第四八八話 ユーリとの戦い
「ねぇしようよナガレ! もう僕我慢できないんだ!」
「いまここでですか?」
「勿論! 今すぐナガレと一杯したくて仕方ないからね! 体が疼くんだよ!」
「なぁ、なんでお前ら顔が赤いんだ?」
「う、うるさいわね!」
「コホン、そのなんだろうか、普通の会話の筈なのに、妙な感じに聞こえるのは」
「はわわ、ち、違います、私はそんなこと考えてなんて!」
マイ、メグミ、アイカの三人が顔を赤くしながら怒ったり悶たり言い訳を口にしたりしていた。それに首を傾げるフレムである。
「ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って、ユーリそれは勘弁してくれ!」
笑顔でナガレに勝負を挑もうとしているユーリ。だがそんな彼を止めに入ったのは皇帝のアルドフだった。
「流石に世界最強といって差し支えない二人が戦ったらこの城が持たないよ。まだまだ復興途中だしここは我慢しておくれよ」
苦笑しアルドフが懇願する。え~、とユーリは唇を尖らせた。
「だって僕もう戦闘モード入っちゃってるよ。ここで止めたら蛇の生殺しと一緒だよ」
「そうは言ってもなぁ」
「おいお前、さっきから聞いてれば先生と戦いたいだぁ? 一番弟子のこの俺を差し置いて生意気が過ぎるぜ!」
アルドフに食い下がるユーリと弱った顔で頭を擦るアルドフ。すると不満な表情の男が割って入った。フレムである。
「君が一番弟子なの?」
「おうよ! 先生の一番弟子にして神薙流双剣術を名乗ることを許されたのがこの俺フレムだ!」
「神薙流? それがナガレの流派の名前なの?」
「はい」
「へぇ~いいねそれ厨ニっぽくて!」
「はは、ありがとうございます」
「いや、厨ニってそれ褒めてることになるの?」
「チュウニ! チュウニ!」
「よくはわかりませんが、それはサトル様にも当てはまりますか?」
「え? いや、それは――」
両手を握り締めて興奮気味に話すユーリであったが、マイは微妙な面持ちで突っ込むが、それに反応したヘラの質問には困り顔である。
「あの、厨ニって何ですか?」
「え? え~と、か、かっこいいて意味、かな?」
「師匠は気にしなくていい言葉ですよ。そのままでいてください!」
「え?」
首を傾げ質問するローザとごまかすように答えるメグミである。そしてアイカはあまりそっち方面の知識は付けてもらいたくないようだ。
「ちょっとフレム、それなら私だって神薙流魔杖術を名乗らせてもらってるんだからね!」
「……ピーチ」
ユーリにドヤ顔を見せていたフレムだったが、そこに天真爛漫な声が割り込んだ。杖を持ったまま腕を組み妙な貫禄を見せる魔杖少女の参戦である。
「つまり二人共ナガレの弟子ってわけか――うん、面白いね。フレムと言ったかな? それにピーチちゃん?」
「ピーチでいいわよ」
「うん、ならピーチ。だったら二人と勝負させてよ。それならいいでしょうアルドフ?」
「何? う~ん」
「俺は構わないぜ。売られた喧嘩は買うだけだ!」
「喧嘩ってあんたねぇ。ま、私もいいけどね。それなら最初は私が」
「おい、冗談じゃないぜ、先は俺だろ?」
「何よ、私の方が先輩なんだから私に譲りなさい!」
頭を悩ますアルドフだがフレムとピーチは既にやる気満々である。そして――
「はは、そんな一対一じゃなくてもいいよね。二人できなよ」
「は?」
「随分と自信あるのね」
「それはね。二人の先生と本当は戦いたいぐらいなんだから」
頭の後ろに手を回しながらなんてことのないように口にする。フレムとピーチは若干不機嫌な顔になった。
「はは、二人とも頑張って」
そんな二人にカイルが応援の言葉を送る。するとナガレがカイルを見やり。
「ふむ、カイルは良いのですか?」
「え? おいら!?」
「はい。カイルも神薙流星弓術を名乗ってくれるようですし、それにいい経験になると思いますよ」
ナガレに言われ焦るカイル。しかし、ナガレはカイルにも参戦するように促しているようでもある。
「ちょっと待ってナガレ、カイルと三人で挑めということ?」
「はい。その方がいいでしょう」
「はは、なるほどね。確かに遠距離型の弓使いがいたらもっと面白くなるかもねぇ~」
