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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第三章 ナガレ冒険者としての活躍編

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第四十二話 究極の瞑想

「せ、先生、か、身体中、い、痛いです――」


 朝になり、地面にはボロ雑巾のようになったフレムの姿があった。

 正直ナガレと勝負した時よりも状態は酷いことになっている。愛用の双剣に関してはポッキリと折れてしまっていた。

 だがそれ以上に心が折れそうになってるフレムである。


「それだけ喋られるならまだまだ全然だいじょうぶそうですね。しかしこれで貴方も少しは精神の大事さが判ったでしょう。とりあえず朝ごはんの支度が必要ですから早く起きて下さい」


「ナガレ……結構容赦無いのね――」

 

 ナガレとフレムの特訓にしっかり朝まで付き合ったピーチだが、ちょっぴりフレムに同情している様子も感じられた。


「……朝まで続く男と男の嬌声。ナガレの愛の指導、堪能できた」

「ビッチェ、その言い方は誤解を招くのでやめて頂きたいのですが……」


 ピーチとは別に密かに樹木の影からふたりの様子を眺めていたビッチェが姿を現す。

 ナガレは当然それには気がついていたが。


 しかし時既に遅し、ビッチェが言わずとも既にナガレとフレムの噂は冒険者の間に広まっていたりする。

 

 フレムもなんとか立ち上がり、ナガレ達と皆の集う場所まで戻るが、すれ違う冒険者達は誰もがふたりの事を好奇の目で見ていた。


「いやぁナガレっちにフレムっち昨日はお楽しみだったね!」

「何言ってんだお前?」


 何故か楽しそうに口にするカイルにフレムが眉を顰めた。

 どうやらフレムは、自分が周囲からどういうふうに見られているか全く気がついていない様子。 


 しかしナガレは別である。しっかりとその意味を理解しているせいかどことなく表情が暗い。


「ナ、ナガレ大丈夫よ! こんな噂、すぐ誤解だってみんな気づいてくれると思うし!」

「……少し放っておいて貰っても宜しいですか?」

 

 フレムのおかげで色々と台無しなナガレではあるが、とりあえずすぐに気を取り直し精神を落ち着かせた。

 このあたりは流石ナガレである。


 そしてその後は全員で朝食を食べ、再び馬車に乗り込み街を目指すわけだが。


「さてフレム。昨日の事でもう判ったかと思いますが、貴方は全てに於いて基本となる精神があまりに未熟です」


 馬車に乗り込む直前、ナガレにそう言われぐぅの音も出ないフレムである。

 何せ昨晩彼が願った実戦向けの特訓では、フレムは結果を残す事が一切出来なかったのだ。

 一応は彼も双剣を振るったものの岩の一つも斬ること叶わず、無駄に剣を疲弊させ破損させてしまっただけなのである。


 とは言え――ナガレのあのシゴキに耐えられるのがそもそもこの世界にどれだけいるかといった話なのだが。


「フレム、貴方の武器である双剣はその敏捷力を活かすには最適な武器と言えるでしょう。ですが攻撃力の面ではどうしても見劣りしてしまう部分があります。それを補う上で物事の本質を見抜く事は必要不可欠。昨晩も言いましたが、どんなに強固に見える物質でも必ずそこを突けば破壊できる()が存在します。しかしそれを見極めるためには精神の鍛錬は必須なのですよ」


