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第四四〇話 フレムは利口?

「君が悪いのですよ? さっさと敗北を認めていれば、このような事にはならなかったのだから」


 上空から俯瞰し、バットが高らかに言い放った。

 フレムの炎も効くことがなく、それからは暫くバットの鋼鉄の蝙蝠による攻撃が続いていたのだが、いい加減しびれを切らしたのか、大量の吸血蝙蝠を消しかけた。


 今、フレムの全身は吸血蝙蝠に集られ、完全に見えない状態だ。


「うぇ、気持ち悪い……」

「しかし、流石にあれはまずいのでは? 何か普通より吸血するのが早いようだし……」


 確かに、バットの話では十秒もあれば大人一人をミイラにするぐらい容易いようである。


「問題はありませんよ。ただの吸血蝙蝠にやられるような鍛え方は、私もしていないつもりです」

「……ナガレが言うと、安心感が違う」


 ビッチェの熱い眼差しがナガレを捉えた。

 相変わらずのショタコンぶりね、とマイはビッチェを見ながら漏らす。


「しかし、吸血というのはいい方法かもしれません。折角ですから私も試してみましょう」


 興味を持ったヘラドンナは、早速種を植え、吸血植物を生み出し、ナガレにけしかけた。

 だが、当然だがナガレは涼しい顔で吸血触手の攻撃を躱し続けている。


 そして、そうこうしている内に、フレムと吸血蝙蝠の間に変化が訪れた。


『キキッ!?』

「な、なんだ? どうしたというのだよ?」


 突如、フレムに纏わりついていた吸血鬼が苦しみ、かと思えば次々と地面へ剥がれ落ちていく。


「わ、私の蝙蝠が……」

「どうやらこいつらには熱の耐性がなかったようだな」


 蝙蝠が引き剥がれた事で、フレムの姿が顕になった。この短時間で見た目の変化が著しい。

 肌の色はまるで煮えたぎる溶岩のように赤く、全身からとんでもない量の湯気が吹き出ている。


『一体何が起きたのだ?』

「フレムは体温調整によって自らの温度を急激に上昇させることが可能です。血液も沸騰するほどに――この急激の体温上昇によって血を吸っていた蝙蝠の体温さえも大きく上昇させ、蒸し焼きにしたのです」

「何かわかったようなわからないような……凄い攻撃だっていうのは判ったけど」


 目を細めてマイが言った。この人外達相手にまともな理論を期待しても仕方がないだろうと言った諦めに似た感情も見受けられる。


「さあ、どうする? バットさんよ?」

「……余裕を持っていられるのも今の内なのだよ。私の可愛い蝙蝠達には、このようなものもいるのだから!」


 バットが再び別な蝙蝠をけしかけた。

 

「吸血は失敗したが、その蝙蝠達は特殊な病原菌と毒を宿している、掠りでもしたらそれで終わりなのだよ」


 空中を舞い続けながらバットが宣告した。

 中々の自信ぶりであるが。


「……やっぱりあいつは馬鹿」

「いや、しかしビッチェさん、毒と病原菌は流石にあまり洒落にはなっていない気も……」


 メグミが眉を落とし口にする。確かに普通であれば大いに心配するところだろうが。


「いえ、むしろあの程度なら、吸血の方がまだ対処が困難だったといえるでしょう」


 しかし、ナガレの発言に、え? とメグミがフレムに顔を向ける。


 すると、バットの放った蝙蝠達は、あっさりと双剣に仕留められてしまっていた。


「毒も病原菌も攻撃を貰えば脅威ですが、あの蝙蝠にはそれ以外にこれといった特徴がありません。元々の数も少ないのか、吸血蝙蝠と違ってそれぞれ数匹ずつ程度です。あれでは単発で襲わせたところで返り討ちにあうだけです」

 

 ナガレの言っているとおりである。吸血蝙蝠であれば、一匹一匹は大したことが無くても数で押し切る強引さがあったが、バットが自信を持って放った二種類にはその数の利もなく、動きも鋼鉄並と謳った蝙蝠より遅い。


 これではフレムを捉えることなど到底不可能だ。


「ぐっ、インフルエボペストも、セイサンヒソカーリも倒されたというのか……」


 どうやらそれが今バットがけしかけた蝙蝠の名称なようだ。


「……今ふと思ったんだけどよ。お前ってもしかして、大したこと無くないか?」

「な、んだ、と?」


 フレムは引き続き、刃のような飛膜でしつこく攻撃を仕掛けてくる蝙蝠を捌きながら、バットに向けていいはなった。


 この攻撃ですら、既にフレムは見切ってしまっている。


「最初は厄介にも思えたんだけどな。戦ってると、結構穴だらけだぞお前」

「……ハハッ、面白い。屈辱なのだよ。この私が、大したことないなどと! ならば見るがよい!」


 空中からバットが猛々しい声で叫び、そして大きく息を吸い込んだ。

 急激に腹部が沈み込み、かと思えば、フレムに向けて何かを吐き出した。


「な、なんだぁ!?」


 大気が振動し、何かとんでもない力がフレムに降り注ぐ。 

 バットの口から放たれたソレの影響で、バットとフレムを繋ぐ斜線上の景色が大きく歪んだ。地面が削られ、擂鉢状に抉られていく。


「ぐっ、が――」

 

