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第四五二話 神薙 心恵

『はいはい、全く本当に、て、へ? 嘘! パパーーーー!?』


 鏡面に映ったナガレの娘、神薙 心恵(かみなぎ こころえ)が目を丸くさせて大きな声を上げた。


 どうやらこのような形でのナガレとの再会に随分と驚いているようである。


「はい、久しぶりですねココロエ」


 するとナガレが、父の存在に気がついた娘へ、優しく声をかける。


 そんなナガレの目の前で、ココロエはジーーーー、とナガレの顔を見つめ。


『ほ、本当にパパなの? そもそもこれどうなってるの? 触れられないし、え? ホログラム? 確かに最近のテレビじゃ当たり前に採用されてきてるけど、て! あれ!? パパ少し若返った? え? 化粧?』

「いえ、実際に若返ったのですよ。色々あって細胞そのものが大体一五歳前後と同程度にまで変化しました」

『何それ羨ましい! いや、それよりいろいろって何よ! パパ! キチンっと説明して!』


 強い口調で問い詰めてくる娘に、どこか懐かしそうな目を向けつつナガレはここまでの経緯を説明した。


『――つまりパパは今異世界にいて、冒険者をやっていると、後ろにいるのはそっちの世界で知り合った仲間たちで、他にも勝手に地球からパパのいる世界に召喚されてしまった高校生もいると、へ~へ~』


 一通り話を聞いた後、ココロエは胡乱げな瞳をナガレに向けてきたわけだが。


『ねぇパパ。普通、そんな話をされて信じる人がいると思う?』

「そうですね。私のことを知らない方なら一笑に付しそうなものですが、ココロエは信じられませんか?」

『……そうね、信じ、るわよもう! パパがそんなくだらない嘘つくわけがないし、それにパパのやることだもんね』


 はぁ、とため息混じりに娘が言った。

 ナガレの規格外な強さと、常識はずれな行動は家族であれば知っていて当然と言ったところなのだろう。


「あ、あの~」

 

 すると、何か恐る恐るといった雰囲気だが、二人の会話が始まってから突然時が止まったように固まっていた面々の中のピーチが声を上げ。


「何か邪魔してしまって申し訳ないんですが、え~と」

「おや? どうしたのですかピーチ?」


 ナガレが尋ねる。いつもの気軽な口調が若干硬くなってるようだが。


「いや、質問、いいかなと思って……」

「はい、構いませんよ」


 素直に応じるナガレ。ニコリといつも通りな温かみのある笑みを零す彼だが。


「じゃ、じゃあ。あのね、あのね、あのね、あのね」

『あのねが多いわね……』

「ご、ごめんなさい。でね、あの、今、何かずっとその方が、ナガレの事を、パパって、呼んでる気がしたのだけど、え~と、それって、あ、そっか! ごめんね変な事聞いて! きっとパパってあれね! そっちだとすごく美味しい食べ物とか! そういう意味なのね!」

「いえ、パパは恐らくこちらの意味と同じと思いますよ。彼女、ココロエは私の娘ですから」

「へ~なんだそっかぁ、へぇ、て、や、やっぱりそうなの!? えぇえええええええぇえええぇええええええ!」


 ピーチがすごい顔でびっくり仰天した。そのまま飛び上がりどこかへゴロゴロ転がっていきそうな勢いである。


『……もしかしてパパ、皆に説明してないの?』

「言われてみるとたしかにそうですね。特に聞かれることもなかったので」


 なんてことがないように答えるナガレだが、娘のココロエは随分と呆れた様子である。


「ま、まさか先生に娘さんがいたなんて。いや、でもそう言われてみれば、先生に似てとてもお美しいですね!」

「ナガレ様にご息女がおられるとは……ですが、これで誰もを包み込むような優しさと、頼りがいのある背中の理由がわかりました」

「おいらも驚きだね。でも、それよりもフレムっちが素直に女性を褒めているのが一番びっくりだよ!」

「当たり前だろ! 先生の娘さんだぞ! それはつまり俺にとっては姐さんと一緒ってわけだ!」

『なんでそうなるのかしら?』

「仕方ないですね。流石に娘さんの前では惨殺するのは諦めましょう」

『え? 惨殺って何!?』

「あ、気にしないほうが、彼女はへラドンナといってナガレさんの命を狙ってる悪魔ですが、いつも失敗してますので」

『いや、何それ? 物騒すぎるのだけど……(ヤンデレという奴なのかしら?)』

「……ナガレ、娘、パパ……」


 それぞれがナガレの新事実に思い思いの反応を見せる。

 だが、多くはそれを受け止めている様子でもあり、ただ、ビッチェは何かブツブツと呟き、そしてピーチは。


「うぅ、まさかナガレが子持ちだったなんて……」


 どうやら軽くショックを受けていたようだ。


『――一応言っておきますけど、パパは私のパパだけど、私のお兄さんや妹はもう結婚して子供がいて、つまりパパから見れば孫もいるし、その下に曾孫だっているのですからね』

