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第四三九話 三者三様

 ローブの女は、ピーチと顔馴染みのグレープという魔術師だった。

 久しぶりの再会を喜ぶピーチであったが、そんな彼女に向けられた目は、決してそれを分かち合うようなものではなく。


「今でも大魔導師になりたいだなんて無謀な夢を追い求めてるあんたに、引導を渡すためよ」


 発せられた言葉は、気に入らないと言わんばかりの険のある宣言であった。


「ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃあ何? そんな事のために、わざわざこんなところまでやってきたの?」

「そんな筈無いでしょ。ここにきたのはバットに付き合ってよ。アイツとはパーティーを組まされる事多かったし、今回もその一端。ま、あいつちょっと抜けてるから、勘違いにも気がついてないみたいだけどね」

「つまり、グレープはアレがナガレじゃないって気づいてるんだ……」

「当たり前じゃない。バットが斜め上過ぎるのよ。まぁ、確かに彼、そんなに強そうには見えないけどね」


 ナガレに目を向けグレープが言う。知らないって事は幸せだなとピーチは思った。


「一応先輩として忠告しておくけど、ナガレには手を出さないほうが貴方のためよ」

「何それ? 随分と信頼してるのね。あれ、あんたの男か何かなわけ?」

「男って、え、えぇええぇええ!? い、いやだなぁ、そんなんじゃないわよぉ、えぇ、でもぉ、そう見える?」

「全然見えないわね。てか、どうでもいいわ。それより、未だにあんたが先輩面してる方が腹立たしいわね」


 吐き捨てるようにグレープが言う。


「で、でも、私のほうが先に師匠に弟子入りしていたのは事実だし……」

「そんなの、ただ育てられてきた(・・・・・・・)ってだけじゃない。それに、私ずっと言ってきたわよね? あんたは才能がないんだから、とっととやめろって。私のほうが後から弟子入りしたのに、先輩のあんたは、いつまでたってもフレイムランス止まり、それなのに大魔導師になるだなんて、馬鹿を通り越して腹が立つ」

「…………」

「大体あんた、とっくに破門されてるくせに――それなのに、これみよがしに冒険者になんてなって、大魔導師になりたいだなんて吹聴して、なんなの? あんだけ散々いったのにまだ凝りてないの? だったら何度でもいってあげるわよ! ピーチ! あんたにはね、魔法の才能なんて皆無なんだよ! 判ったらとっとと適当に不細工の男でも見つけてそのうし乳つかってあんたに似合ったいもくさい人生でも送ってなさい!」

「……夢ぐらい見たっていいじゃない」


 俯き加減に、グレープの話を聞いていたピーチだが、否定し続ける彼女の言葉に、思うところがあったのだろう。抗うように言を発し。


「確かに、認めるわよ。当時の私には、魔法の才能はなかった。でも、それも昔の話よ! 確かに、グレープ、私は魔法の腕では貴方に敵わなかった。以前はね、だけど、今は違うわ!」


 そして、決意の篭った桃色の瞳が、グレープの紫瞳を射抜いた。

 絶対に退かないという強い意志が、今のピーチからは溢れている。


「……今は、違う? 笑えるわね。たかが二年で、一体何が変わるというの? それに、言っておくけど私だって過去の私ではないわ。あんた今の冒険者ランクはBだったかしら? その程度で、何が今は違うよ。言っておくけど、私がギルドに登録して、まだ一年も経っていないわ。それなのに、もう隠す必要もなさそうだから言うけど、Aランクの特級よ? しかも限りなくSに近いね! あんたなんか、逆立ちしたって相手にならないわ!」

「そう、だったら試してあげるわ。私が、グレープの先輩として、貴方がどれだけ成長できたか見てあげるわよ」


 腕を組み、ふふんっ、と自信に満ちた快活な口調で言いのけ、身体の上下の動きに合わせて、両端の髪の束と、大きな双丘が激しく揺れ動いた。


 その光景に、グレープが明らかな不機嫌さを示す。



「なんであんたが得意になってるのよ! 普通逆じゃない! 上等よ。身の程知らずがどっちなのか、しっかり教えてあげるわ!」






◇◆◇


「あのさ、おいらどうして君みたいなかわい子ちゃんに狙われているのか、わからないんだけど、教えてもらっていいかなぁ?」


 にゃにゃにゃ! と攻撃を仕掛けてくるコラットから逃げ惑うカイル。

 何よりも女の子の事が好きな彼である、意味もわからず異性と戦うのは釈然としないのだろう。


「にゃん、そんなの決まってるにゃん。お前が尻尾なしだからにゃん!」

「……はい?」

「聞こえないかにゃん? その狐耳は飾りにゃん? だとしたら、獣人としての誇りを忘れ、人間なんかと一緒になった獣人の子供はやっぱり出来損ないにゃん。そんなことだから、弓矢なんて扱う軟弱な精神が出来上がるにゃん! 半獣人なんて碌なもんじゃないにゃん!」


