第四八四話 ローザはローザ
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ローザは神聖教国ソフォスのトップである大聖女の娘だった。やってきた聖騎士達の前で自らそれを明かし、悪魔の書はナガレに委ねると宣言し、聖騎士達は一旦その場を離れるが、どことなく皆の目を気にしているのか、一瞬の沈黙の中ローザは伏し目がちに皆を振り返るが。
「なんだローザ、よくわかんねぇけど。聖女っての? だったのか?」
「は、はい。何か皆を騙していたみたいでご、ごめんなさい」
「え? 何で謝るの?」
「ふぇ?」
不思議そうに声を掛けたのはピーチだった。別に気を遣っているというわけもなく、本当にそれがどうしたの? といった具合である。
目を丸くして顔を上げるローザ。確かに皆、興味はあったのかもしれない。だがしかし、別にそれでローザに対して何かが変わるわけもなかった。
「……確かに謝るようなことじゃない。ただローザが聖女だったそれだけ」
「はい! 聖女であろうとなんであろうと、師匠が私の師匠であることには変わりありませんから!」
「アイカは本当ローザさんを慕ってるわね。でも私も一緒かな。聖女は凄いなぁとはちょっと思うけどそれだけかな」
「そもそも私達はこの世界のことそんなには詳しくないから、聖女と言われてもピンっとこないしね」
『いやいや、お主は我という偉大な聖剣に選ばれたのであるから、少しは敬うなりなんなりするがよかろう』
「でも、それをローザさんが望むとは思えないわね」
『むぅうぅうう』
『ふん、聖女とわかったとたん謙りおって。これだから俗物の聖剣は』
『な、なんだと! 貴様などただのひねくれ者の癖に!』
『ほう、この我に喧嘩を売ってるのか?』
『ふん、いい機会だ。この際だから決着を!』
「はいはい、どうせエクスは動けないんだから」
鼻息荒くさせてるような雰囲気があるエクスだったが、しかしメグミに止められた。納得はいってないようだが。
「……悪魔の私としては全く思うところがないわけではありませんが、サトル様が慕う方ですからね」
『キシシイシシシシッ、キャスパ気にしない』
「ま、そういうこったな。俺だって今更聖女だって言われてもな。まぁ偉ぶられたらデコピンの一つぐらいお見舞いするけどな」
「あはは、ローザがそんなことするわけないよね。あ、おいらも同じかな、聖女と言ってもローザはローザだもの」
「みんな……」
ローザは少しウルっときているようである。騙してるようで心苦しく思ったのだろうが、変わらない皆に安心し、嬉しくもあると言ったところか。
「ここにいる皆はローザに限らず、素性や過去やしがらみなど、そんなものに囚われる者はいないということです。大事なのは今ですからね。それに、人間誰しもすべてを明かして生きているわけではありません。誰しもが何かしら抱えてるものですからね」
「そうね。よく考えてみたらナガレがその、本当は結構年上だったのも知らなかったもの」
「……子どもや孫がいたことも」
「はは、そう考えたらナガレっちの秘密に比べたらローザが聖女だったことも大したことに思えないよね」
「俺は先生が例えヨボヨボの老人だったとしても何も変わらず先生を慕い続けますから! それが一番弟子の務め!」
「なにげに凄いこと言ってるわね……」
「……失礼にも程がある。破門されればいい」
「ビッチェさん、結構辛辣ね」
相変わらずフレムに厳しいビッチェである。
「でも、よく考えてみたらナガレくんって向こうではえ~と、神薙流? という流派の最高師範だったのよね?」
「今は倅に譲りましたけどね」
「だとしても、日本にいたころはそうだったということは、お弟子さんも一杯いたんじゃ」
「そうですね。基本的にはくるものは拒まずでしたのでそれなりには」
「だったら……一番弟子?」
「あ、確かにそうね。そもそも私も一番弟子とは認めてないけど、でも、おかしな話ね」
「フレムっち残念」
「……良かったこんなのが一番弟子じゃなくて」
「ちょ、ちょっと待て待て待て! そりゃ確かに先生は向こうでも凄かったんだろうけど、こっちの世界での一番弟子は俺だ! それは譲れないぜ!」
「大分妥協したわね……」
流石に生涯の一番弟子と名乗るのは無理があると判断したようだ。そしてチラチラとナガレを見やるフレムであったが。
「私は特に一番や二番などは気にしてませんからね。ただ、いろいろな意味でフレムは忘れられない存在となりそうです」
「せ、先生……うぉおおぉおおぉ! 俺は今猛烈に感動しているぜ! ちょっと走ってきます先生!」
