第四六五話 法廷での争い
お待たせいたしました。
「本日、皆々様に集まって頂いたのは他でもありません。現在法定で争われている事件。神薙家が関わっているとされる冤罪事件について、皆様に真相を知ってもらいたいのです」
「神薙家というと、あの明智警視総監の次男を殺害したという事件ですか? 何でもこれまでの調べで三男であり明智正義を含めたクラスメイト失踪事件にも関わりがあるとの事でしたか?」
「そちらも含めて、先ずは私達の舞台を見て頂けたらと思います」
舞台? と詰めかけた報道陣から一斉に疑問の声が上がった。何故ここで舞台なのか? と不思議に思ったのだろう。
「それではこれから始めさせていただきます。皆様その目でしかと真実を刮目ください――」
そして突如舞台は始まった。この会場の手配はあの監督がしてくれた。演出なども含めてすべて監督の協力のもとで行われている。
その舞台の序章は――一人の少年に訪れた不幸。その裏に隠された真実。
「クラスの平穏は男女一人ずつ生贄を定めることで饗される。これこそが理想的な世の正しいあり方だ」
壇上で声たかだかに叫ぶは明智家が三男、明智正義。そして彼らを取り巻くクラスの生徒達。圧倒的なカリスマ性を誇る彼に逆らうものは誰もおらず――しかも彼は過去に数多の問題を抱える三人の少年を飼いならしていた。
きっかけは些細なことであった。だが、それは次第にエスカレートしていき、もはやいじめ等を通り越した犯罪へと変わり果てていく。
「一人だけ、この明智正義の横暴に異を唱えた少女がいました。父親が弁護士であった彼女は正義感も人一倍強かった。しかし、父親に掛けられた濡れ衣。そしてクラスの教師ら明智家に組いり、彼女は父親をためを思い、心を殺しました」
更に舞台はエスカレートしていき、サトルが実の妹を殺した犯罪者として逮捕され、そしてサトルの無実を信じて疑わなかった両親が突然自殺した件にまで及び。
「しかし、これらの全ては明智家が裏で手を回し行ったこと。サトル少年の妹は明智正義が飼っていた三人の少年の手により無残にも殺害され、サトル少年はその罪をすべて被せられたのです。そう、正に今回の神薙家に起きているこの冤罪事件のように」
それらの出来事を集められた劇団員が真面目に演じてくれた。勿論ココロエもミカも一緒にだ。
「――サトルの両親も自殺に見せかけて殺害されました。その指示を下したのは――明智正義の父親であり現警視総監でもある明智公明であります」
会場中がどよめく。その光景をモニター越しに見ていた傍聴人達もやはりざわめき出した。
「ち、違う! こんなのはでたらめだ! 大体、こんなもの何の根拠もないおい! だれかこれをやめさせろ!」
ナゲル側の傍聴人の中にはコウメイの姿もあった。立ち上がり、抗議の声を上げた。
当然、検事側もだまってはおらず。
「異議ありですわ! このような稚拙な脚本な劇に証拠能力などありません。ましてやここで演じられているのは本件とは全く無関係の――」
『――上手く言ったな。ゼンジンの事は残念だったが、最後にいい置き土産を残してくれたよ。このまま神薙家そのものをあの土地から追い出すことができれば、我々の裏の拠点が更に増える。それを利用して政治家たちとのコネクションも広げることが出来る』
『全く、神薙家と息子さんの死に因果関係など何もみつからなかったというのに上手いことやりましたな』
『これで政界への進出へもまた一歩近づきましたな』
『はっは、気が早いね君たちは。その前に先ずは都知事選からなのだから』
『いやいやそれも最早勝ったも同然です。都民ジャスティスの評判も上々ですし、なんならすぐにでも日本正義党を立ち上げてもいいほどかと』
『しかし上手いですな。行方不明になった息子の名前と掛けて国民の心も上手く利用、もとい訴えかけようというのですから』
『ふふ、上に上がるものは頭も使わなければいけないのだよ君。それに正義の為に覚を犯人に仕立て上げ、家族も殺害してやったのだからな。これぐらいのことには利用しないと。いやはやそれにしてもこんなに簡単だと些か日本の将来が心配になるね。ゼンジンのことにしてもちょっと悲しい顔して演説するだけであっさり世論が味方になるのだから』
『だからこそ、我々の忠実な奴隷になってくれるわけではありませんか』
『おいおい奴隷はいかんだろ。せめて蟻ぐらいにしておきなさい。尤も今の下民共は蟻にしても三流以下だからな。今後のために我々がしっかり調教しなくては――』
