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第四七五話 新たな因縁と決着

『――続いてのニュースです。全国を震撼させた現役の警視総監による殺人及びテロへの関与が発覚してから一週間が過ぎましたが事件の全貌の解明には未だ課題も多く――明智家は3男である明智 正義とそのクラスメートが修学旅行の途中で謎の失踪を遂げた事件にも関与している可能性があるとして調査が続けられておりますが、警察組織の多くが明智家による犯罪を黙認していたという話もあり国民の警察への信頼は失墜しており今後の行方が……』


 明智家との決着はついた。あの後、ミルが受け取ったメモリーには明智家が関わったあらゆる事件の証拠が全て残されており、ミルが集めた情報と合わせることで明智家のおかした罪は余すこと無く世間に公表された。


 このことにより警察組織の信頼は地に落ちる結果となったが、公安零課はそれも覚悟した上での公表だったらしい。


『ま、ここまで腐りきってしまった以上仕方ないってことだ。ここまできたら一度徹底的に壊すぐらいでないと再生は不可能と上は判断したのさ。まぁここから先は俺たちの仕事だが……全くこの先の面倒を考えるとうんざりだぜ』


 キトウはそんなことを笑いながら言ってのけた。確かにここまで大事になった組織を立て直すのは並大抵のことではないと思うが、彼らならきっと上手くやってくれることだろう。


 今回の事件によってサトルに関する事件も日の目を浴びることとなった。どこから漏れたのかは定かではないがサトルへのいじめに関与した生徒全員が家族構成も含めて顔写真付きでネット上に出回ることとなる。


 情報が家族にまで及ぶのはやりすぎではという声も一部あがったりもしたが、その後、事件の真相を闇に葬る為に明智家が家族も含めて接待を行いお金まで渡していたこと、イジメに関わった親までもがSNS上でサトルとその家族をこき下ろし、冤罪を広める手助けをしていたことなどが判明し世間の声が一気に批判に傾いた。

 今後は彼らがサトルに行ったことを逆に味わう事となるだろう。


 新牧 美歌(あらまき みか)はその後、ココロエの協力もあり演技力がメキメキと上がり、ドラマの主演にふさわしい存在となった。


 クロイは結局自らの罪を告白し、明智家との関与も認め警察に出頭した。ただミカが被害届を出さなかったこと。本人に反省の意志があることなどから厳重注意程度ですむこととなった。

 尤もしばらく芸能界には復帰できないが、今度は自分の力だけで再起を果たして見せると息巻いていた。


 つぎにミカの前に姿を見せたときは良きライバルとして互いに切磋琢磨できる存在になっているかもしれない。


 そして、事務所の所長だったハゲエは、今も世界のどこかでDOGEZAを披露していることだろう。


 こうして一連の事件は少しずつ終息の一途をたどっていったわけだが……。






◇◆◇


「以上が、こっちの現状だよ爺ちゃん」

『はい、報告ありがとうございます。ナゲルもよくやってくれました。お疲れ様でしたね』


 誰もいない道場でナゲルは祖父のナガレに事の顛末を話して聞かせた。ナガレは異世界にいるが、悪魔の書の力で地球と交信が出来ている。


「よくやった、ね……」

 

 ナガレからねぎらいの言葉を掛けられるナゲルだが、その表情は釈然としないものであった。


「確かに明智家に関しては全て片がついた。でも、神破流についての問題が残ったままだ」

『ふむ、神破ですか――』


 空間に出現した画面の向こう側でナガレが一考する。今回の明智の事件。裏で糸を引いていたのは神破流であることに間違いはない。一体どこからどこまでなのかは定かではないが、少なくとも神薙家が関わった案件は神破が関わっていることだろう。


「爺ちゃんは、もしかしたら判っていたんじゃないか? 今回の件に神破が関わっているって。だって、一番神破と因縁が深いのは爺ちゃんだろ?」

『さて、どうでしょうか。確かに全く因縁がないとは言えませんがもう昔の話ですからね』

 

