第四六〇話 秘密施設
お待たせいたしました。少しずつでも更新ペースを戻していければと思います。
『兄貴、準備はいい?』
『こいつ! 直接脳内に!』
『そういうのはいいから』
つれないなぁ、とナゲルが少し寂しそうな顔を見せた。ふたりは今、明智家の管理する秘密施設の前にいる。といってもミルは車の中で待機中だ。どういう仕組みかはわからないが、その車もついた途端不可視のワゴンに変化していた。
ミル曰く、Aiki素粒子とナノテクノロジーを組み合わせることで自由な形状変化が可能で、光学迷彩モードも搭載していると、とにかく技術がぶっ飛んでるので聞いてもナゲルにはさっぱり理解できなかったがその変化した車の中でアイキと一緒に残り、これまた特殊なAK波とやらで直接ナゲルの脳内に声を届けているようだ。
とにかく詳しいことは抜きにして実行部隊(一人だが)に任命されたナゲルは施設の中を目指した。
勿論この場所を突き止めたのはミルの所為だ。正直最初ミルからこの施設について聞いた時、秘密施設ってなんだよ! と思わずツッコんでしまった程だがあるのだから仕方ないとミルはあっさりいいのけた。
ちなみにミルがいうところの明智家の心臓部となる秘密施設は日本の異世界と称されたりされなかったりするあそこにあった。詳しくは割愛するが小惑星とリンクしているともされている地域だ。
ちなみに秘密施設の支部は試される大地にあるらしいが、そちらはシツジが行ってくれている。秘密施設支部まで一一〇〇〇キロはあるようだが、シツジであればそれでも観光がてらで三日あれば往復できることだろう。
「というかそもそも秘密施設の支部ってなんだよ!」
『あるんだから仕方ない』
独りごちるナゲルだが、ミルにはしっかり音声が届いていた。返しは淡白だが。
「どうでもいいけど俺、お前ほどPC詳しくないぞ? マッキンドウズが今バージョンいくつかも覚えてないし」
『そもそも情報が古い。今どきのPCはAikiOSが当たり前』
どんだけ合気浸透してるんだよ! と突っ込みたくなるナゲルである。だが仕方ない。何せ今は過去に色々あったこともあって日本の防衛設備にも合気の技術が採用されているほどだ。
ミルによるとそれがAKフィールドらしく、あらゆる攻撃を受け流し、場合によっては倍返しや百倍返しなども可能なバリアのようなものだそうだ。
なんとも凄まじいが、これは相当なトップシークレットらしい。ミルが普通に知っていたが。
「まぁとにかく、俺はそれも知らないほどにはうといんだ」
「止まれ! 貴様ここをどこだと、合気痛ァ!」
「それなのに、秘密基地なんて入って」
「止まれ! 止まらないと撃つ! 合気痛ァ!」
「大丈夫かよ?」
「合気痛ァ!」
「合気痛ァ!」
「合気痛ァ!」
「合気痛ァ!」
「合気痛ァ!」
『……喋りながらも容赦ない』
「あん? 仕方ねぇんだろ、向かって来るんだから」
当たり前だが明智家の秘密施設である。当然警備は厳重だ、が、さっぱりものともせず突き進むナゲルがいた。
罠も大量に仕掛けられているのだが、罠ってなんだっけ? といったレベルで全く意味をなしていない。
『PCについては心配ない。兄貴にアレを渡したし』
「あれってこのUSBメモリーか?」
『違う、それはAKメモリー』
「もうなんでもいいよ……それでこれをどうするんだ?」
『秘密施設のメインコンピューターの差込口にさせば後はこっちで勝手にやる』
「……なんかとんでもない技術を見せられたわりにそこは昔とかわらないんだな……」
『ネットに繋がってないからそこはむしろアナログ』
(これアナログなのか……)
中々のジェネレーションギャップを感じてしまうナゲルである。
『んにゃ……(退屈にゃん)』
「この猫! 俺の脳内に直接!」
『だからそういうのはいいから』
そんなわけでナゲルはわりとあっさりと秘密施設の入り口に辿り着いた。といってもナゲルの歩いてきた跡を見てみれば、まるでちょっとした戦争が起きたかのような様相であり、大隊規模の兵士がもれなく気絶させられ戦車も数両ひっくり返ってしまっていた。
