第十一話 一から鍛え直される事となったフレム
「ま、お前が負けたのは確かだからな。大人しく俺に従え下僕」
「は? げ、下僕だと!」
「俺がお前をわざわざ鍛えてやると言ってるんだ。つまりお前は俺の下僕。お前はそうだな俺のことをボスと呼ぶことを許可してやろう」
「グギギギィ!」
エグゼに色々と決めつけられ悔しそうに歯噛みするフレム。しかし実際にバットに負けている以上文句も言えない状況だ。
「ハハハハハハハハハッ! ザマァないのだよ。ならばこの私のことは様付けて呼ぶことをきょかしてやるのだよ」
「はっ? なんでテメェまで調子に乗ってんだよ!」
「お前はこの私に負けたのだから当然なのだよ。ですよねエグゼ様?」
「うん? 別にお前らは好きに呼び合えばいいだろう」
「えぇええぇえええぇえ!?」
エグゼの素っ気ない返しに驚きを隠せないバットであった。
「お前、もしかしてあいつに相手にされてないんじゃないか?」
「そ、そんなことはないのだよ! というかしっかりボスと呼ぶのだよ!」
「クッ、わ~たよ。で、テメェはボスに何を教わったんだよ?」
「フッ、直接教わってなどいないのだよ。エグゼ様は見て盗めというタイプなのだよ」
得意げに語るバットだがフレムは微妙そうな顔を見せていた。
「それなら俺は先生を見て盗みたいんだがな」
「安心しろ。お前みたいな単細胞にそんな器用な真似は絶対に無理だからな。一から鍛え直す為にしっかり課題は与えてやる。とにかく一旦戻るぞ」
負けた以上仕方がないとフレムは大人しくエグゼについていった。町に戻るとエグゼは武具屋についてこいという。
「何だ? 俺は今の武器を気に入っているし今更この町で買うようなものはないぜ?」
「いいから黙ってついてこい」
「そうなのだよ。エグゼ様がこう言っているのだから黙って従うのだよ」
「ウゼェ」
「あん?」
「あぁん?」
顔を突き合わせ威嚇し合うフレムとバットに嘆息するエグゼ。そして三人で武具屋に入った。それほど大きくもない店であり品揃えも決して豊富とは言えない。
「全く今更こんなの見せられてもな。正直使う気になれないぜ」
「よしフレム俺に喧嘩売ってんだな」
奥の店主が蟀谷を引くつかせながら言った。太い腕を組みフレムを睨むが、本気で怒っている様子でもない。
「たく、久々に戻ってきたと思えば随分と小憎たらしくなったじゃねぇか」
「俺は本当の事を言っただけだ。もう少し良い品を置いたほうがいいぜ」
置いてある武器を手にしながら意見するフレム。そんなフレムにエグゼが体を向けた。
「そこまで言うならお前の武器をちょっと見せてみろ」
「おう! これだぜ。長年使い続けた俺の愛剣だ」
そう言って双剣を見せるフレム。エグゼはまじまじとソレを見た。
「随分と使い込まれてるな」
「だからいってんだろう? 長年使ってきたってよ」
「そうか。で、これは幾らになる?」
「はぁああぁああぁああぁあッ!?」
唐突にエグゼが預かった双剣を売りに出し、思わずフレムが素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと待て! 何やってんだこら!」
「大分使いこんでるなこりゃ。ま、五千ジェリーってところか」
「そうかならそれでいい」
「それでいいじゃねぇええぇえ! てか安すぎだろこら!」
フレムが文句をいい取り返そうとするがエグゼはフレムの顔を押しのけ一切聞く耳をもたない。
「ま、飯代ぐらいにはなったか」
「おま、おま、ななななななあななな、なっ、なんてことしてくれてやがんだこの野郎!」
エグゼの襟首を掴もうとするフレムだがその腕を逆に取られ地面に押し付けられ関節を決められた。
「テメェは俺の下僕だと言ってんだろうが。口答えすんじゃねぇよ」
「グギャァア! いでででで、ギブギブギブギブ!」
関節を極められ苦痛に悶えるフレム。そんな様子を見ていたバットが呆れたように口を開いた。
「全く情けないものなのだよ。ま、これにこりてエグゼ様に逆らおうとしないことだ」
「黙れよ金魚のフン!」
「は? 誰が金魚のフンなのだよ! 蝙蝠使いとしては聞き捨てならないのだよ!」
「だったら蝙蝠の糞だテメェは!」
「うん? それなら問題は無いのだよ――いや大ありなのだよ!」
再びいがみ合うフレムとバットだがエグゼは今度はそんな二人の襟首を掴み強引に引っ張った。
「邪魔したな」
「あぁ、まぁあんたも色々大変そうだが頑張ってくれや」
「て、お前今度はどこに連れて行く気だ!」
「エグゼ様、私は自分で動けますからぁぁあ!」
「いいから来い」
こうして店主に労いの言葉をかけられつつエグゼは二人を引きずって再び町を出たのだった――