 一旦距離を離したところで、コラットがわけを話し始めたが、カイルにとってはとても納得のできるものではなく。


「……つまり、君はおいらが人間と獣人のハーフだから、おいらを狙ってきたってこと?」

「そうにゃん。恥さらしは大人しくここで散るにゃん」

「恥さらしって、おいらを産んでくれたのは、君たちと同じ、獣人の、お母さんなんだけどね」

「とんだ尻軽にゃん。相手が雄なら人間でもいいなんて、獣人の風上にもおけない奴にゃん。考えるだけでおぞましいにゃん。とっとと死ねばいいにゃん」


 カイルの目が、コラットに向けられた。その瞳は、至極悲しそうであり、いつも見せている笑顔も、どこか淋しげだった。


「獣人の中にも、君みたいな差別主義者がいるんだね」

「馬鹿な事言うなにゃん。コラットは差別主義なんかじゃないにゃん。獣人と人間が一緒になんて間違いを正そうとしているだけにゃん」

「……君には何を話しても無駄なようだね。でもね、それでもおいらはやっぱり女の子を傷つけたくはないんだ」

「軟弱な奴にゃん。これだから半獣人は駄目にゃん。死ねばいいにゃん」


 コラットの罵りは続くが、カイルは構わず続ける。


「だから、傷はつけないけど――それなりに反撃はさせてもらうよ」






◇◆◇


「私の大事な蝙蝠達を、よくもやってくれたな!」

「やられるのが嫌なら、大人しく家でペットとして可愛がるんだな。ここは真剣勝負の場だ、ぬるいこといってんじゃねぇぞ」


 バットは傷ついた蝙蝠をその手で持ち上げ、怨嗟の瞳を向けてくる。

 だが、フレムの言っている事は正論だ。何せバットは蝙蝠を操り武器として利用する。

 

 その腕は確かであり、あの伸びる攻撃にしても複数の蝙蝠が数珠繋ぎのようになって高速で行動してきたからこそ、成り立つ技なのである。


 ならば、その厄介な武器を狙うのも戦闘では定石。責められる覚えはない。


「……お前は調子に乗りすぎた。言っておくが、私の操る蝙蝠の種類は多岐にわたる。お前は中途半端にこれの正体を暴いたことで、私を本気にさせたに過ぎないのだよ」

「だったら、その本気とやらを見せてみろよ。この、ナガレ先生様が全てぶっ潰してやるがな」


 調子に乗るな! とバットが再び翼を広げ、空中へと移動する。


「チッ、また空中かよ。馬鹿の一つ覚えみたいにな! だけどな、いくら空中に逃げたところで無駄だぜ!」


 構えを取りフレムが叫ぶ。これまでのバットの攻撃方法は、空中から加速しての強襲であった。


 これであれば、既にタイミングを掴んでいるフレムであればカウンターを決められる。


「馬鹿め! 私の蝙蝠が知れた今、同じ手などわざわざ使用するか!」


 だが、バットは強襲などはせず、今度は空中から何やら飛翔体を飛ばしてくる。


「くそ! なんだこりゃ!」


 高速でフレムに接するソレは、まるで刃そのものであった。しかも自由自在に動き回り、しつこくフレムを付け狙ってくる。


「これはまさか、蝙蝠か!」

「ご名答。その蝙蝠は飛膜が鋼鉄より固く鋭い、へたな刃物より、よく切れるのだよ」

「くそ! うざってぇ!」


 フレムは炎を纏った双剣で叩き落とそうとするが、蝙蝠は動きが速い上、数も多く、決定打にはならなかった。


「その蝙蝠は防御能力も高い。耐火性とてバッチリなのだよ」

「それで高みの見物かよ、気に食わねぇ! だったら! 炎双剣回転炎舞!」


 フレムはその場で竜巻のように回転し、渦巻く炎と一緒にバットへ向けて急上昇、火炎旋風と斬撃を、同時に相手に叩きつけた。


「やったぜ!」

「やれやれ、やはり君はおもったより馬鹿なのだよ」

「……は?」


 だが、攻撃を当てた筈のバットは、実はかすり傷一つ負っておらず。


「先にいってあったのだよ。耐火性もバッチリだとね。そして、当然だが、今、私が纏ったのも、その蝙蝠達なのだよ」

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