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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第三章 ナガレ冒険者としての活躍編

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第四十五話 ナガレ――キレる

 結局ナガレ式の名称を変えること叶わず。

 ナガレもヤレヤレと思いながらもそこは素直に諦めた。

 基本ナガレは迷わないのである。


「ねぇナガレ、話が終わったならメルルのお店にいかない? スイートビーの蜜を分けてあげたいし」


「あぁそういえばピーチはそれでお菓子を作って貰うのが目的でしたね」

「そ、それじゃあ私が下心ありきで会いに行こうとしてるみたいじゃない」


 心外な、と言わんばかりに目を細めるピーチ。しかし実際そのとおりなのである。


「先生! だったら俺も!」

「ちょっと待ってフレム! 流石にそんなずっとついて回ってたら迷惑よ」

「う~ん、それにフレムは武器の事も相談したほうがいいんじゃないの?」


 ローザに注意され、カイルからは折れた双剣の事を問われた事で、むぅ、とフレムが眉を顰めるが。


「別に武器は今日じゃなくてもいいだろう」


「うん? なんだ武器の修繕か何かか? だったら今のうちにスチールに頼んどいたほうがいいぞ。今はまだ余裕があるが、夕方ごろは仕事終わりの冒険者で溢れるからな」


「ベアールさんもこう言ってるし、それなら別に無理してまで私とナガレについてくることないじゃない」


「いや、しかし! 今の俺には武器より先生と一緒にいることのほうが大事だ!」


「何を言ってるのですかフレム。その双剣は貴方にとって必要な物でしょう。冒険者たるもの自分の武器をないがしろにしていては駄目ですよ」


 ナガレにもキツく言われ、なんとも言えない表情で頭を掻くフレムである。

 

「それにフレムはローザやカイルと同じパーティーなのですから、もっとふたりの言うことにも耳を傾けた方がいいですね。精神の修行に関しては取り敢えずはご自分なりに瞑想を取り入れる事をお勧めいたしますので、これ以上私についてくる必要もないでしょう」


「せ、先生その件ですが……俺このふたりとは別れます! だから! だから先生のパーティーに入れてください!」


「……は?」

「え? フレムっち本気で言ってるの?」


 ローザが怪訝そうに眉を顰め、カイルは目を白黒させて問いかける。

 

「あぁ本気だ。お前たちとはこれでお別れだがな。その分俺はもっと強くなって――」

「フレム!」


 ナガレの怒号が飛んだ。その声に聞いていたピーチが目を丸くさせる。

 これだけ声を荒げるナガレを見たのは初めてだったからだろう。

 

 そして彼の表情には今度ははっきりとした怒りが滲み出ている。


「今いった事は取り消しなさい。そしてふたりに謝るのです。そうでなけば私は貴方を決して許しませんよ」


「え? いや、でも先生! 俺は先生についていくと決めたのです!」


「そんな自分勝手な気持ちをただ押し付けられても迷惑です。貴方は本当に何もわかっていないですね。自分にとって何が一番大事なのかも貴方にはわからないのですか? ローザとカイルがこれまでどんな気持ちで貴方と行動を共にしてきたか――パーティーから抜ける? その言葉をフレム、貴方が言う資格はありませんよ。寧ろ貴方はふたりにこれまで一緒にいてくれた事を感謝すべきです。そんな事にも気づかず、まだふたりと別れたい等という寝言をいうつもりなら、この私が全力で貴方を潰します」


 ナガレの目は本気であった。恐らくこの後のフレムの回答次第で、彼の冒険者生命は終りを迎える事となるであろう。


「せ、先生……俺は、俺は……」

 

 俯き、拳をギュッと握りしめる。

 その姿に、ナガレの怒りが収まりを見せ、いつもの穏やかな表情に戻っていった。


「フレム、迷うということは貴方にはまだ仲間を大切に思う気持ちが残っていたという事ですね。それだけ知れただけでも良かったです。……貴方には才能がありますよ。きっと自分を見つめなおすことが出来ればまだまだ強くなれます。ですがそのためには仲間を大切にする事も大事ですよ。今はその事をもっと真剣に考えるようにして下さい」


