エピローグ また会う日まで――
長らくおまたせしてしまいました。
ナガレが皆を振り返る口にしたのはお別れの言葉だった。ピーチもフレムもカイルもローザもビッチェもマイもメグミもアイカもヘラもキャスパも――唖然とした。
暫しして――
「はは、冗談よねナガレ? もう、本当にナガレったら真顔で冗談を言うんだから」
「な、なるほど! これが先生の神薙流ジョークって奴ですね!」
「なるほどね。ナガレっちってばびっくりしたよ~」
「ナガレ様でも冗談を言うことがあるのですね」
「強さは冗談みたいだけどね」
「それは同意ね……」
「ですが、そのおかげで私達は助けられました」
「私は別にいなくなってもいいですが、その前に殺させてください」
『キシシ、ヘラ寂シイ』
ヘラがキャスパの頬を引っ張る中、ナガレはニコッと微笑み。
「いえ、冗談などではありませんよ。私は本気です。この機会に一度お別れしましょう」
繰り返されるお別れに皆がしーんっと静まり返る。
そして――ピーチがボロボロと涙を流した。
「そんなどうして、どうしてそんなことを言うのよナガレぇ」
「先生! 俺が、俺が弟子として不甲斐ないからですか! それでこんなこと、だ、だったら俺もっと努力します! だから……」
「ナガレっち、嘘だよね? おいらもここでお別れは悲しいよ……」
「私もですナガレ様。折角こうして崇拝できる御方に出会えたというのに……」
「……ふぅ、揃いも揃って何を泣いてわけのわからないことを言っている?」
ピーチ達が涙しマイ達も戸惑いの様子を見せる中、ビッチェだけが平然とした様子であり、呆れた声で言い放った。
「ちょ、ビッチェ何言ってるのよ! あんたは平気なの! ナガレがお別れだって言ってるのよ!」
その様子にピーチが噛み付いた。だが、ビッチェは嘆息一つ。やれやれという様子で言葉を返した。
「……ふぅ、ピーチこそよくナガレの言ったことを思いだす。ナガレはこう言った。一度お別れしましょうと」
「そうよ、だからお別れだって! 一度お別れだって、うん? 一度?」
「そう言えば、先生、一度って、えっと一体どういう意味ですか?」
ピーチが?な顔を見せ、フレムもキョトン顔でナガレに尋ねた。そしてビッチェはその意味を理解しているようであり。
「そのままの意味でもありますね。学校の建設まではそれなりに時間が掛かるでしょう。半年ぐらいでしょうか? そしてきっとサトルの審判が始まるまでもそれぐらい掛かると思います。その間は皆さん別行動としましょうという意味です」
ナガレの説明に皆が一様に顔を見合わせ。
「な、何だそういう意味だったのね……紛らわしいわよナガレ!」
「それは申し訳なかったですね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それでも先生と半年は会えないってことだろう! 先生、せめて俺だけでもご一緒できませんか!」
「ちょ、何言ってるのよフレム! 抜け駆けしてるんじゃないわよ!」
「俺は一番弟子だ! その資格がきっとある!」
ピーチとフレムでわいのわいのしている中、ビッチェが呆れた様子で目を細めた。
「……お前たちいい加減にする。ナガレの気持ちを考える」
ビッチェが諭すように言うとピーチとフレムがきょとん顔になった。
「ナガレの気持ち?」
「……ナガレはきっと、私達の成長を願っている。今回の旅でほぼ全員が神薙流の名を使わせて貰えることになった。それはつまり、ナガレにおんぶにだっこではなく、それぞれが自立して成長していかないといけないということ。だから私達はこの半年で自分なりに鍛えて成長して再会しないといけないと」
「そ、そっか。ナガレくんはその為に一旦私達と別れようというわけね」
ビッチェの発言にマイが得心が言ったように頷く。
「神薙流についてはそこまで大したことではありませんが、ずっと一緒でいることが必ずしもいい方向に繋がるとは思えません。それに学校を建設し授業が始まれば皆さんにも協力してほしいことがあります。故にそれぞれが一度別れて新たな視点で世界を見て回るのもいいと思いました。それにそれぞれにきっとやるべきことがあるのでは、とそうも考えます」