「な、なんだこれはーーーーーー!」
画面が切り替わり表示されたのは、コウメイと彼を支持する政治家たちとの密談の様子であった。
「あ、あなた! これはどういうことですか! ゼンジンが、ゼンジンが死んで良かったなんてそんな!」
「ち、違う、私は死んで良かったなどと言ってないし思ってない! た、ただ、仕事としては良い結果に繋がったと……」
そして突如始まる夫婦の醜い喧嘩。
「だまりなさい! 貴方がゼンジンの仇討ちだというから、いつもどおり証拠を捏造したというのに! は! まさか本当は息子のこと、貴方が殺したんじゃないでしょうね!」
「ば、馬鹿、お前、何を言って!」
裁判官が静粛にを連呼するが、騒ぎは全く収まる様子を見せない。しかも、ここにきて検事側に立っている妻の聖女まで墓穴を掘り出す始末だ。
『いよいよ明日が裁判ですねぇ。しかし、貴方も大した心臓をお持ちですね。自らが弟を手に掛けたというのに、平然と神薙家に罪を被せようと家族に進言するのだから』
『――全て私が天下を取るために必要なことだ。それに、あれは明智家にはふさわしくない劣等種だった。外から来た母は、それにも気づかず甘やかせ続けていたが、あんな悪性の腫瘍はとっとと切るに限る――』
「な、何よこれ!」
「そ、そんな。ゼンジンは、セイジツの仕業だったのか――」
再び映像は切り替わり、今度は明智家の長男セイジツと何者かの会話が暴露される。愕然となる明智夫婦。一方隣の法定の傍聴席でことの成り行きを静観していた当のセイジツは、ふぅ、と嘆息した後、隣の男に目を向けて言った。
「どういうことだこれは?」
「はは、まぁ見ての通り筒抜けだったということですね」
「……神破カンパニーはセキュリティも天下一品だったのではないのかな?」
「それはそうですが、明智家の皆さんは私たちのシステムを一部採用しただけですからねぇ。それに今流れてるのはウチとは関係ない場所でのことですから、流石に責任は取りかねるってもんですよ」
その回答に、セイジツは軽く鼻を鳴らし。
「仕方ない。どうやら一度撤退して戦略を練り直した方がいいようだな。ジャーマネ、いや光輝、まだ契約は生きてるな?」
「まぁ、そうですね」
サラサラの髪を掻き上げながらコウキが答える。セイジツは答えを確認した後、検事席に立っている妹のマリアを確認したが、半ばパニック状態であり、あれももうだめだな、と呟いた後、周囲にいた黒服にも合図をし、その場を離れた。
「これは大変な事になりましたな。とても裁判どころではないかもしれません」
神薙家側の弁護士が和やかな顔を見せながら、検事のサトメに告げる。しかし彼女はキリッと眼鏡の奥の瞳を尖らせ。
「だ、だまりなさい! たかが一弁護士が偉そうに! 大体貴方、警視総監でしょ! なんとかしなさい!」
「チッ、お前はこんな時ばかり私の立場を利用するのだからな。まぁいい! こうなったら全員動け! いいかこの場にいる連中はマスコミ関係者も含めて全員拿捕しろ! あとでしっかりおはなしするためにな!」
すると、どこからともなく、ハッ! という声が聞こえ、かと思えば何もなかった空間に明智直属の特殊部隊が登場した。
彼らはいざというときのために光学迷彩を装着まま法廷内で待機していたのである。
また、裁判員も明智家の手のものであり、彼らも一斉にアサルトライフルを構え、全員に伏せろと命じ始めた。
「ば、ばかな! 日本の法廷でこんな……」
「ありえないこんなこと! 警視総監がこんな真似をして許されると思って……」
「黙れ! さっさとその場に跪き伏せろ!」
「ひ、ひぃいぃいい!」
銃を突きつけられ悲鳴をあげる人々。それは隣の法廷でも一緒であり、法廷が一瞬にしてテロにでもあったかのような殺伐とした光景に変化した。
「……嘆かわしい。これでは一体どちらが犯罪者かわかりませんな」
その様子に、クズシは頭を振りどこか哀れみにもした視線をサトメとコウメイに投げてみせた。
「黙れ! お前は自分の立場を少しはわきまえるんだな!」
「し、しかし、流石に法廷でこれはあまりに……」
「シャラップ! 裁判官の貴方にも見返りはしっかり渡してる筈でしょ! 今更つべこべ言ってるんじゃないわよ!」
サトメに言われしゅんとなる裁判官。この時点でこの裁判そのものが最初から仕組まれていたものであることがよくわかる。
