第四九一話 そうだ、学校をつくろう
皆様!新年、合気ましておめでとうございます!
というわけで年明け最初の更新は合気道から始めさせて頂きました。
それでは皆様今年もどうぞ宜しくお願い致します!
「な、なんと学校とな……」
マーベル帝国の新皇帝アルドフは、ナガレの目的を知り玉座の背もたれに体重を乗せ目を白黒させた。アルドフとしてはかなり予想外な話だったのだろう。
「しかしナガレ殿、何故このような場所に学校を? もっと他にも条件の良さそうなところがありそうではありませんか」
探るようにナガレを見ているアルドフに変わって、大臣が問いかけた。ナガレが指定した場所には凶悪な魔物や魔獣が多いため、確かに一見すると学校向きとは思えない。
「いえ、私の中ではここしか考えられません。それに魔物や魔獣が多いことは決して悪いことばかりではないでしょう。私は総合的に生徒を教える学校を目指してますが、その中には身を守る為の武術なども取り入れようと思っておりますので」
そうナガレは答える。勿論合う合わないが出てくるだろうから何を重点的にやりたいかは生徒の自主性も尊重するつもりだ。ただ、この世界には危険も多く、それだけに覚えたことを吸収しやすい子どものうちから武術も含めて学んでおくのは将来のためにもいい。
「しかし、わざわざこんなところに学校を作らなくても帝国や王国にだって学校はあっただろう?」
アルドフの言う通り、マーベル帝国には帝立学院がバール王国にも王立学園が存在する。
「確かにそうですが、残念ながら現状どちらの学校も誰もが希望すれば入れるという制度ではありません。帝国は貴族のみが学院への入学が許され、王国はまだ間口が広いですが王都にしか存在せず費用もそれなりにするのである程度格差が影響してしまっております」
正確には王立学園にも恵まれない平民に対しての救済処置はある。だがその条件は厳しい。魔法なり学問なりで優秀だと判断されたものだけが学費免除などの待遇を受けることが出来るのである。
この世界は学習できる場というのが非常に限られている。領主によっては独自に文字を教えたりする場を設けていることがあるが、義務ではないため領地によっては全く設けていない場合もある、というかそういうことの方が多い。王国でさえそうなのだから元が選民意識の塊のような貴族の多い帝国では更に酷いことなど目に見えている。
「……学校に関しては私も危惧していたところだ。その上、今はゴタゴタしているからな。どうしてもすぐには手を入れることができない」
「……なら、ナガレのやろうとしていることは十分に意味がある」
アルドフが何気なく発した言葉にビッチェが反応した。
「……ナガレがここに学校を建てようとしているのは、きっとこの場所なら帝国からも王国からも干渉を受けることがないから」
「え? そうなのナガレ?」
「そうですね。勿論勝手には出来ませんので両国とも話し合う必要はありますが、この場所に建てる学校は国や種族に関係なく誰もが入学できる、そんな施設にしようと思っています」
「す、すごいです先生! そんなことが出来たらこの世界に革命が出来る! 俺は今猛烈に感動してます!」
フレムが涙を流してナガレのやろうとしていることを讃えた。フレムの隣りにいたローザも両手を祈るように握りしめ。
「あぁ、まさにナガレ様は神様のような御方です。私の目に狂いはありませんでした」
「師匠がそこまで心酔するなんて、それだけの御方なのですか」
「はい。ナガレ様は私にとっては神に等しい存在です」
「なるほど、ならば私にとっても神ですね! 師匠の神は私にとっても神です!」
「何その師匠の師匠は師匠みたいな感じ?」
恍惚とした表情で語るローザ。そんなローザを慕うアイカも、自然とナガレへのあこがれが高まり、ある意味で信者と化した。若干マイが呆れ目だが。
「神であるなら悪魔の敵。やはり殺すしかないですね」
するとそれを聞いていたヘラが物騒な事を言う。
「エ~ナガレ、イイヒト、殺ス、ヨクナイ」
「キャスパ、貴方仮にも悪魔でしょう?」
「あらいいじゃない。ふふ、キャスパはいい子ね」
マイがキャスパの頭を撫でると目を細めて気持ちよさそうな顔を見せ。
「イイコ、キャスパ、マイ二褒メラレテ、嬉シイ」
そんなキャスパとマイのやり取りにため息をつくヘラであったが、しかしそこまで嫌がっているようには感じられなかった。