「…………」

 

 ナガレがそこまで告げると、フレムはそれ以上何も言わなくなった。

 ただ、ローザとカイルからはお礼を述べられる。


「フレムにはおふたりが必要です。色々大変かとは思いますが――」

「……そうですね。でもあいつ私達がいないと駄目ですから」

「そうだねぇ~まぁ腐れ縁って奴だし」

 

 笑顔でそう言うふたりをみて、これなら大丈夫だろう、と安堵し、ナガレはその場を辞去した。

 




「仲間を大事にかぁ……」


 メルルの店に向かう道すがら、ピーチがぼそりと呟き、ナガレをみやり。


「そ、それならナガレは、わ、私の事も、こ、これからも大事にしてくれる?」


 少し頬を紅潮させながら、恐る恐ると問いかけるピーチ。 

 するとニコリとナガレが微笑み。


「当たり前ではないですか。ピーチはこっち(・・)で初めて出来た仲間ですからね」


「ほ、本当に? えへへ――」

 

 ナガレの回答を聞き照れくさそうに、それでいて嬉しそうに表情が緩むピーチであった。






◇◆◇


「メルル~すっごくいいものお土産にもってきたよ~」


「……よっ」

「て! なんでビッチェここにいるのよーーーー!」


 ウキウキ気分で店に入り店主に呼びかけたピーチであったが、そこで再会したビッチェに驚きの声を上げた。


「……メルルは私の従姉妹、そういっていた筈」


「いや、確かにそうだけど……てかビッチェ! スイートビー討伐依頼は請けてなかったそうじゃない! それなのにどうしてあそこにいたの? 一体何者なの?」


「……女はミステリアスの方がモテる」

「いや、何いってるの?」

 

 がっくりと肩を落とし、疲れたように返すピーチ。だが、ビッチェはどこか妖艶な笑みだけ残しそれ以上はそのことに答えなかった。


「まぁ確かに女性は少し謎めいていた方が魅力的ですよね」


 顎に指を添えつつ、ナガレが納得したように頷く。

 えぇ! とピーチが驚きに目を見開いた。


「……流石ナガレ、判ってる」


 じっと濡れた瞳で見つめるビッチェは、やはり色気はピーチより遥かに高い。


「……ビッチェ久しぶり」

「あ! メルル! ねぇ従姉妹って本当なの?」

「……肯定」


 どうやらそれは本当らしい。


「じゃあこのビッチェって何者なの?」

「……詳細不明」

「従姉妹なのにそこは判らないの!?」


「……お互いあまり干渉しない」

「……私もメルルの事をそこまで知ってるわけではない。お菓子作りが得意というのもピーチから聞いて初めて知った」


 何よそれ……とがっくりと肩と左右の纏め髪を落とすピーチであった。


「まぁいいではないですか。それより渡すものがあるのですよね」


 ナガレの発言で、そうだ! と思い出したように顔を上げ、魔法の袋から蜜の入った瓶を取り出した。


「これ、スイートビーの蜜よ! これでメルルお菓子何か作ってよ!」


 ピーチは中々直球の物言いである。


「……スイートビーの蜜、美味しそう。判った」


 コクコクと頷き、メルルは瓶を持って奥へと引っ込んでいく。


「私もちょっと手伝ってくるね。ねぇビッチェも一緒にどう?」

「……面白そう」


 そんなわけでお菓子が出来るまではナガレは店で待つことになった。

 その間ナガレは主に杖をメインに手に取りチェックしていくが。


(ふむ……ピーチの杖は今持っているのは中々性能がいいようですね――ただ)

 

