第四十七話 出費
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メルルとの闘いも終わり、ピーチは目を丸くさせたまま尋ねるように言う。
「そ、そうなの? じゃあこれで闘いは終わり?」
「……大体判った。確かに今の杖や店で販売してる杖だと力不足」
だが、ピーチの声に反応することなく、メルルは改めて、これまで自分の作成した杖を思い起こしぶつぶつと呟き始める。
「メルル?」
それに再度ピーチが呼びかけるが、やはり反応はない。
「……メルルは一度集中すると外の声聞こえない。アイディアが固まるまで待ってるしかない」
「なるほど。得てして天才肌な方はそういうものかもしれないですね。仕方ないです少しお待ち致しましょうか」
ナガレの発言で、仕方ないわね、とピーチも肩を竦めた。
「ところでビッチェ、デスクィーンキラーホーネット討伐の報酬ですが――」
言ってナガレはビッチェの取り分として、用意しておいた報酬を差し出すが。
「……必要ない。それに私はピーチの言うとおり討伐隊に正式に参加していたわけではない」
「ふむ、確かにそれは知ってますが、プレートキラーホーネットを退治したのはビッチェの功績も大きいですしね」
ナガレはニッコリと微笑みつつ、出した手を引っ込める事は無かった。
その様子に嘆息し。
「……ナガレ強引。でもそこまで言うなら仕方無い」
ビッチェは微笑し、ナガレからの報酬を受け取った。
「……でも、強引なのも好き」
「ビ、ビッチェ何言ってるのよ!」
ピーチが吠えるように言った。ナガレを慕う女性が増えてきて油断ならないと考えるピーチである。
「それにしてもピーチ。先ほどの魔力変化は少々驚きましたよ」
「……確かに、魔力そのものを盾にするなんて驚き」
ふたりに褒められ、そ、そう? と照れ笑いを見せるピーチ。
判りやすい性格である。
「あれは活用次第では攻撃面でも役立ちますね。色々と試行錯誤してみるといいと思いますよ」
「そ、そうかな? うん! ナガレがそういうなら頑張るね」
ぐっ! と拳を握りしめるピーチをナガレが優しい瞳で見やる。
ナガレは基本、答えを明らかにするような教え方はしない。
あくまできっかけを与え、そこからは自分で考えさせるのがナガレ流なのである。
「……判った」
と、ここでようやくメルルが思考の海から浮上して来たようだ。
「判ったってメルル、もしかして私の杖の事?」
ピーチが訊くと、こくこくと彼女が頷き。
「……魔力を杖に注ぐやり方は初めて。でも、ようは魔鉱石の魔素含有量が大事」
メルルの発言にナガレも耳を傾ける。
ちなみに魔鉱石とは魔道具などを作成するのに主に使われる材料である。
魔法効果の込められた装備品にも利用される事もあり、通常の鉱石と違い魔素が自然と鉱石化したものと言われている。
魔道具は、この魔鉱石をベースに魔物から採れる魔核と術式を組み合わせて作るものである。
そしてこれは杖も同様であり――
「……ピーチの持ってる杖の素材はマジシル、しかも結構純度が高い。だからこれ以上となると素材はある程度限られてくる。候補としてはマナカイト、それと魔力吸収系の魔核の組み合わせ。本来吸収は敵対する相手に使用、でもそれを術式によって使用者に変換させる」
「……な、なんか言ってる事よく判らないけど、作成は可能って事?」
メルルはこくこくと頷き。
「……肯定、でも費用と時間かかる。大丈夫か?」
「時間はまぁ仕方ないとして、費用ってどれぐらい?」
「……マナカイト、とても希少な魔鉱石。北の鉱山でも採れる、でも量は僅か。魔核も取り寄せ、術式複雑、期間一ヶ月、費用五〇万ジェリー」
「ご、五〇万……」
ピーチが驚きに目を丸くさせた。
だが、当然ナガレは知っている。今ピーチは少なくとも二五〇万ジェリー以上手持ちがあるのだ。
「ピーチ、いい武器には時にはお金を掛ける事も大事ですよ」
「……今更だけど、杖が既に武器扱い――」
ビッチェがなんとなく突っ込むような呟きを発すが、ナガレの言葉はピーチの背中を押す事となり。
