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第四七九話 面会

 帝国の残党は全て片付いた。後は適当に縛り上げた後、ナガレの手で帝都へと飛ばされた。後のことは新生帝国側で処理してくれることだろう。


「いやはや、あの人数を何事もなかったように投げ飛ばすなんて凄まじいねぇ」


 ジョニーが呆れたような感心したようなそんな感情の篭ったセリフを吐き出した。


「ま、先生ならこれぐらい当然だな」

「今更驚くことじゃないわね」

「本当そう思えちゃう私が怖いよ」


 フレムとピーチのやり取りに納得できてしまう自分に不安になるマイなのである。


「さて、大体のことは伝えた、と、そうだそうだ。大事なことを忘れるところだったねぇ」


 ジョニーはそのまま立ち去りそうな様子であったが、何かを思い出したように頭のハットに手をかけナガレを振り返る。


「サトルとアケチについてだけどねぇ。サトルは暫くはうちらの管理下で軟禁されることになると思う。特に今教会の連中がうるさくてねぇ」

「教会というと悪魔の書についてですか?」

「ま、そういうことだねぇ」

『ふん、あんな杜撰な管理しか出来ん連中が今更我に何の用があるというのだ』

『愚か者が。そんなもの貴様を燃やして灰燼に帰す為に決まっておろうが』

『なんだとこのポンコツが!』

『埃まみれの愚書が偉そうに!』

「ちょっとエクスやめなってば」

『むぅ、しかしこやつが!』

「あんまりわがまま言うなら、暫く磨いてあげないわよ?」

『な! く、ひ、卑怯ではないか!』


 メグミは勝ち誇ったようなドヤ顔を見せていた。エクスを手に入れてから毎日の手入れを欠かさない彼女であり、エクスもそれが気に入っていたようで、それが無しとなるのはかなり堪えるようだ。


「ねぇ、サトルが悪魔の書を手にしたのはアケチに嵌められたからでしょ? それなのに罪になるの?」

「教会としては悪魔の書を使っていたことが罪になるみたいな見方だからねぇ。それ以外の罪は帝国側から不問にするとあったのだけどねぇ」


 それ以外というのはサトルが悪魔の書を使用して殺してしまった者たちについてだが、それぞれ腹に一物を抱えたような者も多い点や、殺されそうになった為反撃した結果などが考慮されたようだ。

 

 またサトルと同じように召喚された生徒に関して言えばそもそもこちらの世界とは関係のない話であり、関与しないという姿勢らしく、このあたりはサトルにプラスに働いていると言えるだろう。


「サトルくんとはお話できそうですか?」

「誰でもというわけにはいかないけどねぇ。Fランク冒険者になった君なら問題なく面会が出来る筈さぁ」

「……早速役立ったみたいで何より」


 確かに、結果的にFランクの称号のおかげでサトルと会うことが出来るならFランクという肩書も無駄にはならない。


「ところでさっきアケチがどうとか言っていたような気がしたんだけど……」


 マイが不安そうな表情でジョニーに問う。アケチもサトルと一緒にナンバーズによって連行されたわけだが。


「いやぁ、これもまた厄介な話を持ち出してねぇ。なんでもおいらたちがいた世界、つまり地球だねぇ。そこには事情を知る親がいて、日本で権力を握っている。それを知っていてこんな不当な扱いをするのかと騒いでいるのさぁ。一応こちら側にも勝手に召喚したという負い目もあるしねぇ。出来れば他の世界とのいざこざは避けたいって考えもあるようでね」