ナガレの発言にユーリは異を唱えることもなく受け入れるつもりなようだ。
「先生、このユーリってのはそこまでなんですか?」
「はい。彼は強いですよ。さて、カイルはどうしますか?」
「う、う~ん……わかった。ナガレっちがそう言うならおいらやるよ!」
そしてカイルも戦いに加わることになり、三対一という構図ができあがった。
「はぁ、まだ許可出していないんだけど、しょうがないね。ま、ナガレが相手じゃないなら大丈夫かな」
「いや、しかし謁見の間で戦闘とは……」
怪訝な顔を見せているのは大臣であった。だが、騎士達に関しては興味深そうにしている。やはり帝国騎士として皇帝が認めた者たちの強さを見てみたいという思いがあるのだろう。
「まぁ、ここにいる騎士にもいい刺激になるだろう。わかった試合を認めよう」
観念したようにアルドフが許可を出し、ユーリが満面の笑みでアルドフに言葉を返した。
「うん、流石アルドフ、話がわかる~」
「なら遠慮はいらないな。余裕がありすぎなのが気に入らないが、先生があぁ言ってんだ本気でいかせてもらうぜ神薙流双剣術・炎双剣!」
フレムの双剣が炎に塗れた。体温調整により汗に刃を浸させ、摩擦熱で一気に燃やす本人曰くナガレ仕込みの奥義である。
「へ~それ魔法じゃないんだね。凄いや、魔法も使わずそれだけの炎を生み出せるなんてね」
「――おいおい、あっさりそれを見破るかよ」
フレムが両目を見開く。確かにフレムの技は魔法ではない。かつては魔法と思い込んだ相手を物理的に燃やしたこともあった。この世界では現象には大体魔法が絡むため、魔法以外の可能性に行き着くものは少なく。
「お、おい、あれ魔法無しでやっているのか?」
「信じられん。確かに魔法以外で力を強めたりするものはいるが、炎を起こすなんて……」
帝国騎士がざわめき出す。中には宮廷魔導師の姿もあり彼らも大いに驚いていた。
「――索眼でも、炎が全く見えねぇ。弱点がないってことか。流石先生が言うだけあるな。だけど、俺だって伊達に先生の修行は受けてないぜ!」
先手はフレムが打った。距離を詰め、舞うように炎に包まれた双剣を振っていく。だがユーリは余裕綽々にそれらを避けていく。
「チッ、あたらねぇ!」
「はは、なるほど結構やるんだね」
「なめんな! 神薙流双剣術・炎双剣回転炎舞!」
回転力を高めると、フレムの全身を包むように炎の竜巻が発生した。天井を焦がしながら進む竜巻の突撃とフレムの双剣の連撃が重なり合いユーリに迫る。
「うぉおぉおおおおぉおおおぉおお!」
「わっと、とと、はは、凄い凄い」
「……完全に遊ばれてる」
フレムの斬撃も炎も、ユーリにダメージを負わせるに至らない。しかもユーリはそれを全て人差し指一本で捌いていた。
「あの子、熱くないのかしら?」
「むしろ涼しい顔で対応しているし――」
確かにユーリは終始笑顔で余裕があった。一方のフレムの顔は必死なものだが。
「チッ!」
「あれ? もう終わり、て、わわ!」
フレムの動きが止まり、キョトンっとするユーリだったが、察したように横に飛ぶと、衝撃音と共に床が陥没。
「ひぇ、鉄球? いや違うか。これ、魔力で形成されてるんだね」
「相手はこっちにもいるってことよ。どっせぇええええええぇええィ!」
更に魔力で形成された鉄球を頭上で振り回した後、ユーリに投げつけるピーチがそこにいた。
「はは、女の子なのにすごく脳筋っぽいよね」
「誰が脳筋よ! これが私の魔法よ!」
そういいつつ魔力で出来た鉄球て攻撃を続けるがユーリは、サッ、サッ、と躱し、その度に外れた鉄球が柱や壁を破壊していく。
「やるわね。だけど私の魔法はまだまだこれからよ!」
ピーチが叫ぶ。だがそれを聞いていた騎士や魔導師は戸惑いを見せており。
「ま、ほう?」
「あれがか?」
「むしろこれならさっきの赤毛が使ってた炎のほうが魔法っぽいような……」
「見た目可愛いのに、あっちはゴリラっぽいもんな……」
「誰がゴリラよ! ぶっ飛ばすわよ!」
そんな騎士や魔導師の言葉に直様反応するピーチなのであった――
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