第四八六話 皇帝とナガレと……
途中、妙な黒騎士に因縁をつけられたりはしたがその後はリリアンヌの案内で無事謁見室まで到着する一行であった。
そして室内に通される一行であったが、そこにいたのは新たに皇帝として即位したアルドフと婚姻したウルナ皇后であった。勿論他にも近衛騎士や宮廷魔導師に大臣なども陪従しているようだが、一人ニコニコとした笑顔を浮かべてナガレを見ている少年もいた。
そしてナガレは先ずアルドフとウルナの婚姻と皇帝への即位を讃える言葉を送るが。
「いやいや! そんな堅苦しい挨拶は抜きにしよう。自分もまだまだ慣れてないのさ。自分なんて元冒険者だから礼儀作法なんてさっぱりでね」
「ふふふ、貴方は相変わらずですね」
アルドフは自らナガレ達の前まで歩み寄り緊張を感じさせない笑みを浮かべながらそんなことを口にした。隣に付き添っているウルナも幸せそうにアルドフと腕を絡ませ笑っている。
ただ周囲の騎士の中には厳しい顔をしているものもいた。皇帝らしくない立ち振舞を見せ、どこか飄々としているアルドフに不満があるのか、それとも先の黒騎士のように皇帝自らが招き入れたナガレ一行に不信感があるのか、もしくはその両方か――
「しかし、どうやらうちの騎士がやらかしたようだな。それは申し訳なかったね。うちもまだまだ現場がごたついていて、帝国に仕えていた騎士や黒騎士も引き続き活動してもらってるんだけど、中には帝国騎士という身分を鼻にかけているような連中も一部いてねぇ、本当困ったものだよ」
「全くだぜ、帝国を救うのに貢献した先生をわざわざ呼んでおいて襲われるんだからたまったもんじゃないっての。先生だから何の問題もなかったけどよ」
「フレム――」
「あ、す、すみません! 先生が襲われたと思うとつい!」
確かに面識のある相手ではあるが、今は帝国を治める元首である。遠慮はいらないと言ってくれているとは言え、ある程度の礼儀は必要だろう。
「いやいや、彼の言うとおりさ。本当に情けない話だよ。全くこれまでの帝国主義をぶっ壊して大きく改革しようという時なのに未だにかつての栄光にすがっているようなクソみたいな連中が多くて困るよ」
「貴方、その、少しいい方を……」
「あぁ、悪い悪い。ナガレさんを見ているとこっちもつい砕けちゃうよ。何かそういう雰囲気があるよねぇ君は」
「はは、私のことならお気になさらず。周りがどう思うかについてはまた別の話でしょうが」
ここでナガレの述べる周りというのは勿論ずらりと並んでいる騎士や宮廷魔導師、大臣のことである。
「陛下、皇后様の仰られるようにあまり皇にふさわしくない言動は……」
「あぁわかってるわかってる。気をつけるって」
近寄ってきた大臣が難しい顔で進言するも、ひらひらと手を振り、適当に躱していた。その言動からして既に皇帝らしくないわけだが。
「はは、アルドフ陛下は相変わらずだなぁ。ところで僕も紹介してもらえると嬉しいんだけどね」
「おお、そうだそうだ。実は今日ナガレさん、ナガレと呼んでもいいかな?」
「構いませんよ」
「あぁ良かった。それでナガレ彼なんだけど」
アルドフの隣に立ったのは、この場では毛色の異なる少年であった。アルドフの子どもとも思えず帝国の人間とは違うような雰囲気を滲ませている。
「彼もナガレと同じで私たちに協力してくれた貢献者なんだ。だから折角だから今日も同席してもらっている。名前は……」
「待って、そこからは僕が自分で言うよ」
アルドフの紹介を一旦遮り、そしてコホンっと咳きした後、ナガレを見てどこか悪戯っ子っぽい笑顔を浮かべ。
『やぁナガレ初めまして。僕の名前はユーリ・モーゼス、一八歳さ。宜しくね』
そう口にして手を伸ばしてきた。それを耳にしたナガレの仲間は一部を除いて疑問符混じりの顔を見せていたわけだが。
『これは丁重にありがとうございます。私は神薙 流と申します。こちらこそ以後宜しくお願い致しますモーゼス様』
ナガレが手を握り返し、彼が最も馴染みのある言語で応対した。それにユーリもニコリと微笑み。
『はは、やっぱりアルドフが言っていたとおり僕と同郷だったんだね』
『どうやらそのようですね』
『ちょ、ちょっと待って! どうしてこの子、ナガレくんと日本語喋ってるの!?』
『お、驚きました……』
『まさか、貴方も召喚されたとか? でも、見た目が……』
『へぇ、そうかなと思ったけど、君たちは日本から召喚されたタイプなんだね! ちなみに僕は転生者さ。元は日本人だけど、高校生の時にちょこっと死んじゃってね。気がついたらこの世界に転生していたってわけ』
両手を広げ、同じ日本人と出会えたことを喜ぶユーリ。しかし前世について軽く話すユーリにマイ、メグミ、アイカは目を白黒させ。
『死んじゃったって、随分と軽く言うのね』
『それに高校生って、早い……』
『今の私たちと同じぐらいの時に亡くなったってことよね……』
『ということは君たちは高校生? うわぁ女子高生なんて久し振り、というか転生振りに見るよ!』
転生した影響で久しぶりに見る女子高生にテンションの上がるユーリであり。彼女たちは若干引き気味でもある。
『待て待て! お主さっきから一体何の言葉で喋っておるのだ!』
すると、メグミ愛用の聖剣が念で語気を強めるが。
『何のって召喚される前の国の言葉よ』
『なんとそうであったか。むぅ、しかし叡智ある聖剣とも称される我がわからない言葉があるとは……』
『ふん、何が叡智だ、ただのオンボロ聖剣の癖に』
『な、悪魔の書、貴様また!』
『へぇ! 君喋る剣を持ってるんだね! あとナガレが出してるそれは、喋る本? 結構めずらしいよねそれ!』
メグミとエクス、そして悪魔の書が念で会話、メグミは始まった喧嘩に辟易していたようだが、とにかくそのことにユーリが興味津々に食いついたわけだが。
『え! 貴方念話に入り込めるの?』
『ん? それぐらい当たり前だよね?』
『いやいや! 全く当たり前ではないぞ! 念話は普通定めた相手としかできんのだし!』
『えぇそうかなぁ? ねぇナガレはこれ出来ない?』
『出来るか出来ないかで言えば出来ますね』
『ほら!』
『いや、こやつを基準にするのはやめてくれ、疲れる』
『ナガレさんは出来て当たり前だし……』
『あれ常識ってなんだっけ?』
エクスはついに常識の定義について頭を悩ませてしまった。
『急に黙ってどうしたのよ』
『念話してたらそこのユーリくんとナガレさんが入り込んできたの』
『え! そんなこと、え~とナガレさん以外が出来るんですか?』
とりあえずナガレに関して言えば出来て当たり前が共通認識のようだ。
「せ、先生さっきから一体どこの言葉で話しているのですか?」
「う~ん、何か聞いたことある気もするんだけど……」
「あ、頭が沸騰しちゃうよ~」
「あ、ローザがまた湯気出してるよフレムっち!」
「……これ、ナガレがいた国の言葉?」
「はい、日本語というものですね」
「日本語、でもどうしてこの、え~と」
「はは、僕の名前はユーリだよ。ナガレも含めて気軽にユーリと呼んでくれていいからね。そして、僕は日本からの転生者なんだ」