 取り敢えず店内に飾ってある杖は、どれもピーチの手持ちの杖よりは若干劣るものが多い。

 特殊効果を考えると魔法を行使するという意味合いでは有効なのも多いが、ピーチに必要なのは膨大な魔力を注入しても平気な物だ。


「ナガレ~出来たわよ~」


 そんな事を考えながら杖を眺めていたら、ピーチがナガレを呼びにやってきた。

 それに応じ、ナガレも店の奥に向かう。

 どうやら二階がメルルの居住スペースのようだ。


 螺旋式の階段を上って二階に向かうと、思いの外そこは明るかった。 

 魔道具の灯りによる効果である。


 部屋の真ん中辺りには全員で囲んでも余裕があるぐらいの丸テーブル。

 用意されていたのは蜂蜜をふんだんに使用したケーキであった。


 スポンジケーキの上にはリンゴのトッピングがなされている。

 アップルパイに近い感じかもしれない。


 皿にはメルルが取り分けてくれた。ビッチェは紅茶の準備をしてくれている。

 

「ふふ~ん、お手製ケーキ~とろとろでスイートな蜂蜜入り~」


 目の前に用意されたケーキを眺めながら、鼻歌交じりにご機嫌なピーチである。


 そして全員で実食となったが、確かにスイートビーの蜂蜜は極上の甘みをもった食材であった。

 しかもとても上品な甘さであり、後味も最高である。


 それがまたケーキの上に乗っているリンゴとよくあった。

 リンゴそのものは酸味が強いタイプのようであったが、それにスイートビーの蜜が交じり合い、絶妙な甘酸っぱさを生み出している。


 またスポンジケーキも程よい弾力があり、練り込んだ蜂蜜の効果でいい味に仕上がっていた。

 ナガレのいた世界では高級ケーキとして売りだしても十分に通用する味だろう。


 そんな上質なケーキを堪能した後、ナガレは紅茶を一口啜り、メルルに向けて切り出した。


「実はピーチの杖の件なのですが」

「……杖、前は驚いた」


 どうやら杖が武器になるという話を聞いたことを思い出してるようだ。


「えぇ、それでその杖の件なのですが、ピーチにあう杖をオーダーメードで作成して貰う事は可能でしょうか?」


 ナガレがそう訊くと、ピーチが、え! とティーカップを皿に置き。


「ナガレってば私の杖の事気にしてくれてるの?」


 意外そうにそう尋ねる。


「えぇ。今の杖も悪く無いと思いますが、出来ればもっと魔力を溜めることが出来るタイプがピーチにはあってると思うのですよ。それともう少し頑丈なものであれば――」


「そ、そっか。ありがとうねナガレ。でもそれなら下で飾ってる杖から選んでみようかな」


「いえ、待ってる間見てみましたが、残念ながらピーチに合うものはありませんでした。あれなら今ピーチが持ってる杖のほうがいいですからね」

「……聞き捨てならない」


 ナガレの発言に、メルルが不機嫌を露わにした。


「……下の杖も私が作った大事な子供たち。それが、役に立たないと?」


「……私はそういった事に嘘はつけない性分でして、はっきりといえばそのとおりです。事ピーチに関してはあれではさっぱり力不足です」


 キッ! とナガレを睨めつけるメルル、だがナガレは意見を変えるつもりは全く無い。


「……メルルは杖も含めて魔道具作成に関してはプライドが高い――だから怒る気持ちもわかる。でも、ナガレの目は確かだ」

 

 ビッチェがメルルに向けて諭すように告げる。

 すると一旦メルルが瞑目し――


「……判った。食べ終わったらピーチ、今の杖と現在どんな魔法を使用してるか確認、それで見極める」


 静かなトーンで口にするメルル。だがその目に宿るは魔道具を作成する魔術師の意地。

 どうやら彼女には魔道具の事となると譲れない、強い思いがあったようだ――

これを機にフレムも変わるといいのですが……



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