第四九二話 お別れ
「うむわかった。それであれば学校を建てるという点、帝国としては全く異論はない。それでいいな大臣?」
「……ハッ! ただ王国側がどう出てくるか、ですが」
「……今回の件は冒険者連合も積極的に関わることになると思う。ナガレにはグランドマスターも一目置いている。それにあの人こういうことが好きだから……」
何かを思い出すように目を細める。最後の方は声が細かったが、恐らく父親を思い出していたのだろう。
「しかし、学校を建てるとなるとかなりの費用が掛かると思うがそれは大丈夫なのかな?」
「それなら心配いらないぜ。何せ先生ほどの御方だ。きっと学校も先生の力であっさり造ってしまうはずさ!」
「あ、なるほど。確かにそれが一番てっとり早そうね」
皇帝の疑問に答えるように笑顔でフレムが言った。ピーチも腕を組んで頷いている。
「それが一番早いって言うのがとんでもないと思うんだけどね……」
「ナガレスゴイ、スゴイ」
マイが感心したような呆れたような表情で語る。肩に乗っていたキャスパは無邪気にはしゃいでいた。
「キャスパ、それは凄いではなく非常識というのです」
「ヘラは辛辣だな……」
一方で話を聞いていたヘラは澄ました顔で指摘する。その様子にメグミも苦笑いだ。
「いえ、学校建築では極力自分の力は使わないつもりです」
「え~どうしてナガレっち~?」
「私がやってしまうと学校は生み出せても何の繋がりも生み出せませんからね。ですので建築は王国と帝国の両方から職人を雇ってお願いしようと思います」
「……なるほど。職人を雇えば自ずと学校に関わる人が増える。職人は独自の情報網を持っているからその伝手で学校が出来るという話も広がりやすくなる」
ビッチェの話にナガレが微笑みで返した。ビッチェの頬が赤くなる。
「でもさ、それこそ費用はどうするつもりなの? そうだ! 僕が出して上げようか? これでもけっこう僕、お金あるんだよねぇ」
「さようでしたか。お気持ちはありがたいので、何れはご協力をお願いすることもあるやもしれませんが、建築費に関しては問題ありません」
ユーリの厚意を受け止めつつ、更にナガレは続けた。
「実はこれまでも冒険者としてそれなりに稼ぎはあったのですがあまり使う機会がなかったのです。ですので、この機会に蓄えを一気に使ってしまおうと思います」
「それが学校建築って、ナガレってばスケールが大きいわね」
ピーチがぐっと拳を握りしめナガレのやろうとしていることに感嘆した。
「いやいや、先生からすればこのぐらい。俺は先生ならきっとこの世界を救ってくれると信じてますから!」
「……救うって何から?」
「え?」
フレムはどうやらナガレであればもっととてつもないことをしてくれると信じているようだ。
だが、あまり考えなしに言っているようでありビッチェの問いに頭を捻っている。
「しかし学校を建てられるほどの余裕があるとはな。いやしかし、ナガレならそれも当然か。むむむ、しかし口惜しいな。ナガレ、もし協力出来ることがあったら何でも言ってくれていいからな」
アルドフが椅子に座りながら前のめりになってそう言った。学校の建築には色々と興味津々のようでもある。
「でしたら貴方、私たちの子どもが出来たら、是非ともナガレ様の学校に」
「おっと、なるほどなるほど、それにはもうちょっと頑張らないとな」
「あ――」
妙案とばかりに語るウルナ后であったがアルドフの返しで真っ赤になって俯いてしまった。
「はは、なんとも初々しいね」
「茶化すなって」
二人の様子にユーリがニヤケ顔を披露して言った。皇帝のアルドフも苦笑気味である。
「さて、何はともあれ話はわかった。さっきも話したが学校建築の件は帝国は全面的に認める。王国との協議にも当然参加させて頂こう!」
こうしてナガレと皇帝との謁見は終わった。その後は細やかながら食事を用意したと言うのでご馳走になり、その日は宮殿で泊めてもらうこととなった。
そして翌日――アルドフ皇帝やユーリとも別れを済ませ、一行は帝都を後にする。
ユーリからは絶対に僕の国にも遊びに来てね! と念を押された。ナガレも何れまたと返事をし――一行は学校を建設する予定の地へとやってきていた。
「本当、魔物は多いわね」
「ま、俺らの敵じゃなかったけどな」
「でも、ここじゃ職人はなかなかこれないかもねぇ」
許可をもらった土地は魔物で溢れており、ここに車でも数多くの魔物に襲われた一行である。
