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第四五九話 二次審査の結果

『――次のニュースです。多くの国から追放処分を受け今後の活動が危ぶまれていたジャネット・フィーバーですが国内の事務所に移籍後初ライブがアジア各地で行われ――依然として遠征先でのトラブルが耐えないジャネット・フィーバーではありますが、この際に所長自らが見せたDOGEZAが世界的にも注目されており――事務所は、同時に人気ユニットSaTu(サトゥ)も移籍させプロデュースを行っておりますが、当日ドタキャンなどで顰蹙を買っていたふたりは相変わらずのマイペース振りを見せており、ですが所長のDOGEZAパフォーマンスが功を奏し、問題が起きたほうがあのDOGEZAパフォーマンスが見れる! と逆に注目が集まっております。このDOGEZAパフォーマンスはYOU-TUNIにもアップされており動画再生回数は既に全世界で累計五兆回を超えており――』


 事務所内に設置された薄型テレビから流れてきたニュースだ。

 それを耳にし、カオルはなんとなく動画とやらを確認したが、どうやら情報は少し古かったのか、既に動画再生回数は二五兆回を超えていた。


「う~ん、まさか所長にこんな才能があったなんて」

「意外な才能が開花したって事ね。でも良かったわ。このDOGEZAパフォーマンスのおかげで広告収入が物凄いことになってるのよ。本当、動画の収入も馬鹿にできないわ~」


 当初は事務所の危機もあって頭を抱えていたアツコだが今はすっかりホクホク顔だ。何せ今回の広告収入で既に数千億が確定している。あまりに多すぎて最初は桁を四つぐらい間違ってるんじゃないかと思った程だ。


「これはもしかしたら夏の賞与も少しは期待できるかしら?」

「いや少しどころじゃないかと……正直これまでこの〇.一パーセントも無かったですからね年収で」


 多くの授業員が所属タレントが明智の妨害によって事務所を辞めてしまい、今となっては事務所はミカなどの所属タレントも含めて一〇人もいない状況だ。それで数千億となれば利益は莫大なものとなる。


 税金を差し引いたとしても、少しどころか全員に夏冬それぞれ一年分ぐらいずつ賞与が与えられても余裕で余るほどだろう。


「でも、これで来月にでもココロエ様への報酬をお支払いできそう!」

「う~ん、確かに。あ! もしかしてココロエさんはここまで予想して所長をマネージャーとして同行させたのですか?」

「え?」


 ミカの事もあり事務所に立ち寄っていたココロエはコーヒーを飲む手を止めて目を丸くさせた。


「なるほど! 流石ココロエ様です! 先見の明がおありだったのですね! あの所長に毛根以外でわずかに残っていた取り柄を引き出すなんて!」

「え? あ、も、勿論そうよ! これも計算の内よ!(冗談でしょ? こんなのわかるわけないじゃない! どうして所属させたジャネットやサトゥより稼いじゃってるのよ!)」


 ちなみにジャネットとサトゥはツアーで興行収入が三億ドルを超える見込みだ。興行なので事務所に入ってくる取り分は当然それよりも少なくなるが、それでも普通に考えればかなりの稼ぎである。


 だが、所長の稼ぎはそれを遥かに凌駕してしまっていた。既にどちらがメインかわからないほどだが、この事は実は当の本人、つまり所長には伝えていない。


 それどころか問題が起きてこのままでは存続の危機なので所長頑張って謝り続けて下さい! と発破を掛けた程だ。

 

 少々気の毒な気もしないでもないが、ここで真実を知ると殊勝さが薄まり、土下座芸のキレがなくなる可能性がある為、仕方がない。


「さて、そろそろ結果を知らせにやってくるころかな……」


 ひとまず所長の話題はここまでとし、肝心のミカの話に移る。何せ今日は二次審査の面接が行われる日だ。

 その結果は当日の内に発表される。時計の針は午後6時を回っていた。結果は一時間前には既に出ていると思うが、皆で事務所で聞くと伝えている為、終わり次第戻ってくるはずだが――


「ただいま戻りました」


 すると、事務所のドアを開けて緊張した面持ちのミカが入ってくる。

 いよいよか、とカオルとアツコの表情が固くなった。

 

