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第四四二話 それぞれの決着

「偉そうな事を言っていた割に、逃げてばっかだにゃんて、やっぱり半獣人は腰抜けにゃん!」


 コラットの攻めは続いていた。猫獣人である彼女の動きはとにかく速い。

 しかも、人間よりも猫に近く、趾行的な動き、つまり足の部分では踵を完全に浮かし、爪先だけの移動を、手に関しては長くした爪を巧みに操り、猫の利点を完全に活かしていた。


 その為、コラットの動きはとても素早く、身軽であり、小回りも効く。

 それでいて、人のような器用さも併せ持っているので狩猟の腕に関しては猫を遥かに凌駕していると言えるだろう。


 しかも、彼女は二段ジャンプや壁走りのスキル持ちであり、その為、常人では考えられないような立体的な動きを見事に披露してくれている。


「にゃん! 一撃で終わらせてやるにゃん!」

「え~? それはちょっと困るかな――【シリウス星狼弓】!」


 番えた矢を、カイルが遂に射出。星の力を借りた一矢は、その姿を煌めく狼に変えた。


「にゃ、にゃん!?」


 突如現れた星の狼に慌てるコラット。バネのような膝の動きで高く跳躍、星狼の爪から上手く逃れてみせた。


「悪いけど、これは幾つか同時に出せるんだ」


 カイルのターンは終わってはいなかった。更に二射、三射と続け、星狼の数は三体となる。

 

