第一話 ナガレとサトル再び
幕間章です。
久しぶりの更新となります!
「また面会に来てもらえるとは思ってなかったですよナガレさん」
「えぇ。これから暫く旅に出ることにしたので、一度お会いしておこうと思ったのです」
皆と再会を誓いあいナガレは世界を回る決意をした。だがその前にサトルに会って話しておきたいと考えたのだ。
「そうなんですね。あれ? でも一人ですか?」
「はい。暫く別行動をとることにしました。皆も一人一人考えることがあるでしょうからね」
ナガレがニコリと微笑む。
「そうなのですね。でもわざわざ僕に会いに来てくれるとは嬉しいです」
「それは勿論。貴方は暫くここにいなければいけないわけですから、その分修行のメニューを考えなければいけません」
「……はい?」
サトルが目を点にさせた。
「今貴方の手元に悪魔の書がありません。我流で色々と修行はしてきたようですが、貴方の本来の力はまだ発揮できていないでしょう。今後何があるかわからない状況ですから出来る範囲で協力しますよ」
「そ、それはありがたいですが、時間は大丈夫なのですか?」
若干冷や汗を滲ませながらサトルがナガレに問う。
「問題ありません。そもそも私は分体ですしね」
「は? 分体?」
「本体は旅を始めてます。もっとも思考は共有ですから離れていても私は私です」
「ちょっと待って頭が追いつかない」
サトルが頭を抱えた。
「そこで混乱しているようではサトリの力は使いこなせませんよ。しかし大丈夫です。ようは慣れ。百万回程死にそうな目に合えば多少慣れます」
「えぇええぇえええぇえ!」
こうしてナガレの修行を暫く受けることになったサトルである。
とは言えサトルも死にそうな目だなんて比喩であり本当はそこまでのことはないだろう、と自分に言い聞かせていたわけだが。
「あ、甘かった。甘かった甘かった甘かった甘かった甘かった俺が甘かった!」
「はは。口調も大分かわりましたね」
「ひぃ! 待って待って今日はもう死にたくない!」
笑顔で近づいてくるナガレに恐怖を覚え条件反射的にサトルが後退りした。
ナガレは見た目には人が良さそうな少年だ。だが修行となると厳しいなんて言葉じゃ言い表せられないような真似を平気でする。
『心臓の百、二百潰れても死ぬような超人はいませんからね。千回潰れてやっと見えてくることもあります』
なんてことまで言い出す始末だ。勿論流石のナガレもそれが一般的で普通とまでは言わないが、サトルが超人のくくりに入っているのは彼自身謎だった。
こうして三日間はナガレによる徹底指導を受けたサトル。たかが三日と思われそうだが内容的には百年二百年を思わせるとんでもないものだった。そもそもナガレは合気で時間の進みを遅くも出来るので体感的には間違いないが。
「さて私の出番はここまでですが」
「あ、ありがとうございました! 良い旅を!」
サトルはお礼を言いつつ内心ホッとしていた。
「この後もメニューをしっかりこなしてくださいね」
「は、はい……」
ナガレのよこしたメニュー――いつの間にサトルの部屋に作られていた迷宮を攻略するなど異世界っぽいものも多かった。
しかし問題なのは迷宮の中身でありどこから連れてきたかは知らないがサトルが渡り歩いた際にも出会わなかったようなとんでもない化物が溢れているような迷宮なのだ。
ヘルズバハムートなど名前こそバハムートだがとてもそうは思えないぐらい凶悪であり下手したら魂ごと焼き尽くされる危険な相手だ。こんなの相手するぐらいなら明智と戦っていた方が全然マシだったと思った程だ。
「やれやれまさかおいらまで駆り出されるとは思わなかったねぇ」
サトルがナガレの厳しい修行から解放されるのか、と安堵していたところでやってきたのはナンバーズの一人ジョニーだった。
「無理なお願いを聞いて頂きありがとうございます。では私が消える前にジョニー。ここからサトルに向けて遠慮なく撃ち込んでください」
「いやいやいやいや!」
突然そんなお願いをされジョニーが手と首を振った。
「流石に殺人で捕まる気はないさぁ」
「問題ありませんよ。今のサトルなら死なない程度に避けられます」
「いや、死なない程度って……」
サトルがげんなりとした顔を見せた。
「いざとなったら私が防ぎますから」
「それなら大丈夫か」
「結局合意!」
サトルが目を剥いて声を上げた。とは言えナガレがこう言うなら死ぬことはないか、と思えてしまう自分が悲しくもある。
「サトル。これまでの修行を思い出し能力を使いなさい。今の貴方なら銃弾の軌道が視える筈です」
「ナガレ――わかった! ここまでやってきたんだしな俺試してみるよ」
ふふっ、とナガレが笑みを浮かべる。アケチの件が一旦は片付いたわけだが、その直後から毒が抜けたようにサトルは穏やかになっていた。
だがこの世界で生き抜くにはたくましさも必要だ。特にサトルは既に因果に巻き込まれてしまっている。
穏やかなままでは実際いつ殺されてもおかしくない。
「やれやれ。それじゃあ頼んだよナガレ」
そう口にしたと思えば、合図を送ることもなくノーモーションでリボルバーを連射した。
「ん?」
だが驚き目を丸くさせたのはジョニーの方だった。なぜなら連射した先には既にサトルの姿がなかったからである。
「よ、よかった出来た――」
「へぇ――まいったなあ。おいら少しマジになっちゃうかもよ?」
こうして本気になったジョニーの下でサトルは修行を続けることになった。勿論ナガレの用意したメニューをちゃんとこなしているか確認するのもジョニーの役目となったのである。
(これでひとまず安心ですかね)
二人の姿を認めた後、ナガレの分体はいつのまにかその場から消えていた。二人がそれに気がつくのは他の兵士が声を掛けてきてからになる――
新連載始めました!
タイトルは――
「ハズレスキル【合気】を授かり冒険者を諦めた筈がいつのまに最強の【道先案内人】として知れ渡っていた~極めた【合気】は世界の概念を覆しあらゆるフラグを受け流す~」
となります。はい、こちらも合気です。
ちなみにレベル0合気道と直接の関係はなく単体で楽しめる別な物語となります。
とは言え主人公が合気で活躍するお話ですので、レベル0合気道を読んだ方なら新たな気持ちで楽しんで頂けると思います。
この下にあるリンクから直接作品のページに飛べますので宜しければ是非!
どうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m