 何か、上手くはぐらかされてるような気がするな、と目を細めるナゲルだが。


「とにかく、今回俺たちは勝ったとはいいきれない。何せ神破に屋敷にまで入り込まれてお義父さんも、それに門下生も大分やられた。四門を守る師範代も含めてね。大失態だよ」

『ははは、確かにそれはそのとおりですね。神破とのことに関して言えば、勝ちか負けかで言えば負けでしょう』

「いや、そんなにあっさり……爺ちゃん何も思わないのかよ?」

『思うところが何もないわけではありませんが、ですが時には負けを経験しておくのもいいことですよ』


 柔和な笑みを浮かべナガレが言った。それにやれやれと頭を擦るナゲルであり。


「……爺ちゃんは、もうこっちに戻る気はないのか?」


 そして、ふとそんなことを問う。


『戻って欲しいですか?』


 え? と息が漏れるような声を発す。その問いかけに、一瞬戻って欲しいという言葉も浮かんだが。


「……いや、いい。爺ちゃんにだってそっちでやることがあるんだろ?」

『ふふっ、そうですね。私はこちらで第二の人生を歩んでいる最中です。それにそちらのことに関しては既に任せている(・・・・・)つもりですから』

「……はぁ――随分と重たいものを任されたもんだ」


 面倒臭そうにこぼすナゲルと笑みを浮かべるナガレ。そしてそれから少し会話を交わし、それではそろそろ切りますね、とナガレが言うが。


「親父とは話さなくていいのか?」

『えぇ。クズシはしっかりしてますから』


 そこまでで交信が終わった。


「……俺も、もう少し本気でやってみるか」


 ナゲルは独りごち、断固たる決意を胸に道場を後にした――





 神薙家の敷地内には何箇所か道場が存在する。その内の一つではクズシが一人正座し、背筋をピンっとはり、一ミリ足りとも姿勢を崩すこと無く、瞑想に浸っていた。


(……やはり、まだまだ私では父の足元にも及ばないか――)


 神薙流と神破流との間には深い因縁があったことをクズシも心得ていた。ただ、それはクズシが生まれる前に決着がついた話でもあった。


 だが今新たな火種が生まれくすぶり始めている。神破流と初めての激突。これがまさにきっかけであり、始まりであることは確かであろう。


 父ならば、きっともっと上手く対処できたはず。クズシの後悔はそこにあった。勿論父であるナガレとの実力差など考えるのも馬鹿らしくなるほどだが、やはりクズシの中には父を超えたいという思いがある。


 そのために何をすればいいのか、まだまだ答えにはたどり着けないが、何をなすべきかは判る。


 神破流との衝突はある意味では自分を見つめ直すいい機会だったのかもしれない。


 そしてクズシは徐に目を開き。


「私に何かようか?」


 背後に向けてそう問うた。そこにはナゲルの姿があった。


「親父、俺に修行をつけてくれ」

「……ふむ、どうやら少しは本気で合気と向き合うつもりになったようだな」

「あぁ。これまでの自分じゃ、どうあがいても届かない奴らが出てきたからな」

「そうか……それで、どこを目指す?」

「そうだな。とりあえず次速は使いこなせるぐらいにはならないとな」

「――その程度か?」

「へ?」

「全く。ようやくやる気になったかと思えば次速とは。志が低いにも程がある。どうやら百億回は死ぬ目にあわんとわからんようだな」

「え? ちょ、百億って……」

「もういい。言葉より行動だ。今日から早速始めるぞ」

「あ、ちょっと待って、少しお腹が……」

「問答無用! さぁ行くぞ!」

「ちょ、行くってどこへ、お、親父いいいっぃいぃいい!」


 そしてナゲルはクズシに首根っこ捕まれどこかへと引っ張られていくのだった――






◇◆◇


『――次のニュースです。元警視総監の明智 公明及び明智 聖女、明智 聖愛が保釈された件について世論では反発が起きており……』


 ラジオから流れるニュースを聞きながらコウメイがふん、と鼻を鳴らした。

 

