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第四話 フレムの里帰り

「ここに戻るのも久しぶりだな。たく、相変わらず小さな村だぜ」


 フレムは故郷の村に戻ってきて一人呟いた。かつてフレムはこの村でカイルやローザと過ごしていた。


 もっともカイルもローザもこの村の生まれというわけではない。フレムの村に越してきたようなものであった。


 その後フレムは冒険者になり三人でパーティーを組み村を出たのだった。


 村を出ようと言ったのはフレムだった。フレムはこの村にいい思い出がなかった。それは主に父親のことであった。


 しかしナガレと出会い彼の考えにも変化が訪れていた。かつてはトラップしか取り柄がなく他の冒険者からも三流と見下されていた父親が情けなくて仕方なかったものだが、今はそれでも自分の父は自分で出来ることを一生懸命やっていたんだと考えるようになっていた。


「フレム。お、お前戻っていたのか」


 村に入ると一人の男がフレムを見て思い出したように声を上げた。


「――うん? あぁ何だお前か。まぁ、そうだな。たまには墓参りでもと思ってな」

「墓参りだと? チッ暫く顔も見せてないで今更何いってんだ」


 フレムが答えると男が顔を歪めぼやいた。


「あん?」

「くっ、と、とにかく面倒は起こすなよ!」


 しかしフレムが睨みを利かせると、捨て台詞を吐いて男は去っていた。やれやれとフレムは肩をすくめる。


 今の男はかつてフレムの父親とパーティーを組んでいた男だった。もっとも後からフレムの父が死んだことをいいことに全ての責任をなすりつけたゲスな男でもある。


 彼はフレムが冒険者になってから先ずボコボコにした男でもあった。風の噂でその怪我が元で冒険者を辞めたとも聞いていた。


 もっともフレムはそれがどうしたという気持ちでもあったわけだが。


 今のフレムも以前の事を気にしてないと言えば嘘になるが今の男に更に制裁をなどとは考えていない。もっとも謝罪するつもりもないが。


「フレム! 嫌だいつ戻って来てたのよ」

「おお、レジか久しぶりだな」


 村に戻り小腹が空いたので食堂に立ち寄った。子どもの頃は父親にもよく連れてこられていた食堂だ。昔から何も変わっていない小さな食堂でレジは彼の幼馴染だった。


 赤毛を後ろで纏めアーモンド型の勝ち気そうな目をしている。昔は小生意気な女の子といったイメージだが、今はすっかり成人した大人の女性になっていた。白いエプロンがよく似合う。


「お前も変わったな。昔は男みたいだったのに今はすっかり大人な女って感じだ。これなら店の看板もはれるんじゃないか?」

「な、何馬鹿なこと言ってるのよもう!」


 顔を真っ赤にさせてエプロン姿のレジが叫んだ。ハハッ、と笑みを零した後、席に案内され父とよく食べた定食を注文した。


「モグ、ふん。値段にしては美味いじゃねぇか」


 注文を終えたところで、ふと、そんな声が聞こえ別のテーブルを見ると左右で角のように髪を立てた客が食事を取っていた。


 目が合うと三白眼の瞳がフレムを捉えたが、すぐに食事を再開させていた。


「前はいなかったと思うが村に新しく来た奴か?」


 何となく気になったのかフレムが見かけない男についてレジに問いかけた。レジはすぐに首を左右に振る。


「フレムよりちょっと前に来たのかな。今日フラッと入ってきたんだけど旅の途中で村に寄ったみたい」

「ふ~ん」


 それからフレムは久しぶりの故郷の味を懐かしみレジに代金を支払った。


「相変わらず美味かったぜ。おやっさんの腕は変わってないな」

「あはは。料理だけが父ちゃんの自慢だからね」

「誰が料理だけだ、たく」


 フレムが料理の感想を述べると厨房からにゅっと髭をはやした男が姿を見せた。レジの父親だ。


「フレム本当に戻って来てたか。随分と久しいな。で、どうなんだ冒険者稼業は?」

「あぁ、ま、ぼちぼちかな」

「そうか。カイルとローザも一緒なのか?」


 その言葉にレジの耳がピクッと反応した。


「いや、今回は俺一人だ。今はちょっと別行動していてな」

「へ、へぇそうなんだ。何もしかして喧嘩でもしちゃった、とか?」


 レジが探るようにフレムに問いかけてくる。


「いや、それぞれ思うところがあってな。一旦わかれてお互い自分を高めて再会しようって話になったんだ」

「へ、へぇ。それはまた随分と……」

「アッハッハ!」


 フレムがレジに答えると別の席にいた男が突如笑い出した。フレムの目つきが変わり彼に問いかける。


「――何がおかしいんだ?」

「別に。ただお前みたいないかにも中途半端って野郎が自分を高めるなんて出来るのかと思ってな。おっと冗談だったら面白いぜ。その調子で芸人でも目指すといいんじゃないか?」


 男の挑発的な発言に店内の空気が重くなるわけだが――

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