第五話 謎の男の忠告
フレムがレジの父親と話していると、見知らぬ男がこれみよがしに笑い声をあげフレムを馬鹿にするようなことを言った。
これにはフレムも面白くない顔を見せ、その男を睨みつけた。
「ちょ、フレム駄目だって!」
「わ~ってるよ。俺だって少しは成長したんだ。こんなことで切れたりしねぇよ。それによぉ」
フレムは笑い声を上げた男に目を向け、へっ、とお返しとばかりに薄笑いを浮かべ言葉を返す。
「芸人って意味ならお前のその頭の方がよっぽど芸人みたいじゃねぇか。その髪の毛であんた紙でも切ってるのか?」
意趣返しとばかりに小馬鹿にするフレム。相手の男はまるでハサミのように二又となった髪型をしていた。
「それとも親戚にクワガタ虫でもいたかい?」
更にフレムが続ける。砲金色なこともあってか確かにクワガタを思わせる髪型であった。
「――フンッ」
すると男が立ち上がりフレムに向けて近づいてくる。
「おいあんた! 店で揉め事はごめんだぞ!」
レジの父親が間に立ち、男に釘を差した。フレムもいいすぎな面はあるが先に挑発してきたのはこの男の方である為、まず彼に注意したのだろう。
「――旨い料理だった。これはチップだ」
だが、そんな父親の不安とは裏腹に男は先払い分とは別にチップを取り出した。
三人が目を丸くさせる。
「あ、あぁ何か悪いな」
「別にいいさ。俺も騒がせてしまったからな」
素直に非を認める男にどことなく拍子抜けな一同だが、フレムが、あぁ、と一言発し。
「そういうことか。おいあんた最初からビビるぐらいなら安い挑発なんてすんなよ」
フレムが諭すように言った。きっとフレムにビビってしまいそれ以上何も言えなくなったとそう思ったのだろう。
「どんな反応を見せるかと思ったが貴様にはがっかりだな」
だが真顔になった男は肩を落としそんなことをフレムに言ってきた。
「――は?」
「それで成長したと本気で思っているのか? そんなくだらない返ししか出来ないようじゃ先が思いやられるってもんだ」
「おい、さっきから何なんだテメェはよ」
「――無駄に力をつけたからか、くだらない自信だけが身についたようだな。だが覚えておけ。そういう傲慢さが命取りになることがあるってことをな」
そこまで語った後、また来る、と言い残して男は店を出ていった。
「……チッ、一体何だったんだあいつは」
「気にしなくていいよフレム。でも、喧嘩にならなくてよかったぁ~」
レジがほっと胸をなでおろした。
「ばか。んなことするかよ」
「ま、俺も肝が冷えたが何もなくてよかった」
レジの父親も安堵していたようだった。その後フレムは食事を食べ終え店から出る。
「フレム。また、食べに、来てくれる?」
帰り際レジがフレムに聞いてきた。探るような問いかけでもあった。
「あぁ。暫くは留まるつもりだしな。お前の親父さんの飯は美味いしな」
「そ、そう。仕方ないわね。ならまた来るの待っててあげるわよ」
「はは、仕方なしかよ」
そんな軽口をたたき合いながらフレムが店を離れた。
「――家に入るのも久しぶりかもな」
フレムの家は町に今も残っていた。嫌な思い出もあったが今は楽しかった記憶もそれ以上に思い出している。
「よ、よぉフレム」
「ん? なんだまたテメェか」
家に戻ろうとしたフレムを呼び止めたのは町に入って早々に呼び止めてきたあの男だった。
フレムとしては過去に散々痛めつけた相手でもあり、父親が死ぬ原因を作った男でもある。
だからこそ今となっては関わり合いたくないというのが本音だった。
「そ、そんな顔するなって。さっきは悪かったよ。俺も負い目があってついな」
「何だ負い目には感じていたのか」
男の言葉はフレムには意外だった。この男はフレムの父親を死に追いやったことなど気にもとめてないと思っていた。
実際当時フレムの前で悪びれもなく死んだ父親のことを貶していたこともある。
「俺もあれから色々考えた。それだけの月日は流れただろう? だからよ一度しっかり謝っておきたくてな」
「……別にいらねぇよ。ま、そういう気持ちがあるっていうならそれだけ受け取っておくぜ」
「お、おい待てって!」
そう答え踵を返すフレムを男が呼び止めた。
「まだ話はおわってないんだ。実はバーンの事でまだ話していないことがあったことを思い出してな」
「話してないことだと?」
バーンとはフレムの父親の名前であった。それについて男は話したいことがあるという。
「それで一体なんだよ話してないことって?」
「ここじゃ、ちょっとな」
「……堂々と言えないことなのか?」
「言葉だけじゃなくてあいつの遺品も関係あるんだ。俺もうっかりしてたがな」
フレムが眉を顰める。とはいえ確かにバーンと最後に行動していたのはこの男でもある。
何かしら遺品のようなものを持っていたとしてもおかしくないかもしれない。
「ついてきてくれ。そこで話す」
「……チッ、わ~ったよ」
そしてフレムは男の話を聞くため、その後をついていくのだった――