 しかもこの狼、一度外れたからと消えることはなく、しつこくコラットを追いかけ回し続けた。


「なんなんにゃこれは! いい加減にするにゃん!」


 追いかけ回してくる狼にいい加減腹がたったのか、回転爪拳! と叫びクルクルと横回転しながら両の爪で星狼達を切り刻んだ。


 元は矢で出来ているこの星の狼は攻撃をされると消えてしまう。なので、どちらかというとこの技は相手を撹乱するため搦手的意味合いが強い。


 これ単体ではなく、他の攻撃と組み合わせて使用――そう、今まさにコラットが狼に気を取られていた時、カイルの矢が、メインの一矢が、彼女に向けて放たれた。


「にゃっ!?」


 シュッ! という風切音、そして矢はコラットの頭を掠めて(・・・)奥の床に突き刺さった。


 鋭い一撃であった。だが、コラットに当たることはなく。


「にゃ、今のは、ちょっと驚いたにゃん。焦ったにゃん。でも、外したにゃん! そうにゃん、そんな弓なんかに頼ってるからにゃん! やっぱり半獣人は軟弱にゃん!」

「……」


 コラットが嘲るように叫ぶが、カイルに反応は無かった。その様子に、改めて呆れたように鼻を鳴らし。


「もう諦めたにゃん? だったらもう終わりにゃん!」


 コラットがカイルの横を駆け抜けた。それだけでカイルの脇腹が深く抉れ、出血が溢れ出す。


「まだにゃん! 旋風昇天爪!」


 更にそこから回転。狼を排除した技よりも更に鋭く、激しい動きによって竜巻が発生し巻き込まれたカイルが天井に向けって吹き飛んだ。


 それを追っかけるようにコラットが暴風に乗り、竜巻の旋回にあわせカイルを切り刻んでいった。


「ギャァアアァアアァアアアァア!」

「にゃ!?」


 断末魔の悲鳴が轟いた。竜巻と爪によってカイルの五体がバラバラに切り刻まれ、離れ離れになった四肢と頭が雨になって降り注いだ。


「にゃ、にゃ~ん……こ、こんなに軟弱とは思わなかったにゃん。よ、弱いお前が悪いにゃん……」


 コラットが着地し、どこか狼狽した様子で独りごちた。どうやら殺そうとまでは思っていなかったようで、まさか死んでしまうとは思わなかったようだ。


 心なしか肩が震えているようでもある。


「酷いなぁ、自分で殺しておいて、そんな事を言うんだね?」

「え?」


 だが、その声に弾かれたようにコラットが振り向く。

 すると、カイルの顔が突然首だけで地面へ起き上がり、彼女を振り返りケタケタと笑いだした。


「ひ、ひいいぃいい! なんにゃ! なんなんにゃ! お前、なんなんにゃ!」

「おいらは、君に殺された哀れな哀れな死体だよ。そう、死体、でも、寂しいんだ、凄く凄く、寂しいんだ――」


 首からしたがにょきにょきと生えてきた。他の部位からも、まるで根のように肉が伸びていき、人型へと変化していく。


 しかし、死体故か、色はやけに青白く、肉体の所々が剥げ、腐臭が漂っていた。


「あ、アンデッド、にゃ?」

『コラットちゃぁあぁあん! 一緒に、逝こおおおおぉおおおおぉおお――』


 腐ったカイル達が、コラットへと一気に押し寄せた。悲鳴を上げるコラットを押し倒し、涎を垂らしながらその肢体へと――





「あ、あぁああ、いやにゃん! こんなの、いやにゃーーーーん!」

「アハッ、どうやらいい夢見られたようだねコラットちゃん♪」


 悲鳴を上げ、頭を抱え、涙目でペタンっと地べたに尻をつけたコラットを認めつつ、カイルが言った。


 へ? とコラットが頭を上げる。そこには特に何の変哲もなく、怪我一つしていないカイルが、意地悪な笑みを浮かべて立っていた。


「え? え? どうなってる、にゃん?」

「ふふっ、今のはね、アンカ幻星弓さ。一時的に相手に幻覚を見せるね」

「――幻、覚?」

「そうだよ。おいら言ったよね? 傷はつけないけど、それなりに反撃はさせてもらうってね」


 してやったりといったりと微笑を見せるカイル。コラットは目をパチクリさせ、そして爪で地面を引っ掻いた。


「ふざけるなにゃん! こんなの認めないにゃん! こんなのでコラットは負けてないにゃん!」

「え~? でも、その状況でまだ戦える?」

「何言ってるにゃん! コラットは、コラットは――」


 だが、そこでコラットの口が閉じ、爪が引っ込んだ。片手をそっと尻尾の方へ持っていき、パンツの手触りを確かめる。


 その瞬間、みるみるうちに赤くなる。耳までも漏れなく真っ赤であり、そしてよく見ると、彼女が尻をつけた床の周辺に生暖かい液体が広がっていた。


「フフッ、恐怖でおもらししちゃうなんて、コラットちゃんってば可愛い」

「にゃ、ふにゃぁああああぁあああぁあああぁああ!?」

 

 コラット、いろいろな意味で敗北が決まった瞬間であった。






◇◆◇


「……え? うそ! まさかグレープってば、粉々に吹っ飛んじゃったって事ないよね?」


 紅焔術式を行使し、ピーチへと挑んできたグレープ。そんな彼女へ、お返しとばかりに魔杖爆砲で反撃したピーチであったが、魔力の放出を終えたピーチの目には何も残っていなかった。


 そう、確かに高めた魔力の光線に飲み込まれたグレープが、完全にその場から消え去ってしまったわけである。


「ど、どうしよう……グレープ! グレープってば!」

 

 声を上げ駆け出すピーチ。だが、その時だったグレープの立っていた場所に、小さな火の粉が集まりだし、かと思えばボワッ! と激しく燃焼し、直後グレープが姿を見せた。


「え? ぐ、グレープ?」

「……まさか、イグニスコルプス(肉体炎化)まで使用することになるなんてね」

「ほ、炎化? まさか貴方、肉体を炎に変化出来るの?」

「――言う義理はないわね。それより、ちょっと油断しすぎじゃないの? まさか今ので終わったなんて思ってないよね?」


 キッとピーチを睨めつけるグレープ。それに一瞬たじろぐピーチであり。


「そ、それは……」

「まぁ、いいわ。あんたが魔法使いだなんてこれっぽっちも思えないけど、厄介な存在であることは確かみたいだし――だから、こっちも今度こそ、容赦は無しよ」

「へ? 容赦はなしって、まさかまだ続けるつも――」


 問いかけるピーチだが、グレープは聞く耳は持たず、詠唱と記述の同時展開による複雑な術式を構築していき――


「開け天導第一〇門の扉、発動せよ天術式」

「ちょ、ちょっと待って! 天導に天術ってまさか!」

「【エンジェルフレア】――」


 突如慌てだすピーチ。ニヤリと口角を上げ、完成した魔法を行使するグレープ。


 そして――発動と同時に、グレープの背中から紅蓮の翼が一対生まれ、その小さな両腕の中に巨大な熱が圧縮され、渦を巻き、威力が凝縮し始めた。


「あ、こんなの――」

「さぁ! これは避けられるかしら先輩! それともさっきの技で、押し戻してみる? さぁ! さぁ!」


 どこか自分に酔いしれるような、上擦った声。巨大な天使の炎は、迷宮全体を飲み込んでしまいそうな程の圧を放ち続けていたのだが――


「そこまでです――」


 目を見開き、驚愕するピーチと、己の力に恍惚しているグレープの間へナガレが割って入り、この勝負の終わりを宣言した。


「は? な、何よ貴方! 邪魔しないでよね! ここからがいいところなのに!」

「……残念ですが、さすがにそこまでの力となると私も放っては置けません」

「――何それ? 結局いざとなったら仲間が心配って事? それともあんたたち、そういう関係だったわけ?」

「ちょ、そういう関係って! しょ、しょんな……」


 こんな状況にも関わらず、照れ始めるピーチ。意外と余裕であるが。


「……貴方が、自分の仲間もどうでもいいという考えなら、それなりの対応をさせてもらう他ありませんが、先ずは周囲を確認してみては如何ですか? 強い力を行使するなら、その結果がどうなるかも、多少は考慮したほうがいい」

「――え?」


 そこでグレープはようやく周囲の状況を確認した。


「――なんだバットもコラットも、もう、負けていたんだ……」


 そう、ふたりとも既に敗北を喫していた。しかも、ふたりとも今グレープがこの魔法を発動してしまえば、確実に巻き込まれ――死は免れない。


「……運が、良かったわね」


 すると、ナガレの言っている意味が理解できたのか、グレープの背中から生えていた翼が霧散し、渦を巻いていた炎も消え去った。


「――理解が早くて助かります」

「……ふん、一応あんなのでそれなりに付き合いはあったからね。それに、バットはどうでもいいけど、コラットは死なせたくないわ」


 鉾をおろし、嘆息するグレープ。こうして、この勝負は一旦の幕引きとなったわけだが――

天導門は古代魔法の一つです。アケチでも使えなかった魔法ですね。

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