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第四八一話 ソフォス神聖騎士団

 ジョニーから話を聞き、新皇帝となったアルドフから招待を受けた一行は、送迎の馬車が用意されているという町まで行こうとするが、その時、白銀の鎧を纏った騎士たち行く手を阻まれた。


 彼らはソフォス神聖騎士団と名乗り、どうやらナガレの持つ悪魔の書が目的らしく、それをおとなしく渡さなければ天罰を下すとまで言っているが。


「残念ですがそれは出来ません」

「この悪魔の手先め!」


 ナガレはその命令をあっさり突っぱねた。途端に激昂した聖騎士の一人がナガレに切りかかってくる。


「やれやれ物騒ですね」


 しかしナガレは振り下ろされた剣に軽く手を添え、流れるような所作で見事に受け流した。聖騎士は剣ごと体をもっていかれくるりと回転して地面に背中を打つこととなる。


 それは単純な動きでありながらも洗練されており、見るものを魅了する流麗さをも兼ね備えていた。


 そこまでのダメージを与えるようなものではなかったが、受けた騎士はポカーンとして動きを止めている。


「おい! 何をしている! 貴様聖騎士ならぼさっとしてないでさっさと立たんか!」


 屈強な聖騎士の一人が呆けている騎士に向けて怒鳴りつけた。上半身だけ起こした騎士は立ち上がろうとするが力が入らないのか全く起き上がることが出来ない。


「大丈夫ですか?」

「え? あ……」


 ナガレの出した手を自然と受け取り、そこでようやく立ち上がる。それを見ていたもう一人の騎士が怒気の篭った声を上げた。


「敵に情けをかけられるとは貴様それでも聖騎士か! えい! もういいこの俺が!」

「待て――」


 鎧を窮屈そうに身に着けている騎士が、前に出てその大剣に手をかける。だが、そんな彼を止める男がいた。


 金髪碧眼の精強そうな騎士であった。青年後期程の年齢であろうか。金色の髪は上手く纏まっており、鎧にも年季が感じられる。だが普段から手入れが行き届いているのがよくわかるほど磨き上げられてもいた。腰にはどことなく神的な剣が帯びられていた。


「お前では無理だ下がっていろ。そこのお前もだ、どうやらこの男は我ら聖騎士でもそう簡単にはいかぬようだ」

「そんな! このような相手にわざわざゲオルギウス様が出るまでもありません!」


 ゲオルギウスと呼ばれた聖騎士が、屈強な騎士と最初にナガレに倒された騎士に命じた。

 それに最初の騎士は素直に応じたが、もう一人は納得していないようだ。


 尤もその口ぶりからは、ゲオルギウスの格が違うという節も感じられるが。


「この私が下がれと言っているのだぞ?」

「――ッ! し、失礼致しました……」


 鋭い視線をぶつけると、ひたいに汗を滲ませ、屈強な騎士が大きく後ろに下がった。それを見ていた騎士たちがざわめき、そしてささやき始める。


「まさかモル団長ではなく五剣聖のゲオルギウス様が出ることになるとは……」

「あの男がそこまでの実力者ということなのか?」


 どうやら下がった男も団長という立場だったようだが、ゲオルギウスという騎士はそれ以上の強者なようだ。


「ふん、五剣聖だぁ? 肩書だけは立派なことだな。まぁ先生に勝てるとは思わないが」

「な! 貴様! ゲオルギウス様を愚弄する気か!」


 腕を組み、悪態をつくフレムだが、それをモル団長は見逃さず額に浮かび上がった血管を波打たせながら怒鳴りだした。


 へ、と鼻を鳴らすフレムに、更に怒りを顕にするモルであり。


「フレム、初対面の相手にその言い方はいけませんよ」

「え? あ、申し訳ありません先生!」

「ゲオルギウス様でしたね。不快に感じられたなら申し訳ありません」


 だが、ナガレはフレムを嗜め、柔らかな物腰で眼の前にいる聖騎士に謝罪した。例え仕掛けてきたのが向こうからであってもナガレの弟子を名乗るフレムが行った無作法には謝罪する。それがナガレである。