「ちょ、ちょっとまってよ! だったらサトルはどうなるの? その話で言えばどうしてサトルだけ罪に問われるのよ!」


 マイが噛み付くと、ジョニーが困った顔を見せた。


「そうなんだよねぇ。ただ悪魔の書は教会が絡んでいて、教会としては使用したサトルを問題として取り上げるけど、アケチには関心がないようなのさぁ」

「――それでは筋が通らないのでは? 教会の悪魔の書を利用してサトル様をハメたのはアケチなのですからそこが不問になるというのは到底納得のいくものではありません」


 これに異を唱えたのはローザであった。聖道門の使い手だけあって思うところがあるのかもしれない。


「う~んそれを言われちゃうとねぇ」

「……パパはどう言ってるの?」

「マスターの考えは今のところ中立かな。ただ、サトルにかなり興味はありそうかな」

「……なら――」

「ただ立場上、私情で肩入れするわけにもいかないからねぇ。全く弱ったものだねぇ。あのアケチを黙らせる手でもあればいいんだけどねぇ」


 ジョニーはちらりとナガレを覗いながらそんな事を言った。やれやれとナガレが嘆息し。


「仕方ありませんね。どちらにせよ、そのつもりもありましたし、アケチとも面会するとしますか」






◇◆◇


 ジョニーの案内でナガレ一行はサトルとアケチが捕らえられている施設まで来た。冒険者ギルド連盟が建設した特別施設であり、この範囲内はどの国の干渉は受けない。


 とは言え、施設としては収容所に近い形態であり、故にその監視は厳重であり、高さ100mを超える堅牢な壁に囲まれている。


 その壁も勿論ただの壁ではなく、防御結界の術式を施されたサジタリウム製の壁である。


 サジタリウムはマジシルとアダマンタイトを組み合わせた合金であり、マジシルの脆さを克服した上で、魔法耐性と物理耐性を両立させ、魔法付与も施しやすくなっている。


 理想的な合金だが、それぞれの素材が希少な為、コンクリ製の壁と組み合わせる形が取られている。


 出入り口となる門は二箇所存在するが、これもアダマンタイト製で隙はない。門の前にはSランクとAランクの特級冒険者が番をしていた。


 常に三人体制で部外者の侵入を許さないよう見張りを続けている。


 尤も、ジョニーが一緒だったということ、それにナガレがFランクであることもあり、一行の審査はスムーズに進んだ。


 そして面会室に通され、アケチがやってくるのを待つ。すると間もなくして面会室のドアが開き、アケチが入ってきたわけだが。


「……髪がない」

「ないわね見事に」

「つるつるだな」

「毛根死んじゃってるねぇ」


 中々辛辣な一行に、アケチは不機嫌さを明らかにしたが、看守に促され席についた。皆が言うように確かに髪は一本もない。ただ肉体は皮と骨だけのようになっていた状態からかなり回復したようである。


 首には首輪、両手両足に手枷足枷といった状態だ。首輪に関してはスキルや魔法を封じる効果があると思われる。


 最もナガレの手でアケチの力の殆どは失われているが。


「体は大分戻ったようですね」

「戻った? はは、この頭を見て嫌味かな? 話によるともう二度と戻ることはないそうだよ」

 

 卑屈な笑みを浮かべてアケチが言った。だがすぐに腕を組みふんぞり返ったような姿勢を見せた。


「それで、わざわざここまでやってきたってことは、この僕に謝るつもりできたってとこかな?」

「は?」


 この態度に真っ先に反応したのはマイだ。不機嫌そうに眉を顰めた。


「なんで私たちがあんたに謝らないといけないのよ!」

「ふん、なんだ聞いてないのか? 僕の両親が日本を牛耳る明智家だってことに。父は警視総監だし祖父は国の大臣だ。判るか? 僕は地球の時代から選ばれた人間なんだ! お前らとは格が違う。現に異世界の連中も僕がちょっと脅したら態度がころっとかわって愉快ったらないさ。ナガレ、お前はこの僕に力で勝てたからと、そして僕の能力を奪ったからと調子に乗ったようだけど真に強いのは武力じゃない、圧倒的な権力だ!」

