表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
496/565

第四三七話 ナガレ先生様

「フフッ、やはり私の目と感覚に間違いはない」

「え? あ、あの先生、これって」

「さて、それでは先生と少しお話を、それぐらいは宜しいですよね?」

「は? 何を言っているのか。これだけ待たせておいてそんな時間は――」

「それにしても、バット様は流石ですね。あっさりと先生の正体を見抜かれるあたり、賢智さが滲み出ています。その前衛的な髪型も凄いですし、優れた方はやはり常人とは立ち位置からして異なります」

「うん? そ、そうかな? いや私もこの髪型には自信があったのだよ。ふふん、ま、いいだろう少しぐらいならな」

「ありがとうございます。さ、先生こちらへ」


 そしてナガレは上手いことバットを乗せ、フレムと話し合うチャンスを設けた。


「あいつ、待たせてって、勝手に待ってただけじゃない。大体、あのコラットの言うとおりなら、たださまよっていただけだし」


 ナガレとフレムが一旦下がると、ピーチがバットを一瞥し不機嫌そうにこぼした。

 そして今度はジト目をナガレに向ける。


「ナガレもナガレよ。どうしてフレムが先生なわけ?」

「……この馬鹿じゃ似ても似つかない」

「な、なんだとテメェ! といいたいところですが、今回ばかりはそう思います。先生どうして俺に先生だなんて?」

「何を言っているのですか? むしろこれはフレムだからこそです。あのバットという冒険者からはそれだけフレムが優れた相手に見えたということです。どうやら彼はAランクの特級冒険者なようですし、むしろいい機会ですよ。折角勘違いしてくれているのですから、このまま押し通して来てください」

「で、ですが……」

「それに、お忘れですか? フレムは秘密兵器なのですよ?」


 ナガレの言葉を受け、ズガーーン! と雷を受けたかのような衝撃を受けるフレム。

 何かが琴線にでも触れたのか、己の手を見てわなわなと震えだす。


「そ、そうでした。確かに、俺は先生が認めた秘密兵器、この役目を全うできるのは、俺しかいないって事ですね先生!」

「その意気ですよフレム」


 人たらしな笑みを浮かべるナガレ。それを見てフレムはますますやる気になり、妙な奇声をあげながら、任せて下さい! と地面を蹴り、クルクルクルと回転しながらバットの目の前に降り立つ。


「またせたな! そう、この俺こそが、お前の探しているナガレ先生様だ!」


「いや、いきなりおかしいでしょう! あいつ、あれで本気でナガレになりきってるつもりなの?」

「私が役作りした方がマシだった気がするわね」

「そもそも先生に様づけっておかしい気がするのだが……」

『そこに気がつくとはやはり天才であったか』

「うぅ、うちのフレムがすみません」

「え~でもフレムっちのナガレっちも面白そうだけどなぁ?」

「……黙れ、ナガレが汚れる」

「ハハッ、私は気にしてませんし、上手いと思いますよ」


 え~、と言う目を向ける一同である。


「やっと名乗ったか、ナガレ先生様よ。ならば私も名乗らせてもらおう。私の名はバット、冒険者連盟所属のAランク特級冒険者様様だ」

「いや、様様って……」

「……恥ずかしい限り」

 

 どうやら対抗意識を持ってそのように名乗ったようだが、バカ丸出しなのであった。


「バット、こんなに馬鹿だったにゃ?」

「……大体自分から特級だと名乗ってどうするのよ。馬鹿なの? 死ぬの?」


 葡萄色のローブを纏った女も中々辛辣である。


「それで、そのなんだ、バットとく、とく? とにかくその冒険者様様は、このナガレ先生様に一体何のようなのかな?」

「知れたことよ。お前が特例で与えられたというFランクという称号、だが、これに関して、さる御方が納得されてなくてな」

「さる御方って誰よ」

「むっ? ふっ、そうであるな。ここでは仮にその御方をエグッゼという事にしておこう」

「……思った通りエグゼか」

「ち、違う! エグッゼだ! さる御方だ!」

 

 あわてて否定するバットだがバレバレである。


「なるほどな、それで、そのエッグウメーが気に入らないからなんだってんだ?」

「エグッゼだ! 何を聞いているんだお前は!」

「卵食べたくなってきちゃった」

「ピーチらしいですね」

「でも確かに卵が美味しそうな名前ね」


 話が横にそれたがバットは改めて咳きし。


「とにかく、そういった理由から私が自ら貴様をテストしてやろうと、そう思ったわけだ。光栄に思えよ? ルールは簡単だ。私とお前で試合形式で戦う。ギブアップや降参などといったヌルいものはなしだ。どちらかが戦闘不能になるまで戦う。勿論その結果死んでしまったとしても文句はなしなのだよ」

「ちょ、何勝手な事言ってるのよ! 大体その勝負、こちら側に何のメリットもないじゃない!」

「そんな事はない。今もいったではないか。納得のしていない方がいるのだ。ならば仮にもFランクなどという御大層な位を授かったであれば受けるのが筋。それとも、巷で溢れる武勇伝とやらはやはり眉唾だったのかな?」