「何が世論だ。澱んだ下人はこれだから嫌になる。全員死刑にしてしまえ!」

「はっ!」


 運転手の男が返事をする。尤も今のコウメイにはそこまでの力はなく無茶にも程が有るのだが。


「でもパパ、これからどうするの?」

「そうよ貴方。資産の殆どは奪われた上、保釈金も大分詰んだでしょ?」

「ふん、確かに裏に手を回すのも骨が折れたが、いざという時の為に金を隠してある。これまでのような贅沢は出来ないがしばらく身を隠すには十分余裕があるさ。それにこれから向かう別荘もひと目につかないからな。カード名義も偽名のを用意してあるからネットを利用すればわざわざ外に出る必要もない」

「流石貴方、抜け目ないわね」

「見直したわパパ!」

「はは、当然だろう」


 家族に称賛されコウメイもご満悦の様子である。

 そしてそうこうしてる間に目的地に到着したわけだが。


「え? こ、ここ?」

「うそ、こんな小さな別荘なの?」

「仕方ないだろう。立場を考えろ、あまり目立つ場所にはいられないし、そもそもここ以外に残ってる場所はない」

「はぁ、なんかさっき見直して損したわね」


 そんな愚痴をこぼすマリア。目の前には二階建ての別荘が鎮座していた。その見た目は確かに可もなく不可もなくといったところであり、だが一般人であれば十分すぎるほどである。しかし、明智家の感覚では不満の出る作りなのだろう。


「貴方、お風呂はあるのよね?」

「当たり前だそれぐらい完備されてる。台所だって十分広いぞ」

「せめてキッチンっていってよパパ」


 既にわがままさが滲み出ている二人にコウメイは苦笑した。


「ふん、確かに今はこんな見すぼらしい別荘だが、いずれまた再起してみせる。その時にはあの神薙家も私たちを裏切った神破流も叩き潰してみせる」


 決意を新たにするコウメイ。そして三人は別荘に足を踏み入れるが。


――パン! パン! パン! パン!

――パチパチパチパチパチパチパチパチ!


「「「は?」」」


 しかし別荘の中に入った瞬間、クラッカーの弾ける音と四方八方から鳴り響く拍手。パッと明かりが点き。


「「「「「「「「「「明智家御一行様、保釈おめでとうございまーーーーーーす!」」」」」」」」」」


 別荘内に黒服サングラスの男たちが居並び、明智一家を出迎えてくれた。


 だが、当然コウメイはこれに納得がいかない。


「ちょ、ちょっと待て! 何だお前たちは! なぜ私たちの別荘にみたこともないような連中がいる!」

「はは、気にしないでください。サプライズって奴ですよ」

「サプ、そんな話は聞いてない! 貴様らは誰だ! 答えろ! 警察を呼ばれたいのか!」


 コウメイが叫ぶ。だが、目の前の男はニコニコとした顔は崩さず、はは、と笑い。


「警察? ご冗談を。お前らみたいのが警察に頼るなんて笑えない話だ」

「な、なんだと?」

「それと、今誰だと、そう聞いたな? くくっ、だよなぁ。お前は俺のことなんて覚えてないよなぁ。そういう男さお前は」

「……は?」


 コウメイは目をパチクリさせる。本当に誰かわからないといった顔だ。


「全くわからん。何だ貴様は? 私は足元のゴミをいちいち気にかけるほど暇ではないのだ」

「あっはっは! いいねぇその態度! まさに明智様々だ。まあいい。なら教えてやる俺たちは沙羅曼蛇会のもんだよ」

「は、さ、沙羅曼蛇会? あ、あの連中か! だが全員潰したはずだ!」

「あぁそうさ。俺の親父は今どき珍しいぐらいの昔気質な漢だった。弱いものを守り、権力にもひれ伏さない。アコギな真似は一切せず、祭りを盛り上げるのが最大の楽しみだと笑っていたような人だった。甘いって言う奴らもいたが、俺はそんな親父が好きだった。そしてそんな親父だからこそお前らが影で操っていたブラックチーターなんていうふざけた組織に加担するのを断固拒否した。そんな親父と俺たち一家をテメェらは……」

