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第四六一話 神薙家最弱の少女(?)

 思わず心配そうに呟くナゲル。

 大丈夫か! とミルに声掛けするが。


『……アイキ寝てる』


 それがミルからの答えだった。アイキをおいてきたのは念の為であった。何せミルは神薙家において最弱。万が一強敵が乗り込んで来た時、ミルを守れるのはアイキだけだ。


 しかし、そのアイキが眠っているという事は――




◇◆◇


「へへっ、誰かと思えばまだ餓鬼じゃねぇか」

「でも結構可愛くねぇ?」

「おいおいお前そんな趣味あったのかよ? 俺たちはこれでもあの明智家の精鋭部隊よ。法を守る番人としてはちょっといたずらして剥いて動画撮るぐらいにしておかないと」

「……これは困った」

「ス~ス~……」


 銃を持った男たちがミルの車に乗り込んできた。光学迷彩をしていて大丈夫だと油断してしまったのがいけなかったのだろう。


 失敗失敗とミルは可愛らしく自分の頭を小突く。ただ、侵入してきた精鋭部隊とやらは勘違いしているが、確かにミルは見た目こそ小学生高学年ぐらいにしか見えず、それでいてそこらのチャイドルが裸足で逃げ出すほどの美少女でもあるのだが、実年齢は二八歳である。


「さて、お嬢ちゃん。とりあえずおじさん達についてきてもらおうかな? いくら子どもでもやっていいことと悪いことがあるからね」

「そうそう、な~に痛いことはしないからね。いや最初だけはもしかしたら痛いかもしれないけどね」

「お前何する気だよ。まぁ、他にも色々と吐いてもらいたいこともあるしな。言っておくが抵抗するなら容赦は出来ないぞ? おとなしくしておくのが身のためだ」


 三人の男は手にサブマシンガンを持ち、腰には拳銃。懐にもナイフを携えている。防弾防刃両方に対処できるアーマーも装着していて兵士然としていた。


 そんな屈強な大人に、普通の人間(・・・・・)が勝てるわけもない。


「アイキが寝てる」

「うん? あぁ猫か。全くのんきな猫だな」

「しょせんは獣だな。しかも猫じゃボディーガードにもならんだろ」

「全く、少女に猫とかこれでどうするつもりだったんだ?」

「……正直面倒」


 猫のアイキと見た目少女のミルを見比べて首をかしげる男たち。 

 だが、そんな武装兵にミルは嘆息し、面倒臭そうに席を立った。


「ん? なんだ大人しくついてくる気になったのか?」

「ミルミルパンチするよ」

「へ? ミルミル、パンチ?」

「ブハッ! おいおいマジかよ。この女の子、俺達に攻撃するつもりだぜ」

「明智製のボディーアーマーを着込んでるんだぜ? やめときなお嬢ちゃん。あんたの可愛らしい手が痛い痛いになっちゃうぜ?」

「ミルミル~パーーーーンチ」

 

 凄まじい音がした。余裕ぶり全く警戒する姿勢もみせず、ミルが殴る姿勢をみせても笑い飛ばしていた先頭の兵士のボディから尋常でない音がした。


 明智製のボディーアーマーとやらは、全く意味をなさず、こんにゃくでも詰まってるのか? と思いたくなるぐらいミルの拳がめり込み、ありえないぐらいのくの字のポーズを見せた後、男が残像が見えそうな程の速度で後方の壁に叩きつけられた。


「……は?」


 意味がわからない。そんな顔を見せたのはミルの事を危ない目で見ていた男だ。仲間の吹っ飛んでいった方に首を巡らせ、改めて少女モドキに顔を戻し。


「は、はぁあああぁあああ? うぇ、いええぇえ? え、えぇええぇええぇ、おおぅえぇえいぉえ、うううぇええええええ!?」

「うるさい」

「ボゲッ!」


 驚きのあまり奇声を発する男に、ミルの頑張ったアッパー(背が足りないので頑張ってジャンプした)を顎に喰らわせる。ゴギリッ、とおおよそ人間が発してはいけない音を奏で天井にぶつかり跳ね返って床にあたりまた跳ね返って天井へを繰り返して最終的にはうまい具合に外に放り出された。


「ば、化物だーーーーーーーー!」


 最後に残った一人が恐怖から引き金を引いた。小刻みな銃声音が続き、サブマシンガンから放たれた銃弾が暴れまくる。


「車内は銃撃禁止!」

 

