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第七話 フレムの油断

「テメェ――一体どういうつもりだ?」


 肩を押さえつつ怒りの形相でフレムはゲスナに問いただす。


フレムからすればこの程度の針、蚊に刺された程度のものでしかない。細やかな抵抗のつもりだったのか? と眉を顰めるが、ゲスナの嫌らしい笑みだけが不気味だった。


「掛かったな馬鹿が。お前がそうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだぜ」

「なんだ、と?」


 指をさしフレム相手に勝ち誇るゲスナ。怪訝に思うフレムだが、その時彼の膝がガクッと崩れた。


「くっ! こいつは――」

「どうやら効いてきたようだな」

「テメェ、針に何を仕込みやがった……」


 フレムがゲスナを睨んだ。そのタイミングで気絶していたゲスナの仲間たちも起き上がりだす。


「カカッ、そんなもの聞くまでもねぇだろうが」

「くそったれ、体が痺れてきやがる」


 地面に膝をつくフレム。その様子を満足げに眺めるゲスナ。そう、フレムの体に異変が起きたのはゲスナが針に仕込んだ毒による効果だった。


「どうだ? お前、麻痺毒とかいけるクチか?  俺が作った特別製の麻痺薬なんだがよ」

「テメェ、まさか、最初からこれが狙いだったのかよ……」

「はは、気づくのが少し遅かったみたいだな!」


 ニヤリと笑い舌なめずりをするゲスナとその仲間たち。まんまとしてやられてしまい唇を噛むフレム。くそっ! とその表情に悔しさが滲んでいた。


(何やってんだ俺は! こんなんじゃナガレ先生に顔向け出来ないぜ!)

 

 ナガレの顔がフレムの脳裏に浮かび上がる。自分の不甲斐なさを情けなく思うフレムだったが、そこへゲスナの蹴りが飛んできた。フレムの体は毒で思うように動けずケリをまともに受けて地面を転がってしまった。


「おいおい、どうしたんだ? 随分苦しそうだな? 今なら命乞いすれば助けてやってもいいんだぜ? あ、いや、やっぱりやめだ。お前は苦しめてから殺してやるよ!」

 

 ゲスナと仲間が各々武器を抜き下卑た笑みを浮かべていた。


「たく。早速これかよ。だから言ったんだよ命取りになるってな」


 その時だった。フレム達の背後から何者かが声を上げ近づいてきた。


「あん、た、レジの店の――」


 舌が痺れているのかフレムの言葉はたどたどしい。しかし彼の事はしっかり覚えていた。食堂でフレムに文句をつけてきた男だ。


「な、なんだテメェは! おかしな髪型しやがって!」

「あん? 誰がおかしな髪形だ! 今すぐぶっ殺すぞ!」


 ゲスナに髪型を指摘され男が怒鳴り返した。どうやら髪型にこだわりがあるようだが、まるでクワガタムシのハサミのようにも見える髪型はフレムから見ても奇抜過ぎる代物だった。

 

「何がぶっ殺すだ! ふざけた髪型しやがって調子にのってんじゃねぇぞ!」


 ゲスナの仲間の一人が声を上げ乱入してきた男に突っかかっていった。男は面倒くさそうにため息を吐き――そのまま突っ込んでくる男に向かっていった。


 そして男の間合いに入るなり殴りかかった相手の剣を躱すと、カウンター気味に男の顎を蹴り上げた。反撃を喰らった相手は空中で一回転し背中から地面に落下。白目を剥いて伸びてしまった。


 その様子を見ていたゲスナたちが目を丸くする。


「え?」

「ちょ、ちょっと待てよ。何が起こった?」

 

 ゲスナと仲間たちが慌てだす。どうやらあまりに動きが速かった為に何が起きたのか理解できなかったようだ。


「弱いやつほどよく吠えるとは言ったもんだな」

 

 蔑むような目をゲスナ達に向け男はクシを取り出し奇抜な髪をセットし直した。


「エグゼ様~ここにおられましたか~」

 

 そこにまた一人別な人物が加わった。彼は奇抜な髪の男をエグゼと呼んでいた。


「何だバット。お前も来たのか」

「それはもう。私はエグゼ様の右腕なのですから当然ですよ」


 やってきた男はエグゼの仲間のようでバットと呼ばれていた。その出で立ちは黒いマントにローブと黒一色であり名前の通り蝙蝠のような男であった。


「あ! こいつ! 確かフレムとか言う男ですよ! 以前話しましたよね? この俺相手にそこそこ戦えた奴です」

「忘れた」


 倒れているフレムを指差し得意げになるバットだが、エグゼはその話に全く興味がないようだった。


「そもそも何で貴様はそこで無様に倒れてるんだ? まさかそこの雑魚にやられたのか? プププ、情けない」

「て、テメェ」


 バットに小馬鹿にされフレムの額に青筋が浮かんだ。


「テメェらいい加減にしやがれ! 突然出てきて好き勝手いいやがって。大体だれが雑魚だ!」

「お前らだよ馬鹿」

 

 激昂するゲスナ。しかしエグゼが呆れたように返し、かと思えば一瞬にしてフレムの側に立っていた。ゲスナやその取り巻きは既に頭上を舞っていた。


 恐らくやられたゲスナ達も何が起きたか理解できなかったことだろう。そのまま地面に落下し白目をむき泡を吹いていた。意識は完全に失っておりゲスナに至っては手足がおかしな方向に捻れていた。


「雑魚すぎて殺す気にもなれなかったぜ」

「流石エグゼ様慈悲深い!」


 エグゼの言葉に歓声を上げるバット。それを他所にフレムは立ち上がろうとするが上手くいかない様子だ。どうやら中々厄介な麻痺毒なようである――

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[一言] フレム、大ピンチ。切り抜けられますかね、これは……?
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