ちなみに見張り台から狙ってきた狙撃兵も全員、ナゲルの指弾で気絶させられている。全く問題としない。
「俺別に戦争しにきたわけじゃないんだけどな」
『だったら潜入の意味ぐらい調べてくる』
「それが無理だと判ってたからお前も正面突破でいいって言ったんだろ?」
『脳筋兄貴にそれを期待するのは酷』
ヒデェなと苦笑いしつつ、秘密施設の扉は、やはりしっかりとロックされていた。暗証番号や他にも色々と認証が必要な面倒なタイプだ。
「これ壊して入ればいいのか?」
『流石にそれは目立ちすぎる。兄貴が力押しで進んでるフォローだけでも面倒なんだからちょっと待ってて』
ちなみにこれだけナゲルが派手に暴れてもバレていないのはミルが秘密施設の大部分をジャックし、監視カメラなどを全て制御しているからである。カメラに映されてる映像を瞬時に全く別な映像に差し替えるなどミルからすれば息を吐くように出来る。
そしてその調子でロックも解除した。
『あいた』
「すげーな、どうやったんだ?」
『兄貴じゃ理解できないやり方』
「逆にわかりやすいな!」
『ごろにゃん(お腹へったにゃん)』
『アイキがお腹減らしてる。兄貴さっさと終わらせる』
「う~ん、何かすごくとんでもない事してる筈なのに、いまいち緊迫感に欠けるのは何故なんだ? あとアイキさっき食べたばかりだろ!」
『アイキは食べ盛り』
『にゃんにゃん(当然にゃん)』
「いや、食べ盛りって……」
半目で嘆息しつつ、ミルに言われたとおり施設を突き進むナゲルであり、出てくるやつは全員合気痛ァ! と叫びながら吹っ飛んでいった。
「ちょっとまちな!」
「うん?」
「お前か、我が主たる明智家の秘密施設に踏み込んで好き勝手暴れている馬鹿というのは」
「秘密施設とか自分で明かしてる馬鹿には言われたくないな」
ナゲルの前に褐色の男が立ちふさがる。筋骨隆々のいかつい男。全身には銃痕や刃物で付けられた傷など、古傷が大量にのこされている。
「ふん、だが貴様は運がない。なぜなら数多の戦地で傭兵として生きてきた俺が今日この場にいたからだ。教えてやろう、明智家のリーサルウェポンかつ赤いサイクロン、轟竜寺 た、合気痛ァーーーー!」
『……兄貴、赤いサイクロンとやらは?』
「逆回転して消えたよ」
あっさりと答えるナゲル。天井に突き刺さったサイクロンを無視し、何事もなかったように先を進んでいき、遂に目的のメインコンピューターとやらがある部屋までやってきた。
その部屋のロックもあっさりとミルが解除し、ナゲルが中に入る。
「……何か思ったより小さなコンピューターだな」
『……一体どんなものを想像していた?』
「でかい画面がついてたり、太い線が四方八方に伸びてたり、やたらチカチカした画面が大量に並んでたり」
『……兄貴、いくらなんでもそのイメージは古すぎ』
ミルが大きくため息を吐いた。なんとも言えない気恥ずかしさを覚えるナゲルだが。
「とにかく、この穴にこの棒を挿せばいいんだな」
『おまわりさんこいつです』
「なんでだよ!」
言ってることに間違いはないのだが、なぜか犯罪臭が感じるのである。
『後は自動で解析するから大人しくまつ』
「黙ってみてればいいのか?」
「……侵入者殺す」
「て、のんきに構えてられる場合でもなさそうだな……」
突如奥の壁が開き、物騒な事を呟きながらごつそうな男が姿を見せた。
どう考えても話し合いで解決できるタイプではない。尤もそんな気は毛頭ないが。
「侵入者、殺す!」
加速し、一気に距離を詰め殴りかかってくる男。だが、ナゲルはその拳に合わせてするりと体を捻り、取った腕を引き回し奥の壁に叩きつける。
すると重苦しい音が響き、部屋が大きく揺れた。のそりと男が振り返ると、顔の半分が崩れ落ち機械の顔が顕になった。
「んだよ、またアケチロイドってやつか? ま、前相手したやつよりはやりそう――」
『おいおい、本当にいやがったぜ』
『まさか、明智家以外で光学迷彩を準備した車があるとはな。しかも一般車で』
「は、お。おいどうしたミル?」
『……油断した。車内に侵入された』
マジかよ、と思わずつぶやくナゲルなのであった――
明智家の秘密施設へ!