「判った! それ! 買うわ!」
決心したようにピーチが声を張り上げる。尤も例えここで五〇万ジェリー使用しても残りは二〇〇万ジェリー以上あるのだが。
「……杖を新しく作るなら、ローブも新調するといい」
え? とピーチが目をパチクリさせる。
「……そのローブ、新しい杖には物足りない。もっといいの作れる、魔法効果の高いので魔法防御アップ間違いない」
「え? でも――」
「……装備はバランスが大事」
ずいっと顔を近づけ、メルルが訴える。
それに少し引き気味なピーチであったが。
「わ、判ったわそこまでいうなら」
「……ついでに魔法の篭った腕輪も――」
え? え? と戸惑いつつもメルルの押しに抗えず、結局杖の代金と合わせて一〇〇万ジェリー分の買い物をしてしまったピーチである。
尤も、これでもそれなりにまけては貰ってるようだが。
「中々メルルは商売が上手ですね」
「……あぁ見えて結構稼いでる。男はあの身体に心奪われるけど」
確かにメルルもビッチェに負けず劣らずのスタイルの良さである。
「うぅ、なんか結構使っちゃったよ~」
「まぁでも、聞いてる限りピーチにはあって損はないものばかりでしたしね」
もし不必要なものを買わせるような相手であれば、ナガレも口を挟むところだが、流石にメルルにはそんな様子はなかった。
寧ろ今後のことを考えれば、この出費は致し方無いといったところだろう。
「……ケーキも美味しかったし色々楽しめた。ありがとう」
注文も終わり、メルルの店を出るとビッチェが別れの挨拶を述べてきた。
時刻は既に夕方の5時を回っている。ナガレとピーチもそろそろ宿に戻ろうかといった時刻であった。
「こちらこそ、色々とお世話になりましたね」
「なんか色々気になる点はあるけど……でも私も楽しかったわ」
お互いに挨拶を終え、そこでビッチェと別れた。
ただナガレはいずれまた彼女と会える予感はしていたわけだが――
そして宿に戻るふたりであったが。
「先生! お帰りなさいませ!」
部屋の前では五体投地でナガレを出迎えるフレムの姿。
その後ろではローザとカイルが苦笑い。
「てか! なんであんたがここにいるのよ!」
ピーチが叫ぶが、ガバリ! とフレムが顔を上げ。
「先生! 俺先生のおかげで目が覚めました! ふたりとも話し合って……俺馬鹿でした! だけどローザもカイルもこれからも一緒にパーティーを組もうと言ってくれて――だから! 俺これからもこの三人でやっていきます! それに俺が守ってやらないと危なっかしいですしね」
照れくさそうにそんな事を言うフレム。ただ以前と違って傲慢な雰囲気は薄れている。
仲間を大切にしたいという気持ちは今のほうが遥かに大きそうだ。
「それは判ったけど……でも、なんでここにいるのよ?」
「はい! 確かに先生とパーティーを組むのは諦めましたが、今でも俺が先生を尊敬する気持ちは変わってません! それに折角同じ街で冒険者として活動してるわけですし、それなら! 是非とも先生のお近くでと思い! 宿と部屋を変えました!」
「おいら達もそれに付き合ってる形だけどねぇ」
「な、なんかすみませんナガレ様。でもフレムが本当に真剣に謝ってくれて……そしてこんな俺で良かったらこれからも一緒に組んで欲しいって――これもナガレ様のおかげです」
そうですか、とナガレも微笑み応じる。
「と、いうわけで先生! 折角宿も一緒ですしこれからも顔を出していいですか?」
「てか、あんたが宿までわざわざやってきたんじゃない? 全く」
腕を組み呆れたように述べるピーチと苦笑いのローザとカイル。
だが――
「それならば別に構いませんよ」
「本当ですか! ありがとうございます! では早速俺の瞑想みてください!」
こうしてナガレもあっさりとフレムの訪問を認め、フレムの修行に時折付き合うこととなったのだった。
何はともあれナガレの周りも随分と賑やかになったものである――
さて第三章の本編はこれで終了、あとは閑話を挟んでの第四章に!
ですが……ブックマークを10000を超えた記念でなにかやりたい気もしますが……
とりあえず考え中です(^^ゞ