「別に気にする必要はない。ただ、うちの人間も少々短気が過ぎたのは確かだ。私とて無駄な戦いを望んでいるわけではない」

「それは良かった。避けられる戦いならば避けるにこしたことはありませんからね」

「ふむ、ならば話は早い。それでは悪魔の書を素直に渡して頂けるかな?」

「残念ながらその要求にはお応えできません」


 ゲオルギウスも一見すると穏やかそうな表情でナガレとやり取りを行うが、ナガレがそれを拒んだことで、目を細めた。その笑みとは裏腹に目は全く笑っていない。


『……ふん、ちょうどよいではないか』


 だが、そこで口を挟んできたのは、なんと悪魔の書であった。


『いい加減、我はお前と一緒にいるのに疲れた。久しぶりに外に出れて楽しめはしたが、そろそろ戻ってもいいことだろう』

「……これは驚いた。まさか悪魔の書が人間の言葉を発しているのか? ふむ、どうやら念のようだが、なんとも忌々しいことよ」


 笑みが消え、その表情が険しくなる。


『おい貴様、我は要求に応じてやるぞ。そのまま封印でも何でもするがよかろう。言っておくが今回の件、サトルを操ったのもこの我の所為よ。ふん、あんな奴、我にかかれば精神的に支配することなど造作もないことであるからな』

「……悪魔の書、まさか貴方……」

『キシシシシ……』

『…………』


 悪魔の書の発言に何かを察したのか、マイが寂しそうな顔を見せた。キャスパとヘラも神妙な表情だが口には出さない。


「……どういうつもりか知らないが、そっちから戻ってくると言うなら願ったり叶ったりだな。さぁこれでもう迷うことはないであろう?」

「そう言われても……残念ながらやはりお渡しできませんね」

「な、なんだと?」


 手を差し出すゲオルギウスだがナガレは首を縦に振らない。その態度にゲオルギウスの目の色も変わる。だが、そこで語気を強めたのは当事者である悪魔の書だ。


『待て! 貴様どういうつもりだ! 我が戻ると言っているのだ!』

「貴方こそそんなことを勝手に決めないでください。私にはサトルとの約束があるのですから」

『な! 貴様判っているのか! 我を渡さなければサトルにとっては不利益でしかないのだぞ!』

「そんなことだろうとは思いましたが、あまりに行動が短絡的ですね。そのような選択はただの自己満足でしかありません」

『な!』

『カカカ、ざまぁないであるな悪魔の書め』

「うん、ややこしくなりそうだがエクスはちょっと黙ってようね」


 メグミが聖剣のエクスを嗜める。悪魔の書が絡むとどうにも口が悪くなるのがエクスの欠点だ。尤も見ていると心底憎いというわけでもなさそうだが。


「……この状況でまだ渡せないというのか? その悪魔の書は世界を破滅させる可能性のある災厄の書だぞ? ただちに封印せねばならぬのだ」

「果たして本当にそれが正しい選択でしょうか?」

「何?」

「封印だけが全てではないということです。それに、封印などをされてはこの中の魂が救われません」

「魂だと?」

「はい。この中には罪なき家族の魂が囚われております。それを解放する為、封印させるわけにはいきません」

「何かと思えば、愚かなことを。はっきりと言ってやろう。その家族はもうだめだ諦めるのだな」

「そ、そんなあんまりです!」

「本当、とても教会の言っているセリフとは思えないわね」


 ゲオルギウスの態度にアイカが叫びピーチが眉をひそめた。仮にも教会の聖騎士が見捨てるような発言をするとは、心なしかローザの表情も険しい。


「随分な言い草ですね」

「こういうことはハッキリと言ったほうがいいのでな。どうせその悪魔の書が言ったのであろうが、魂が囚えられているなどという謀りを信じるほうがどうかしているのだ。その家族の魂などとっくに食われているのだろうからな」

「それはありませんね。魂は確かにこの本に囚えられておりますし、今のこの本には魂をどうこうしようという気もありません」

「まるで魂が見えているかのような発言だな」

「……ナガレならそれぐらい当然に出来る。寧ろ剣聖などと持ち上げれている割に、そんなこともわからないのか?」


 ビッチェが挑発的な顔を見せる。だが、なぜか周囲で見ていた聖騎士の顔が赤い。股間を押さえているのもいる。


「……なるほど。そういうことか判ったぞ」

「何が判りましたか?」

「お前たちが既に悪魔の書に洗脳されているのだということがだ。そうなるとこちらもそれ相応の手に出なければならないようだな」


 一人納得したようにそう口にすると、ゲオルギウスが鞘から剣を抜き出した――

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