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第四四六話 家族に会おう

「ハッ!」

「バット、やっと気がついたのね」

「全く、良く寝るリーダーにゃん」


 四大迷宮が一つ英雄の城塁(キャッスルヒロイック)――


 この広間において、エグゼの刺客としてやってきた三人と、ナガレ達(一部勘違いはあったが)との間で対戦が行われた。

 

 その結果は、結局ナガレ側の勝利に終わり、バットはナガレ(と勝手に勘違いしていたフレム)に破れ気絶し、結構な時間意識を失っていたわけだが。


 しかし、バットはキョロキョロと周囲を見やり不思議そうな顔をしていた。

 どうやら記憶が混乱していたようだが、しかし、そうか、と一言つぶやき。


「……私はナガレに破れてしまったのか――フフッ、完敗なのだよ。噂はほんとうだったという事か……」


 どこか自虐的な笑みを浮かべ勝手に納得しているバット。だが、その様子を見ていたグレープはため息一つ。


「あのね……一応言っておくけど、バットの相手してたの、あれナガレじゃないからね?」

「なんですとおおぉおぉおぉおおぉおおお!」

「本気で気づいてなかったとは驚きにゃん」


 グレープから告げられた真実に目が飛び出んばかりに驚くバット。コラットももぐもぐと保存食を口にしながらも呆れ顔だ。


「あ、ありえないのだよ! ならばあの男は誰だったというのだよ!」

「フレムという冒険者よ。大体事前の情報でしっかり仲間に双剣使いがいるってあったじゃない」

「だから、それは偽りの姿で実は!」

「バット、前から思っていたにゃんが、あんた馬鹿にゃんね?」

「ね、猫にいわれたくないのだよ!」

「にゃ! それは獣人への挑戦と受け取っていいのかにゃ!」

「やめなさいよ、本当馬鹿馬鹿しい」


 頭を抱えるグレープ。

 ピーチに対しては随分と辛辣な物言いであり、小生意気な雰囲気さえ滲ませていた彼女だが、バットと組んでいるときは気苦労が絶え無さそうだ。


「そもそも、それなら一体誰がナガレだと言うのだよ!」

「だから、バットが最初に違うと決めつけたあの少年よ。男なのに凄い綺麗な黒髪をしたね」

「そ、そんなまさか……」


 絶句するバット。よほど信じられないのだろう。


「し、しかしありえないのだよ! あの双剣の男とてかなりの強さ! だからこそ私は負けたのだよ!」

「簡単な話よ。つまり、あのナガレという少年はそれ以上に強いって事。実際私、ピーチに天導門の魔法を行使仕掛けたけど、彼が間に入って止めてきた時、嫌な予感しかしなかったもの。一応はバットやコラットが気絶していたのを聞いて止めはしたけどね」

「ちょ、ちょっと待て! 聞き捨てならないのだよそれは! 天導門など、そうやすやす使っていいものではないであろう!」

「判ってるんだけど、私、昔からアイツのこと見てるとイライラして仕方ないのよ。ナガレが介入してくれたおかげでなんとか冷静さは取り戻したけどね。でも、正直納得はしてないわよ、魔法云々はおいておいて、あんなにあいつが強くなってるなんて――」


 思わず爪を噛んでしまっているのは、悔しさの現れなのかもしれない。


「でも、師匠が死んだというのはあれ何だったかにゃん?」

「あぁ、あれね……我ながらちょっと意地の悪い言い方をしちゃったと思うけど――」


 グレープはあの時、ピーチに言った言葉を思い出す。





『し、師匠が、死んだ?』

『……えぇ、ま、私の中ではって意味だけどね』

『――はい? え、どういうこと?』

『だから、そういうことよ。ま、どうしても知りたければ自分で会いに行くのね』

『え~と、つまり元気なのよね?』

『――元気というか、とにかく、私の口から言えるのはそれだけよ。あぁ、それと、行くにしても今は意味が無いわよ。村を出て暫く戻らないみたいらしいから。とにかく私が言えるのはそれだけよ!』