 懐に潜り込み、先ずは銃本体を蹴り飛ばした。銃はその一撃でバラバラになった。

 はぁ? と信じられないような目を見せつつ、すぐさま腰から拳銃を取り出そうとするも銃に触れた瞬間に回転肘打ちを喰らい拳と銃がぶっこわれた。


 悲鳴を上げながら余った手でナイフを取り出す。この状況でもまだ諦めないとは三人の中では最も肝が据わってるのかもしれない。


 とは言え、無駄に痛い思いをしただけであり、ミルはナイフを持った相手の腕を取り肩に思いっきり押し付けて刺した後、背中に回り込んで首を決め完全に落としてしまった――






◇◆◇


(アイキが寝てるって事は――その程度ってことか。相手のほうがご愁傷様だこりゃ)


 ミルからの報告を聞いたことで、ナゲルはすっかり安心しきってしまっていた。


 そう、本来ボディーガード役であるアイキが寝ている状況、それはアイキにとって取るに足らない相手であった場合である証明になる。


 そしてそうであれば、その程度の相手であれば、ミルでも問題ない、それがナゲルの判断だ。


 ミルは間違いなく神薙家最弱である。それは自他ともに認めており、本人も頭脳派だと断言している。

 

 それ故に身体能力も低く、一〇〇メートルを三.三三秒で駆け抜けられる程度の脚(ただし高校時代に目立たないようにと手を抜いた際の記録)と、精々中指と小指に挟めたダイヤモンドを軽々と砕く程度である。


 つまり、鉄筋コンクリートの壁を拳で破壊する程度の力はあっても、ビルを素手で解体できるパワーは持ち合わせていないし、トラックに轢かれても無事ではいられるが、戦車に砲弾を打ち込まれたらそれなりの怪我を負ってしまうぐらいに貧弱だ。


 故に、神薙家最弱。だが、神薙家最弱が人類において最弱かどうかといえばまた別な話なのである。


 そしてアイキはミルを上回る相手がやってきた場合は絶対に眠ったりしない。だからこそ、向こうは問題はない。


「と、なると、後は俺か」


 そんな事を呟いた時には、既に目の前に多段頭ミサイルが迫ってきていた。アケチロイドの背中から発射されたものである。


「ほいさ、ほいさ、ほいさ、ほいさ、ほいっと」


 だが、ミサイルは全てナゲルの手で受け流され、軌道を変え、ついでにミサイル同士がぶつかりあうように飛び方を矯正され、後方で派手な爆発音が鳴り響いた。


「全く、ミサイルとか使うなら米国のスーパーヒーローぐらいのもんをせめて用意しろっての」


 ナゲルが細目で呟く。これで結構ミーハーなナゲルは海の向こうのスーパーヒーロが大好きだったりする。それは勿論、一般で知られるフィクションもそうだが、基本的には秘匿されているリアルな彼らもである。


「侵入者、コロス!」

 

 どうやら今度はパワーに頼る戦法に切り替えてきたようだ。アケチロイドがナゲルに向けて拳を振り下ろす。とりあえずソレを避けるが、外して床を殴りつけた瞬間派手に床が爆発した。


「殴ると爆破する仕掛けとはまたロマン兵器だな」

「コロス!」

 

 更に拳の連打が迫る、がソレを全てナゲルは受け流し、なんとアケチロイド自身に跳ね返した。つまり、己の拳を自ら食らったことで、アケチロイド本体が爆破されていく。


「ア、ガ――」

「やっぱアケチロイドじゃ物足りないな」

 

 最後はナゲルがアケチロイドを投げ飛ばし粉々に粉砕して終了。


 すると、丁度そのタイミングで、AKメモリーによる解析も終わったようだった。


『兄貴、無事終わった』

「あぁ、そっちは無事か?」


 メモリーを抜き部屋を出たところでミルから声が届いた。なので一応向こうの様子を確認するナゲルだが。


『この程度の相手、問題ない』

「あぁ、だから、逆に相手がな。やりすぎてないかなって」

『……問題ない』

「いや、今の間なに? お兄ちゃん凄く心配なんだけど?」


 大丈夫である。少なくとも息はあるのだから。


「まぁいいや。じゃあ後は適当に破壊してから戻るよ」

『出来るだけ急ぐ』

「へいへいっと」

 

 こうして、ナゲルは無事明智家のデーターを手に入れ、ついでに施設もボロボロに破壊した後、帰路につくのだった。





「ふむ、これはヒンナヒンナですな。いやはや、やはり北海道に来たらジンギスカンを食べなければ」


 一方その頃、北海道支部に向かったシツジは、遠くで炎上する施設を眺めながら、ジンギスカンに舌鼓を打っていた。


 何せ時間がないので、色んな事を同時に行わなければいけない。尤も明智家の秘密施設北海道支部は一時間も掛けずデーターを奪い施設を破壊したわけだが――


(明日は北海道土産を色々買い揃えながら戻るとしますかな――)


 ちなみにシツジの気持ちはもうすっかり観光モードなのであった。




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