第四七六話 神薙流大放出!
久しぶりのナガレ回です!
「これで、舞さんも安心できましたか?」
「え、え~と……」
しばらく、ナガレ達と留まり地球側の様子を見続けていた新牧 舞であったが、明智家が捕まることになった顛末まで聞き終えた後、その場で固まってしまった。
みたところ思考が追いついていない様子だが。
「……とりあえず明智家が揃って捕まって、ミカは上手くやってるということでいいのかしら?」
「はい。それで大丈夫だと思いますよ」
ふぅ~と大きく息を吐きだす。そして改めてナガレに向き直り。
「何はともあれ、ナガレくんには本当に感謝してるわ。本当私より年下っぽいのに……あ、でも実際はずっと歳上なのよね? う~ん何か頭がおいつかないけど本当にありがとう」
「いえいえ。私は大したことはしておりませんし」
「そんなことはないと思うけど、でも、ナガレくんの家族にもお礼を言わないとね……」
「それはもし会う機会があればその時にでも言って頂ければいいですよ」
「そのときって……」
その機会は一体いつ訪れるのか、と小首を傾げるマイではあるが、とにかく感謝の気持ちを忘れないよう心に留めておく。
「でも、ナガレさんは本当に凄いです……あれだけ問題視されなかったサトルくんの件も、明るみになりましたし」
こう語るのは相沢 愛華である。ちなみに今のその姿はローザを倣うような白ローブ。それも、ここにいる間、多くの魔物を全員が狩っていたため、せっかくだからとナガレが素材を利用し合気で裁縫して作ってくれたものである。
「私も少しだけ肩の荷がおりた気がする……本当に感謝しかないです」
立川 恵もやはりナガレに感謝していた。彼女は特にサトルに負い目を感じていたからだろう。
とは言え、今回ナガレはサトルの悪魔の書の使い方を教え、地球との交信に役立てただけであり、それ以外は全て家族に任せていた。そのため、この件に関してはそこまでお礼を言われるようなことではないと考えてもいる。
なのでその話についてはそこそこのところで話を終わらせ、今後についてとなるが――それについてはナガレにはある思いがあったわけだが。
「先生! あの、実は折り入ってご相談がありまして!」
すると、フレムが真剣な目でナガレの前までやってきた。
「さて、なんでしょうか?」
「は、はい! その、ものすごく恐れ多いことではあるのですが……お、俺にも先生の神薙流! 名乗らせていただけないでしょうか!」
「別に構いませんよ」
「そ、そうですよね……やはりそう簡単には……て、えええぇええ!? いいんですか先生!」
「はい。いいですよ」
フレムはまさに鉄よりも固い決意を持ってお願いしたといった様子だったのだが、ナガレは存外あっさりしたものであった。
「ねぇナガレ、それなら私も、いい?」
「はい、構いませんよ」
「……私も、いい?」
「勿論、どうぞどうぞ」
次々と許可を出していくナガレであり。
「ナガレっちてばもしかしておいらもオッケーだったりする~?」
「はい」
「ええ! 本当に!」
「さ、流石にかるすぎない?」
「まるで神薙流のバーゲンセールね」
確かにナガレは随分とあっさり神薙流を名乗るのを許可しているが……。
「先生、でも本当にこんなに簡単に許可を貰ってよかったのですか?」
「はい。もともと神薙流は来るもの拒まずでやってきました。勿論入門してから続くかは本人次第でしたが、皆さんは既に私の錬についてきてますからね」
あ、とどこか納得の言った顔を見せる一同。確かに明智の件が片付くまでの間も、ナガレによる指導は続いていた。そしてここにいる全員はナガレの厳しい修行も見事熟している。
つまり神薙流を名乗るレベルには既に達していたのである。
「……それでしたら先生! ぜひ俺に授けてほしいのです!」
「授けるですか?」
「はい。神薙流にふさわしい後に続く名称を是非!」
「あ、それなら私も!」
「……私にもナガレのが欲しい」
「折角だからおいらにも」
「ふむ、そうですねわかりました」
そしてナガレは一考した後、彼らに向けて言った。
「フレムは神薙流双剣術で――」
「神薙流双剣術……ありがとうございます! 一生大事にし広めていきます!」
「ピーチは神薙流魔杖術で如何でしょう?」
「凄い! 何か魔法と杖を組み合わせた魔導師って感じね!」
ナガレは何も言わなかったが、おそらくそういう意味ではないだろう。
「ビッチェは神薙流幻剣術ではどうですか?」
「……凄いしっくりくる。嬉しい……」
「カイルはやはり神薙流星弓術でしょうか」
「あはは、何か気が引き締まる思いだねぇ~」
こうして四人が神薙流を名乗ることが決定した。今後どのように異世界で広まるかは彼ら次第である。
「ところでローザはいいのか?」
「私は戦闘は得意じゃないし。でも、神薙教はいずれ広めたいです!」
「それは……でければ控えて頂けると……」
「おお! なるほどそれはいいなローザ! 断じて応援するぜ!」
「勿論私も応援します!」
フレムの問いかけに対し斜め上に答えるローザ。神薙流は宗教ではないので出来れば勘弁願いたいナガレだが、フレムやアイカも賛同しやたら盛り上がってしまっていた。
やれやれと思いながらも、とりあえず様子を見ることにしたナガレである。
「でも、そうなると私はどうなるのかな? 私はビッチェさんに剣を教えてもらって師匠だと思っていたりするんだけど……」
「……私にとっても今やナガレは大事な想い人でもあり、師匠。そして師匠の師匠は師匠。つまりメグミにとってもナガレは師匠」
「う~ん、つまり私も神薙流の一員ってことですね!」
「……つまり神薙流幻剣術の弟子一号」
「そう聞くと責任重大ですね」
何やらビッチェとメグミの間で勝手に話がまとまったようだ。
「私も神薙流を名乗ることになるのかな?」
『キシシシシシッ! キャスパモ?』
「それはお任せしますよ」
マイが小首をかしげ、肩に乗っているキャスパも同じように首を傾げたがふたりはとりあえず保留にしたようだ。
「皆さん、食事が出来上がりましたよ」
するとヘラドンナがやってきて全員に向けて食事の完成を告げた。今は昼時であり、今日の食事当番はヘラドンナであった。
『いただきま~す』
全員で昼食を食べる。ヘラドンナは料理が旨い。狩った食材を活かした料理は評判も高い。
「相変わらず毒がいいアクセントになってますね」
「相変わらず貴方には毒が通用しませんね」
毒入り料理でも平気で口にするナガレにヘラドンナもすっかり呆れ顔である。
「ここまで来るとヘラドンナも神薙流毒殺術とか名乗れるんじゃない?」
「絶対嫌です」
冗談っぽくピーチが提案すると、ヘラドンナは即座に拒否した。とはいえ、以前ほどナガレに強い恨みを抱いているわけでもなさそうであるし、皆との食事も楽しんでいる様子が感じられた。
「いやはや、それにしてもこの料理は美味しいねぇ。これがまた悪魔とは言えこれだけの美人が作ってると思うと、うん味も格別。うん、これおかわりを貰っても?」
「構いませんが……」
器を手渡すウェスタンハットの男。その姿にヘラドンナが怪訝な顔を見せ。
「て、どうしてお前がここにいるんだよ!」
「うん? あれ? おいらがいちゃ何か問題があったかなぁ?」
フレムが彼に気がつき叫ぶと、とぼけた調子で彼、かつてサトルの身柄を拘束しに来たナンバーズの一人、ジョニー・バレッタスが笑顔を返したのだった――