第三話 ジェノサイドの弱点
エグゼが不敵な笑みを浮かべた。一方でナガレもどことなく楽しそうである。
「言っておくが俺が本気を出す以上、五体満足でいられると思うなよ? これまでも俺様はこのジェノサイドで生意気な野郎どもをズタズタに切り裂いて来たんだ」
「なるほどなるほど」
「再起不能になった連中も数多くいる」
「それは大変ですね」
「…………」
エグゼがこれまで自分が手にかけた相手のことを口にするが、ナガレには全く動じる様子がない。
なんなら世間話程度に聞いている様子すら感じられた。
「――お前、俺のこと馬鹿にしてるのか?」
「そんなことはありませんよ。貴方も中々気苦労が多いようですし」
「それが馬鹿にしてるってんだよ!」
エグゼが再びジェノサイドを高速回転させナガレに迫った。しかしナガレに触れようとしても受け流され明後日の方に飛ばされてしまう。
だがエグゼはまるで本体にくっついているが如く立ち位置を変えること無く地面に着地。そして不敵に笑った。
「なるほど。読めたぜお前のそれパリィみたいなものだな!」
エグゼが確信したように言う。パリィはスキルの一つであり相手の攻撃を弾き逸らすことが可能だ。
「だが、それならこっちに考えがあるぜ! 大蛇!」
エグゼが叫ぶとジェノサイドから無数の刃が伸びてきた。柔軟な刃は無数の蛇が獲物を狙うが如く動きでナガレに迫る。
「パリィは多方からの同時攻撃に対応出来ねぇのさ! これで終いだ!」
「残念ながら――」
勝ち誇るエグゼだが、ナガレは合気により全ての刃を軽々と受け流す。
「何ぃッ!?」
エグゼは目玉が飛び出でんばかりに驚いた。恐らくエグゼにとって自信のあった技なのだろうが、ナガレにとってはそよ風と一緒であった。
「くそ! こうなったら!」
エグゼは球体を回転させながら突撃しその上で刃も展開させた。
「行くぜ! 真空大蛇斬!」
ジェノサイドの回転力が上がり周囲の空気が一気に吸い込まれていく。この現象を利用しナガレを強制的に吸い込み刃で切り裂こうというのだろう。
「なるほど。面白い技ですが――いささか頂けませんね」
「強がりを!」
「残念ながら――」
ナガレはまるで流れに身を任せる木の葉のように、ふわりと吸い込みに身を寄せた。ナガレの体が一気に本体に近づく。
「ハッ? 馬鹿が死ぬ気か!」
「違いますよ」
技に身を任せるナガレだが、迫る刃はナガレに当たると同時に勝手に逸れた。
「何だそりゃ!」
エグゼは信じられないような物を見るような視線をナガレに向けた。何が起きているか理解出来ていないだろうが別に難しいことではない。
どれほど鋭い剣であっても空中をふわふわと舞う綿を斬るのは容易なことではない。今のナガレはまさにそれであった。もっとも合気も絡む分このナガレを斬るのは、空中を舞う綿を斬るよりも遙かに難しい、というか不可能だ。
「貴方の武器には致命的な弱点があります――」
そしてナガレはそのままエグゼのジェノサイドに当たった。だがナガレは切り裂かれることはなく風に身を任せる綿毛のようにするりとジェノサイドを沿うようにして反対側に着地した。
一方で――エグゼはナガレがジェノサイドに当たったと同時に地面から足が離れた。
「しまッ!?」
エグゼが顔を引き攣らせる。足が地面から離れたことでエグゼの身が浮き上がり自らジェノサイドに突っ込む形となるが――
「これが、その武器の弱点ということです」
エグゼの動きは止まっていた。ジェノサイドの回転も止まっていた。反対側に回ったナガレがジェノサイドに手を添え回転を止めた上でエグゼのマントも掴んでいたからである。
エグゼは目を見開き、顔が真っ青になっていた。鼻先スレスレにジェノサイドの刃があったからだ。
「攻防一体の武器――それは素晴らしいですが、今のようにバランスを崩すようなことになれば自滅しかねない危険な武器でもある――もっともそれは貴方が一番よくわかっているようですが……さてどうしましょうか? 仕切り直しといきますか?」
ナガレが問う。エグゼは着地しナガレを振り返った。その目からはもはや戦意が感じられない。
「くっ、ざけんな。もう俺の負けでいいぜ。たく誰がお前なんかと、二度とゴメンだ――」
こうして敗北を認めたエグゼにニコリと微笑むナガレなのであった――