 ナガレがそこまで説明するとフレムの双眸は真剣なものに変わり、決意を決めた面持ちでナガレを見た。


「先生! 俺が間違ってました! 先生がそこまで俺の事を考えてくれているのに文句を言ってしまって……本当に申し訳ありません!」


「あぁ、フレムがこんなに素直に謝れるなんて……流石ナガレ様」


 崇めるような瞳で尊敬の言葉を述べるローザ。

 その横ではカイルが、流石ナガレっち! と親指を立てて褒め称えている。


「判ればいいのです。ではフレム、昨晩の遅れを取り戻すためにも、これから街まで瞑想を行ってもらいますよ」

「はい! 馬車の中でひたすら瞑想ですね!」


 両拳を握りしめフレムが張り切る。

 だがナガレは嘆息し。


「何を言っているのですか? 昨晩の遅れを取り戻すのにそんな程度では追いつきませんよ」


 え? と目を丸くさせるフレムだが、そんな彼の腰にナガレが手早く縄を巻き、解けないようにしっかりと縛り締め付ける。


「え? あの先生これは?」


「こっちの縄はこれで……よし大丈夫ですね」


 疑問の声を発するフレムをよそに、ナガレはフレムを縛り上げた縄とは逆側の端を車体の後ろに括りつける。


「それでは行きましょう。あ、フレムはそのままそこで座禅を組み、街まで瞑想を続けてくださいね」


「……え?」


 こうして一行は縄で縛ったフレムを外に残したまま馬車に乗り込んだ。

 かと思えば御者の掛け声が鳴り響き――


「え? あの、ちょ、先生! まさかこの状態で瞑想!?」


「そうですよ。動く馬車に引きずられながらも平然と瞑想ぐらい出来ないとお話になりませんからね」


「……あれ? ナガレってもしかして結構スパルタ?」

「……容赦無い、でも、面白い」

「え? お、面白い? でもなんか凄い悲鳴が聞こえて来てるんだけど……」

「あの、ナガレ様。私から頼んでおきながら何なのですが、フレムは、だ、大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫ですよ。この馬車は平坦な道でも速度は精々一五kmから二〇km程度が限界です。この程度でフレムは死にはしません。まぁ本来なら新幹線ぐらいの代物でやってほしいところですが、流石にいきなりそれは酷でしょうしね」


「てか新幹線って何?」

「そうですね、この馬車の二〇倍ぐらいの速度が出る乗り物と思ってくれて結構です」

「いや、それ流石にフレムでも身体が持たないような――」


 平然とそんな事を言いのけるナガレに、流石のカイルも笑顔が引きつる。

 とはいえフレムの面倒を見て欲しいといったのはローザでありカイルもその仲間だ。

 少々気の毒な気がしているようでもあるが、引きずられるフレムに心のなかで死なないでと願うのが精一杯なのである。


「フレムどうしましたか? さっぱり座禅が出来てませんよ。それではただ引きずられているだけです。もっとしっかり地面に腰を付けて足を組み、精神を集中させて」


「せ、先生! ぐぇ! ちょ! 流石ぎひぃ! これ、無茶、ぎゃ!」


 異世界の街道はそれなりに整備はされているが、やはりナガレのいた世界ほどしっかりした作りではない。

 つまり速度の面よりも凸凹した道のほうが障害としては大きく、実際フレムにとってはそっちのほうが問題である。

 ましてや道は当然平坦な道ばかりではない。途中ちょっとした岩場の道も通ることになるし、森の中では引きずられるフレムを餌と勘違いした魔物が追ってくる一幕もあった程だ。


「フレム、ワイルドボアが迫ってますよ。それはそれでしっかり対処してください」

「な!? この状況で! うぉ! あ、あっち行きやがれ!」


(ふぅ、まだまだですね)


 ワイルドボアに追いかけられながら、地面に身体をしこたま打ち付けごろごろと転がり、跳ねまわるフレムの姿を眺めながら、ナガレは心のなかで嘆息した。

 

 この後、結局フレムは馬車に引きずられっぱなしであり全く瞑想は成功しなかった。

 だが、その様子を目にした冒険者達はナガレの容赦のない(ように見えたらしい)所為に震え上がったという。


 そして――


『ハンマの街にはレベル0でありながら男も女も喰らい、気に入らない相手は地面に引き摺りまわして甚振る鬼がいる』


 そんな噂が冒険者達の間で囁かれることになるのだった。






◇◆◇


「じ、じぬ、じぬ、ぅ……」

「お、おいこいつもう満身創痍じゃないか! なんだ!? 魔物にやられたのか!」

「いえ、それは修行の一環による結果ですのでお気になさらず」

「修行! これが!?」


 ハンマの街に着くなり、擦り切れたボロの如く状態のフレムを心配して駆けつけた衛兵達であったが、サラリと言いのけるナガレに目を丸くさせた。

 何せ衛兵達からみれば、まるで凶悪な魔獣にでもやられたが如く様相なのだからそれも仕方無いことかと思うが。


「大丈夫ですよ。死ぬと言って本当に死ぬ人間はいません」

「ナガレ、結構鬼ね」

「……でも言ってる事は正しい」

「あ、あのせめて治療魔法を施すのは……」

「まぁそうですね。そのまま街に入るわけにもいかないでしょうし」


 ナガレの許可が出たのでローザがフレムに駆け寄り魔法による回復を施した。

 ローザの聖魔法は中々高性能である。流石プレートキラーホーネットの毒から冒険者を救っただけある。


 ちなみに他の冒険者もフレムの様子を覗き込んでいたが、とりあえず命に別状はないと見てナガレ達に挨拶し先に門を抜けていった。

 