「これはまた随分なまねをしてくれていますね。しかし警視総監に検事長と大物二人がわざわざ出向いてきたこの状況で、この騒動、一体どのように収めるつもりですかな?」
「ふん、たかが弁護士に教える義理はないがまぁいい。どうせ貴様もここで死ぬんだ。神薙家などの弁護を任された悲運を恨むことだな」
ニヤリと悪辣な笑みを浮かべるコウメイであり。
「こんな状況、私にかかればどうとでもなる。それこそ神薙家の犯したテロだとでもしておけばいい。あの映像も全て神薙家が作成した偽物とでも言っておけばどうとでもなる。ここにいるマスコミ連中は家族でも人質にとれはおとなしく言うことを聞くだろうさ。ま、聞かなければ一族郎党皆殺しにすればいいだけだ」
「……お前はこれまでもそのような非道なやり方でその地位にしがみついてきたのか? 本来人々を守るべき立場の筈だろう?」
攻めるような眼でクズシが問う。
「馬鹿を言うな。圧倒的な地位と権力を手に入れるために、力を見せつけてきただけだ。正義というのはな、力さえあればいくらでも作ることが出来る。そう、これからはこの明智家こそが正義を司る存在になるのだ。有象無象のウジ虫でしかない国民共を私が導き、そしてこの日本をより強い国へと生まれ変わらせる!」
法廷の場が、コウメイの呆れた思想を語る演説の場へと変貌していた。狂気的な笑いを満足そうに発するコウメイ、とそれをみてうっとりしているサトメ。
だが、それを眺めていた弁護士がため息をつき。
「全く、ここまでくると逆に清々しい」
「だまれ。もういいお前たちそこの無能な弁護士を先ず撃ち殺せ!」
裁判員の振りをしていた明智の手のものが銃口を弁護士の男に向けた。その瞬間だった、四方から銃声が鳴り響き、コウメイに命じられ動いていた集団が次々に倒れていく。
「な、なんだと? どうなってるんだこれは!」
「中に紛れ込んでいたのは、お前の部下だけではないということです」
「ま、そういうことだな。いや、本当、まるで本物の弁護士のようじゃないかゲンさん」
「はは、みたいじゃなくて表向きは本物の弁護士なのだから当然でしょう――それに鬼頭、お前だって表向きはうだつの上がらない一刑事でしょう?」
「はは、違いねぇや」
コウメイとサトメの目の間で口を開いたのは、クズシに付き添う形でやってきていた刑事の一人であった。
その姿を見て、何かに気がついたようにハッとしてみせるコウメイであり。
「そ、そういえば、お前は一体誰だ? 私は貴様など知らんぞ!」
「かっ、ようやく気がついたかよ。まあ、全国の警官や刑事をほぼ掌握してることが逆に仇になったな。てめぇは無駄に自信がありすぎる」
ポケットからタバコを取り出し口に咥えた。
「ここは禁煙だろ鬼頭」
「固いこというなよ。それにこれは無煙だ害はないさ」
「それはそれでかっこつかないねぇ」
「放っとけ」
「あ、貴方! いい加減にしなさい! たかが弁護士の分際で!」
「あぁ、すみませんそれはあくまでも表向きなんですよ。あれ? これ言うの二回目でしたっけ?」
「ま、大事なことは二回いうもんだ。それでだ、あんたらの疑問に手っ取り早く答えるな、俺たちゃ公安だ」
「こう、あんだと? 馬鹿言うな! そんなことがあるわけない! 公安は!」
「既にお前の支配下、そう言いたいのか?」
ぐっ、とコウメイが喉をつまらせた。ここまできたら最早隠す必要もなさそうだが、何かを感じ取ったのかもしれない。
「確かに、あんたの言う通り、公安だってもはやまともに機能しちゃいない。だからこそ、俺たちみたいのが駆り出される羽目になっちまったんだよ」
「そういうことだね。ま、人間相手はわりと久しぶりな気がしたけどね」
「だから、さっきから何を言ってる! 公安だと言っておきながら、わけのわからないことを!」
周囲を見ると、コウメイの用意した武装集団が次々制圧されていっているのがわかる。拿捕しようとしたマスコミ関係者や、ただの傍聴人かと思った一般人までもが、突如プロ顔負けの、いやむしろそれ以上の動きでもって立ち回っているからだ。
「つまり、こういうことですよ」
すると、ゲンとキトウが懐に手をやり、手帳を取り出した。それは一見するとただの警察手帳のようであったが、二人がそれを開いた瞬間、コウメイとサトメの顔色が変わった。
「ば、馬鹿な、それは、皇天陛下の紋所だと――」
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