「そんなことはねぇ! せんせ、いや、このナガレ先生様に嘘偽りなんて一切ないぜ!」

「そうか、それならば問題ないな。それほどの男がこの勝負から逃げたとあっては面目も立たないだろう? ならばそれなりの覚悟、そうだな負けたらFランクの件を辞退するのは勿論、冒険者もやめるということでどうだ?」


 な!? とフレムが絶句し、そしてチラリとナガレを覗き見た。どうしたらよいか判断がつかなかったのだろう。

 それに対しナガレは頷くことで返答する。フレムの自由にしていいという意味である。


「お、おもしれぇ! そこまで言われて尻尾を巻いて逃げたとあっちゃナガレ先生様の名折れ! やってやらぁ!」

 

 遂にフレムが吠えた。覚悟が決まったのだろう。

 勿論周囲の仲間たちはナガレを除いて、おいおい、といった顔を見せているが。


「決まりだな。それにしてもこの場にビッチェがいて助かった。何せあれでもSランクの特級、見届人としてふさわしい。勿論話は聞いていたな? 証人として立会の方を頼むのだよ」

「……その前に、お前が負けたらどうするかを聞いてない」

「フッ、その時は何でも言うことを聞いてやろう。冒険者をやめろと言われれば、すぐにでもやめるのだよ」

「……それなら判った。もし、ナガレが(・・・・)負けたら証人になる」

「約束だぞ」


 ニヤリと口角を吊り上げるバットだが、敢えてナガレの部分をビッチェが強調した事は気にもとめてないようだ。


「では、早速始めるとするか。私は時間を無駄にするのが一番嫌いなのだよ」

「散々無駄にしておいて何を言ってるにゃん?」

 

 バット本人は格好つけているが、コレットのおかげで台無しである。


「……バットが誰と戦おうが勝手だけど、そいつとサシでやるなら、私は自由に動かさせてもらうわよ」

「コレットもにゃん。ちょっと気に食わないやつがいるにゃん」


 すると、仲間のふたりがバットに向けて宣言する。それに、好きにしろ、と返し――


「行くぞ!」

「おう! 来やがれ!」


 掛け声を上げ、マントを広げたバットが滑空し、双剣を抜いたフレムが応戦する。


 滑るように突き進むバットと、飛び出したフレムが中心で交差した。互いの位置が逆転し、バットが地面に足をつけ立ち上がる。

 

「ふむ、ナガレという男は無手だと聞いていたが、双剣も使うのだな。ま、どちらにしろ――噂ほどでは無かったのだよ」


 そう呟き、フレムを振り返った瞬間――赤髪の彼の身がずたずたに切り裂かれた。






◇◆◇


「ちょ! もうフレムってば何してるのよ!」


 戦闘が始まり間もなくしてズタズタに切り裂かれた後輩の姿に思わず声が大きくなるピーチ。

 仮にもナガレの代役としてあの場に立っているのに、こんなことで大丈夫なのかしら? と心配そうに見守っていたが。


「ふむ、どうやら一人はピーチに用事があったようですね」

「え? て!」


 ナガレの呟きに反応するピーチ。と、同時に何かに気がついたピーチが向きを変え――その瞬間小さな爆発が起きた。


「キャッ!」

「え? ちょ、なによこれ?」


 フレムとバットの試合を見ていた他の面々も慌てだす。


「……ちょっと、危ないじゃない! 一体どういうつもりよ!」

「へぇ、驚いた。出来の悪いあんたでも、これぐらいは耐えられるようになったのね?」


 は? と、剣呑な目つきで返すピーチ。彼女の目の前には――バットの側にいたローブ姿の女の姿。


「ちょっと貴方! どういうつもりよ! 試合を見ている皆を狙うなんてルール違反じゃないの!」

「勘違いしないでよね。今のはほんの挨拶よ。それに、私が用があるのはあんたよピーチ」

「え? ちょっと、何で私の名前を――」

「いいからさっさとこっちに来るのね。一応狙いはあんただけど――」


 ローブ姿の女は指で空中に術式を描く。かなり複雑な術式であることはピーチにも理解が出来た。


 かざした彼女の右手に、巨大な炎が生み出され、球体へと変化していく。


「こっちは、別にあんた以外が巻き込まれても構わないのよ?」

「――ッ! もう、あったまきた!」


 怒りに任せてピーチが飛び出す。すると、相手の女は、こっちよ! とフレム達とは重ならない位置を指定し、ピーチも応じたわけだが――






◇◆◇


「お前! コレットと遊ぶにゃん!」

「え? ちょっ!」


 ピーチに向けてローブの女が挑発を行っているのとほぼ同時、突然の爆発に呆気にとられていたカイルへ猫耳少女のコラットが襲いかかり、その爪を振るっていく。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 何でおいら!?」

「うるさいにゃん! いいから戦うにゃん!」


 こうしてコラットに追いかけられている内に皆から離れていくふたり。

 そんな姿に、だ、大丈夫でしょうか? とローザに語りかけるアイカである。


「……カイルってば、また女の子にでもちょっかい掛けたのかもね」

「え? それだけですか?」

「はい、それだけです」


 だが、ローザは清々しいまでにハッキリとしていた。心配もしていないようである。


 こうして――神殿内ではバットとフレム、ピーチと謎の女、カイルとコラットによる三組による対決(?)が始まったわけだが――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