「それにヘラ、多分ナガレの提案、サトルの為でもあると思うよ」
「……サトル様の?」
キャスパを撫でながらマイが語り、そしてナガレを見た。マイが注目したのはナガレが口にした種族に関係なくといった箇所であった。
「う~ん、ナガレっちはやっぱり凄いよね。おいらじゃ思いもつかないよ」
カイルもナガレの言動に感心している様子であり、その直後、獣人か、とつぶやき目を細める。
「うん、学校か。最初は領地が欲しいのかと思って、ごめんね勝手にがっかりしちゃった。でも、やっぱりナガレは一味違うね」
ナガレに対しユーリが謝罪のようなことを述べる。
「いえ、そんな大したことは言っておりませんよ。私など結局の所、自分のやりたいことをやりたいようにしているだけです。わがままなだけですよ」
そう言ってニッコリと微笑むナガレであるが、そこがますますいいと、ユーリが楽しそうに笑った。
「ふむ、しかし言うだけならば簡単ですが、そう安々と進む話ではありませんぞ。よしんば皇帝が許可を出すにしても王国がなんというかわかりませんし、費用だってかなりかかります。それはどうお考えで?」
ここでも大臣が鋭い質問をおこなった。ナガレのやろうとしていることは確かに口でいうほど簡単なことではない。
すると、皇帝が口を開き。
「費用に関しては、帝国としても多少は融通してもいいだろう」
と、大臣に向けて言った。なんてことがないように言っているが、途端に大臣が首を激しく振り。
「何をおっしゃいますか陛下! 現状を考えてみてください! 急務は国の立て直し。しかも先程も陛下が仰ったとおり、帝国の学院すら立て直しを後回しにしている状況。それなのにこのようなことにお金を掛けている余裕などありませんよ」
「え~? さっきまで領地ぐらいならいくらでもくれてやるみたいなこと言っていたのに?」
「それとこれとは話が違います」
ユーリが不満そうに言ったが、大臣はピシャリとその意見を跳ね除けた。ナガレに領地を譲ることは帝国としても利益になるが、帝国にも王国にも縛られない学校を作るとなれば話は別なのである。
「先ず、両国へ許可を頂く件に関しては、ビッチェにも協力してもらえると助かります」
「……私?」
「はい。間に第三者がいたほうがいいと思うので、冒険者連盟から一人どなたかに立ち会って頂けるようにお願いしてもらえると。そのうえで、マーベル帝国皇帝、そしてバール王国国王と私を含めて三者会談という形を取らせて頂き話をさせて頂けたらと思うのですが」
ナガレの発言に周囲がどよめいた。大臣の顔にも苦味が生じる。
「ナガレ殿、その、流石にそれは、確かにナガレ殿は両国からも英雄視されておりますが、そのようなことでそんな――」
「いや待て!」
大臣が怪訝そうに語っていると、アルドフが何かに気がついたように待ったを掛けた。
「これは、うまくやると……は、ははは! なるほどなるほど。いやさすがはナガレだ。まさかここまで計算してこの話を持ちかけたのかい?」
「はて、私はただ自分の考えを述べただけですから」
アルドフの言葉に大臣は困惑している様子だったが側近のリリアンヌは何かを察したような笑みを浮かべていた。
「一体どういうことなのかしら? 確かに皇帝も国王もわざわざ呼び出すって相当なことだと思うけど」
「……確かに普通に考えたらそう。でも、事ここに当たっては王国にとっても帝国にとっても願ったりかなったりといった状況になる」
「それはどうしてなの?」
ビッチェの答えにメグミが問いかける。
「……そもそも帝国は、その好き勝手な行動で王国とは敵対関係にあった。そして冒険者についても連盟が手を引いてもいる。その上、今回は王国側に密かに手を回して内乱も引き起こそうとしていた。いくら前の皇帝が失墜してアルドフに変わったとしてもそう簡単に溝はうまらない。だけど帝国が変わるには王国との関係修復は重要。一方王国側も好き勝手された帝国相手にそう安々と国交改善を求められない。つまり話し合う機会を設けることそのものが難しかった。だけど……」
「あ、そうか。ナガレは両国にとって今や英雄。そのナガレを中心にあくまでナガレが建てる学校についての話し合いという体であれば、それを理由に話し合いの場が設けられる」
マイが察したように語る。そう、だからこそ皇帝はナガレに感嘆の言葉を送ったのである。