第八話 エグゼとバット
立ち上がろうにも思うように体が動かせないフレム。その姿を見てエグゼは鼻を鳴らしバットに言った。
「お前の持ってる解毒剤をくれてやれ」
「え~こいつ助けるんですか?」
「いいから早くしろ。こっちも一応約束があるからな」
「はぁ、わかりましたよ」
渋々といった様子でバットが懐から小瓶を取り出すと蓋を取りフレムに近づいていった。
「ほらよ、これで動けるようになるだろうよ」
「ブハッ! てめぇ何しやがる!」
バットは瓶の中身をフレムの顔面にぶちまけた。中身は液体である。お陰で口の中に入った液体で咽せてしまうフレムである。
「ハッ、薬の効果は中々だったようだな」
エグゼに言われ、フレムが目を白黒させた。両手を眼の前でかざし指が動くことを確認する。
「毒が、消えた?」
「当然だ。この薬は俺が調合したものだからな」
腕を組んだバットが自信ありげに答えた。その様子にフレムが眉を顰める。
「お前が調合したって大丈夫かよ。あとからぽっくりいくんじゃねぇだろうな?」
「あん? 今すぐぽっくりいかせてやろうか?」
「おう。やれるもんならやってみろや」
フレムとバットが顔を突き合わせにらみ合う。その様子にやれやれとエグゼが後頭部を擦った。
「じゃれあってんじゃねぇよ」
「誰がじゃれあってんだ誰が!」
エグゼの言葉にフレムが言い返した。かなり嫌そうである。
「それよりもこいつらだ。この雑魚が何でお前を狙ってたんだ?」
「――昔、こいつらが調子に乗ってたから俺が痛めつけたんだよ。それを根に持って狙ってきたようだ」
「フンッ。雑魚らしい馬鹿な考えだな。殺すか?」
口角を吊り上げエグゼがフレムに問いかけた。フレムの答え次第では本当に始末しそうな様相だ。
「そんな奴ら殺す価値もねぇよ。ま、ギルドに突き出すがな」
「フンッ。なるほどな。だったらさっさと終わらすか。バット」
「おまかせを!」
エグゼに言われバットがマントを広げるとコウモリがバサバサと飛び出し倒れたゲスナや冒険者に群がり持ち上げた。
「そん中にどれだけコウモリ入れてんだよ」
「フンッ。こいつらは俺の仲間だ。常に一緒にいる大事な親友なのさ」
「コウモリしか友だちいないのか。寂しいやつだな。頑張って生きろよ」
「誰がコウモリしか友だちいないと言った誰が!」
同情的な目をフレムに向けられ、心外なとバットが叫んだ。
「いや、お前コウモリ以外友だちいたのか?」
(エグゼ様まで酷い!?」
エグゼにまでそんなことを言われバットが泣きそうな顔になった。そんなやり取りをしつつも三人は冒険者ギルドに向かう。
「ところでそもそもあんた何者なんだよ」
「お前はさっきから失礼な奴だな! エグゼ様はSランクの特級冒険者だぞ! 本来ならお前如きが話しかけるのも恐れ多い存在だ!」
バットの話を聞いたフレムがエグゼに視線を向ける。するとそれに気づいたエグゼがフレムの方を見た。
「ふん。なんだ? じろじろ見やがって。言っておくが俺にそんな趣味はないぞ」
「俺だってねぇよ! はぁ。だからそれでその特級冒険者様が何でここにいるんだよ」
「言っただろう。別に来たくて来たんじゃねぇよ。だが勝負に負けたからな。約束だし守るために来た」
「約束? そういえばあんたさっきもそんなこと言ってたな」
「あぁナガレに言われたんだよ。雑魚のお前を鍛え直せってな」
「は? え? し、先生があんたにだってぇええぇえ!」
エグゼの答えにフレムが素っ頓狂な声を上げるのだった――




