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第四八三話 ローザの正体




 ゲオルギウスがあけた大穴はナガレの合気で閉じられた。それに絶句する聖騎士達。


 その目は信じられないといった感情に塗れていた。ゲオルギウスでさえ動揺の色を隠せていない。


「そ、そんな、一体こんな少年のどこにそんな力が――」


 わなわなと肩を揺らし、震える声でつぶやいていた。少年――神薙 流は異世界に向かう途中で細胞が活性化し、見た目には一五歳程度にまで若返っている。


 実年齢はお祖父ちゃんと呼ばれるほどであり息子どころか孫さえいる身なのだが、この見た目ではそれを言ったところで信じてはもらえないだろう。


「さて、どうされますか?」

「ぐっ!」

 

 ナガレが改めて問う。正直言えばもうこの時点で勝負は決まっていた。ゲオルギウスでも谷のごとく穴が出来るほどの一撃を放つことが出来ても、出来た穴を軽々と塞ぐみたいな真似は出来ない。


 そもそもで言えば絶対に攻撃を通さない筈の聖剣の加護が全く通用しないのだ、その時点ですぐに気がつくべきだった。


 勝てる気がしない――ゲオルギウスの心中に去来した思いがこれだ。もはやゲオルギウスにはどうしたらナガレを倒せるのか全く思いつかない。何をしたところであのわけのわからない動きで投げ飛ばされるのが関の山だ。


 しかし、それであっても――


「わ、私はソフォス神聖騎士団を代表する五剣聖の一人だ! 悪魔の書を持ち去るような連中をこのままにはしておけないのだ!」

「別に持ち去ったわけではないのですけどね」

「だ、黙れ! こうなったらもう手段を選んではいられん! お前たちも構えろ、全員でこの男を――」

「いい加減にしてください!」


 もはやプライドなどかなぐり捨てて、その場にいる全員でナガレを倒そうとするゲオルギウスであったが、それを諌めるような声が辺りに響き渡った。


 何? と出端を挫かれ、不快そうに眉をひそめるゲオルギウスである。

 そして彼を含めた聖騎士団の前に歩み出してきたのは白い髪の美少女ローザであった。


「え? ローザがなんで?」

「あいつ何してんだ?」

「師匠、なんと勇ましい!」

「あはは、ローザってば勇気あるよねぇ」


 それを見ていた仲間たちも彼女の行動を意外に思っていたようだ。唯一アイカだけは恍惚とした表情を浮かべているが。


「あなた方は恥ずかしくないのですか? 仮にも聖騎士たる者たちが、話し合いもせず暴力に訴えるなど信じがたい行為です」

「は? 何だと貴様! どこの誰か知らんが我ら聖騎士を愚弄する気か!」

「なんて無礼な女だ!」

「何様のつもりだ、ゲオルギウス様、もう構うことありません、この頭のおかしい女も含めて徹底的に痛めつけてから磔にしてやりましょう!」

「そうだ、この連中はきっと悪魔の書に乗っ取られた魔女だ! 火炙りにしてし……」

「待て! 黙れ!」


 ローザの登場で聖騎士達は更に感情が高ぶったようであり、激昂し剣を抜き、殺気を顕にした。だが、そんな中、皆を鎮めるようにゲオルギウスが怒鳴り散らす。


「……その白い髪、それに確かあそこの者たちが、ローザと――」

 

 そしてゲオルギウスがマジマジとローザの顔を見つめた後、ハッ! となにかに気がついた様子を見せ。


「髪は短くなっておりますが、ま、まさか貴方様は、せ、聖女様ではありませんか? 聖女ローザ・ホワイティ様では?」

「「「「「「え?」」」」」」


 ゲオルギウスの発言に聞いていた聖騎士達が色めき立つ。ざわざわと騒がしくなる。


「ちょ、ちょっと待てよ、ローザ・ホワイティというと……」

「大聖女ホルス様が一人娘……」

「確か失踪したという話であったが……」

「それが、まさかあの少女だというのか!?」

「馬鹿なありえん!」

「いやだが、そう言われてみるとあの穢れを感じさせない純白の髪は……」

「確かに大聖女と通ずるものがある――」

 

 口々に囁かれるその事実に、ナガレ以外の仲間たちも目を丸くさせていた。


「えっと、どういうこと?」

「……ホルス・ソフォス・ホワイティといえば、神聖教国ソフォスの大聖女にして元首。その娘がローザということ。しかも聖女の称号を持つということは他の国で言う皇太子と同じ立ち位置」