 バットがすぅ、と口を閉める。何かの攻撃を受けたフレムは苦しそうに呻き、頭を押さえ足下をふらつかせた。


「どうなのだよ? これこそが私の奥の手、超音波砲なのだよ」


 腕を組み、得意気に語る。どうやらバットが口から放ったのは超音波だったようだ。


 しかもかなり強烈な……。


「くそ、頭がいてぇ……」

「当然なのだよ。むしろまだ倒れない事に敬意を評したいぐらいなのだが、しかし、この技はただ相手にダメージを与えるだけではない。平衡感覚を狂わせることも可能なのだよ。お前もよく頑張ったが、これで今度こそ終わりなのだよ」


 バットが前もって放っていた蝙蝠達。その飛膜が光り、フレムへと向かっていく。


「これで、ジ・エンド、なのだよ」

「勝手に、終わらせんなよ、炎双剣螺旋龍焔撃!」


 勝利を確信したかのような態度を見せるバットであったが、フレムの全身が燃え上がり、炎の龍となり迫る蝙蝠を飲み込み、更にバットへと突撃した。


「ぬぅううぅううぅう!」


 強烈な炎と熱風に、思わずバットが蝙蝠で出来たマントを翻した。

 

 焔の龍が通り過ぎ、バットが火柱に包まれるが――しかし、着地したバットの真上では、平然と彼を見下ろすバットの姿。


「ふぅ、中々の炎だが、私が纏っている蝙蝠に炎は効かないと言っておいたはずなのだよ」

「……あぁ、そうだったな。けどな、おかげで頭がすっきりしたぜ」


 どこか清々しい表情を見せてフレムが言う。

 その様子を見ながらナガレが口元を緩めた。


「どうやら、こちらは決まるようですね」

「え? どういうことナガレくん?」

「フレムは、あれで中々利口なのですよ」


 ナガレが言うと、聞いていた全員が、え? と何ともいえない表情を見せた。


「……フレムは馬鹿」

「確かに、フレムは頭で考えることは少々苦手なようではありますが」

「……少々?」

 

 ビッチェは小首を傾げるが、ナガレはそのまま続ける。


「フレムの場合、例え頭で理解していないように見えても、身体ではしっかりと覚えているのです。だからこそ、以前凍るという事について教えたときも一見理解できていないように見えましたが――実際はしっかり使いこなしています」

「氷双剣!」


 ナガレが口にするとほぼ同時に、それに答えるようにフレムが双剣に冷気をまとわせた。


「え? 炎じゃなくて氷?」

「はい、フレムは逆転の発想で、炎を氷に変える事を思いついたのです」

「え? そ、そんなことで何もないところから氷が生まれるものなの?」


 マイもメグミも目を白黒させていた。確かに発想を逆転させたぐらいで凍るなら苦労はないが。


「確かにフレムにとっては逆転の発想でしかありませんが、肉体的にはしっかりと要点を掴んでいたのです。だからこそ、体温調整で汗を大量に生み出した後、それを一気に気化させ、周囲の温度を奪ったのです。その結果が――」


 フレムの見せている、氷双剣なのであり。


「炎ではなく、氷だと? まさか、そんな事まで……」

「本当に、先に試練を受けていて正解だった。おかげで更にコレを――使いこなせる!」


 迫る蝙蝠達を、何度も切りつける。それだけで、あれほど炎に強かった蝙蝠が、凍てつき、地面に落ちた。


「どれほど炎に強くても、やっぱ生き物の多くは寒いのに弱いんだな――」


 バットを見上げ、フレムが言った。悔しそうに奥歯を噛みしめるバットの姿がそこにあった。


「ちょ、調子に乗るななのだよ! いくら氷を纏っても、その程度で私の装甲の全てを崩すなど不可能なのだよ! 私はただ、ここから超音波砲を撃ち続ければ後は――」

「残念だけどな」

「――ッ!?」


 しかし、堂々と語っている間に、既にフレムは地面を蹴り、バットの目の前まで近づいていた。

 

 思わず目を見開くバットであり――


「悪いが、もうお前程度じゃ、役不足なんだよ、【氷双凍剣・零霧】――」


 フレムの双剣に纏われた冷気が、白い霧に変化した。霧の周囲の空気が、侵食されたように凍てついていく。


 白霧の双剣をバットに向けて振り下ろした瞬間、絶対零度の霧が一気に広がり、バットも、彼が宿していた蝙蝠も、その全てが、凍りついていった――

役不足などと言ってはいますが利口なのです。

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