた先に立っていたのは、忘れもしない、西島が見捨てた教え子、サトルであった――