そう言ってどこかへ走ろうとしたフレムであったが、あっさりナガレに捕まって地面に倒された。
「落ち着きなさいフレム。これから帝都まで向かわないといけないのですから」
「あ、そうでした」
そこでようやくフレムも目的を思い出したようだ。そう、聖騎士の邪魔が入り時間を喰ってしまったが、本来の目的は町に向かい、送迎の馬車に乗ることである。
「では、そろそろ行きましょうか」
そして気を取り直して町まで向かう一行。すると送迎の馬車はすぐに見つかった。結構な数の豪奢な馬車が止まっており、明らかに浮いていたからである。
「ナガレ様と愉快な仲間一行でございますね?」
「はい」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってナガレもはいじゃないわよ」
「すみませんつい」
ピーチに突っ込まれ、ははは、と朗らかに笑うナガレである。ちなみに愉快な仲間の下りは新皇帝のちょっとした冗談みたいなものなようだった。
「失礼いたしました。皇帝は少々遊び心が過ぎる方でもありまして。本日は私が護衛と帝都についてからの案内を務めさせていただきます」
女騎士が恭しく頭を下げていった。そして一行は案内され馬車に乗り込む。広々とした快適な馬車であった。そしてナガレ一行を乗せ動き出す馬車であったが。
「馬車なのに座席がフカフカね」
「ケッ、だけどよぉ、貴族が使いそうないかにも金が掛かってますって感じがしていけすかないぜ」
「フレムっち折角用意してもらったのに悪いよ」
「そうよ、もぐもぐ、こんなに乗り心地が良くて、食べ物が美味しいのに、文句を言ったらバチがあたるわモグ」
「もう食べてるんだねピーチ」
「……相変わらずの食欲」
馬車にはテーブルと果物が持ち合わされており、ピーチは早速手を付けていた。今も口の中一杯に頬張っている。
「それにしても一〇人も乗れるなんて随分と広い馬車よね」
「バスと呼ばれる馬車があったことは知ってるけど」
「ゆったりとしていてテーブルも付いて一〇人乗りなんだものね……」
マイ、アイカ、メグミの三人も随分と驚いている。
『キシシシッ、マイ、キャスパモ食ベタイ』
「いいわよはい、あ~ん」
『モグモグ、美味シイ、マイ優シイ、マイ大好キ』
「ふふ、ありがとう」
マイはリンゴを備え付けられていたナイフで器用に切ってキャスパに与えていた。
そしてヘラもサクサクっと切った果物をナガレに手渡し。
「どうぞ」
「これはこれは、ありがとうございます」
「待ってください先生! ここは俺が毒味を!」
「はは、フレムがそんなことしたら死んでしまいますね」
「へ?」
「うん、美味しいですよ」
「チッ」
フレムが目を丸くさせる中、ナガレは平然とヘラが切ってくれた果物に手を付けていた。それを認め何故か舌打ちするヘラなのである。
「皆さん馬車の中はいかがですか?」
「はい、とても快適ですよ」
「もぐもぐ、食べ物も美味しいしね♪」
「……ピーチは食べ物があればなんでもよさそう」
「ちょ、それは失礼ってもんよ! なんでもじゃないわ! 美味しいものよ!」
「た、食べ物については否定しないんだ」
ビッチェに突っ込まれプリプリ怒るピーチだがどこかピントはずれていた。ローザも苦笑しているが。
「もし足りなければまだご用意できますので言ってくださいね。それと、この馬車についてですが、確かに少々お金が掛かり過ぎなのは反論できない事実です。ですが、これも新皇帝の前の者が作らせたものであり、無駄にも出来ないので再利用させて頂いているのです」
「……ま、まぁそういうことなら仕方ないな」
聞いていたのか、と少々罰がわるそうなフレムでもある。
こうしてナガレ一行の乗る馬車はそれなりの距離があったにも関わらず、それほど苦もなく帝都まで向かうことが出来たのであった――
新連載はじめました
『スポ根漫画を参考に球技を極めたら最強の武術だと勘違いされた!~魔球と必殺シュートであらゆる敵をぶっ飛ばす!~』
冒険者ギルドから追放されたおっさん冒険者、しかしひょんなことから手に入れた日本のスポ根漫画を読み球技を極めて戦闘用の武術として扱うことに、必殺シュートで敵を蹴散らせ!魔球で魔法も霞む活躍を!ボールは友だち?いえ蹴ります投げます叩きつけます!そんな球技最強で無双する物語です。
ちなみに実は神薙流にも神薙流球技術が!?
そんなわけでナガレの合気が気に入って頂けたならきっと楽しめると思いますので宜しければチラッとでも覗いていただけると嬉しいです!
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