『えぇええぇえええええぇえええぇええええ!』


 更に露見する衝撃の事実に、仲間の多くが驚愕した。


「ちょっと待って、ナガレって一体幾つなの!?」

「そうですね、こちらでは若返りましたが、地球にいた頃は八五歳です」

「は、はち、じゅう、ご……」


 次々と発覚するナガレの秘密(とはいっても本人は特に秘密にするつもりもなかったようだが)に、ピーチは一瞬言葉を失ったが。


「……おかしい。さっき、娘はナガレを見て一発でナガレに気がついた。八五歳から一五歳に若返ったのに、なぜすぐにわかる」


 ここでふとビッチェが口を挟み、訝しげな目を鏡面に向けた。

 確かに普通なら、そこまで若返ったならすぐには判別がつかないはずだが。


『そんなの簡単よ。パパね、確かに私から見ても若返ったな~て感じだけど、それは大幅じゃなくて少しって感覚なの。だってパパこっちにいた頃から若々しかったし、八〇を過ぎても孫の方が年上に見られていたぐらいなんだから、見た目にはあまり大した差がないのよ』

「……これはびっくり、ナガレの家系にはエルフの血が流れてた?」

『そういうわけじゃないんだけど、やっぱりエルフとかいるのね……』


 ココロエからすれば、やはりそのような神話や伝説の種族がいることに驚きなようだ。


『やっぱりエルフの女性は凄い美人なのかしら?』

「いや、何かただのじゃのじゃうるさいだけの幼女だったぞ」

「あはは、結構失礼だよねフレムっちも~」


 フレムは思ったままをつい口にしてしまう。

 尤もそれはそれで、のじゃロリってこと? とココロエは興味ありげだが。


『それよりもパパ。さっきは仲間とか言っていたけど、随分と綺麗な女性が多いわね。本当にただの仲間なわけ?』


 今度はココロエからの質問が飛んだ。ジト目をナガレに向けてきている。


「そうですね。敢えて言うなら、私のような身勝手な人間には勿体無いほどの良い仲間です」

『いや、そういう意味じゃないんだけど……』


 肩を落とし呆れたような目に変わるココロエ。

 だが――


「……私はただの仲間じゃない。いずれ貴方のママになるかもしれない相手」

『へ?』

「ちょ、ちょっとビッチェ何勝手なこと言ってるのよ!」

「……悪いか? ピーチはナガレの年を知った程度で諦めたみたいだし、もう邪魔者はいない」

「え? そ、そんなのビッチェはどうなのよ!」

「……私はもう受け止めた。それに私はナガレが若いから好きになったわけじゃない。性格も強さもその全てを人として愛してる。年なんて些細な事」

 

 ビッチェがきっぱりと言い放った。すると、ムムムッ、とピーチが唸り声を上げ。


「そんなの私だって一緒だもん! 年なんて関係ないもん! 人としてのナガレが好きなの!」


 そう断言した。なかなか思い切った発言であり。


『パパってばモテるのね。本当冒険者をしているらしいけど、そっちで何を冒険してきたのやら』

「そうですね、語ると少し長くなりそうな程色々ありました。ですからここの皆との思い出もひとしおです。だからこそ、私も皆が好きですよ」


 何かいやらしいものを見るような目でナガレに皮肉を言うココロエだったが、変わらない態度のナガレにバカバカしくなったのか、ふぅ、とため息をつき。


『何か、貴方達も大変そうよね』


 同情するような目でそんな事を言った。

 

「うぅ、そうなんです」

「……何故こういうことだけ、察しが悪い」


 だが、ナガレの頭には疑問符が浮かぶだけだ。


『でも、ま、仕方ないかもね――』

 

 その様子に、どこか遠くを見るような目で呟くココロエであったが。


「ひゃ、ひゃの!」


 ここで突然また、誰かの声が鏡に届き。


「しょ、しょの、しょの、しょの、お、お間違いでなければ、あ、あにゃたさまは、あの、あの、あの! 神薙 心恵(かみなぎ こころえ)様で! お、お間違いなかったでひゃうか!」


 そして、やたらと噛みまくりながらも前に出てきたマイが、上気した顔で、目を爛々とさせて、鏡面の中にいるナガレの娘に問いかけた――

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