「へぇ~あいつ、そんなんだったのか。何か偉そうだな」

「いやいや実際偉いんだよフレムっち。聖女様だよ? つまり後の大聖女ってことだよ?」

「それって、私たちの国で言えば、後の教皇ってことよね……」

「そう考えるととんでもないわね……」

『キシシシシシッ、ローザエロイ!』

「キャスパ、一文字違うだけで意味が全然違うわよ」

「はぁ、流石は師匠です。美しく気高く自愛に満ちたローザ様が、大聖女だなんて」


 ローザの正体を知りそれぞれがそれぞれの反応を示す。


「……はぁ、どうやらここまできたらごまかしてはおけないようですね。確かに貴方様の言う通り、私はローザ・ホワイティで間違いありません」

「マジかよ……」

「ど、どうしよう俺、頭のおかしい女なんて言ってしまった……」

「俺も火炙りにしろって……」


 聖騎士の中でも暴言を吐いていた者たちの顔から血の気が引いた。確かに発言からして不敬以外の何物でもない。


「や、やはり! しかし、だとしたら何故これまで! 貴方様が失踪してからというもの大聖女様がどれほど悲しみに打ちひしがれたか!」

「……それは、嘘ですね」

「え?」


 聖騎士達の心配を他所に、ゲオルギウスはローザに詰め寄り声を強めた。だが、ローザはどこか冷めた顔で彼の言葉を否定する。


「……あの人が私のことなんていちいち心配するわけがありません。私がいなくなってからも、騒ぐ必要ないと、放っておいて構わないとでも言われたのでしょう。あの人はそういう人です」

「いや、それは――」


 ゲオルギウスが急にしどろもどろになる。どうやら当たらずとも遠からずといったところなようだ。


「……とにかく、今はあの人のことは関係ありません。それよりもあなた方についてです。今もいいましたが、何故ナガレ様にいきなり剣を向けるような真似を? 確かに国は違いますが、ナガレ様の行った偉大な功績は、流石に耳に入っているでしょう?」

「そ、それは、ですが、悪魔の書については捨て置けません。それに洗脳の可能性も……」

「つまり私が洗脳されていると、そう申されるのですか?」

「いえ、決してそのような!」


 ローザが正体を明かしてから、ゲオルギウスは押されっぱなしである。

 ローザも眉を怒らせ、かなり憤慨している様子。ローザのこんな姿を見るのは付き合いの長いフレムやカイルからしても初めてのことであった。


「ナガレ様については悪魔の書を預かる前から私も良く知っております。仲間と認めてもらい、ご一緒させて貰うことも多かったからです。ナガレ様は今回の件だけではなく、その活躍ぶりは伝説とされる英雄と比べても、言え比べるまでもなく遥かに上です。だからこそ断言できます。悪魔の書はナガレ様の手元にある限り絶対に安心です!」


 指を上下に振りながら、聞き分けのない子に言い聞かせるように口にするローザである。その姿にゲオルギウスもタジタジだ。


「お気持ちはわかります。ですが、此度の件は大聖女ホルス様から直接くだされた欽明でもあります。にもかかわらず何の成果も立てずおめおめと引き返すわけには……」

「そうですか。それならば仕方ありません。本当はこんな方法を取りたくありませんでしたが――これは聖女ローザ・ホワイティとして発言致します。悪魔の書は聖女の名においてナガレ・カミナギの管理下に置かれることと決定致します」

「な!?」


 ゲオルギウスが絶句した。他の聖騎士も動揺している。


「おい、この場合どうなるんだ?」

「どうなるって、大聖女の命令の方が優先だろう?」

「いや、そう簡単な話でもない。そもそも聖女様がみつかったことも大変なことだ」

「我々の行動に聖女様の存在は考慮されていない。いくら大聖女様の欽命とは言え、聖女様の意思決定をないがしろには出来ない」


 どうやら聖騎士の中でも迷いが生じているようだ。ゲオルギウスも頭を抱えるが。


「……聖女様、ご自分の言っている意味を理解されていますか?」

「勿論です。それと、先程貴方は成果無く戻ることは出来ないと申されましたが、であれば私のことを報告なさい。一応は私も大聖女の娘、それが見つかったとあれば功績としても数えられることでしょう」


 ローザが凛とした口調で言い放つ。ゲオルギウスは暫し考えるが。


「……承知いたしました。それであれば今回は聖女様のお顔を立てさせて頂きます。我々の身を案じて頂き痛み入ります。それと、先程はうちの騎士が無礼な真似を」

「そのことはもういいのです。ナガレ様とて、そのようなことを気にされるような矮小な御方ではありません。ですので、後のことはどうか我々に任せて、この場はどうぞお引取りを」

「……わかりました。お前たちいくぞ!」

『は! はい!』


 こうして、ゲオルギウスが他の聖騎士を引き連れ、その場を後にした。残ったのはローザと、マジマジと彼女を見つめる仲間たちだけであった――

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