 ただ、ココロエに関しては涼しい顔でコーヒーカップを口につけ、一瞥しただけであり。


「二次審査の結果は……」

『け、結果は?』

「――ご、合格でしたーーーー!」

「うぉおおぉおお! やったーーーー!」

「うううぅ、よくやったねぇ。アツコ信じてたよ。おめでとう、おめでとう!」

 

 ミカが合格証明書を見せながら声を弾ませると、カオルとアツコも自分の事のように喜んでくれた。

 ちなみに二次審査は書類選考を通った五〇名の内、五名しか合格者が出なかったとのこと。


 かなりの狭き門ではあるが――


「ミカ、おめでとう。ま、信じていたけどね」


 すると、そこでようやくココロエも立ち上がり、ミカを称えてみせた。

 尤も、事実こんなところで落ちるわけがないとレッスンの段階で手応えは感じていた。

 

 今のミカは歌も演技もダンスもココロエが教える前に比べ遥かに上達している。

 勿論それでもココロエからしてみればまだまだではあるが、新人レベルで考えれば上等すぎるほどの出来である。


「せ、先生、ありがとうございます。私、私――」

 

 すると、色々思い出されることがあったのか、ミカの瞳に涙。ココロエは厳しくもあったがそこにしっかりとした愛情も感じられた。

 

 彼女に教わったことで自分がどれほど未熟か思い知らされもしたが、これまで出来なかった事が出来るようになると一緒になって喜んでくれた。

 

 この二次審査を通過できたのは間違いなくココロエという大女優の指導があってこそとミカは確信している。


「さ! 後は次の最終審査を待つだけだ! 頑張ろうなミカ!」

「は、はい。あ、ただ実はその事で一つ変更があって」

「変更?」

「はい。最終審査のやり方が直前に変更があったとかで監督の提案らしいのですが……」

「あれ? もしかしてそれってこれ、かしら?」


 するとアツコがパソコンを見ながら何かに気がついたようであり。


「そういえば――一時間後ぐらいに告知をするからホームページを見るようにと言う話だったんです」


 そして全員でその告知を見るわけだが――


重要:最終審査の変更について。

・最終審査は十日後の○月○○日に行う。

・会場は東都ドームにて。

・選考方法は当日の来訪者及びインターネットを介した動画生配信による公開オーディションによるものとし来訪者と視聴者からの投票によって合格者を決める。


「こ、公開オーディションだって? しかも投票って……」

「どうやら一人一票、気に入った相手に投票できる仕組みみたいね」

「最終審査は、歌、ダンス、演技の三種目ですか……」


 一通り条件や内容を確認し、カオルは天を仰いだ。


「参ったね。でも登録制だし、そんなに人は――」

「甘いわよカオルちゃん。登録者の数がみれるようになっているけど既に一〇万人を超えているわ。これまだまだ増えるわよ」


 カオルは焦った。日本最大の東都ドームも収容人数は最大で一五万人だが、生放送を見る人数はそれより遥かに多そうだ。


 何より公開オーディションとなると、ミカは人前で演技などを披露する必要が出てくる。高校の大会規模でなら経験はあれど、東都ドームクラスはスケールが違いすぎる。その上ネット上でも見られてるとなると、今までどおりの精神状態を保てるかどうか――だが、そんなカオルの心配はどこ吹く風と言わんばかりにココロエが発言する。


「あら? 面白そうじゃない。あの監督も考えたわね。これなら少なくとも審査員レベルでの不正は阻止できるわ」

「え? ふ、不正、ですか? でも、そんな事――」


 あるわけがない、と信じたいミカであったが、だが、その脳裏にはある人物の顔も浮かんでしまっていた。


 そう、ミカと同じく最終選考にまで残った――原 紅爐伊(はら くろい)の顔が。


「ふむ、とにかく。こうなったらむしろここからが本番ね。後十日、今度は視聴者の目を今よりも更に意識して、技術に磨きをかけていくわよ!」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 こうして残り十日間、ココロエにみっちり仕込まれるミカなのであった――

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