 

 ギリっと歯牙を噛みしめる。怨嗟の炎がその目に宿っていた。


「ふざけるな! そんなもの我らの誘いを断る貴様らが悪いんだろうが! 逆恨みもいいところだ!」

「そうよ! 報復が嫌なら素直に言うことを聞いておけばよかったのよ!」

「それなのにウジウジと気持ち悪い。もう、はやくこっから追い出してよ!」

  

 明智家の三人がギャーギャーとわめきたて、コウメイは荷物持ちとして付き添ってきた運転手にも声を掛ける。


「おい! いますぐ助けを呼べ! 私が言えばまだすぐにでも駆けつけてくるのがいるだろ!」

「いいえ旦那様。それは土台無理な話ですね」

「……は? いや、お前何を言ってるんだ?」

「無理だと言ったのですよ。そもそもこの家の残存兵力などとっくに彼らの仲間に始末されてます」

「は、は? は? え、お前何を言って……」

「いやはや、しかし確かに髪型をかえたりもしましたが、私にも気づいてもらえないとは。傷つきますねぇ。貴方の息子が起こした事故で家族を失ったというのに死者に鞭打つように私に罪を押し付けたお前が、そのことすら覚えてないのだから」

「……な、んだと? まさかお前も?」

「そうさ。運転手は勿論、ここにいるのは全員お前らに何かしら恨みがある連中だ! そして俺は決めた! 人生でただ一度だけ。この一度だけ鬼になるってな! 喜べよ明智。今度はお前らが揃いも揃って地獄を見る番だ」

「そ、そんな冗談じゃないわよ! 助けを、なんでもいいから助け」

「それが、駄目なのよ! 電波が届かなくて、電話がかけられない!」

「あはは、無駄さ! そもそもひと目につかない別荘を選んだのはお前らだ。良かったな、ここなら何があっても助けなんてこない!」

「馬鹿な、こんなこんな馬鹿なことが……折角保釈されたのに、こんな奴らに! 殺されるというのか!」

「殺す? はは、安心しろよ。そう簡単に殺しはしないさ。ここでしばらく遊ばせてもらうが、その後は買い手を見つけてある」

「か、買い手?」

「あぁそうだ。お前ら国外にも随分と恨みを買っていたんだなぁ~募集をかけたら随分と声があがったぜ? その中から特に変態性の高い買い手だけ厳選させてもらった」


 男の言葉に、明智の目がどんどん弱気なものにかわっていく。捨てられた子犬のような怯えた目だ。それは妻と娘にしてもそうだ。これからのことを考え身を寄せ合いブルブルと震えている。


「さぁ、それじゃあ海外に売る前に、お楽しみといくか。生き地獄をたっぷりと味あわせてやるよ!」






◇◆◇


 明智家の別荘を執事然とした男が眺めていた。

 

「上手くいったかい執事さん」


 すると草木の間からコートを着た男が顔を出し、彼に声を掛ける。


「……えぇ。情報はしっかり渡しておきましたからね。鬼頭様には感謝してますよ。保釈のことを前もって教えてくれたおかげで早めに手を打てました」

「何いいってことよ」

「でも、良かったのですか? こんなことに協力して?」

「は、いいってことはないが……あんな連中、野放しには出来ないだろ?」

「ふふっ、そうですね」

「しかしそれを言うなら、あんたはどうなんだい? このことは神薙家は知ってるのかい?」

「まさか、とても言えません。これはあくまで独断でやってることです」

「独断、ねぇ」

「はい……私は元々裏の世界の人間。ですからこの手の裏方は私の仕事です。汚れ仕事もね」

「なるほど……だが、いやいいか。とにかくこの件はこれで終わりだ。これでようやく俺も本業に集中できる」

「そうですね。私もしばらくは執事の仕事に専念できそうです」


 フッ、と互いに笑みを浮かべ。そしてそれ以上は何も語らず、ふたりはその場から姿を消すのだった――

次回、異世界sideへ!

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