「やれやれ、随分と舌が回るようですね」

「ふん、余裕ぶっていても判るぞ。今お前は内心焦っているってな!」


 ケタケタと愉快そうに笑うアケチ。ここまでくるといっそ清々しくもあり。


「私たちがここまで来たのは別に貴方に謝る為じゃありませんよ」

「は、そんなこと言ってられるのも今のうちだ。言っておくが僕の父はこの世界の事を知っている。異世界だから関係ないなどと言わせないからな!」

「えぇ、存じ上げておりますよ」

「……何?」

「そこで、今日は貴方に一つ見てもらいたいものがあるのです」

「見てもらいたいものだって?」


 ナガレははい、と笑みを浮かべ、マイに悪魔の書を手渡した。

 そしてマイの能力で悪魔の鏡を現出させる。


「なんだこれは? お前、何のつもりだ! 僕になにかしたら!」

「安心してください。これは一種の通信機器みたいなものです。地球と交信するためのね」


 すると鏡の中に机に座る一人の男性の姿が映った。


「……誰だこいつは?」

『君が、明智 正義だね』

「な! 会話が出来るのか? まさか本当に地球と?」

『そのとおりですよ。そして私は日本の公安零課所属の太三 元(だいさん げん)。まぁよろしく』

 

 ゲンが軽い感じに挨拶する。その態度が気に入らないのかアケチが眉をひそめるが。


「公安零課? 聞いたことがないな。まぁいい。公安なら警察の犬だろう? 今すぐ父と連絡を取れ! これは警視総監の息子たるこの僕からの命令だ!」

『あっはっは、何を寝ぼけたことを、そんなこと無理に決まってるでしょう』

「な、何ィ! 貴様、どういうつもりだ! 貴様など父に頼めばすぐに首にだって出来るのだぞ!」

『いやはや、ナガレさんには聞いてましたが清々しいぐらいの屑ですねぇ。おかげで私も遠慮なく伝えられそうだ』


 アケチが眉を怒らせ、その腕はプルプルと震えていた。


「貴様じゃ話にならん! さっさと僕の家族を呼べ!」

『無理ですよ。そうですね結論から言わせてもらうなら貴方の父親はもう警視総監ではない。父だけではなく祖父も大臣を辞任し、過去の違法な行為が明るみになり今は塀の中ですよ。家族にしても明智の姓を持つものは全て罪に問われました』

「……は? え? な、何をい、いってるんだ!」

『まぁ詳しくはこれでも見てください』


 そういってゲンは背後に設置されていたテレビを付けた。そして録画していた明智家に関する報道の数々を彼に見せる。


 その内容を愕然とした表情で見続けるアケチであり。


『ここまで見ていただければ十分でしょう。このとおり権力を傘に好き勝手やってきた明智家の悪行の数々は露見され、もう見る影もありません』

「ば、馬鹿な! こんなことありえない! デタラメだこんなものは!」

『ここまでみて信じられないというならどうぞお好きに。私が伝えたいのはむしろここからです。ナガレさんのお話ではどうやらお前はそっちの世界でも随分と好き勝手やってきたようだが――』


 ゲンの口調が変わり目つきも変化した。アケチ相手に全くひるまずそれどころか眼力で逆に威圧する。アケチも、う、と気圧されてしまっていた。


『さて、ここで朗報、いやお前にとっては悲報か。実はアケチ一家は一度は保釈されたのだがな、どうやら多方面から恨みを買っていたらしくそのまま行方不明になってしまった。尤もこちらで得た情報では裏の組織に拉致られてしまったようだが』

「な、ふ、ふざけるな! だったらたすけろよ!」

『いやはやそれがまた海を超えてしまったようでね。流石に管轄外だ』

「な、な!」

『明智家について伝えるべきことは以上だ。さて、どうやらお前は地球人であるという事を盾にそっちで刑罰を免れているようだが、もしこっちに戻ってくるつもりだというならもう一度考えた方がいいと思うぞ? 明智家を恨んでいる人間は日本でも世界でも多い。お前は一応は学生扱いだから法で裁くには限度があるが、裏の社会はそうもいかない。例え戻ってきたとしても……ま、ろくなことにはならないだろうな。つまりお前が選ぶべきは二つに一つだ。そっちの世界でおとなしく裁きを受けるか、死ぬ覚悟で地球に戻るかだ。尤もそっち側の人間が簡単に死なせてくれるかどうかは別問題だがね』


 ゲンがそこまで言うと、すっかり取り戻していたギラギラした眼光が薄くなり、あっというまに目から光が失われ、絶望に満ちた表情でアケチがその場に崩れ落ちた――

というわけで新元号の令和となり記念すべき初更新はレベル0合気道からです!

元号が変わりましたが改めてどうぞよろしくお願い致します!


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