 一部の冒険者からは、フレムざまぁ、といった囁きも聞こえてきた辺り彼の普段の嫌われっぷりがよく判る。


「ローザありがとな。もう大丈夫だ……」


 細かい傷はまだ残ってるものの、ローザのおかげでほぼ回復したフレムが上半身を起こしお礼を述べる。

 だがその顔には覇気がない。意気消沈といった感じだ。


「おや? まさかこの程度でへこたれましたか?」


 しかしナガレの容赦のない一言がフレムの胸を抉った。

 ナガレはやると決めたからには徹底している。その姿勢はかなり厳しい。


「うぅ、せ、先生! 確かに俺は先生の強さに憧れ指導を願いました! し、しかし、その、疑うわけではないのですが……俺にやらせたこれは先生は出来るのですか! まさか自分に出来ないのをやらせたとか――」

「フレム! それは失礼よ!」


 フレムの発言にローザが怒りを露わにした。

 自分から弟子になりたいと言っておきながら、この台詞は失礼にあたると思ったのだろうが。


「ローザ構いませんよ。そうですね判りました」


 ナガレはそう答えると、ビッチェを振り返り。


「ビッチェは馬術にも長けてましたよね?」


 ナガレの質問にコクリと頷き。


「……馬術のスキルも持ってる。問題ない」


 その返しに、そうですか、とナガレは顎を引き。


「では馬車から一頭馬をお借りし、その馬と私の身体を縄で繋いで下さい」


 え!? とフレムが驚愕する。

 当然だろう。フレムの場合は馬車に引きずられた形だが、人を乗せ重い車体を引かなければいけない場合と違い、馬だけで走るほうが速度が出やすい。

 さらにビッチェは馬術のスキルも持っているという。

 それであれば馬の力を十分に引き出すことも可能であり、その速度は馬車の軽く倍以上出るのは間違いない。


 だが、ビッチェは特にためらう様子も見せず、手早くナガレを縄で結び――そして掛け声と共に馬を走らせた。


「せ、先生!」


 フレムはどこか後悔したような表情で叫びあげた。

 ついついナガレを疑うような台詞を吐いてしまったが、ローザの言うように自分から弟子になりたいと頼み込んでおいてこのような真似をさせたことが心苦しかったのだろう。


 だが――しかしそれは全くの杞憂であった。

 何せナガレときたら、軽く時速六〇kmは超えてるであろう馬に引かれながらも酷く落ち着き払った様相で座禅を組み瞑想に勤しんでるのである。

 

 動揺などの全く見られない見事なまでの精神統一。

 ビッチェは途中馬術のスキルをこれでもかと発揮し、跳躍を何度も行い、剰え馬ごと三回転宙返りさえも決めてみせるが、ナガレの瞑想姿勢に一切の乱れはなく、回転しようが縦横無尽に飛び回ろうが常に地面と水平の状態を保ち続けている。


「ナガレってば凄すぎるわね……」

「いや人間業じゃないよナガレっち……」

「流石ですナガレ様。あれこそ神の妙技!」


 感嘆の声を漏らすピーチ、カイル、ローザの三人。

 一方フレムは言葉を完全になくしてしまっている。

 

 しかしこの程度ナガレにとっては造作も無いこと。 

 当然であろう。何せこのナガレ、日本にいた頃はリニアモーターカーに引かれながらも瞑想状態を余裕の表情で保ち続けたほどであり、瞑想大会の世界戦では八〇年連続優勝の記録さえ保持しているのだ。

 

 そんなナガレであれば馬に引かれながらのこの程度の瞑想、呼吸をするより簡単な事である。


「先生! おみそれ致しました! 疑ってしまい本当に! 本当に申し訳ありませんでしたーーーー!」

 

 そんなわけで、ナガレの見事なまでの瞑想を目にしたフレムは、改めて自分の未熟さを痛感したのか、再び土下座のような姿勢でナガレを迎えた。


「いいのですよフレム。瞑想もそうですが精神を鍛える事がいかに大事か、判ってもらえたならそれでいいのです」


 ナガレの言葉に、せ、先生、と目をうるうるさせるフレムである。

 そして――


「ではこれで俺を正式な弟子に!」

「それは無理です諦めてください」

「え~~~~~~!」


 ナガレのにべもない返しに絶句するフレムである。


「……なんだかよくわからないがあんたら大変そうだな」


 そして何故か門番に同情の目を向けられる一行なのであった――


 

瞑想を極めるのも大変なのです。



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