「そうですね。そこは冒険者を雇うことで解決していきましょう」
「ナガレってば、本当に今回は人に任せるのね」
「……そうすれば帝国や王国の職人の仕事が増える。特に帝国は今が大変だから」
「もしかしてナガレくんってそこまで考えてこの計画を考えたの?」
「さて、どうでしょうか――」
マイの質問へ曖昧に返事した後、ナガレは学校の建築予定の土地を眺め、次に空を見た。
「……ナガレ、何か考えている?」
「先生は常に考えている御方さ」
「ナガレ様の崇高なお考えは我々には知るよしもないのかもしれません」
ローザが祈るようにして言ったが。
「そんな大したものではありませんよ」
呟くようにして、そして全員を振り返る。
「皆さん、こんな技を知ってますか?」
「え? 先生の技!」
フレムが直ぐさま食いついた。するとナガレが悪魔の書をを取り出してみせる。
「この悪魔の書を――こうやって上下に振ると、なんと二つに分裂するのです」
「お、おおぉおお! て、え?」
「……ナガレ、それ、別に――」
「もうナガレってば、そんなの私にも出来るわよ!」
「あはは、ナガレっちって偶におちゃめだよね~」
「どんなときでもユーモアを忘れないナガレ様は流石です!」
「はい師匠!」
「アイカ……いや、何も言うまい」
「全くくだらないですね。毒殺しましょうか?」
「しょ、小学生じゃないんだから。あ、でも見た目は子どもなのよねナガレくん」
「コドモ、コドモ」
それぞれの反応にナガレが愉快そうに笑った。
『いや、というかお前、何してるのだ?』
『はっは、茶化されておるのだろう。お主、間抜けそうだし』
『オンボロの剣に言われたくない!』
また始まったかと呆れ顔を見せる中、ナガレは悪魔の書を振り続け。
「はは、やはり子供騙し過ぎましたか。確かにこんなことをしても、はいこの通り悪魔の書が二つに増えるだけですからね」
そう言ってナガレがひょいっと上下に振った悪魔の書からもう一冊取り出した。
『……は?』
「「「「「「え、えぇええええぇえええええぇえええ!」」」」」」
これには一部を除いた大勢が驚いた。まさか、本当に一冊増えるとは思っていなかったのだろう。
「……流石ナガレ、最早なんでもあり」
『な、なんなのだこれ! 何なのだこれ!』
『わ、我にもわからぬ! なぜ我がもう一冊!』
悪魔の書も随分と驚いていた。自分がもう一冊増えたらそうもなるだろう。
「さて、それではこの二冊ですがローザとアイカでそれぞれ持って頂けますか?」
「え?」
「わ、私にもですか?」
『ちょ、ちょっと待つのだナガレ!』
『それは御免こうむる! この二人に触れられていると、何故か力が抜けた気になるのだ!』
悪魔の書が叫んだ。どぅやら二人に触れられるのは好ましくないようだが。
「それが狙いですよ。お二人は清き心と力を有してますからね。貴方を浄化してくれるでしょう」
『『浄化されるの!』』
悪魔の書が同時に驚いた。
『はっは! ざまぁないではないか。そのまま浄化し安心して消えるが良い!』
「ちょ、ちょっとエクスは黙ってて! な、ナガレさん、それで本当にいいのですか?」
「はい。ですがご安心を悪魔の書が消えることはありえません。ただ今後には必要なことですから。あと一応悪魔の書にも色々反省してもらう必要がありますからね」
そう言って薄い笑みを浮かべた。どうやらナガレには考えがあるようであり、そして。
「さて、これで……一通りの準備は終わりましたね」
「一通り?」
ナガレの意味深な言葉にピーチが小首をかしげた。するとナガレは改めて全員を見た後。
「はい。これで安心して皆さんとお別れ出来ます――」
果たしてナガレの真意は!待て次回!
ちなみに新作をはじめました。更新までの間にでも如何でしょうか?
【異世界帰りの元勇者ですが、デスゲームに巻き込まれました】
というタイトルです。異世界で最強の勇者になった主人公が、地球に帰還して早々にデスゲームに巻き込まれるも最強ゆえに運営の思惑を無自覚に潰していくというそんな物語です!少しでも興味が湧いたならこの下のリンクからでも作品ページに飛べますのでどうぞよろしくお願いいたします!
最強の元勇者「あんたまさかこっちにくるつもりなのか?」
ナガレ「それも面白そうですね」
デスゲーム運営「それだけは勘弁してくれ~~~~!((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル」