第十二話 武器はこれを使え
フレムとバットは町を出た後、ついてこいと言われ先を進むエグゼの後を追いかけた。エグゼを慕うバットは特に文句もなさそうだがフレムの顔つきは不機嫌そのものである。
「クソ! お前あれが俺にとってどれだけ大事な武器蚊わかってるのか!」
「知らん。知りたくもない」
「テメェ! いいかあの武器は俺の親父の形見なんだよ!」
「そうか。だったら気の毒にな。どれだけ想いのこもった武器でも使い手がお前じゃな」
「な!?」
フレムが絶句し、直後にエグゼに詰め寄る。しかしエグゼは気にする素振りもない。
「何だ? 一丁前に切れてるのか? そこまで親父の事を尊敬していたってことか?」
「…………」
顔を近づけエグゼを睨むフレムだったが、父親について問われた途端視線を逸らした。
「――あいつが俺の親父だったのは確かだ。だけど――情けねぇ姿しか覚えてねぇよ」
そう言って頭をボリボリと掻きむしる。フレムが覚えているのは、お人好しが過ぎて利用されるだけされて裏切られ死んだ父の姿だけだ。
「――まぁいいさ。とにかく黙ってついてこい」
そしてエグゼが足を早めた。バットは罰が悪そうなフレムの姿を一瞥した後、エグゼの後に従うが――
「貴様も早く来るのだよ。ま、お前が諦めてこのまま逃げ帰るというなら止めはしないがね」
「誰が逃げるだ! 調子に乗んなよ!」
結局その後もフレムはバットと悪態をつきあいながら先に進む、暫くすると断崖の前に出た。
崖には洞穴のようなものがありエグゼはその近くで足を止めて二人を振り返る。
「とりあえずこれを攻略しろ。それが課題だ」
「チッ、攻略ってことはここは迷宮かよ」
親指で洞穴を指さすエグゼにフレムが言葉を返した。
「そうだ。核のある迷宮だからな。それを壊せばとりあえず課題クリアーだ」
「別にいいけどよ。俺はさっきあんたに武器を売られたんだぜ。まさか素手で挑めとでもいうのか?」
「安心しろ。お前の先生とやらみたいに無手でいけなんて言わんさ。これをくれてやる」
そう言ってエグゼがマントから二本の剣を取り出し手渡してきた。フレムは渋い顔をしながらもそれを受け取り鞘から抜くが――
「な、なんだこりゃ。随分と小さな剣だと思えば中は刃こぼれしてボロボロじゃねぇか。こんなので攻略しろっていうのかよ!」
「いいからやれ。素手よりはマシだろう」
「くっ、クソ! だいたいこんなボロボロの剣どこで手に入れたんだよ」
「ゴブリンを倒した時に持っていた物を拾ってきた」
「ゴブリンのかよ! どうりで小さいと思ったぜ!」
フレムが眉を怒らせて叫んだ。確かにフレムが持つにはその剣はあまりに小さい。
「全く貴様は文句ばかりなのだよ」
「お前は武器も奪われてないからそんなこと言えんだよ。くそ、こんなものでまともに戦えるかよ!」
「このダンジョンはそこまで難所じゃねぇぞ。それなのに武器を言い訳にやる前から諦めるのか?」
「くっ、それは……」
「それにお前はあのナガレの側でずっとあいつを見ていたんだろう? だったらこれぐらい余裕だよな?」
挑発するように底意地の悪そうな笑みを浮かべエグゼが告げた。フレムがグギギッと歯ぎしりする。
「嫌味かよくそが、わ~ったよ。こんな迷宮とっととクリアーしてやる!」
「ハハッ、精々頑張るといいのだよ」
「何いってんだ。お前も行くんだよ」
「えぇぇえぇええ!」
迷宮に向かうフレムに声を掛けたバットであったが、エグゼについていくよう言われ目が飛び出んばかりに驚いていた。
「お前はお目付け役みたいなもんだ。あいつがしっかりやってるか見とけ」
「そ、そういうことでしたか! それならばこのエグゼあの男が不正を働かないよう張り切って監視します!」
「単純な奴だなお前」
「へ?」
「なんでもねぇよ。さっさといけ」
こうしてエグゼに命じられフレムの後を追いバットも迷宮攻略に向かうのだった――