 結局グレープはそれ以上は伝えることはなく、ピーチも微妙な顔はしていたが、最終的には、ま、無事ならいいんだけどね、と軽い調子だった。


「とにかく、今回はともかく、いずれ決着を付けないと……」


 グレープは口ではそうは言っていながらも、どこか相反する感情も見受けられる。


「んにゃ、コラットも悔しいにゃん。半獣人なんかにいいようにあしらわれたにゃん……それに、うぅ――」


 コラットの顔が朱色に染まる。バットは首を傾げているが、パンツが濡れていた事までしっかり確認したグレープにはその理由がよくわかる。


「でもコラットがあんなに半獣人が嫌いなんてね。でも、そのわりに私達とは普通に付き合ってるわね?」

「……別に人間が全て嫌いってわけじゃないにゃん。でも、半獣人なんて碌なものじゃないってことは、コラットの手で証明したかったにゃん……」


 目を伏せて答えるコラット。どうにも何か理由がありそうにも思えるが――


「まぁ、いいわ。お互い干渉はなしが特級の基本だしね。それで、バットはこれからどうするの?」

「……どうするも何も、ありのままをエグゼ様に伝えるしか無いのだよ」

「そ、ま、頑張ってね。私達はそっちはあんま関係ないし、あくまでバットに付き合ってあげてるだけだから」

「右に同じにゃん」

「……ふん、当然なのだよ。負けはしたが、情報は事細かに伝えるのだよ」


 そうは言ってもその情報に肝心のナガレの事がないだろうに、とグレープは思ったようだが敢えて触れなかった。


「でも、このままただ戻るのも癪だから、コラットとも相談したけど、私達はもう少しここを潜って鍛えていくわ」

「にゃん、少しでもレベルを上げるにゃん」

「ふん、ならば私も付き合うのだよ。負けたままおめおめと何もせず引き返すとはいかないのだよ」


 こうして結局三人はそれから何日間か、迷宮に籠もりレベルアップに勤しむのだった。





◇◆◇


「え! 私家族と会えるの!?」


 マイが驚きの声を上げる。件の古代迷宮の攻略を終え、地上に出て一日休みを取った翌日の事であった。

 

「はい、マイさんは迷宮内でかなり役作りも上達しましたからね。それを使用してサトルの役を演じ悪魔の書を使用すればそれも可能です」


 朝の何気ない会話の時にナガレからその話が飛び出した。きっかけはマイが母や妹に向けて漏らした想いにあった。


 それを耳にしたナガレが、丁度いい機会だからと話を切り出したのである。


「尤も会えると言っても、鏡を通してになりますけどね。悪魔の書の中にデビルミラーという悪魔がいますのでその力を利用する形です」

「え? 悪魔の書って、これ?」


 マイが右手に悪魔の書を現出させた。既にマイはわりと簡単にコレを取り出せるようになっている。


『全く、まさか我をそのような懐かしの再会みたいなものに利用されるとはな』

「なんか久しぶりに、貴方の声を聞いた気がするわね」

「えぇ、お久しぶりです」


 マイが目を細め、ヘラドンナもどこか懐かしむように声をかける。

 尤もその間も、ヘラドンナの執拗な攻撃がナガレに振るわれ続けているが。


「さて、早速試してみますか?」

「ナガレくん……この状況でも全く動じないのね――」


 若干表情が引きつり気味のマイである。


「ふぅ、そういう事ならば、あまり邪魔も出来ないですね。まぁ、朝の運動ぐらいにはなりましたから、ハーブティーでもご用意いたしますね」

「今のが朝の運動なんだ……」


 色々とついていけないマイだが、とにかくナガレの言うとおり、デビルミラーを悪魔の書から呼び出した。


「え? 何々? ナガレってば今度は何するの?」

「先生! 俺はどこまでも先生についていきますよ!」

「え~? ナガレっちってばまた面白そうな事考えてる~?」

「ナガレ様のやることに間違いはありません」

「師匠がそういうなら、ま、間違いありませんね!」

「いや、それより今普通にマイが家族と会えるとかそんな話をしていたような……」

『もはや何でもアリであるな』


 またやけに集まってきたわね、とマイがどこか疲れた顔を見せる。


「さて、それでは次はブレインジャッカーを呼びましょうか」

「本当、ブレないわねナガレくん……」


 とは言え、マイはブレインジャッカーを呼ぶことに成功。

 だが、その見た目は中々にグロテスクだ。マイからすれば以前テレビでみたようなエイリアンを想起する物であり、これで一体どうするの? と問いかけるマイであったが。


「はい、頭に付けてください」

「冗談でしょ!?」

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