ナガレの話が終わると、皆がそれぞれ何かを思うように視線を宙空に這わせる。
「私達は、ナガレに試されているのね」
「いえいえ、試すだなんて私はそこまで驕ってはいませんよ。それに私の我儘でもあります。少し一人で見て回るのもいいかなと」
にこやかに和やかに、ナガレは神薙流の名に恥じない流麗な所作でそう語り、全てを受け入れ流れるように旅立つことを決めた。
暫くだけ皆とは別れることとなるが、それが今生の別れではないことをナガレは知っている。そして再び相見える時にはナガレも含めて新鮮な気持ちで再会出来ることだろう。
「先生、わかりました。これも修行の一環なのですね!」
「フレム。そんなに気張る必要はありません。もっと気軽にお互いこの一時の別れをも愉しみましょう」
「愉しむか……うん、わかった! 寂しいけど、私もいろいろ考えてみるよ」
「……また会えるのを楽しみにしている」
「おいらも、久しぶりに会いたい人を思い出したし戻ってみるとするよ」
「ナガレ様。この悪魔の書は私達にお任せを!」
『『ふざけるでない! くっ、力が!』』
『ははは、悪魔の書よ。お主もいよいよ消えるときがきたようであるな』
「だから消えないってば」
エクスの声に呆れたようにメグミが零す。
「よくわからないけど、ナガレくんまたね」
「はい。それでは、私はもう行くとしましょう。それでは皆様、また半年後この場所で――」
そして皆の見ている前でナガレが煙のようにすっと消えてしまった。
「ナガレはや!」
「……こうと決めたら早い。流石ナガレ」
ピーチが驚きビッチェが感心した。そしてビッチェもまたどこかへ行こうとする。
「行くのビッチェ?」
「……ナガレとだけ離れても意味がない。私達にはそれぞれ時間が必要」
「時間か……そうね。私も折角だから久しぶりに師匠に会いに行こうかな。色々と気になるし」
「――なら俺は、ちっと故郷に顔を出すか」
「おいらも行くよ。はは、でもこの三人も離れ離れになるのは久しぶりかもね」
「ふふ、そうですね。では、私も行くとします」
「あ、あの! 私はまだまだ師匠に教わりたいのです! ご一緒してもいいですか?」
「そうですね。悪魔の書のこともありますし。でも、いいのですか?」
アイカの申し出にローザはマイやメグミを見た。
「アイカが決めたことならね」
「少し寂しい気もするけど、それぞれの成長の為だな」
『マイ、キャスパト離レル?』
「いやね。貴方とは一緒よ」
『ヤッタ! キャスパ、マイと一緒♪』
「ねぇ、ヘラ良かったら貴方も、て、いない……もう仕方ないわね」
ヘラも消えビッチェも旅立った。
そして残ったメンバーもそれぞれの道を征く。
「それじゃあ、またな」
「えぇ、そうね。でも忘れないでね」
「はい。勿論です」
「おいらだって忘れないよ」
「そうね、皆でまた――」
「「「「「「「「半年後にまたこの場所で!」」」」」」」」
こうしてそれぞれが一旦別々な道を歩む。半年後にまた別な自分を見つけ新たな気持で再会が出来るようにと願いを込め――
というわけでこれにて「レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!」は第一部本編完結!となります。
はい、あくまで第一部本編完結です!
ちょっと長くなってしまったというのもあるので色々見直したいのもあっての第一部完です。
ちなみに第一部での幕間の話はまだ残ってます。
そして一応予定では第二部からが因縁の家も絡めた戦いといったところを想定していますが……すみません少しお時間を頂くかも知れません!
それまで暫しお待ち頂ければと思いますm(__)m
また新作も始めていたりします。
『砂魔法で砂の王国を作ろう~砂属性なんて使えないと国から砂漠に追放されたから、魔法で砂の城を生み出し、オアシスを作りスローライフを満喫していた筈が、いつの間にか祖国を上回る巨大国家が出来上がっていた!~』
というタイトルで下のリンクからも作品ページへ飛べます。レベル0の第二部までの間にでも如何でしょうか?
それでは皆様引き続きどうぞ宜しくお願い致します!